第五十五話:銀色の会合と領主
◇訓練所地下・会議室
訓練所の地下深く。
上の階層の無骨な雰囲気とは隔絶された重厚な会議室に、この街『ガレリア』の隠れた上位者達が揃っていた。
部屋の隅には、執事のように控えるティフォン。
そして円卓を囲むのは、領主グロウズ、店長――アシュ――、BARのマスター、そして守衛団副団長。
張り詰めた緊張感の中、副団長が重々しく口を開いた。
「グロウズ様。こんな人の目が多い時間帯に……我々を集めた理由を」
「覚悟はしていましたよ」
マスターもまた、陽気な仮面を外し、真剣な表情で続く。
グロウズは三人の顔を見渡し、重く頷いた。
「呼び掛けに応じてくれて感謝する。……ローヴァンがいない事だけが残念だが」
その名に空気が揺らぐ中、マスターが核心を突く。
「街長からの全体メッセージ……あれが合図ですね?」
それはディルーとアダダの会話の後、突如として届いたメッセージだった。
*
送信元の名は――ガレリア街長、「ウィッシュドルド」。
『みなさん、こんばんは。
明日よりマッチング場に、「新しい選択肢」を追加いたします。
申し遅れました。私はこの街の代表、ウィッシュドルドです。
マッチング場、バトル、そして勝者。
この一連の流れもまた、私が皆様に提供している最高の「娯楽」です。
今回、新たに追加されるのは「小規模チーム戦闘」。
10vs10による、より戦略的で濃密な「娯楽」をご提供しましょう。
勝ったチームには、特別報酬として「ガチャ引き直し券」を進呈いたします。
どうか、この終わらない「娯楽」を心ゆくまでお楽しみください』
*
「……かつて決めた緊急連絡の暗号。まさか弟君のアカウントに乗せてくるとは」
マスターは一息つき、鋭い視線をグロウズに向けた。
「単刀直入に、答え合わせといきましょう。
まず、文中に含まれた“娯楽”というワードは計3回。
つまり、緊急度は最大値(ステージ3)。
敵側(運営)による、看過できない大規模な干渉があった……」
「そうだ」
「そして、私が読み取った内容はこうです。
“新しい選択肢”……新たな消失犠牲者の発生。
“小規模チーム戦闘”……被害者は少数。
そして、“引き直し券”……」
ここでマスターは言葉を区切り、苦々しげに吐き捨てた。
「ガチャの結果をやり直す。
つまり『起きた事実を無かったことにする』という隠語。
他の住民達の記憶が消された現状、これは『記憶改竄の実行』を示唆している……違いますか?」
「多少のズレはあるが、私もそう解いた。
アシュはどうなのだ?」
「……引き直し。俺も、記憶の巻き戻しと受け取った」
「ええ、同じ結論です。相違ありませんか、グロウズ様」
「ない。続けてくれ」
マスターは眉間の皺を深くする。
「では続けます。
これらを踏まえ、私は店に来た消失事件の被害者たちを誘導し、組織を作らせました。
事件を追わせるために」
店長――アシュ――の目がわずかに動く。
「ですが、一瞬でした。……彼らは、消失に関する記憶すら無くなった」
「……」
消失事件の記憶が消えるのではない。
“消された”のだ。
「こちらでもそれを確認した……」
グロウズの声に、静かな怒りと威圧が宿る。
「人の歴史や歩みを変えるなどあってはならない。
それで緊急度を上げ、今呼んだのだ」
そして、鋭い視線をマスターに向けた。
「レックス、お前の記憶は無事なようだな」
レックス。
それは、《クロウ》を作らせたマスターの真名。
「はい。私はこの通りです」
レックスは頷き、左右の二人を見た。
「そして……アシュ、ジャン。君たちもだろう?」
「……ああ」
「そうなる」
一般のプレイヤーや住人たちの記憶が改竄される中、彼ら「上位者」だけが真実を記憶している。
それは幸いか、不幸か。
再び重苦しい空気が漂い始めたその時。
「失礼します」
ティフォンが恭しい手つきでトレイを持ち、それぞれの前に飲み物を置いていく。
立ち上る湯気だけが、凍りついた時間をわずかに動かしていた。




