第三話:初陣と出会いと。
過酷な基礎訓練を終え、私は期待に胸を膨らませながら、街の西区にある巨大な「戦場マッチング場」へとやってきた。
そこは、これから戦場へ向かおうとする数百人のプレイヤーたちで溢れかえっていた。
「レッドガン持ちいないか! 遠距離からの火力が欲しい!」
「近距離特化のグリーン募集! 最前線で暴れられる奴!」
飛び交うのは、この世界特有の銃の種類を表す色の名前。
ブルー、レッド、グリーン、イエロー。
選んだ銃の「色」が、そのまま戦場での役割と射程を決める。
あるのは、己のエイムと立ち回り、そして銃の特性だけだ。
私はその殺伐とした熱気に圧倒されながらも、これから始まる「本番」への高揚感を抑えきれずにいた。
(すごい……みんな、こうやってチームを組んでいくんだ)
けれど、周りは熟練者ばかりに見える。
新人の私が声をかけてもいいものだろうか。
誰に声をかけることもできず、私はその場で立ち尽くしていた。
「……君、一人?」
不意に、背後から穏やかな声がした。
振り返ると、そこには落ち着いた雰囲気の少年が立っていた。
灰色の髪に、穏やかな瞳。
彼は私の顔を覗き込むと、迷子の猫でも見つけたかのように、優しく目を細めた。
「あ、はい! 今日、初めてで……」
「やっぱり。なんとなく、そんな気がしたんだ」
彼はそう言うと、私から視線を外さずに一歩近づいてきた。
誰もが血気盛んに見えるこの広場で、彼だけはどこか静かな湖のような余裕を纏っている。
初対面のはずなのに、彼のその瞳に見つめられると、なぜか胸の奥が甘く疼くような――不思議な引力を感じた。
彼もまた、何かを確認するかのように私を見つめている。
「よかったら、僕と組まない? 僕もまだ枠が空いているんだ」
「えっ? わ、私なんかでいいの?」
「君がいいんだ。……僕はクロ。君の名前は?」
真っ直ぐな言葉に、心臓がトクンと跳ねる。
私は熱くなる頬をごまかすように、元気よく胸を張った。
「私はアダダ! 戦場に出るのはこれが初めてなんだけど……足手まといにならないように頑張るから、よろしくね、クロ!」
「アダダ、か。いい名前だね。よろしく、アダダ」
彼が私の名前を呼ぶ。
その響きがなんだか心地よくて、私の緊張はすっと解けていった。
二人がパーティーを結成した直後、足元の床が青く発光し、強烈な浮遊感が私を襲った。
「転送が始まる。……さあ、行こうか」
クロの声と共に視界が白く染まる。
瞬きの間に、世界が一変していた。
そこは、のどかな田舎の集落だった。
どこまでも続く麦畑と、点在する古びた民家。
平和な風景に見えるが、肌を刺すような静寂が、ここが戦場であることを物語っている。
「百人……二十チーム。この中の誰かが、最後の一人になるまで戦うんだ」
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
手元の端末が震え、エリアの情報を告げる。
「アダダ、まずは地形の把握だ。このエリアの構造を頭に入れるよ」
「うん、わかった!」
私たちは身を隠すように、近くの民家へ入り込んだ。
私は手にした愛銃――『ブルーガン』の感触を確かめる。
サブマシンガンタイプのこれは、射程は短いが連射が効き、前衛や援護射撃、そして精密な動作に向いている。
ずっしりとした冷たい感触が、手に馴染んだ。
その時。
――ガサリ。
隣の部屋から、微かな足音が聞こえた。
「っ!」
心臓が跳ねる。
初めての「敵」との遭遇。
思わず身を固くする私を尻目に、横から影が飛び出した。
クロだ。
彼は壁の角を使い、流れるような動作で「リーン」を行い、最小限の露出で銃を構えた。
彼が持つのは中距離精密射撃を得意とする『イエローガン』のアサルトライフルだ。
――タタンッ!
乾いた銃声。
部屋にいた敵プレイヤーが、光の粒子となって霧散していく。
「クリア。大丈夫、落ち着いて、アダダ」
「す、すごい……! 今の、リーンっていうんだよね? 完璧だった!」
「訓練通りだよ。……でも、油断はしないで。他の二人がやられたみたいだ」
その言葉とほぼ同時に、耳元のインカムから激しいノイズと、短い悲鳴が響いた。
離れた場所にいた仲間が、交戦の末に散ったのだ。
「ええっ!?」
戦慄する。
しかし、感傷に浸る時間はなかった。
――パァン!
不意に、窓ガラスが割れる音と共に、私の肩に焼けるような衝撃が走った。
「ぐっ……!」
どこから撃たれたのかも分からない。
必死に床を這い、遮蔽物の影に隠れるが、追撃の銃弾が床を削る。
あれは遠距離からの『レッドガン』の威力だ。
「アダダ、伏せて! 敵は外の屋根の上だ!」
クロが叫び、応戦しようとするが、相手は複数人。
圧倒的な弾幕の前に、逃げ場はなかった。
「あ……」
視界が赤く染まる。
痛い。熱い。
そして、意識が急激に遠のいていく。
『DEFEAT —— 13th PLACE』
気がつくと、私はホームタウンの広場に座り込んでいた。
先ほどまでの激痛は消え、汚れ一つない装備に戻っている。
「……やられちゃったね。あはは、何もできなかったなぁ」
私は苦笑いしながら、隣に座るクロを見た。
「あれは無理だね。位置が悪すぎた」
クロも少し困ったように笑い、私に手を差し伸べた。
「でも、次はもっと上手くやれる気がする。……もう一度、行く?」
私はその手を取り、力強く立ち上がった。
「うん! もちろん!」




