第二十話:消えた足跡。静寂のミッシュウラン
店長特製のカレーを堪能し、私たちは心地よい満腹感に包まれながら「ミッシュウラン」を後にした。
「じゃあなアダダ、クロ! 明日は手に入れたダイヤで運命の瞬間だ、寝過ごすんじゃねぇぞ!」
アッシュが街角で大きく手を振り、自分の拠点へと駆けていく。
「……僕たちも解散しようか。今日はいい日だったね。あんな強敵と知り合えたのも、きっと何かの縁だろう」
クロもいつもの冷静な、けれどどこか満足げな口調で言い残し、人混みへと消えていった。
私は一人、ガレリアの街灯に照らされながら自分のマイホームへと帰宅した。
青いバイザーを脱ぎ、ゆっくりとお風呂に浸かる。戦場で張り詰めていた神経が、湯気と共に解けていくのを感じた。
(……ゲルドさん。凄く怖かったけど、あんな風に誰かと競い合えるのは、悪くないのかも……)
風呂上がり、少し火照った身体で通信端末をチェックすると、クロから一通のメッセージが届いていた。
『アダダ、起きているかな。不可解なことが起きた。ゲルドのチームメンバー、カルマが突如として消えたらしい』
メッセージの内容を理解するのに、数秒かかった。
『聞いた話では、先ほど彼らが敗北し、街へ転送されるはずのタイミングで、カルマともう一人のメンバーだけが戻ってこなかった。ゲルド一人が街に取り残された形だ』
「……え、戻ってこない……?」
不審に思ったゲルドがすぐにカルマへ個別メッセージを送ったが、結果は「送信エラー」。
この世界で送信エラーが起きるのは、相手に「ブロック」された場合だけだ。
けれど、あの二人の絆を考えれば、そんなことはあり得ない。
『ゲルドはその後、血相を変えて街の中心部、人が多く集まる場所を片っ端から探して回ったようだが、結局二人の姿はどこにもなかったという』
あの傲慢で自信に満ち溢れていたゲルドが、焦り、街を彷徨っている姿。
想像するだけで、胸の奥がざわついた。
(なんで……? ブロックされる理由なんてないのに。そもそも、街のどこにもいないなんて……)
私は返信を打ち込もうとして、指が止まった。何を言えばいいのか分からない。
「ゲルドさん……大丈夫かな」
心配と、得体の知れない不安を抱えたまま、私はその夜、深く重い眠りについた。
翌日。
再びクロからメッセージが入った。
『ミッシュウランで合流しよう。至急だ』
私は急いで身支度を整え、街を駆け抜けた。
酒場の扉を開けた瞬間、昨日の活気溢れる空気はどこにもないことに気づく。
「……っ」
一番最後に入店した私は、店内の光景に言葉を失った。
奥のテーブル席には、すでにクロとアッシュが揃っていた。
そしてその隣。昨夜まで不敵に笑っていたあのゲルドが、信じられないほど打ちひしがれた様子で、机に突っ伏していた。
「……おいアダダ、来たか」
アッシュの声も、いつもの明るさがない。
店長はカウンターの奥で、腕を組みながら、眉間に深い皺を寄せて考え込んでいた。
酒場の中に満ちているのは、昨日手に入れた勝利の余韻でも、スパイスの香りでもない。
「……何があったんですか?」
私の問いかけに、店長は重々しく口を開いた。
「……ゲルドから一晩中話を聞いた。だがな、アダダ。この街が始まって以来、こんな事は、、
」
何かを言いかけ少し考えてまた口を開く店長
「とにかく異常な事態が起きた。」
机に顔を伏せたままのゲルドの指が、ピクリと震えた。




