第十四話:焦燥の弾丸。空回る意志
「――アダダ、前に出すぎだ! 一旦下がって!」
クロの制止の声が、今の私にはノイズのようにしか聞こえなかった。
軍事ドックの深部。入り組んだコンテナの隙間を、私は飛沫を上げるような勢いで駆け抜ける。
(やらなきゃ。……今、ここで私が『あれ』を成功させなきゃ……!)
頭の中にあるのは、純粋な勝利への執着ではない。
先ほどの接敵では、アッシュが鮮やかに弾を避けてみせた。その残像と、彼を称賛したクロの笑顔。
それが、呪いのように私の心を縛り付けていた。
「敵だ! 十二時方向、三人! アダダ、待て、まだ囲まれて――」
「大丈夫、やれるよ!」
私はクロの指示を最後まで聞かずに、コンテナの角から飛び出した。
正面に敵の影が三人。銃口が、一斉に私を向く。
(来る……! 今、あいつと同じように……!)
私は、敵が引き金を引くタイミングを見計らった。
ここだ。
私は意識を集中させ、地面に膝を突き、上半身を無理やり左へ捻る。
『しゃがみ』と『左リーン』。
練習で何度も繰り返したはずの動作。けれど、実戦の緊張と「見せつけたい」という邪念が、私の動きを僅かに硬くさせた。
――ガガガガガッ!
「……っ!? ああぁっ!」
回避したはずだった。なのに、私の肩に、胸に、冷たい衝撃が突き抜ける。
不自然な体勢で固まった私の身体は、回避どころか「格好の的」でしかなかった。
「アダダ!! クソっ、援護する、アッシュ、突っ込め!」
クロの叫びと共に、アッシュが横から強引に割り込んでくる。
「テメェ、何やってんだアダダ! 引けっつってんだろ!」
アッシュがショットガンを乱射し、無理やり私を遮蔽物の裏へ押し戻す。
けれど、私の無理な突出によって、チームの陣形は完全に崩れていた。
「……ごめ……ごめんなさい……」
HPは残り僅か。手が震えて、コバルト・ストリームの重さが倍以上に感じられる。
「謝ってる暇はねぇ! 来るぞ、囲まれた!」
アッシュの言葉通り、別方向からも敵チームの反応が現れる。
私の空回りが呼び込んだ最悪の連鎖。
クロが必死に指示を出し、撤退ルートを探る。けれど、一度失った主導権を取り戻すのは容易ではなかった。
「……っ、すまない。逃げ場が……」
クロの声が、絶望に震えた。
四方から降り注ぐ銃弾。
私は、何もできなかった。
自分が避けることに執着したせいで、チームの盾にも、矛にもなれなかった。
――視界が、真っ赤に染まる。
『DEFEAT —— 8th PLACE』
転送の光が収まり、私たちの足がガレリアの石畳を叩いた。
第8位。
特訓をし、新メンバーを加え、優勝すら狙えるはずだった私たちが、あまりにも無残な敗北を喫した。
広場に流れる沈黙が、今の私にはどんな怒鳴り声よりも痛かった。
「……悪ぃ。俺がもっと早く気づいてりゃ……」
アッシュが珍しく、バツが悪そうに後頭部を掻いた。
「……いや。僕の指示が遅れたせいだ。アダダの状況を把握しきれていなかった」
二人は、私のことを責めなかった。
それが、余計に辛かった。
二人は前を向いている。失敗しても、それを次の糧にしようとしている。
なのに、私だけが。
私だけが、醜い嫉妬と焦燥感に振り回されて、二人の足を引っ張った。
「……私、ちょっと、一回マイホームに戻るね」
「えっ? おい、アダダ! まだ特訓は――」
アッシュの声を背中で振り切り、私は逃げるように転送ゲートへ駆け込んだ。
背後に残るクロの心配そうな、すべてを見透かしているような視線から逃れるように。
静まり返ったマイホーム。
扉を閉めた瞬間、張り詰めていた何かがプツリと切れた。
私は装備を外す気力もなく、そのまま床に座り込み、膝を抱えて丸まった。
「……なにやってるんだろ、私」
窓から差し込むガレリアの明かりが、今の自分には眩しすぎた。
あんなに楽しかったはずの冒険。
あんなに誇らしかったはずの青い銃。
今はそのすべてが、自分の不甲斐なさを突きつける鏡のように感じられた。
――追い越したい。認められたい。
その歪んだ願いが、私を一番大切な仲間から遠ざけていた。
暗い部屋の中で、私はただ、消えてしまいたいような自己嫌悪に飲み込まれていった。




