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legacy online ― 歪愛 ―   作者: ゑルマ
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第三十三話:白き装束の女と、課された試練

 グロウズ教官の後に続き、私たちは訓練所の奥へと足を進めた。無機質な石造りの廊下を曲がったその時、前方から一人の女性が歩いてくるのが見えた。

 真っ白な装束に身を包んだその女性は、どこか神々しささえ感じる浮世離れした雰囲気を纏っていた。だが、彼女が口を開いた瞬間、その厳かな空気は一変した。


 「あ! グロウズ教官やーん! いろいろおおきになぁ!」


 教官は言葉を返す代わりに手をスッと掲げるだけで、そのまま通り過ぎる。


 (おおきになぁ? なんか聞き覚えがあるような、ないような……。なんか不思議な喋り笑)


 私は一瞬だけ懐かしさに似た感覚を覚えたが、特に気にせず教官の背中を追った。


 やがて一同が辿り着いたのは、広大な訓練場ではなく、何の変哲もない白い壁の行き止まりだった。


 「んあ? 行き止まりじゃねーか」


 アッシュが不満げに声を上げるが、クロは何も言わず、ただ静かにその壁を見つめている。

 グロウズが壁に手を触れた。その瞬間、白い表面に古代の紋章を思わせる不思議な水色の光が走り、幾何学的な模様を描き出す。


 視界が歪んだ。


 次に目を開けたとき、私は一人、周囲をモニターに囲まれた観覧室のような場所に立っていた。


 「えっ!? どこここ? えっ?」


 目の前の巨大なモニターが起動し、荒廃した市街地のようなバトルエリアに放り出されたクロとアッシュの姿が映し出された。


 エリア全体に、姿は見えないがグロウズの声が響き渡る。


 「いいか、小童ども。ティフォンを知っているな。あいつが今からお前らを倒しにくる」


 教官の説明は簡潔で無慈悲だった。二人合わせて三回やられたら即終了。ダイヤも返さず、所有権の移動も行わない。勝利条件は、ティフォンを一度でも倒すこと。


 クロの表情が強張る。先ほど案内してくれた補助教官、ティフォン。あの男から感じた「足音の聞こえない所作」の脅威を思い出していた。


 「安心しろ、《死線のタクト》クロ。あいつ自身が出てくるわけじゃない。お前らでは勝てん。……奴の数パターンを模倣したクローンだ」


 「《死線のタクト》だぁ? なんだよそれ」


 アッシュが驚き、クロに視線を向ける。だがクロは唇を噛み、沈黙を貫いた。観覧室にいる私も、モニター越しにその言葉に驚愕していた。


 (《死線のタクト》……? え、クロってそんなふうに呼ばれてるの!? やっぱすごいなぁ、クロ……)


 「貴様らの噂は、こんなところまで届いているぞ。……まあいい。勝て。死んだら復活場所はランダムだ。合流するなり一人で倒すなり、好きにしろ」


 戦闘開始の電子音が鳴り響く。


 クロは即座に物陰に身を隠し、インカムに手を当てた。


 「アッシュ、聞こえるかい? 作戦を伝えよう」


 「おう! 噂の有名人さんよぉ、どうすんだ!」


 「嫌味を言っている余裕はないよ。相手はティフォンさんのクローンだ。……彼が案内してくれた時、足音が全く聞こえなかったのを覚えているかい? クローンとはいえ同じ性質なら、音もなく背後を取る暗殺型の動きをしてくるはずだ」


 クロの声は冷静だった。


 「アッシュ、君はあえて目立つように大通りを移動してくれ。囮だ。君の反応速度とグリーンガンの弾幕なら、奇襲を受けても初撃は防げる。僕は高所の死角から君を監視する。影が動いた瞬間、僕が撃って足を止める。……いいかい?」


 「へっ、気に入らねぇが……その『タクト』の腕前、信じてるぜ!」


 アッシュが地面を蹴り、瓦礫の中へと飛び出した。


 クロが持つHRスキンをアッシュへと受け継ぐための、運命の戦いが始まった。


 アッシュが大通りを疾走する。その背中を、クロは隣接するビルの三階からイエローガンを構えて静かに追った。

 観覧室のモニターを見つめる私の手に、じわりと汗が滲む。


 静寂が支配する市街地に、突如として「死」が舞い降りた。


 アッシュの背後、何の予兆もなく空間が揺らいだかと思うと、黒い人影が音もなく着地した。ティフォン・クローン。手には短く切り詰められた、漆黒の銃身。


 「アッシュ、真後ろだ!」


 インカム越しにクロの声が飛ぶのと、クロの放ったイエローガンの弾丸がクローンの足元を穿つのは同時だった。


 「――っおらぁ!」


 アッシュは驚異的な反応で体を反転させ、グリーンガンを乱射する。火花が散り、クローンは一瞬の硬直を見せた。

 だが、クローンは物理法則を無視したような動きで弾丸を回避し、再び闇に溶けるように姿を消した。


 「消えた!? どこだよ!」


 「動くな、アッシュ! 十二時方向の時計塔の陰、そこから三秒後に仕掛けてくる!」


 クロの指示は正確無比だった。まるで戦場の全ての動きを指揮棒タクトで操るかのように、クローンの次の一手を読み切っている。

 だが、クローンの動きはそれを上回る速度で加速していった。


 「くっ……速い……!」


 クロの放つ射撃さえも翻弄する変幻自在の機動。

 アッシュが弾き飛ばされ、クロの射撃が僅かに逸れる。


 「クロ! このままじゃジリ貧だぜ!」


 「分かっている。……アッシュ、賭けに出る。僕がわざと姿を晒す。奴が僕を狙った瞬間、君が全力で突っ込め!」


 「……はぁ!? お前、死ぬ気かよ!」


 「信じてるって言っただろう? 頼むよ、アッシュ!」


 クロがビルの窓から身を乗り出し、遮蔽物なしでイエローガンを連射する。

 その瞬間、クローンの殺気が、獲物を狙う鷹のようにクロへと向けられた。


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