第四十一話:噂のタクトと新チーム誕生
ソフィーとの嵐のような遭遇が過ぎ去り、店内に少し落ち着きが戻ってきた頃。気を取り直した私が言った。
「私らも食べたら出よっか。クロ結局どうするの? ガチャ引きにいく?」
「今さっきの20個加えて、今何個ダイヤあるんだ?」
アッシュが興味津々に尋ねる。
クロがウィンドウを出し、所持ダイヤ数を確認した。
「58個かな」
「か、金持ち!」
私は思わずのけぞった。
「そんだけあればだいぶ引けるな」
アッシュの言葉に、クロは少し考え込むように顎に手をやった。
「そうだね。でもさっきの確率表見るとまだ不安あるなー。……10vs10、行ってみるかい?
報酬で『引き直しガチャ券』があれば、少しはマシかなって。通常マッチより1戦闘当たりの時間もかからないだろうしね」
「いいね! 私も行きたい!!!」
私の即答に、アッシュも乗っかる。
「いいな! いくか!」
「掲示板見て情報収集してから行こうよっ!」
私が提案すると、クロが目を丸くしてまじまじと私を見た。
「アダダが珍しい事言ってる……? アッシュと同じだと思ってたのに」
「え? どう言う意味? それ!」
私が抗議の声を上げると、アッシュも眉をひそめた。
「俺もバカにされた気がするぞ」
「ごめんごめん。勢いよくそのまま行くかと思ったんだ。悪気はないよ、アダダには」
「には?」
アッシュが即座に反応するが、クロはさらりと受け流し、端末を操作した。
「それじゃ、掲示板見てみようか」
クロはウィンドウを大きく広げ、三人全員が見えるように空中に投影してくれた。
【攻略】10vs10の戦術を語るスレ
~中略~
10:シ○ン
すごいらしいよ。
敵味方の位置と地形を同時に見てるって噂だ。
もし10vs10に来たら、混戦の中でも全員に指示出しして盤面ひっくり返すんじゃないか?
11:ユ○
なんか難しい話してるけど、
とりあえずクロが強いってことは分かった。
味方に引けたらラッキーってことね。
12:ガ○トン
いや、そんなのんきなこと言ってる場合じゃないぞ。
今10vs10のマッチング、マジでやばい。
“あいつら”がいる。
13:カ○ト
あいつらって?
14:ガ○トン
ゲルド、リバルド、なーちょの三人組だよ。
さっきマッチングしたけど、強すぎて話にならん。
連携とかそういうレベルじゃなくて、個の暴力で蹂躙された。
15:レ○ン
リバルドの特攻はマジで止まらん。
あいつ、スキンの能力かな 消えるんだよ。
急に出てきてボコボコにされる。
16:ヨ○
うわ、マジかよ……。
10vs10でもお構いなしか。
17:ガ○トン
特になーちょのスキルがいやらしすぎるし、
リバルドの透明化?→特攻この流れを誰も止められない。
で、最後にゲルドが全部叩き潰してくる。
味方の野良が次々溶かされ、3分持たずに終わったわ。
18:ユ○
え、そんなに?
私まだ当たったことないんだけど……当たりたくないんだけど……。
19:シ○ン
それは災難だったな……。
今の時間帯は避けた方がいいかもしれん。
あいつらと当たったら、まともなゲームにならんぞ。
20:ロ○
聞いた話だと、あいつら最近チーム組んだらしいぞ。
たぶんその試運転も兼ねて10vs10に来てるんだろ。
21:ミ○ト
マジかよ……。
でも逆に、そのゲルド達を倒したら
めちゃくちゃ有名になれるんじゃね?
22:ガ○トン
無理無理。
今の野良PTじゃ絶対に勝てない。
“死線のタクト”クラスの司令塔がいなきゃ、ただの餌だ。
掲示板に流れる不穏な空気に、アダダは息を呑んだ。
「ゲルド、リバルド、なーちょ……」
「あいつらPT組んだのか……? にしても暴れてるみたいだな」
アッシュのその目には恐怖よりも、強敵への好奇心が宿っている様な顔つきで答える。
クロは静かに画面を見つめ、少しだけ目を細めた。
「……どうやら、簡単には行かせてくれなさそうだね」
「あの時、三人で一緒にいたもんね。きっと、リバルドさんとなーちょさんがゲルドを誘ったんだよ」
私がそう推測すると、アッシュは好戦的な笑みを浮かべた。
「へっ、上等だぜ! ひとりぼっちになっちまったあいつを倒しても張り合いがねぇからな。
前の戦いじゃブローキンの野郎に水を差されて、あの二人組との決着もつかずじまいだったしよ」
やる気満々のアッシュに対し、クロは冷静に顎に手を当てて考え込んだ。
「うん……。でも、ただでさえ人数有利がある中で苦戦した二人に、あのゲルドが加わったことを考えると……」
クロの表情に影が差す。あの時の激戦と、ゲルドの圧倒的な暴力を思い出しているのだろう。
「僕たちもそれなりに連携を取れるようになったし、チームとしては完成しつつある。
だけど、あのクラスとやり合うなら、やっぱり僕の武器の更新が先に必要かもしれない。……当たるとは限らないけどね」
「確かに……! 10vs10に行って引き直し券を最初に手に入れるか、
それとも今すぐ引きに行くか、選ばないとね……!」
私の言葉に、クロは一つ息を吐いて決断した。
「引き直し券があると確率は上がるけど……先に引くことにしようかな。
今の装備のままじゃ、彼らに対抗できるイメージが湧かない」
「おう! じゃあ『ガチャパレス』に向かうか!」
方針が決まれば行動は早い。
私たちは席を立ち、お会計を済ませる。
運命のダイヤを握りしめて店を後にするのだった。




