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新世界アップローダー

作者: 竜宮 景

VRMMOものの短編です。

私がこの世界に閉じ込められてから、もう二年の月日が経とうとしていた。


C.S.S(Collected Sword Stories)と呼ばれるVRMMOは発売されるやいなや世界的な人気を博した。その精巧に創られた世界観に、巧みなゲームバランス、心震わせるようなストーリーまで編み込まれている。プレイした誰もがその虜となる素晴らしいゲームだ。



そして、何を隠そうかく言う私もその魅力に取り憑かれた1人だった。

若くして自分の実力で准教授の座を得た私であったが、その生活はあまりに刺激に乏しく、酷く退屈した日々をおくっていた。

私が友人の勧めでこのゲームを始めたのは、そんな時の事だ。VRMMOは私の研究分野の応用といったところで、正直やり始める前は俗物だと馬鹿にしていた。だが、実際やり始めるとどうだろう!その素晴らしさは私の予想を超えていたのだ!!


私の求めていた非日常のスリルがそこにあった。すぐに私はこの世界に夢中になり、毎日のようにプレイするようになったのだ。



事件が起きたのは、きっとそんなプレイヤーが増え始めた頃だ。

開発者の大河原恭平と言う男は、何を思ったのか我々プレイヤーを突如この世界の中に閉じ込めたのだ。

大河原は我々にメッセージを残した。「私はここにいる」と。実に挑戦的な置き土産だ。しかし閉じ込めた時のショックで記憶を失ったのか、奴の顔を覚えてる者は誰もいなかった。もちろん本名で自分を登録している者は極わずかなので、名前から判断する事も出来ない。

我々プレイヤーは与えられたクエストを全てクリアする事か、或いは大河原恭平を見つけ出す事でしか脱出を許されなかった。



神気取りの男、大河原の事を私は許せなかった。初めこそ彼には賛辞を贈っていた私だが、人の命を玩具のように扱うのは断じて許せなかった。


そしてもう一つ許せない事があった。それは二年という月日の内に、この世界までも倦怠の渦に飲み込まれてしまった事だ。それはそうだろう。いくら生命が脅かされてるとはいえ、この世界で生きていくには、それなりの生活が必要だ。私も仕事をしながら、何とか日々の生活を工面している。



こんな状況が大河原の望んだモノなら、奴の底が知れる。完成された世界観を台無しにしたのは彼自身じゃないか。



私は憤激し、ある事を決意した。幸いにしてこの世界における私の知能レベルは最大値。この世界の物で私に扱えない物はない。大河原を引きづりだすには、実にシニカルで私好みの方法だった。



毎日毎日来る日も来る日も私はそれに没頭した。ただ一人で全てを成した。これはむしろ異世界にいるからこそのチートというやつかも知れない。つまるところ私にはどうでもいい話ではあったが。



そして遂に私は創り上げた。非の打ちどころのない完璧な出来だ。生きているかのように動くNPC達に、圧倒的なスケール感で描かれる世界。そしてコレは一番苦労したが、ストーリーでさえ上々のモノに仕上がった。


C.S.S内に発表されると、それは忽ち世界中に広まった。


私の創ったVRMMOである『F.N.W (Front the New War)』は瞬く間に、退屈していたC.S.S内の人間の心を射止めたのだ。



どうだ大河原見ているか!?今やお前の世界の住民は、皆私が創った完全なる世界にしか興味ない!!お前の創りだした下らない世界は今まさに崩壊しようとしているぞ!?やはり、そうだ。私に出来ない事なんてない!この世界で新たな世界を生み出せるのは私だけだ!!



だが、半年経っても私の興奮は冷めやらない。足りないのだ。何もかもが渇くようだ。

私だけが未だこの下らないC.S.Sにいるのが許せない。そうだ!それなら私も中に入ればいい!!

単純な話だ。プレイヤーたちの緊張感も保たなくてはならない。命をかけるほど必死になってもらえないと製作者としては非常に困るのだよ。この世界のストーリーには、それ相応の勇者が必要だ。しかし内容を知っている私がソレになるなどという寒い話は却下だ。ならば創りだせばいい、この世界に常ならぬ緊張をもたらせばいいのだ。



私はすぐに準備に取り掛かった。プレイヤー数はもはやこのC.S.S内の人口に等しい。新しい世界が幕を開けるのだ。それは祝福すべき事だろう。

しかし、私には一つ懸念材料があった。仮にこの世界に私が行ったとして、すぐに私が見つかるようでは困る。それではストーリーを楽しんでもらえないじゃないか!?なら、どうすればいい?プレイヤー諸君の記憶を弄らせてもらうより他あるまい。

私は彼らを閉じ込めると、すぐにその記憶の消去にとりかかった。

モニターには慌てふためくプレイヤーの姿が見える。そうだそれでいい。物語はこうして波瀾から始まらなければ。



私は彼らの後を追って、すぐにでもF.N.Wの中へ入って行くつもりだった。

既にヘッドギアを装着し、異世界への転移を始めている。しかし、ふと思うのだ。



『戦いとは常にフェアでなくてはならない』



私の口癖だ。正々堂々正面から相手を倒すのは、流儀でもある。

それならば、私だけ私の記憶を持っているのはフェアじゃない。私は装置に手を伸ばし、自分の記憶の改竄に取り掛かった。



全てが真っ白なっていくようだ。新しい私のアバターも完成済み。新世界に着くころには新たな存在として生まれ変わり、自分の創造した世界の中で生きるのだ。



それはまるで神の戯れのようだ。



そう思った瞬間だった。私は全て理解した。



この世界は『何度目』だ?私は今までにいくつ世界を創り、いくつ世界を失って来た?



記憶の改竄を止めようにも、もはや手遅れだった。



私はまた繰り返すのか?あと何回繰り返す?私の頭の中にはあといくつの世界が、その目覚めを待っているというのだ?いや、それすらも怪しい。ひょっとしたら私は似たような世界を延々と創り続けているのかもしれない。私は、自分が、男かも、女かも忘れている。これではまるで本物の神ではないか?笑いが込み上げてきそうだ。大河原が私?馬鹿げているが筋は通っている。この世界でVRMMOを創れるのは私くらいだ。そして私はおそらく次の世界でも創る。誰か、誰か気づいてくれ。私を世界から解放してくれ。



震える手で、祈るように私はメッセージを打ち込んだ。



「私はここにいる」



読んでいただき本当にありがとうございました。

ループものという事でSFとさせていただいております。


因みに

C.S.SはCollected Short Storyつまり短編集を

F.N.WはFrom the New Worldつまり「新世界より」をもじっただけのモノです。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  SFとして、仮想空間の舞台設定自体に既視感はあったものの、ショートショートらしい作品だったと思います。SFでショートショートだと尺に対して設定が多くなりがちですが、御作はバランスがとても…
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