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legacy online ― 歪愛 ―   作者: ゑルマ
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第三十二話:残光の10個。そして訓練所の門へ



ピザパンとコーヒー、そしてアッシュが顔を赤くしながら掻き込む激辛カレー。私はスパイスの香りが食欲をそそる温かいカレーを口に運んだ。


『ミッシュウ・ラン』の食事は、ブローキンに蹂躙された私たちの心を、内側から少しずつ解きほぐしていった。


「……さて、いつまでも座ってはいられないな。あと十個だ」


クロがコーヒーを飲み干し、静かに席を立った。アッシュも最後の一口を飲み込み、額の汗を拭う。


「おうよ。……親父、でぃーちゃん。行ってくるぜ」


店長は何も言わず、ただ力強く頷いた。厨房側のディルーちゃんが、私たちの背中に向かって「気をつけてね!」と声を投げかける。その声を背中で受け止めながら、私たちは再び深夜のガレリア、転送ゲートへと足を踏み出した。


だが、深夜から明け方にかけてのマッチングは過酷を極めた。


第四戦は八位、第五戦は六位。


なかなか思うようにダイヤが溜まらず、焦りと疲労が色濃くなる。ようやく掴んだ第六戦の一位で五個。続く第七戦は四位。


「くそ……。思うようにいかねぇな」


「落ち着いて、アッシュ。動きは悪くない。連携はこれまでのものより確実によくなってきたよ」


クロの言葉通り、一人が囮になり、一人が削り、一人が仕留める。その循環は確実に鋭さを増していた。


そして、朝日がガレリアの街並みをオレンジ色に染め始めた頃――。


第八戦。激闘の末に掴み取った一位。


【所持ダイヤ:45個】


「溜まった……。本当に、溜まったんだな」


アッシュが呆然と画面を見つめる。私たちは一度、各々のマイホームへ戻り、短い休息を取ることにした。


翌朝。


ガレリアの街は、異様な熱気に包まれていた。今日から実装される新マッチング制度「10vs10」。その受付に並ぶ長蛇の列を横目に、私たちは街の北側にそびえ立つ重厚な石造りの建物へと向かった。


『訓練所』。


門をくぐると、初めてここを訪れた時と同じ、腹の底に響くような教官の怒号が響き渡っていた。


その迫力に圧倒されていると、一人の補助教官がこちらに気づき、歩み寄ってきた。


「おや? あなた達は……」


細身だが引き締まった体躯の男、ティフォンが足を止める。


「クロさん……でしたかな? 噂は聞いているよ」


その言葉に、私とアッシュは思わず顔を見合わせた。


(噂? なんのだろ)


私の心の中に小さな疑問が浮かぶ。


「噂?」


クロも不思議そうに聞き返したが、ティフォンはそれには答えず続けた。


「今日はどうしたんですか」


「教官がスキンの所有権移動の手続きをしてくれる事を聞きました」


クロが静かに告げると、ティフォンは僅かに目を細めた。


「……なるほど。分かりました。どこでそれを聞いたのか知りませんが、いずれにせよ教官は今訓練指導中です。教官室に案内します。そこで待っていなさい」


「わかりました」


ティフォンの案内に従い、私たちは殺風景だが威圧感のある教官室へと通された。ティフォンが部屋を出ていく。


扉が閉まった後、クロは少し考える素振りを見せた後、口を開いた。


「今考えると、ティフォンって人の所作。あれは明らかに……戦場での所作というか。足音が聞こえなかったよ」


「んあ? お前そんなとこ見てたのかよ」


アッシュが呆れたように鼻を鳴らす。


「俺はお前の噂の方が、気になってたわ。な、アダダ?」


「私も笑。クロなんか、噂になってるんだね?」


私が冗談めかして笑うと、クロは困ったように微笑んだ。


「いい噂だといいけどね笑」


それから、待つこと数十分。


初めは神妙にしていたアッシュだったが、時間が経つにつれて膝を小刻みに揺らし始めた。


「……おい、遅すぎねぇか? 指導中かなんか知らねぇが、人を呼びつけといてよ」


「アッシュ、呼びつけられたわけじゃないよ。僕たちがお願いしに来たんだ」


イライラを隠しきれないアッシュをなだめていると、廊下の向こうから床を叩くような重厚な足音が近づいてきた。


扉が勢いよく開き、威圧感を全身から放つ「鉄の教官」グロウズが部屋に踏み込んでくる。


「待たせたな。……貴様らか、この忙しい時に所有権移動などという手間のかかる相談を持ち込んできたのは」


鋭い眼光が私たちを貫く。グロウズは手に持っていた教鞭をパチンと叩き、私たちの目の前に立った。


「手続きには45ダイヤが必要だ。それはシステム上の絶対的な掟。……だが、ダイヤさえあれば私が動くと思っているのなら、大きな間違いだぞ」


その緊張感あふれる沈黙の中、グロウズは私のバイザーの奥をじっと覗き込んできた。


「……フン。顔つきだけは、多少マシになったようだな」


(教官、私のこと覚えてるんだ……)


意外な言葉に私は少し驚いた。以前ここへ来た時は、ただの有象無象として怒鳴られただけだと思っていたから。


短くそう吐き捨てると、彼はアッシュの方を向き、机を指で叩いた。


「ダイヤを出せ。まずは貴様らがここに来る資格があるか、その対価で証明してみせろ」


アッシュは緊張で震える指先を抑えながら、かき集めた45個のダイヤを提示した。グロウズはそれを無造作に受け取ると、冷徹な声で告げた。


「ダイヤは受理した。だが言ったはずだ、これだけで済むと思うなとな。所有権移動とは、システムに刻まれた絶対的な所有者という項目を書き換えるものだ。その書き換えに耐えうる力が貴様にあるか、今から見極めさせてもらう」


そう言って、グロウズは鋭い眼光をアッシュに向けた。

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