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フィリアリアと呼ばれる世界で

現在、フォークロア部の消滅危機っ 【嘘つき】

作者: 絢無晴蘿


ある、部活がある。

その部活は、消滅危機に瀕していた。

理由は単純明快、快刀乱麻。


いわく、新入部員が居ない。



「はい、という訳で、第三回新入部員ゆうかぃごほん。新入部員を確保するためのかーい」


二人しかいない部員。

そのうちの一人、部長の水埜先輩は突然言い出した。


「先輩、なにやってるんですか」

「えっ。ほら、部員を確保するために相談をしようって」

「……最初、誘拐って言いかけてましたよね」

「はっはっは。気のせいですな。そういえば、最近情報処理室で不審人物が出てるとか」


ジト目で見ても、はぐらかすつもりのようだ。


「あぁ、そういえば、この前の学校の七不思議が」

「……先輩」

「こんどの調査は」

「……誘拐はダメですよ」

「はい、すみませんでした」


陥落したようだ。


「それで、なんなんですか」

「いや、そろそろ仮入部期間が終わるだろ。その前にどうにかしないと本当にやばいな、と」

「……それ、僕が前から言ってるじゃないですか」


何を今さら。

本当にどうにかしなければならないというのに、どうすればいいのか。

考えれば考えるほど解らなくなる。

水埜先輩はまだいい。どうせ今年で卒業だ。

でも、自分は来年もいる。高校二年生だから、来年は三年生だ。

最高学年で独り寂しく部活動なんて、哀しい。


この部活は元民俗学研究部。現在はフォークロア部と名称を変えているが、民俗学や都市伝説などを調べる部活だ。

先輩と共に、学校の七不思議や噂話を検証したり、伝説を調べたりしている。


「さて、どうしましょ」


先輩が聞いて来る。


「どうしましょ、って聞かれても……」


そんな中で、なんと奇跡に等しいほど久しぶりに部室のドアがノックされた。

この時期、誰かが来るなど理由は一つっ!


「っ?! きっ、きっ、綺麗(きり)ちゃんっ! この、このノックはまさかっ」

「し、新入、部員っ?!」

「奇跡じゃあああっ!!」


やんややんやの大喝采。いや、二人しかいない部室だけども。

慌てて部室を簡単に片付けて、二人顔を見合わせる。


「あ、開けるぞい」

「ど、どうぞ」


ゆっくりと、先輩はドアを――開けようとして勝手に開いた。


「あれ、先輩方、どうしたんですか?」


そこに居たのは、新入生。

ただし、すでに違う部活に入っている少女だった。




「……はぁ」

「……なんだ」

「えっ、ほ、本当にどうしたんですぁ?! 二人してため息って……お、お邪魔でしたか?」

「いや、ちょっとばかし、面食らっただけさ。気にするでない……はぁ」

「えぇっ」


以前、部活動中に助けた事で知り合った、怪奇事件が好きな高校一年生。

たしか、春賀(はるか)未咲(みさき)ちゃん。

ため息をつくこちらの様子に、混乱している。

こっちが勝手に勘違いして、勝手に落ち込んでるだけなのに、申し訳なくなってきた。


「あ、ごめんね、ミサキちゃん。入部希望者かと思っちゃって」

「ごめんなさいっ、その、まだ新入部員いなかったんですね……」


何気に、ぐさりと来る言葉だ。


「と、とにかく、中にどうぞ」

「はい」

「それで、今日はどうしたの?」


部室の中央に置かれた、部員二人には少しだけ大きなテーブル。そこに小さな冷蔵庫から出した麦茶を出す。


「あ、す、すみません……って、冷蔵庫っ?!」

「ふっふっふ。先輩の置き土産さー」


どや顔で先輩は言う。

なんでも、水埜先輩の先輩が、むかし置いていった物らしい。

夏は重宝しているけど、氷は作れないから、アイスとかは置いとけないのがちょっと残念だ。

そして、なぜにどや顔で言ったんですか、先輩。


「あっ、あの……それで、ちょっと相談があって来たんですけど」

「相談?」


声のトーンが下がって行く。

それと共に、難しそうな顔になって行く。


「もしかして……魔法がらみの?」


実は、水埜先輩は魔法使いだったりする。

そして、僕はその弟子。

本来なら、普通の人達には秘密にしている。けど、未咲ちゃんは知っていたり。

以前、事件に巻き込まれているところを先輩が魔法を使って助けたからだ。


「わからないんですけど……その……たぶん」

「ほうほう。ならば、この先輩にどんと任せなさい。なぁ、弟子よ」

「は、い……」

「ありがとうございますっ」


ぱあっと明るくなる未咲ちゃん。

さっそく、その相談を始めた。



「一年六組……私のクラスなんですけど、そこで、変なことが起こっているんです。なぜか、知らない人からメールが届くんです」

「えっと、それって誰かのイタズラメールじゃ?」

「メアドを変えてもその日に来るらしいです。だれにも教えていないのに。それに、いろんな人に、中が良い人とか悪い人とか、関係なく届くみたいで……学校のパソコンから送られて来るのは解ってるんですけど、誰がやっているのかとか、ぜんぜんわからないんです」

「ふむふむ。おかしな話ですな」

「はい、それで……昨日、私の所にもそれが来たんです」


そう言うと、ピンクの女の子らしい携帯を出した。

拳よりもちょっと小さいくらいの可愛いクマのマスコットがついている。

そして、僕達に見せたのは、カラフルな女子高生らしいメールだった。


「普通のメール、じゃない?」


なんの事は無い。

内容はその日の事。授業について。

今日は楽しかったねとか、明日はどんな事をしようかという質問。

絵文字とか、背景のテンプレートとかが使われている、いまどきの女子高生ならごく普通のメールだ。


ただし、そのメールが誰から送られたのかわからない点を除けば。


「……クラスの誰かなのは確か、なんですけど。このメールがいろんな人に届くようになって、クラスがおかしくなってきたんです。変な空気が流れているというか、なんか、まるで……呪われているような」

「でも、これはクラスの問題じゃないのかな……僕らには解決できないと……先輩?」


確かに、おかしいけども僕らには何もできない。

都市伝説とか、民俗学とかに関係ないのはもちろん、魔法使いだけどそういうのはなにも出来ない。

魔法は万能じゃないから。


それなのに、先輩はそのメールをじぃっと見つめる。

その顔は、真剣。まるで、赤点ぎりぎりの教科の最後のテスト問題を解くかのようだ。

それだけ、切羽詰まっている。


「先輩、どうしたんです、か?」

「綺麗ちゃん、これは『こちら』の出番のようだよ」






第一情報処理室。

コンピューターの置いてあるその部屋は、放課後は生徒達に解放されている。

そこで宿題について調べたり、部活動で使ったり、いろいろ重宝する場所だ。

そこに、先輩は僕と未咲ちゃんをつれてやって来た。

その入り口で、止まる。


「あの、先輩。どういうことですか? ただのイタズラメールじゃないんですか?」


さっきっから何も言わない先輩は、扉を見たまま動かない。

まるで、今から対決をするみたいだけど、たった一つのメールがどうかしたのか僕にはわからなかった。


「……綺麗ちゃん、我はそのメールが怖い」

「え?」

「綺麗ちゃんは女の子だから、そう言うメールは『普通』の事なんだろうね」

「そりゃ、まぁ。ごくふつーのメールですよ」


人によっては絵文字を使わないで顔文字だけ使ってる人とか、なにも使わない人とかいるけども、これは普通のメールだ。

女の子らしい、携帯の機能をいろいろつかった、カラフルなメール。

それが、なんで恐いのだろうか。


「我はとても怖いよ。心が見えない」


未咲ちゃんは何かに気づく。


「綺麗ちゃん、電話は声でその人が現在なにを考えているのか、大体分かるよね」

「はい」

「間のあけ方。声のトーン。息遣い。……よく知っている人ならば、今の会話の事をどう思っているのか、わかりやすい」

「はぁ」

「手紙もそうさ。字の書きだし。大きさ。筆圧。なんとなく、書いた姿が思い浮かぶ。そうだね。この前、みーちゃんから手紙が来たんだ。何度も消した後があってね……」

「あの、先輩? 何を言いたいんですか?」

「ふむ。つまり、そのメールからは、何も感じない」


なにも、かんじない?

未咲ちゃんから携帯を受け取り、もう一度内容を見た。

普通のメールだ。

絵文字の大量に使われた、あたりさわりの無い……。


「綺麗ちゃん……そのメールを書いた人は、本当に書いた人は何を考えて書いたのか、わかるかい?」

「……文面を見れば」

「本当に、その文面の事を想っているのか、判断できるかい?」

「……それは、その」

「ありがとうの言葉が書かれているけど、その言葉は本当に心の底から書いたのだろうかね」

「……」

「にっこり笑っているその絵文字は、メールの主が怒っていても、泣いていても、哀しんでいても、絶望していても、苦しんでいても、恐がっていても……笑っているんだろうね」


携帯のディスプレイには、カラフルでいて、無機質なゴシック体の文字が躍っている。

絵文字が幾つも飾られ、文字で伝えられない事を伝えている。


本当に?


「このメールの主が無理をしているように見える。本心が隠されているように見える。だから、怖い」


本当に笑っているのか、本当に明日が楽しみなのか、本当に……。


「メールっていうのは便利だからね。嘘を簡単に書いて、本当の振りをすることが出来る。このメールの主は、嘘で本心を隠している」


先輩が、ようやく扉に手を掛ける。



教室に西日が射していた。

寂しいその場所には少女が独りだけ。


「君は、何を想ってこのメールを出しているのだろうね」


その少女の顔には、顔が無かった。

肌色に、塗りつぶされていた。


「えっ、吉川さん……?」


未咲ちゃんが呟く。


「知り合い、なの?」

「同じクラスの……クラス委員で……なんで」


未咲ちゃんは驚いていた。

なんで吉川さんとやらがいるのか、まったく分からない様子だ。


「春賀さん、彼女はクラスでどんな存在?」

「……あ、明るくて、人気者で……いつも、中心に居る、その、クラスのまとめ役、です」

「それは嘘のようだね」


先輩は簡単に切り捨てるように、言い切る。

吉川さんは身じろぎをした。


「嘘じゃ、ないっ。私は――」

「嘘さ。それは本当の姿じゃない。だからそんなものに憑かれる。綺麗ちゃん、よく見ておきなさい」


先輩が動く。それと同時に周囲のパソコンが勝手に起動する。


「えっ、な、なにが」

「未咲ちゃん、下がって」


危険を感じて未咲ちゃんを庇うように前に出ながら少しずつ後ろに下がる。

点滅するパソコンから、何かが、黒い靄が溢れだした。


「し、師匠っ、これは?!」

「誰かの負の感情が集まった、何か。春賀さんをしっかり守って、見てなさいな」


負の感情?

それがなぜ、パソコンの中から出て来るというのか、僕では判断に苦しむ。


先輩は吉川さんの元へと走る。

その姿は次第に黒い靄で見えなくなっていった。


「師匠っ!!」


先輩は僕の師匠だから、絶対に大丈夫。だけど、それでも心配してしまう。

本当に大丈夫なのか、見えなくなって心細くなる。





「本当の自分を隠した偽りを、本当にすることは簡単だ。それが嘘だと周りにばれなければいい」


眼の前の少女――吉川は耳を塞いだ。


暗い感情の凝ったこの場所は、以前から危ないと思っていた。が、何もしなかったことが悪かったらしい。

彼女は自分を偽ることに疲れている。

だから、憑かれてしまったようだ。


「明るくて、友達が多くて、みんなの中心にいつだっている。そんな自分に憧れて、高校デビューをした。本当の自分はそんな性格では無いけれど、自分を知らない人の前では偽って『本当』になれる。……でも、君はつかれている。偽ることは、辛いから」

「違うっ、ちがうっ、チガウっ……私は、偽ってなんていない!!」


黒い靄が明確な形に変わった。

どこにでもいる女子高生の姿だ。ただし、黒い。

何かを呟きながら襲いかかって来る。

それを――無視した。


「だから、偽りに塗れたメールを送り続けた。本当は気づいて欲しかったから」

「そんな事、ある訳ないっ」


黒い靄から出来た女子高生は、ぶつかる前に四散する。

これくらいなら、なんの事は無い。ちょっとしたお守りの結界程度でも防げる攻撃だ。


少女の前に辿り着くと、その手を取った。


「気づいたぞ、だからもう偽るのはヤメロ」


ぱらぱらと、何かが落ちた。

それは四散して、そして……。


「もう、明るい自分を無理して演じなくていいから」


泣きだしそうな、少女の素顔が見えた。










夕日の沈む、帰り路。


いつもは先輩と二人だけの通学路は、今日だけ賑やかだった。

未咲ちゃんと、吉川さん。いつもと違う、メンバーだ。

いつも、男子の水埜先輩と一緒に帰っていると、いろんな人にじろじろ見られるから、ちょっと嬉しかったりする。

付き合ってもないのに、噂になるのはいろいろ嫌だ。


「で、師匠。吉川さんはなにに憑かれていたんですか」

「偽りに疲れて、障りに憑かれていたようですな」

「障り……」

「なにかしらの感情が集まって、周りに影響を与えることがあったり。それを障りというんだよ」


先輩は思い出すように空を見上げながら話す。


「今回は、学校の中では言えずに偽り呑み込んだ、負の言葉。それが集まったモノが、ちょうど自分を偽り続けて疲れていた彼女に憑いていろいろ問題を起こしていたようだね」

「あのメールですか?」

「うぬ。彼女の意識と、障りがパソコンとかに憑いていたことからですな」

「それにしても、よくすぐにわかりましたね」

「じーさんがメールが嫌だって言ってた」

「……お爺さんですか」


賑やかに話す僕らとは打って変わって、一年の二人は無言だ。

未咲ちゃんは吉川さんをちらちら見て、吉川さんは暗い顔で下を向いている。

それに僕が気づいたことに気づいた先輩に、ぽんと頭を叩かれる。


「綺麗ちゃん、先輩は男なんで、女の子の心情はぺったんこだけど女の子の綺麗ちゃんにまかせる」

「一言多いです」


グーで殴ろうとしたら、防がれた。

意外とすばしっこい。


「……あの」


控えめな声が聞こえてきた。

驚いたことに、声の主は今まで一言もしゃべらなかった吉川さん。


「ありがとう、ございました」


足を止めて、頭を下げて来る。

僕は何もしていないから、何も言えない。

先輩はお気楽そうに笑っている。


「いえいえ。まぁ気にせずにいきましょー」


いや、気にするだろう。


「驚いちゃった」

「?」


何も言えない僕に代わって、未咲ちゃんが話しだした。


「私、吉川さんの事が、羨ましかったから」

「えっ……」

「だって、明るくて人当たりも良くて、みんなの中心で……私、そう言うのに憧れてたけど、憧れてるだけだったから。……吉川さんはすごいよ」


淡々とした、未咲ちゃんの本心だった。


「ぜんぜんすごくない。……無理して、まだ四月なのに、疲れちゃった……」

「でもっ、それでもすごいよっ。いくら明るくふるまっても、あんなに友達はできないよ。一生懸命みんなと仲良くしようとしたから……だと思う」

「……そうなの、かな」

「そうだよ! あのさ……良ければさ、私と友達になって貰える、かな? オカルト好きで、都市伝説とか噂好きで、魔法使いとかそう言うのが大好きなオタクだけど」

「ほんとは……暗くて引っ込み思案で臆病なんだけど、それでも、いいなら」


「青春ですなー」


先輩は二人に聞こえないように、笑いながら言っていた。







次の日、いつものように部室には二人っきり。

どうせ今日も新入生はこないのだろう。

さて、今日は何をするかと考えていると、扉がノックされた。


「……綺麗ちゃん」

「はい……今度こそ」


今度こそ、新入部員っ!

そう信じて――扉を開け放つ!


「あ、こんにちはー」

「なんだ、春賀さんかー」

「……はぁ」

「って、酷くないですか?!」


昨日と同じパターンだったようです。

がっかりしていると、未咲ちゃんは後ろから誰かを呼ぶ。


「今日は、入部希望者連れて来たんですからねっ」

「おや?」

「えっ?」


後ろから出てきたのは、昨日のあの子で。


「にゅ、にゅう、ぶ希望の、よ、吉川幸乃ですっ」





はてさて、この部活。

無事に新入部員を迎えられるのか、この先消滅危機を逃れられるのか。









以前同様、後半ぐだぐだ感が……。


とりあえず、メールって怖いと思います。

文字だけでは本音が見えないので……。


お読み下さり、ありがとうございました。

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