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legacy online ― 歪愛 ―   作者: ゑルマ
闇へと
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第五十六話:酔いどれギャルと戦士の衝動


 アダダとソフィーが、昼時の高台で語り合う頃。

 クロとアッシュが、新たな戦場で快進撃を続ける頃。

 そして、領主、店長、マスター、副団長が、地下深くで重い真実と向き合う頃。

 

 それぞれの場所で、それぞれの物語が同時刻に動き出していた。

 それは、静かに、しかし確実に回り始めた運命の歯車だった。

 そしてここ、◇BAR「レイブン」でもまた、一つの物語が動き出そうとしていた。


          ***


 「んもー、マスター冷たいわぁー。マジありえないしー」

 カラン、と氷の音がグラスの中で涼やかに響く。

 カウンターに突っ伏しているのは、少し赤ら顔のなーちょだ。昼間からの飲酒ですっかり出来上がっている。


 「ガゼルっちはさぁー、真面目すぎんのよ。もっとこう、パッション? みたいなのないわけぇ?」

 「……申し訳ありません」

 マスターの代理でカウンターに立つガゼルは、困ったように眉を下げつつ、手際よくグラスを拭いている。


 「なーちょさん、絡み酒は良くないですよ」

 隣でリバルドが静かに嗜める。彼は酒ではなく、冷たい水が入ったグラスを揺らしていた。


 「リバリバはうるさいー! ゲルちんはどう思うー?」

 矛先を向けられたゲルドは、腕を組んで目を閉じていたが、ゆっくりと片目を開けた。


 「……騒ぐ元気があるなら、体を動かしたらどうだ」

 「えー? 体動かすって言ってもさぁ、最近の戦場退屈じゃーん?」

 なーちょはストローを噛みながら不満を漏らす。


 昨夜の「秘密基地」での記憶――消失事件を追う《クロウ》という組織の記憶は、彼らの中から綺麗に抜け落ちていた。「消失」についての話を3人で集まったなら話していたであろうこの場。

 残っているのは、「刺激に飢えた実力者」としてのプレイヤーの本能だけ。


 リバルドがふと、端末を操作しながら口を開いた。


 「そういえば、数日前に実装された『10vs10』……また行ってみませんか?」

 「あー、あれねー。こないだやったけど、まーまー楽しかったしー?」

 なーちょが思い出したように答える。初めてではない、経験者としての反応だ。


 「報酬の『ガチャ引き直し券』、今のうちに貯めておくのも悪くないかと」

 「あー、確かに」

 なーちょが顔を上げた。

 「あれ結構レアだしねぇ。今後のためにストックしとくのもアリかも?」

 叫ぶほどではないが、納得したように頷く。退屈凌ぎと実益を兼ねた提案だ。


 「それに、噂では……かなり手練れのプレイヤー達も参戦しているようです。先ほどマッチング場の方から、凄まじい歓声が聞こえてきました」

 「手練れ、か……」

 ゲルドが反応した。その瞳に、戦士としての好戦的な光が宿る。


 「退屈凌ぎにはなりそうだな」

 ゲルドが重い腰を上げると、リバルドもグラスを置いて立ち上がった。


 「おっ、ゲルちんもその気? よっしゃー! 酔い覚ましに一暴れ行きますかぁ!」

 なーちょがフラつきながらも、楽しげにガッツポーズを決める。


 「ガゼル、ツケにしておいてくれ」

 「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」

 三人はBAR「レイブン」を後にした。


          ***


 ◇ホームタウン『ガレリア』・マッチング広場

 広場は、独特の熱気に包まれていた。

 これから戦場へ赴く者たちの高揚した声、戦場から戻り反省会を開く者たちの怒号や嘆息、そして勝利の喜びを噛み締める者たちの歓声。

 それらが入り混じり、一種の祭りにも似た喧騒を作り出している。


 ゲルドたちは知る由もなかったが、その喧騒の中心には、あの男たちがいた。


 「おいおいクロ! あんたやっぱり化け物かよ!」

 「ガハハ! ビビったか!」自慢げなアッシュの笑い声


 人だかりの向こうで、圧倒的な初戦勝利を収めたクロとアッシュのチームが、野良プレイヤーたちからの称賛を浴びながら、次のマッチングを待機していたのだ。


 その熱狂をよそに、一人のギャルが人混みを縫うように進んでいく。


 「ちょっ、なーちょさん! 早いです!」

 リバルドが慌てて追いかける。


 「んー? だってあそこ並んでんじゃん! 早いもん勝ちっしょ!」

 なーちょはコンソール前に滑り込むと、迷うことなくパネルを連打した。


 『エントリーを確認。マッチングを開始します』

 「はいオッケー! マッチング開始~!」

 彼女は振り返り、遅れてやってきたゲルドとリバルドにピースサインを向ける。


 「……まったく。お前はいつも猪突猛進だな」

 ゲルドが呆れたようにため息をつくが、その口元は微かに緩んでいた。


 何も知らない強者たちが、同じ空の下、同じ戦場を求めて動き出す。

 運命の交差点は、もう目の前まで迫っていた。


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