第七十二話:集う違和感、偽りの結束
【旧版・第一稿 完結】
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。
この0〜72話は、私にとって初めて「物語を最後まで走らせる」という挑戦でした。
挑戦は改稿、新作という形で物語を再スタートさせます。
私はこの物語を“もっと良い形で届けたい”という思いから、
全体の大幅改稿を決意しました。
旧版はこのまま「第一稿」として残します。
ここにあるのは、私が最初に描いた“原点”です。
──そして。
新たに生まれ変わった『Legacy Online(改稿版)』を、
別作品として公開しました。
導入(0〜3話)を徹底的に読みやすくし、
物語の核である“消失”と“存在”を最初から提示し、
キャラクターの動機と世界の異常性をより強く描き直しています。
旧版を読んでくださった方へ。
あなたが好きになってくれたキャラたちを、
もっと魅力的に描けるよう全力で書き直しました。
初めて読む方へ。
改稿版が正式なスタートラインです。
▶ 改稿版はこちら
(作品URL)https://ncode.syosetu.com/n8426lr/
◇翌朝・ガレリア中央広場へ続く大通り
白々とした朝の光が、ガレリアの石畳を照らしていた。
街はいつもの活気を取り戻している。
昨夜のブローキンの襲撃も、世界の危機も、まるで最初からなかったかのように、NPCもプレイヤーも笑い合っている。
「……ホンマに、綺麗サッパリ忘れとるなぁ」
ソフィーは通り過ぎるプレイヤーたちを横目に見ながら、呆れたように呟いた。
隣を歩くアダダも、小さく頷く。
「クロもアッシュも、いつも通りでした。
『今日はどのクエスト行く?』って……」
「しゃーない。それがこの世界の『正常』なんや」
ソフィーはアダダの背中をポンと叩く。
二人の目的地は、全ての始まりの場所であり、昨夜結成を誓い合った場所――
BAR『レイブン』だ。
そこに答えがあるとは限らない。
だが、確かめずにはいられなかった。
⸻
◇路地裏・BAR『レイブン』前
二人が店の近くまで来た、その時だった。
重厚な木の扉が、内側から乱暴に蹴り開けられた。
「あーもう! マジ使えねーんだけど、あのグラサン親父!」
プリプリと怒りながら店から飛び出してきたのは、派手なファッションに身を包んだギャル――なーちょだった。
「『記憶? 知らねえなぁ』とかトボけやがって!
客商売なめてんのかマジで!」
イライラと髪をかき上げるなーちょ。
昨晩の孤独感が怒りに変わり、爆発寸前といった様子だ。
その視線の先に、こちらへ歩いてくるアダダとソフィーの姿が入った。
「あ? ……って、アンタ!」
「ああっ! なーちょさん!?」
アダダが声を上げる。
かつて銃火を交えたライバルチームの一員。
だが、今の彼女の目に敵意はない。
それどころか、地獄で仏に出会ったような顔をしている。
「ねえアンタら!
昨日のこと……『アレ』のこと、覚えてたりしない!?」
なーちょの唐突、かつ必死な問いかけ。
アダダとソフィーは顔を見合わせた。
――ビンゴだ。
この世界にはまだ、「こちら側」の人間がいる。
「……場所を変えよか。ここじゃ目立つ」
ソフィーが静かに促し、三人は路地裏の木陰へと移動した。
⸻
◇路地裏・緊急会議
「マジで!? アンタらも覚えてんの!?」
なーちょは目を丸くして、パチパチと派手な付け爪を鳴らした。
「ヤバいって!
ゲルドもリバルドも『昨日はいい勝負だったなー』とか言って記憶リセットされてんの!
アタシだけハブとかマジ意味わかんないし!
仲間外れにするならリバルドにしなよって感じ!」
「落ち着きぃな。……せやけど、これで確信したわ」
ソフィーは冷静に分析する。
記憶を保っているのは、アダダ、自分、そしてこの「なーちょ」という特異な存在。
(この子のデータ……ウチと同じ『澱』の匂いがするな。
ただ、もっと軽くて純粋な……)
自分のような重苦しい怨念ではなく、もっと軽い、けれど強烈な「個」の輝きを感じる。
とりあえず、彼女が味方であることは間違いなさそうだ。
その時。
路地の角から、おずおずと一人の女性が姿を現した。
「あ、あの……」
儚げな表情で立っていたのは、ロナだった。
《クロウ》の新メンバーとして加わったばかりの、気弱そうな女性プレイヤーだ。
「私も……覚えているんです。昨日のこと」
「えっ……ロナさんも!?」
アダダが驚きと喜びで駆け寄る。
だが、その背後でソフィーの目は一瞬だけ鋭く光った。
(……このタイミングで? 出来すぎやな)
しかし、ロナは完璧な演技で瞳に涙を浮かべてみせる。
「皆さんがいなくなって……私、怖くて……。
でも、ここに来れば誰かに会えると思って……」
その姿は、混乱する世界に取り残された、か弱い被害者そのものだった。
だが、彼女の視界の端――
自分にしか見えないシステムウィンドウには、現実世界の御影から届いた指令が表示されている。
『Target: NACHO(Anomaly) / Contact Established』
『Status: 潜入任務開始』
「よかった……! 一人じゃなかったんですね!」
アダダは疑うことなくロナの手を握りしめた。
その純粋な温もりに触れても、ロナの心拍数は一つも上がらない。
彼女にとってこれは、報酬のための「仕事」に過ぎないのだから。
「うぇーい! 仲間増えたじゃん!
これでボッチ回避〜!」
なーちょが明るくハイタッチを求める。
場の空気が一気に緩む中、ソフィーだけが小さく溜息をつき、しかし覚悟を決めたように笑った。
「しゃーないな。……ほな、行こか。
男連中には内緒の、女子限定・真実探求ツアーや」
⸻
こうして。
違和感を抱く「記憶封印者」アダダ。
闇を見つめる「観測者」ソフィー。
世界に弾かれた「迷子」なーちょ。
そして、涙を演じる「嘘つき」ロナ。
あまりにも歪で、しかし最強の布陣となる
4人の女子パーティが、ここに結成された。
その結束が、偽りの上に成り立っていることを知っているのは――
今はまだ、ロナとソフィーだけだった。




