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legacy online ― 歪愛 ―   作者: ゑルマ
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第三十九話:束の間の休息と、残酷な数字



 ブローキンが去った後の『ミッシュウ・ラン』を支配していたのは、底冷えするような静寂だった。

 アダダたちは、店長の重い言葉を反芻するように黙って聞いていた。


 店長は、ふぅと長く重い溜息をつくと、わざとらしく明るい声を出し、いつもの無骨な表情に戻った。


 「……少し暗くなりすぎたか。一旦忘れろ。だがあいつの口ぶりから見て、何をしてくるかわからねぇ。

 お前たちも巻き込む可能性があるが……。一旦は飯でも食ってけ」


 店長はそう言い残し、背中を向けて厨房へと戻っていった。


 忘れろと言われて、すぐに忘れられるはずがない。

 アダダは割り切れない思いを抱えながら、遠ざかる店長の背中を見つめていた。

 クロは静かに、何かを深く考え込んでいる様だった。


 そんな空気を切り裂いたのは、アッシュの慌てたような声だった。


 「ま、まぁなんだその! とりあえずクロから受け継いだ、こいつのことをよ!」


 思い出したようにアッシュが言う。

 緊迫した空気に耐えかねて、話題を変えようとしているのが伝わってくる。


 「そうだね。祝勝会と行こうか」


 クロが微かに微笑んで同調する。

 二人の気遣いを感じながらも、アダダの心にはまだディルーのことが影を落としていた。


 ……けれど、何かを決めたように、あるいは諦めたように、

 アダダは無理に笑顔を作った。


 「そうだね! 改めておめでとう、アッシュ!」


 「サンキューな! ……あ、クロ。そういえば20ダイヤは来たのか?」


 アッシュが端末を操作すると、クロが頷いた。


 「うん、ちゃんと僕の方にも譲渡完了と同時にダイヤ20が送られてきたよ。

 これで僕も、そろそろガチャを引こうかな。


 二人はそれぞれ、自分の特徴に合ったスキンを手に入れたけれど、

 僕はまだガンタイプも定まっていないんだよね」


 アダダは自分の愛銃、HRブルーガンスキン「コバルト・ストリーム」を。

 アッシュは譲り受けたばかりの、HR2グリーンガンスキン「フォレスト・ファントム」を見た。


 そう、クロはいまだにRのブルーガンタイプと、

 イエローガンタイプのスキンしか持っていなかった。


 「うーん……クロはスキンの能力に頼らずとも、ここまでやってきてるんだもんね。

 すごいやっぱり。

 メインウェポンとは別に、サブウェポンのハンドガンを使ってるイメージもあるし……」


 「クロがHRとか引き当てたら、どうなるんだ?」


 アッシュの問いに、アダダは直感的に答えた。


 「死線のタクト……Ver.2!」


 「アダダ……ちょっとダサいかも、それ」


 クロが少し困ったように微笑む。


 「えっ! 酷い! クロのあほ! いじわる!」


 アダダが頬を膨らませると、

 クロとアッシュの間にようやく明るい笑い声が戻った。


 「にしても、僕だけ偏りが……。

 アクセサリと、使いこなせないからアッシュに譲ったグリーンガンタイプ……」


 クロはこれまで、

 SRのアクセサリ「幸運のイヤーカフ」と、

 今しがた手放した「フォレスト・ファントム」以外、

 目ぼしいものは引けていなかった。


 「ガチャの確率って、どこかで見れるんだっけ?」


 言いながら、アダダは端末を操作した。


 「あ、あった! これだ」


 アダダの開いたウィンドウから、一同が中を覗き込む。


 【レアリティ確率一覧表】

 N / N2:65.00%

 R / R2:20.00%

 SR / SR2:10.00%

 HR / HR2:4.80%

 UR:0.19%

 UR2:0.01%


 「うぇ……」


 「これは、ひどいな」


 アダダとクロが絶句する横で、

 アッシュがある事実に気づき、顔を引き攣らせた。


 「……待てよ。

 よく考えたら、自力で何も引けてないの、俺だけじゃねぇか!?」


 アッシュの悲痛な叫びに、アダダは思わず噴き出した。


 「あはは! そういえばそうだね! アッシュ、どんまい!」


 「笑ったなこのやろー!」


 アッシュが悔し紛れに、

 アダダの頭を両手でぐりぐりと小突く。


 「あだだだ! ちょっと、やめてよアッシュ!」


 じゃれ合う二人を眺めながら、

 クロが静かに、けれど追い打ちをかけるように言った。


 「そこに気づくとは……成長したね、アッシュ」


 「クロ、お前まで! 覚えてろよ!」


 再び笑い合う三人。

 先ほど店長の告げた驚愕の事実を聞き、

 暗くなっていた雰囲気は、もうどこにもなかった。


 そこへ、不意に明るい声が重なる。


 「楽しそうだね! 三人を見てると元気が出るよっ」


 「でぃーちゃん!」


 戻ってきたディルーは、迷いのない足取りでアダダの元へ歩み寄ると、

 そっとその手を取った。


 「アダダちゃん、今回は大丈夫だから!

 何も言わないと、アダダちゃんにまた心配されちゃうからね!」


 「うんー! よかった!

 やっぱでぃーちゃんは笑っていないとっ」


 アダダは心から安堵して、ディルーの手を握り返した。

 その様子をクロが温かく微笑んで見守り、

 アッシュは隣で、まだクロに何やら文句を垂れていた。


 「ディルー、戻ってきたなら仕事しろ。これを持っていってくれ」


 店長が声をかける。

 カウンターには、アダダたちの空腹を刺激する香りを漂わせた料理が並んでいた。

 店長特製のミッシュウカレーと、クロ用のコーヒーとピザパンだ。


 「わあ……!」


 運ばれてきた料理を見て、アダダは声を上げた。

 いつもと違う。明らかに豪華になっている。


 カレーには肉厚なハンバーグが乗り、

 ピザパンには、これでもかというほどチーズが増量されていた。


 「店長、これ……」


 アダダが厨房の方を見ると、

 店長は背中を向けたまま、ぶっきらぼうに呟いた。


 「……サービスだ。祝勝会なんだろ? さっさと食え」


 不器用な店長なりの、精一杯の激励。

 三人は顔を見合わせると、

 一斉にスプーンとパンに手を伸ばした。


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