世界水槽論
微妙にこの世界を否定するような語句があります。苦手な方はご観覧をお控えください。
小説に書きなれていないので、誤字、誤植がございましたらご連絡をいただけるとありがたいです。
大変不慣れではございますが、温かな目で見守ってくださることをお願い申し上げます。
「ねぇ、この世界は水槽で出来てたりして」
「は?」
彼女は突然そんなことを言い出した。開いた口がふさがらないとはまさにこのこと。彼女が、僕に対して理解に苦しむことを言うのはこれが初めてではないのでそこまで驚かなかった。それに、僕もそろそろ彼女の言葉には態勢がついただろうと思ったときに、世界単位でこんなことを言われた。頭がついていけない。その前に何故こんな唐突にモノを言ってくるのだろうか、唐突に言うものだから僕も心の準備と頭の準備ができていない。
「ねぇ、聞いてるの?」
「あ、聞いてるよ。えっと、なんでそう思ったの?」
とりあえず聞いてみた。彼女を膨らませていた頬をしぼませ、僕のほうを向く。……見かけだけなら普通の女の子なんだけどね。説明が遅れたが、今、僕の目の前にいて僕が理解に苦しむようなことをいう彼女は僕の交際相手だ。ちなみに籍は入れてある。子持ちではない、断じて。まあ僕たちは成人して、お互いそろそろ相手を見つけなければならないと思ってお見合いをしたところ、意外にも趣味などが合ったりなどして二人の意見が一致し、籍を入れることになった。というのが一連の流れだ。これはおいておくとしよう。僕は彼女に何故そう思ったのかを聞いてみた。すると彼女は吃驚した目で――今まで思ったこともなかったの、といいたいような目をして僕を見た。失礼な、僕は彼女と違っていたって普通の男子だ。
「だって、水槽の中ってこの世界に似てるじゃない。それにこの間、友達の家に行って金魚を見たときに思ったの。“私たちに似てるな”って」
「どうして似てると思ったの?」
「私たちは“宇宙”という水槽の中の“地球”という玩具の中で遊ぶといったらいいかしら、まあそこに住まうサカナのようじゃない。地球の中から出る資源を出るだけとって、なくなったらまた別の星へ、まるで玩具に飽きたサカナが別の玩具で遊ぶようだわ。それにガラスには重力なんてないでしょうけど、水槽の中には水、つまり水圧という名の重力があるのよ? ほら、まるで地球みたいじゃないそれにサカナにも色々種類があるでしょ? 多分それは他の生物よ。私たちが掘り漁っている資源はその水槽の持ち主から与えられる餌。海とか湖は水槽内の水が少し見えるのね。宇宙の無重力はきっと水の中にいるからそう感じるだけ。私たちに限界があるとおり、水槽にも限界があるわ。だから最近世界情勢がおかしいのよ。戦争はきっと何かの割れ目よ。虫の知らせっていうのかしら。そんな感じよ。どう?」
彼女は首をかしげて僕を見る。……可愛いなコンチクショー。彼女は長々と説明したわりには息切れ一つしていない。……彼女に限界はあるのだろうか。むしろ彼女こそその水槽の持ち主ではないのかと思ってしまう。
「どう、って言われても君は賢すぎて凡人の僕には理解しかねない――」
「それよ!」
彼女はいきなり僕のセリフを遮って僕を指差す。目の前にあるものだから少し怖い。そう思った自分に情けなさを感じた。
「日本人だからかもしれないけど、謙虚な姿勢とすべての人類にあるちょっとした優越感! 動物の世界そのものよ! 凡人という鎖で自分を縛って考えることもしない、強者は強者、弱者は弱者って決め付けてるところが水槽の中にいる証拠よ!」
「あのね、謙虚なのは日本の国民性なの。というかそれで世界が成り立ってるんだからしょうがないでしょ」
「そのしょうがないも結局は自分で決めた鎖じゃない。だからサカナなのよ、私たちは」
鎖、僕はそんなつもりで言ったんじゃないんだけど、彼女にはそう聞こえたみたいだ。それよりサカナって言われたよ。全人類に対して。
「でも、水槽じゃないのが現実なのよ。皆が同じだったら誰も悲しまないし、誰も死なない。いつも同じ時間に同じ事して、言葉なんか交わさないで、個性なんて出せなくて、だから平等って言ったって平等じゃない。なんで神様はこんな面倒臭い世界を作ったんだろう。地球て狭い 玩具の中で、たくさんの国に分けて、州に分けて、大陸に分けて、だから戦争なんて起こるのよ」
彼女はうつむいた。ああ、彼女が唐突に話してくることが繋がった。最初は人類について、次は死後の世界のこと、その次は昔の歴史、先祖、国、地球、そしてこの水槽論。今日は二つ聞けた。この水槽論と彼女の本心。きっと彼女は不安だったんだ。負の感情が心に溜まると精神が不安定になるらしい。彼女が話したあとは決まって懺悔などだ。
「……怨念は、より深い怨念を呼び、憎悪は憎悪を生み、願望は私欲に変わり、復讐は更なる復讐を呼ぶ。人間って面倒臭いわ。やってられない」
「でも、そんな人間が大好きなんだろう?」
「ええ、そうね」
彼女と僕は二人、笑いあった。
▼ ▼ ▼
「あー!!! 書けない! 書けない!」
先生はいきなり叫びだした。これは私でも吃驚する。あ、先生とは私の目の前にいる小説家の先生で、ただ今スランプ真っ最中らしいです。
「どうしたんですか先生!?」
「世界水槽論って何? あー書いた僕自身が分からなくなってきた!」
「? 世界、水槽論、ですか? いいタイトルですね。“まるで私たちみたい”です」
「……そだね」
先生はやられた、という顔をしながら原稿に向かい文字を並べていく。私は先生の書くお話が好きで助手をやらせてもらっている。ファンタジー、純文学、恋愛、推理、ホラー、たくさんのお話を読んだけど、先生の書く小説はどれも筋が通っていて、それでいてワクワクさせるような、子供心が帰ってくるような小説で私は好きだ。でも、そんな先生がテーマを決めて小説を書くようになってからというもの、中々心が躍らない。先生はきっと縛られたらいけない人なんだな、と思う。まあ助手の私が言えることじゃないけど。
「どうしよう! これじゃあ次のテーマ部門の提出日に間に合わないよ!」
「先生、テーマはなんなんですか?」
「えっと、確か弱肉強食」
「なんですか、難しいの出してきてるんですかあの会社。私ちょっと殴りこみに行って来ます」
「やめてっ僕のライフラインが断たれるからやめて!」
やっぱり先生は縛られちゃいけない先生だと思います。縛られてる先生の作品は、どれも私の心を揺さぶってはくれませんでした。だから。
「先生、私は先生の自由な小説が大好きです」
本当のことだけは言わせてください。
世界水槽論、どうでしたか?
皆様のご期待に沿っていれば嬉しい限りです。
これは私がすこし思ったことをそのまま書いてみました。反感などは受け付けます。
個々の意見があるから世界は成り立っていると思います。皆様の考えをお聞かせください。今後の参考にさせて頂きたいです。
最後に、ご観覧いただきまことにありがとうございました。