第十七話:青の覚醒。バイザー越しの世界
バイザーは私の目元をシャープに覆い、コバルト・ストリームと同じサファイアブルーのラインが静かに明滅している。
ガレリアの広場。クロが私の新装備の能力表を覗き込んでいた。
「気になるね……『視野強化』っていう特殊効果」
私はバイザーの内側に表示されるシステムメッセージを指でなぞった。
「視野強化、か。どの程度変わるかは実戦で試してみるしかねぇな! 走るぞアダダ、新しい装備の使い心地を教えてくれよ!」
アッシュが待ちきれない様子で転送ゲートへと駆け出す。
私とクロも顔を見合わせ、頷き合った。昨日の焦燥はもうない。今の私には、この新しい「目」がついている。
今回の戦場は「高層ビル群の屋上エリア」。
ビルとビルの間には細い連絡通路が架けられ、一歩踏み外せば奈落の底。極めて高い視認性と判断力が求められる過酷なマップだ。
「……転送完了。各自、散開」
クロの指示と同時に、私はバイザーを起動した。
その瞬間、私の視界(世界)は一変した。
「……っ!? なに、これ……」
バイザー越しに見える景色は、驚くほど鮮明だった。
これまで、激しく動くと僅かにボヤけていた遠くの景色が、まるで止まっているかのようにくっきりと目に飛び込んでくる。
さらに集中すると、遮蔽物の裏側や影になっている部分に、僅かな温度差を示す「橙色のゆらぎ」が重なった。
「クロ、アッシュ。……見える。透過じゃないけど、あそこのコンテナの裏、誰かが潜んでいるのが『わかる』よ」
「マジかよ! 敵の潜伏先を炙り出せるってわけか。最高じゃねぇか!」
アッシュが声を弾ませる。
このバイザーは、答えを提示するのではない。ただ、私が判断するための「材料」を極限までクリアにしてくれる。
情報からノイズが消えたことで、私の脳は、敵が次にどう動くかをより速く、より正確に予測し始めていた。
「アダダ、接敵だ。正面ビル、三階の窓際。狙えるかい?」
クロの索敵と同時に、私はコバルト・ストリームを構えた。
バイザー越しに見える敵の姿。その銃口の向き、肩の傾き。
(……あ。次、あの人は右の窓に移動する)
それはシステムのアシストではない。私の直感が、研ぎ澄まされた視覚情報を材料にして導き出した、確信。
私は静かに、敵が動くはずの「未来の地点」に銃口を固定した。
「――今」
――シュパパンッ!
放たれた青い閃光。敵が窓枠を移動しようとした瞬間、その眉間にサファイアブルーの弾丸が吸い込まれるように突き刺さった。
「……ヘッドショット。一撃だ」
クロの声に驚きが混じる。
バイザーによって情報が整理されたことで、私の「精密射撃」は、迷いを捨てた純粋な技術へと昇華されていた。
「ガハハ! ノッてきたぜ! 敵は俺が引きつける、アダダ、その眼で全部ブチ抜いてくれ!」
アッシュが屋上を縦横無尽に駆け巡り、ショットガンで敵チームの注意を引く。
敵がアッシュを仕留めようと、次々と遮蔽物から顔を出す。
バイザー越しの私の世界は、その一瞬の隙を逃さない。
コバルト・ストリームが、私の意思に呼応するように次々と火を吹く。
今までは「当たってほしい」と願って撃っていた。
けれど今は、引き金を引く前から「当たる」ことが分かっている。
(視界が広い……。どこに誰がいるか、どこを狙えばいいか、全部繋がって見える……!)
――シュパパパパパンッ!
「一人ダウン! 次、二時の方向!」
「了解! 貰ったぁ!!」
私の狙撃で体勢を崩した敵を、アッシュのショットガンが粉砕する。
完璧な、文字通りの完璧な連携。
クロの戦術が道を作り、アッシュの突進が隙を生み、そして研ぎ澄まされた私の直感がトドメを刺す。
三つの力が一つに溶け合い、戦場をサファイアブルーの光が支配していく。
「……アダダ。ナイス!」
インカムから聞こえるクロの声が、誇らしげに響いた。




