第三章 心をひらいて
第三章 心をひらいて
「それは…どうして?」
茅子は、そっと聞きました。小さな黄緑色の瞳をまっすぐに向けて、手のひらの少女は答えます。
「あなたの心は、いま、たくさんの事が渦巻いてごちゃまぜね。まだ恐怖が消えてないの。でもラピスには、本当は会いたいと、お礼を言いたいと思っているでしょう?」
「それはまぁ…そうね」
ニッコリと、黄緑色の瞳の彼女は笑いかけます。
「……安心して。ラピスお兄様は、絶対にあなたを傷つけたりはしないわ。そりゃ、あなたを守るためなら、どんなに恐ろしい事も出来るのよ。でもあなたに、その刃を向けたりは絶対にしないわ。たとえ、あなたが望んでもね。」
「うん…なんとなく……そんな気はするけどね」
「直感を信じてね、カヤナイト。あなたの善き心が決める方向へ、したがって進んで。」
「うん、ありがとう、ペリドット……」
「ラピスお兄様は、仲間うちでも信頼できると評判よ。あなたの思うような心配は、全く要らないから」
「ありがとう。ペリドットちゃん。……長いから、ペリちゃんでいい?」
「うふふ、どういたしまして。カヤナイトが決めたなら、そう呼んでもいいわ」
小さな少女はふっと笑いました。透けるような金色の巻き髪が、初夏の風にフワフワと揺れます。
……その風が心地よくて、茅子はしばらく目を閉じていました。
再び目をあけた時にはもう、手のひらにいた子猫のような石の精霊ペリドットは、跡形もなく消えていました。
2.心をひらいて
公園をでた頃には夕方になっていたので、軽く買い物をして家に帰ると、もう夜でした。
茅子は思い切って、ラピスを呼ぶことにしました。ソファに座り、大事にしまっておいたあのメモを取り出すと、一気につぶやきます。
「邪悪なものから身を守れ。幸運の鳥が、あなたを導く。」
薄暗かった部屋に、懐かしい青い光が満ちます。目の前にイヤリングから、ラピスが現れました。
「……お呼びになりましたか。僕の大切なカヤナイト。」
「………えっと、うん、まぁ、その……はい。」
「僕のことが、恐ろしくないんですね?」
「……うん。正直言うと少し、怖かった。でもね、あなたの仲間に出会って気持ちが変わったの。あなたに会ってちゃんと話をしたいって気持ちを思い出したのよ。」
「誰か新しい石の精霊に出会ったんですね。あなたの周りに、そんな気配がしていました。少し、心配していたのですが……良かった。」
ラピスは、軽く飛び、茅子のそばへ寄ると、その優しい羽根で、ふわりと、抱き締めました。
「……僕はあなたに、とてもとても、会いたいと思っていました……。」
「…………ラピス。怖がったりして、ごめんなさい。それから、命を助けてくれて、ありがとう。」
「謝らなくてもいいんですよ。貴女は僕の主人なんですから。僕のほうこそ、感謝しています。」
「どうして………?」
「貴女はまた、呼び出してくれたでしょう? 僕らのなかには、呼び出してもらえず、主人を救えぬままに、ただ一生を見守るしかない者もいます。僕は……もしそうなっていたら……それこそ、気が狂ってしまうでしょうから。だから幸せです。またあなたに会えて。」