表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

第一章 不思議な石

 1,不思議な石


 茅子かやこは、今日も仕事が終わり、家に帰るところだった。途中には、いつも立ち寄る店がある。きれいなパワーストーンが、たくさん並ぶ店。その石を加工したアクセサリーもあって、値段もお手頃なので、時々買うのだ。石たちにふれていると、なぜか心がホッとする。まるで石たちが力をわけてくれるみたいな気がした。


 店なかをみているうち、一つだけ、

とても引きつけられるイヤリングがあった。

深い青色で、よくみると、光る粉のようなものが角度によってキラキラと反射する。


「ラピスラズリですよ」

 茅子には、それが自分を呼んでいるように見えた。


「よくお似合いです。この石とお客様、とても相性がいいようですよ。」

 お店のお姉さんは、どこでも、たいていお世辞を言うものだが、いまの茅子には本当のようにきこえた。それを身につけているだけで、疲れが軽くなったように感じたからだ。

「決めた。これ、下さい。」


 2、召喚


 家に帰って、イヤリングの箱を電気に透かしてながめていると、底のすき間から、はらり、とメモが落ちた。


(何かしら。お店の人はなにも言わなかったけど……?)


 「邪悪なものから身を守れ。幸運の鳥が、あなたをみちびく。」


 茅子が、なんとなく声をだして読んでみると。

 しめていたはずの窓が開き、とつぜん耳元に風を感じた。そして、イヤリングが輝きだした。まぶしくても不思議と目を痛めない、やさしい光が、茅子のまわりを霧のように包む。


  イヤリングの中から、なにか白いものが飛び出した。それは、霧に混じって茅子のまわりを何周もめぐった。鏡ごしに、よくみると、頭のようなものが見えた。


 茅子は背中にぬくもりを感じて振り返りった。柔らかな声がささやく。

「お呼びですか?」


 そこには、見知らぬ男の子が立っていた。


しかも、ふわりと自分を抱きしめていた。肩から先には、人間の腕はなく、白い羽が生えている。

「あなたは…だれ?」

「ぼくはハッピー・バード。あなたを幸運へ導く者です。」

「やっぱり、イヤリングからでてきたのよね。」

「そうですよ。ラピスラズリがぼくの仮の宿。」

 信じがたい話だけれどあまりに非日常なことが目の前で起ってしまうとただ受け入れるしかない。それは、ほっぺをつねるまでもなく。



「でも、良かったなァ。こんなに早くご主人に出会えるなんて。やっぱりぼくはついてるなぁ!」

 またギュッと抱き締める。あいさつがわりなのだろうか。なんせ日本人の茅子には、ハグする習慣なんかない。たちまち顔が赤くなってしまう。


3、あなたの名前は…


「と、とりあえず、はなしてくれる?ほら、あついしね。」


なにか不思議そうに、少し寂しそう彼は離れる。

「そ、それに!ご主人さまと呼ばれるのは、なんか、その、恥ずかしいから…茅子かやこでいいわよ。」


「カヤ…コ…?」


「ええ。私の名前よ。」

「では、あなたは『濃紺の石』カヤナイトなのですね!」

「は…………?」


「だって茅子のカヤは、『濃紺カヤノス』の意味でしょう?その石であるカヤナイトは、サファイアと同類の石。ぼくの仮宿ラピスラズリは、九月の誕生石サファイアを守るために存在する守護石なんです。」

「は………ぁ。」


「心配しないで。ぼくがあなたを、美しいサファイアにしてあげますからねっ。」

「そ、それはどうも、ありがとう(くるしいんですけど)」


ピンポ―ン。

そこへ、まるで漫画のようなタイミングで、玄関のチャイムが……。


「こんにちはー、かやちゃん。」

「さ、沢木部長…」

「カギ、開いてたんで、勝手に入らせてもらったよ、かやちゃん。」


「あの、すみません。」

 それは、会社の先輩。けっこう二枚目で、いつも会社では親切にしてくれているのだが。

この人は、茅子のことを仕事の間は苗字で呼び、仕事が終わるとこの調子で呼ぶ。妙になれなれしいこのギャップが、怖いのだ。


「あれ、忘れたの?今日は夕方からライブをみに行くんでしょ?迎えに来たんだけど?」

「は?私はたしか、経理課のヒカルさんと約束したはずなんですけど…」

 ヒカルというのは、ツヤツヤの長い髪が美しい、全社員の憧れの女性。2、3日前から、急に向こうから接近してきた人物だ。今夜はライブに誘われていた。でもまさか、この人も一緒だとは思わなかった。


 ハッピー・バードが、耳元でささやく。

「あの人はだれ?」

「会社の先輩だけど?…くっつかないで、見られたら恥ずかしいわ。」


「大丈夫。他人には見えていません。それより、今夜出かけるのはかまいませんが、ぼくを連れて行って下さいよ。いいですね?」

「え……あ、うん。」


茅子は小さな声で返事をした。


 さっきから勝手に座っていた沢木が、不思議な顔をして言う。


 「かやちゃん?誰と話してるの?僕はさきに車に行ってるよ?」

 「あ、はい!すみません、すぐにしたくします!」


 シュルシュルと、羽根もつ彼は、石におさまりながら言う。


 「ぼくはここに居ます。何かあれば呼んで。」

 「あの、名前は?なんて呼べば……」


「お好きなように。」


 「え、じゃあ……。ラピスって呼ぶから。」

「わかりました。カヤナイト。」


どこか嬉しそうな声がした。


3、罠


 ライブは順調に進み、そして終わった。

 帰りの車内にて。茅子は、後部座席にヒカルと二人で座っていた。ヒカルが、サラサラの髪をかき分けながら、話す。


「最高だったね!」

「はい、すごく楽しかったです。」

「かやちゃん、敬語はやめてったら。いいのよ」

「でも……。」


「はい、どうぞ!おつかれさん。」


 運転席から、沢木が缶ジュースを投げてきた。

「ありがとうございます。」


 茅子は反射的に受け取った。だが何故かそのとき、缶ジュースはひとつしかなかった。茅子は遠慮して、ヒカルに差し出す。彼女はヒラヒラと手をふり、缶を押しやる。


「いいの、私はノドかわいてないから。どうぞ飲んでね。」

「そうですか?どうも、すみません……。」

「いえいえ」


 ごくごくごく……。

缶ジュースを飲んで、しばらくすると、茅子は急にめまいがした。目の前が急に暗くなり、意識が少しずつ、闇の中へ吸い込まれていく。


 身体がズンと重くなり、知らないうちにヒカルのひざへ倒れた。

 薄れていく意識のどこかで、茅子は沢木とヒカルが話しているのが聞こえた。


「かやちゃんは、どうしてる?」

「フフ……すっかり眠り姫よ」

「そうか。サンキュー、ヒカルさん。

前から彼女、目をつけていたんだ」


「私こそ、ありがとう。あのライブ行きたかったからね。これくらいお安い御用よ」


 車が、どこかに留まる。ヒカルは茅子を残して、降りたらしい。


 「クスクス…じゃあ私は帰るわ。あとはお二人で楽しんでね。」


「おっと、そうはいかないんだよ…」


 沢木が、冷たく笑う。その手で、きつくヒカルの腕をつかんでいた。気が付くと、彼の背後には、柄の悪い男たち。


「は?これはどういうこ…と……」


ヒカルはみぞおちを打たれ、気絶した。


「高かったんだぜ〜?あのライブチケット。あれくらいの手伝いで礼をしたつもりか?笑わせるなよ」


 沢木は男たちに命令して、茅子とヒカルを、近くの宿に運ばせた。


「せっかくだし、二人とも楽しませてもらうぜ」


 4、呼ぶ声


 (…カヤナイト……)

 夢のなかで声がして。茅子はいつの間にか、広い草原にいた。た。た。彼方から、羽根の混じった風がふいくる。


あのハッピーバードの声が、優しく呼んでいる。

(ここにいてはいけないよ、カヤナイト…はやく現実に戻って、僕の名前を呼んで………。)


あたたかな羽根に包まれながら、茅子は彼の名を呼んだ。


「…ラピス……ラピス……ラピス……」


 夢うつつの現実で、茅子が、彼の名前をつぶやくと、耳元のイヤリングがぼうっと光りを放った。

キラキラとする粉のようなものと一緒に、イヤリングの中にいたラピスが、勢いよく現れた。


 5、石の裁き


「さあて……死にたい奴はだれなんだ…?」


 現れた羽根もつ彼、石の精霊ラピスの顔には、茅子に微笑むときのような穏やかさはなかった。

 瞳は冷たい黄金色に変わり、明らかに殺意を持つ、恐ろしい笑みを浮かべていた。


 突然現れた客に、茅子たちを脱がしかけていた沢木たちは動揺し、手をとめた。



「オレの大事な姫君に、よくも触れたな。」


 振り返った沢木の。右の目に、鋼鉄のような硬い羽根が突き刺さった。同時に右手にも。一瞬であたりが血で染まる。


 沢木は、ギャッと短く悲鳴をあげた。羽根持つ男は笑っている。


「せっかくの美男子が、だいなしだな。そのザマを自分でよく見ろ。片目を残してやったんだ」


「は、はやくあいつを片付けろ!」


 沢木の声で我にかえった男達が、一斉に襲いかかる。


 ラピスは、ふわりと飛び上がり、一人の頭上に降りて地面まで叩き落して踏み付けると、同時に、後ろからきたナイフを持つ男をかわし、みぞおちに強烈なひざ蹴りを食らわせた。その脚を降ろさず反動で回転し、両側にいた二人に蹴りを放つ。

 その男たちが、崩れ落ちる間に、両腕から飛ばした鋼鉄の羽根で、四人が頭や胸や体の急所を貫かれ、果てていた。


 じつに、一瞬で八人が倒れたことになる。そして、あたりは血の海だ。男達はピストルを出す暇もなかった。


 沢木をかばっていた男は、悲鳴をあげて震えあがり、錯乱していた。

 ラピスはそこまで一息で飛び、上段蹴りを打って倒すと、顔のひきつる沢木へと近付いた。


「さあ、お前はどうしたいんだ?死にたいなら、一瞬だ」 


「ひいいっ!」


 沢木は、逃げようとしたが腰が抜けていた。足は、腱を羽根が貫いていて、どうせ立てなかった。


 血まみれの手で右目を覆い、赤く染まった足をひきずるが、床が血液で濡れ、すべるばかりだ。

  

「ははは、その面を見ていると愉快だな。決めた、そのままにしてやる。おまえ一生、笑い者になるがいい。それが罰だ」

 そういうと、ラピスは沢木の首にかかと落としを打った。彼は泡を吹いて崩れ落ちた。



最後まで読んで下さって、ありがとうございます。今回は石の精霊ラピスとカヤナイトこと茅子の出会い編です。連載にしたいと考えています。茅子がまたもやピンチになったり、新しい石の精霊が登場したりする予定ですので、次回をどうぞお楽しみに☆ 南☆妙斗より

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ