第十八話:波乱の結末。最強の影を追って
先ほどの接敵を制した私たちは、一度体制を整え、再び高層ビルの迷路へと足を踏み入れた。
新しく手に入れたバイザーの視界は良好だ。適度に散開し、クロの指示を待ちながら、私たちは静かに移動を続ける。
「……ねぇ、クロ。端末の掲示板で見かけた、新機能の『指定メンバーマッチング』。あれってどう思う?」
コンテナの影で警戒しながら、私はふと気になっていたことを口にした。
「あぁ、付近にいるプレイヤーを指定して、野良の補充を入れずに自分たちだけでマッチに参加する機能だね」
「やっぱり、知らない人が入るよりは、気心が知れた私たちだけで行くほうが連携しやすいのかなって」
私の問いに、クロは周囲への警戒を緩めずに答えた。
「一理あるね。戦術の共有が早いのは大きなメリットだ。……ただ、このバトルにおいては人数がものを言う場面も多い。今の僕たちのように欠員がある状態で挑むのは、本来は大きなデメリットにもなりかねないんだよ」
「へっ、数で押してくる雑魚どもなんて、俺とアダダがブチ抜けば関係ねぇだろ!」
アッシュが頼もしく笑う。……けれど、その笑みが一瞬で消えた。
「……待て。前方のビル屋上、二チームがやり合ってるぞ。……おい、見ろよアダダ! あいつじゃねぇか!?」
アッシュの指さす先を、私はバイザーのズーム機能で捉えた。
「……! 嘘、あの時の……しゃがみリーンの使い手!」
私たちはアッシュと合流し、遮蔽物の隙間からその戦闘を注視した。
そこでは、例のプレイヤーが二人の敵に完全に取り囲まれていた。
絶体絶命。誰もがそう思った瞬間、彼は「しゃがまずに」立ったまま、鋭く左に上半身を逸らした。
――左リーン。
銃弾が空を切る。エイムをずらされた敵が狼狽した隙に、彼は銃の先端――そこに装着された『銃剣』を、流れるような動作で突き出した。
「……えっ!? 銃剣ってあんな風に使えるの!?」
私たちが飾り程度にしか思っていなかった近接装備が、彼の手に掛かれば致命的な武器へと変貌する。
銃剣の刺突で距離を詰めさせず、さらに怯んだ敵を、後方にいた彼の仲間が一気に掃射して仕留めた。
死亡したことにより焦るもう一人の敵が、考える間もなく彼の手によって仕留められる。
「まじかよ……すげーなあいつやっぱ。どうする? 奇襲かけるか?」
アッシュが銃を握り直すが、クロがそれを手で制した。
「……いや。チームの残存数をみてくれ。まだ残っている敵チームが多い。今はあのレベルの相手を無理に追わず、避けておこう」
私たちは音を立てずに、その場を離脱した。
移動中、私の頭の中はさっきの光景でいっぱいだった。
(……しゃがみだけじゃない。状況に合わせて、立ちリーンのままで弾道をずらしてた。……まだまだ、私の知らない技術が山ほどある)
あの判断速度。あの技術の使い分け。
「使い分けが大事なんだね。でも……あの判断速度、やっぱりおかしいよ」
「……あ? アダダ、どうしたんだ急に」
アッシュの声に、私はハッとして顔を上げた。
「えっ? あ……私、今声に出てた?」
「ああ。バッチリ聞こえたぜ。まぁ、あんな化け物を見せられりゃ独り言も出るわな」
クロも隣で静かに頷いている。私は顔が熱くなるのを感じながら、青いバイザーの位置を直した。
私たちは残りのチームが減るまで、慎重に順位を上げた。
そして、ついにシステムアナウンスが響く。
『REMAINING TEAMS: 2』
「1PT vs 1PTだね。……あいつらなんだろうな」
クロが銃を構え直す。アッシュも「借りを返してやるぜ」と息巻いていた。
だが、私たちの前に現れた最後の敵チームは――。
「……あれ?」
アッシュが拍子抜けしたような声を出す。
そこにいたのは、さっきのリーンの使い手たちではなかった。
(え……? 負けたの? あのチームが……?)
あんなに圧倒的だった彼らが、何らかの形で倒されたようだ。
目の前のチームが彼らを下したのか、あるいは別の伏兵にやられたのか。
私は全神経をバイザーの視覚に集中させた。しかし。
――シュパパンッ!
「一人ダウン!」
「こっちも貰ったぜ!」
接敵が始まってみれば、拍子抜けするほどあっけなかった。
相手の動きは鈍く、射撃の精度もそれほどではない。
私たちは一度も危なげなく、彼らを光の粒子へと変えてしまった。
「……終わった。全滅させたよ」
『VICTORY —— 1st PLACE』
画面に踊る一位の文字。
そして、リザルト画面。1位報酬として、輝くダイヤが払い出された。
【報酬獲得:ダイヤ×5】
「よっしゃあ! 1位だ! ダイヤ5個ゲットだぜ、アダダ! またガチャが回せるな!」
アッシュが拳を突き上げる。
けれど、私の胸の中には、得体の知れない違和感が残っていた。
あんなに強かった彼らが、どこで、どうやって消えたのか。
勝利の喜びと、拭えない不可解な事実。私たちはそれぞれの想いを胸に、ガレリアへと帰還した。




