第二十八話:疾風怒濤。二十個の輝きを求めて
店長から明かされた「所有権譲渡」という衝撃的な選択肢。それは、ただのアイテム移動ではなく、この世界における「所有」という概念そのものを書き換える重い儀式だった。カウンターの上で静かに明滅する【フォレスト・ファントム】のウィンドウを、クロが操作する。
「……45ダイヤ、か」
クロの呟きは、決して他人事ではなかった。彼は視線を、未だにウィンドウを食い入るように見つめているアッシュへと向けた。
「いいかい、アッシュ。店長の話が本当なら、このシステムの実行には45ダイヤが必要だ。そして、ルールとしてこの手数料を支払うのは、所有権を新しく受け取る側……つまり、君の役割になる」
アッシュが、ハッとしたように顔を上げる。クロの瞳は、いつになく真剣だった。
「君が今持っている25ダイヤと、今から貯める20ダイヤ。合計45ダイヤを、君自身の手で教官に支払う必要があるんだ。君が積み上げてきた、そしてこれから命を懸けて稼ぐリソースのすべてを、このスキンのためだけに注ぎ込むことになる。……その覚悟は、できているのか?」
店内の空気が、一気に重さを増した。45ダイヤ。それは、この世界における絶対的な通貨だ。それを「たった一つのスキン」のために、すべて使い果たす。
アッシュは黙って自分の手のひらを見つめた。これまで何度も死線を越え、手に入れてきたダイヤの重みを、彼は知っている。
だが、彼はすぐに顔を上げた。その瞳には、一抹の迷いもなかった。
「……当たり前だ。クロ、お前がせっかく見つけてくれた最高の一張羅だぜ? 他の誰でもねぇ、お前が『俺に合う』って言ってくれたんだ。それを手にするためなら、45ダイヤなんて安いもんだ」
「……。そう言うと思ったよ」
クロが、ふっと口元を緩めた。少しだけ意地悪なことを言おうとして、結局はあきらめたような、彼らしい優しい微笑だった。
「目標が決まったね。残り、あと20ダイヤ。……君が今から、自力で積み上げなきゃならない数字だ」
「ああ。通常マッチに参加しまくって、最速で稼ぎ出してやるよ。10vs10の新ルールも気になるが、確実にダイヤを貯めなきゃいけねぇ時に、あんなお祭り騒ぎに付き合ってる暇はねぇからな」
アッシュの言葉に、クロも同意するように頷く。
「僕も同感だ。不確定要素の多い新ルールより、まずは手の内が分かっている通常マッチで、確実に勝利を積み重ねるべきだ。そこで稼いだダイヤでアッシュにそのHRを握らせる。戦力の底上げを済ませてから新ルールに挑むほうが、結果的に生存率は跳ね上がるはずだ」
二人の視線が交わり、暗黙の了解が成立する。
「方針は決まったね。明日からは通常マッチの連戦だ。20ダイヤを最速で叩き出す。……いいかい、二人とも」
「もちろん! 私も全力でサポートするよ。アッシュにその格好いいスキン、早く使ってほしいもん!」
私が勢いよく応えると、ディルーも横で「頑張ろうね」と小さく、けれど力強く微笑んでくれた。
「……なら、今日はしっかり食べて、休んでおけ」
店長がカウンターに、湯気の立ち上る大盛りのカレー皿を三つ並べた。スパイスの強烈な香りが、私たちの決意を祝福するように店内に広がっていく。
「20ダイヤを掴み取るための戦いだ。生半可な気持ちじゃ、勝てるもんも勝てなくなるぞ」
店長の激励を合図に、私たちはスプーンを手にした。
アッシュが背負う「45ダイヤ」という責任。
クロが仲間に託す「HRスキン」への信頼。
そして、それらを支える私の決意。
夜のガレリアに、かつてないほど強固な絆の熱が灯る。私たちは明日からの激闘を見据え、一気にカレーを口へと運んだ。




