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legacy online ― 歪愛 ―   作者: ゑルマ
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第六話:束の間の休息と、忍び寄る視線



 「……ふぅ。……おいしかったぁ」


 空っぽになったカレー皿を前に、私は幸せな溜息をついた。

 店長特製のスパイスが効いたカレーは、戦場での緊張も、敗北の悔しさも、すべてを優しく溶かしてくれた。


 「はは、いい食べっぷりだったね。そんなに喜んでもらえると、店長も作り甲斐があるってもんだよ」


 クロがコーヒーを啜りながら、穏やかな目で私を見ている。


 「だって、本当に美味しかったんだもん! 明日も、明後日も、ずっと食べに来たいくらい!」


 私が元気に答えると、カウンターの奥でディルーが「嬉しい! 私が毎日呼び込みしてあげるからね!」とはしゃいでくれた。


 店長はと言えば、相変わらず無骨にグラスを磨いている。

 けれど、その視線はどこか温かく、まるで巣立ちを見守る親鳥のような静かな優しさが漂っていた。


 私は、手に入れたばかりの『コバルト・ストリーム』をもう一度だけ撫でた。


 「店長、でぃーちゃん。本当にありがとう。私、この銃と一緒に、次はもっと強くなってくるね!」


 「……ふん。調子に乗って足を止めるなよ。……また来い」


 店長の短い、けれど心のこもった激励を受け、私たちは席を立った。


 酒場を出る私たちの背中を、遠くから見つめる視線があった。

 裏通りの暗がりに身を潜め、黒いコートを纏った一人の男。

 かつて、私がこの街にやってきたばかりの頃、雑踏の中で一瞬だけ視線が交差した、あの人物だった。


 男は、ディルーや店長と親しげに笑い合う私の姿を、感情の読み取れない瞳でじっと凝視していた。


 「……アダダ」


 男の唇が、小さく私の名を形作る。

 その声には、深い悔恨か、あるいは冷徹な使命感か、複雑な響きが混じっていた。


 「もう少しだけ……。その束の間の平穏を、楽しんでくれ」


 男はそれだけを呟くと、私の姿が角を曲がって見えなくなるのを確認し、音もなく闇へと溶け込んでいった。


 背後にある大きな陰謀も、自分の過去に隠された真実も、私はまだ何も知らない。

 知っているのは、夜の風が心地よいことと、隣に信頼できるパートナーがいることだけ。


 見守られていたことにも気づかず、私は夜の『ガレリア』の街を軽快な足取りで歩いていた。


 「それじゃあ、今日はここで。お疲れ様、アダダ」


 大通りの噴水広場で、クロが足を止めた。


 「うん、お疲れ様クロ! 今日は本当にありがとう。……相棒くん!」


 私が悪戯っぽく笑ってそう呼ぶと、クロは少しだけ照れくさそうに頭を掻いた。


 「……ああ。おやすみ」


 クロの背中を見送り、一人になった私は夜空を見上げた。

 さて、お家に戻ろう。


 ……そう。私は当然のように、自分の帰るべき場所をこの街の住宅街にある、小さなマイハウスへと定めていた。


 鍵を開け、馴染みのある木の香りがする部屋に入る。


 「……ふぁ。……お風呂、入ろ」


 浴室には、温かな湯気が満ちていた。

 お湯に肩まで浸かると、昼間の戦闘で酷使した筋肉がほぐれていくのが分かる。


 (……明日は、一位を目指して頑張らなきゃ。コバルト・ストリーム、きっと私を助けてくれるよね)


 浴室の鏡に映る自分の姿を見つめる。

 そこには、戦士としての瞳を持つ私がいた。


 髪を乾かし、清潔なベッドに潜り込む。

 瞼を閉じれば、すぐに深い眠りが私を連れ去っていった。


 ピコン。


 翌朝。爽やかな鳥のさえずりと、窓から差し込む陽光で目が覚めた。

 枕元に置いていた端末が、メッセージの着信を告げている。


 『おはようアダダ。今僕もガチャを引いてきたんだけど、少し面白いものが出たよ』


 送り主は、もちろんクロだ。


 『SR2(スーパーレアツー)のアクセサリー。スキンじゃなくて、実用装備だ。

 【幸運のイヤーカフ】。全武器タイプに射撃補正効果があるみたいだ』


 「……えっ、すごい……!」


 メッセージの続きを読み進める。


 『アクセはかなり貴重みたいだよ。

 昨日、アダダのあの豪運に触れたおかげで、僕の運もよくなったみたいだ(笑)』


 冗談っぽく添えられた言葉に、私は思わず顔を綻ばせた。


 『これから、次のマッチングに行こうと思うんだけど……一緒にどうかな?』


 断る理由なんて、どこにもない。

 私はすぐに「行く!」と返信を打ち、ベッドから飛び起きた。


 ガレイドの広場。

 クロはもう完璧な身支度を終えて待っていた。

 彼の耳元には、鈍く銀色に輝く小さなイヤーカフが揺れている。


 「おはよう、アダダ。今日もいい天気だね」


 「おはようクロ! そのアクセ、すっごく似合ってるよ。」


 「ああ。君の機動力を活かすためのカバーがしやすくなったよ」


 私たちは笑い合いながら、戦場へと繋がるゲートへと向かった。


 「準備はいい? アダダ」


 「もちろん。……いこう!」


 マッチング開始。


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