第四十四話:黒い鳥の止まり木
ゲルドが先頭を歩き、一歩後ろでなーちょとリバルドが並んで歩く。
なーちょは石畳のブロックの区画を、まるで水たまりでも避けるかのように大股で、楽しげなスキップのような足取りで進んでいく。
リバルドは無言のまま、周囲への警戒を怠らない。
その少し後ろを、クロとアッシュがついていく。
そして最後尾を、先ほどの被害者の男と共にアダダが歩いていた。
「大変だったね。私たちも少し知っている事があるから、協力するからね」
アダダは優しく声をかけた。
男を元気づけようと努めるその声は、しかし、どこか寂しげな響きを帯びていた。
かつて目の前で消えた仲間たちのことを思い出しているのだろう。
一行がたどり着いたのは、いつもの『ミッシュウ・ラン』とは少し離れた区画にある店だった。
賑やかな酒場とは打って変わって、そこは少し照明を落とした、落ち着いたバーのような佇まいを見せていた。
ゲルドが重い扉を開け、続けて全員が中へと入る。
「邪魔するぞ」
カウンターの奥には、店長らしき男が一人立っていた。
小さくて黒いレンズのサングラスをかけ、頭には薄く黒光りするバンダナを巻いている。
寡黙そうなその男は、グラスを磨く手を止めずに短く言った。
「奥だ。いつも通りノック三回しろ」
「ああ」
ゲルドは迷わず店の奥へと進むと、壁際の本棚の横に置かれた、何の変哲もない大きな木箱の前に立った。
コン、コン、コン。
乾いた音が三回響く。
「レイブン」
ゲルドが短く告げると、カシュンという低い駆動音と共に木箱の前面が開き、地下の奥へと続く隠し通路が現れた。
「うわわ、なんかすごいね……」
アダダが目を丸くする。
「かっけぇ……!」
アッシュは少年のように目をキラキラさせていた。
まるで秘密基地だ。
薄暗い通路を抜けた先には、意外なほど広い空間が広がっていた。
そこには数人の男と、二人の女性がいた。
いずれもそれなりの場数を踏んでいるであろう、中堅プレイヤーらしき装備を身に着けている。
「ゲルドさん……! 何かわかったんですか?」
中にいた一人が、すがるように声を上げた。
「目新しい情報はない」
ゲルドは淡々と答えた。
「新しい被害者と、使えるかは知らんが協力者を連れてきた」
視線を向けられ、アダダは恐る恐る頭を下げた。
「あ、どうもこんばんは……」
すると、座っていた女性の一人がハッとした顔をした。
「あっ、アダダさん?」
「え? 私の名前……?」
アダダはきょとんとした。
「すいません、私、ロナといいます。掲示板とかマッチログとかでよくお名前を見るから、知ってたんです」
「えっ、私が? クロじゃなくて?」
「もちろんクロさんも知ってます。アッシュさんも」
ロナと言った女性は、不安げな表情の中に少しだけ親愛の色を滲ませた。
クロは弱い微笑みを返し、アッシュは驚いたように自分を指差した。
「えっ、俺も? 有名人かぁ?」
相変わらずの調子だ。
「アダダちゃんは女のコのプレイヤーなら結構知ってるよぉ。
あ、ウチも有名人かもぉ?」
なーちょが横から茶々を入れる。
場が少し緩みかけたその時、ゲルドの低い声がそれを遮った。
「そんなことはいい。今はやる事があるだろ」
その言葉を受け、リバルドが一歩前に出た。
「皆さん、座ってください。……ゲルドさん、いいですか」
「頼む」
ゲルドが促すと、全員が部屋の中央にあるテーブルを囲むように座り直した。
張り詰めた空気が戻り、いよいよ情報の共有が始まろうとしていた。




