表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
legacy online ― 歪愛 ―   作者: ゑルマ
legacy online
4/74

第三話:初陣と出会いと。

 過酷な基礎訓練を終え、私は期待に胸を膨らませながら、街の西区にある巨大な「戦場マッチング場」へとやってきた。

 そこは、これから戦場へ向かおうとする数百人のプレイヤーたちで溢れかえっていた。


「レッドガン持ちいないか! 遠距離からの火力が欲しい!」

「近距離特化のグリーン募集! 最前線で暴れられる奴!」


 飛び交うのは、この世界特有の銃の種類を表す色の名前。

 ブルー、レッド、グリーン、イエロー。


 選んだ銃の「色」が、そのまま戦場での役割と射程を決める。

 あるのは、己のエイムと立ち回り、そして銃の特性だけだ。


 私はその殺伐とした熱気に圧倒されながらも、これから始まる「本番」への高揚感を抑えきれずにいた。


(すごい……みんな、こうやってチームを組んでいくんだ)


 けれど、周りは熟練者ばかりに見える。

 新人の私が声をかけてもいいものだろうか。

 誰に声をかけることもできず、私はその場で立ち尽くしていた。


「……君、一人?」


 不意に、背後から穏やかな声がした。


 振り返ると、そこには落ち着いた雰囲気の少年が立っていた。

 灰色の髪に、穏やかな瞳。


 彼は私の顔を覗き込むと、迷子の猫でも見つけたかのように、優しく目を細めた。


「あ、はい! 今日、初めてで……」


「やっぱり。なんとなく、そんな気がしたんだ」


 彼はそう言うと、私から視線を外さずに一歩近づいてきた。


 誰もが血気盛んに見えるこの広場で、彼だけはどこか静かな湖のような余裕を纏っている。

 初対面のはずなのに、彼のその瞳に見つめられると、なぜか胸の奥が甘く疼くような――不思議な引力を感じた。

 彼もまた、何かを確認するかのように私を見つめている。


「よかったら、僕と組まない? 僕もまだ枠が空いているんだ」


「えっ? わ、私なんかでいいの?」


「君がいいんだ。……僕はクロ。君の名前は?」


 真っ直ぐな言葉に、心臓がトクンと跳ねる。

 私は熱くなる頬をごまかすように、元気よく胸を張った。


「私はアダダ! 戦場に出るのはこれが初めてなんだけど……足手まといにならないように頑張るから、よろしくね、クロ!」


「アダダ、か。いい名前だね。よろしく、アダダ」


 彼が私の名前を呼ぶ。

 その響きがなんだか心地よくて、私の緊張はすっと解けていった。


 二人がパーティーを結成した直後、足元の床が青く発光し、強烈な浮遊感が私を襲った。


「転送が始まる。……さあ、行こうか」


 クロの声と共に視界が白く染まる。

 瞬きの間に、世界が一変していた。


 そこは、のどかな田舎の集落だった。


 どこまでも続く麦畑と、点在する古びた民家。

 平和な風景に見えるが、肌を刺すような静寂が、ここが戦場であることを物語っている。


「百人……二十チーム。この中の誰かが、最後の一人になるまで戦うんだ」


 私はゴクリと唾を飲み込んだ。


 手元の端末が震え、エリアの情報を告げる。


「アダダ、まずは地形の把握だ。このエリアの構造を頭に入れるよ」


「うん、わかった!」


 私たちは身を隠すように、近くの民家へ入り込んだ。


 私は手にした愛銃――『ブルーガン』の感触を確かめる。

 サブマシンガンタイプのこれは、射程は短いが連射が効き、前衛や援護射撃、そして精密な動作に向いている。

 ずっしりとした冷たい感触が、手に馴染んだ。


 その時。


 ――ガサリ。


 隣の部屋から、微かな足音が聞こえた。


「っ!」


 心臓が跳ねる。

 初めての「敵」との遭遇。


 思わず身を固くする私を尻目に、横から影が飛び出した。


 クロだ。


 彼は壁の角を使い、流れるような動作で「リーン」を行い、最小限の露出で銃を構えた。

 彼が持つのは中距離精密射撃を得意とする『イエローガン』のアサルトライフルだ。


 ――タタンッ!


 乾いた銃声。


 部屋にいた敵プレイヤーが、光の粒子となって霧散していく。


「クリア。大丈夫、落ち着いて、アダダ」


「す、すごい……! 今の、リーンっていうんだよね? 完璧だった!」


「訓練通りだよ。……でも、油断はしないで。他の二人がやられたみたいだ」


 その言葉とほぼ同時に、耳元のインカムから激しいノイズと、短い悲鳴が響いた。

 離れた場所にいた仲間が、交戦の末に散ったのだ。


「ええっ!?」


 戦慄する。

 しかし、感傷に浸る時間はなかった。


 ――パァン!


 不意に、窓ガラスが割れる音と共に、私の肩に焼けるような衝撃が走った。


「ぐっ……!」


 どこから撃たれたのかも分からない。


 必死に床を這い、遮蔽物の影に隠れるが、追撃の銃弾が床を削る。

 あれは遠距離からの『レッドガン』の威力だ。


「アダダ、伏せて! 敵は外の屋根の上だ!」


 クロが叫び、応戦しようとするが、相手は複数人。

 圧倒的な弾幕の前に、逃げ場はなかった。


「あ……」


 視界が赤く染まる。

 痛い。熱い。

 そして、意識が急激に遠のいていく。


『DEFEAT —— 13th PLACE』


 気がつくと、私はホームタウンの広場に座り込んでいた。

 先ほどまでの激痛は消え、汚れ一つない装備に戻っている。


「……やられちゃったね。あはは、何もできなかったなぁ」


 私は苦笑いしながら、隣に座るクロを見た。


「あれは無理だね。位置が悪すぎた」


 クロも少し困ったように笑い、私に手を差し伸べた。


「でも、次はもっと上手くやれる気がする。……もう一度、行く?」


 私はその手を取り、力強く立ち上がった。


「うん! もちろん!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ