第九話:三位一体の嵐。アッシュの咆哮
「っしゃあ! 行くぜお前ら、遅れんなよ!」
転送の光が収まる。
今回のマップは、廃墟と化した巨大なショッピングモール。入り組んだ通路と吹き抜けが交差する、遮蔽物の多いエリアだ。
開始早々、アッシュは野性の獣のような勘で敵の位置を割り出すと、ショットガンをぶっ放しながら正面から突っ込んでいった。
「うわっ、もう接敵!? クロ、行こう!」
「ああ、サポートに回る!」
私とクロが追いついた頃には、アッシュが一人で敵の第一陣を半壊させていた。
「ガハハ! 案外脆いじゃねぇか!」
アッシュの猛攻に怯んだ敵チームを、私がブルーガンの連射で仕留め、クロが逃げ道を塞ぐ。
初陣の第一波は、まさに圧勝だった。
けれど、戦闘が終わった直後。アッシュが一人で次のエリアへ突き進もうとするのを見て、私は思わず声を上げた。
「ちょっと待って、アッシュ! 一人で勝手に進まないで!」
アッシュが足を止め、不思議そうに振り返る。
「あぁ? なんでだ? まだ敵の匂いが残ってるぜ。一気に叩き潰した方が早ぇだろ」
「それはそうかもしれないけど……今の戦いだって、もし敵が隠れて待ち伏せしてたらアッシュはやられてたよ。チームなんだから、ちゃんと相談して動かないと」
私が少し強めの口調で言うと、隣のクロも静かに頷いて、賛成の意を示した。
(……あ、ちょっと言い過ぎちゃったかな。アッシュ、怒るかも……)
彼の無鉄砲な性格からして、「うるせぇ!」と反発されることを覚悟した。
けれど、返ってきたのは意外な言葉だった。
「……。……あー、悪ぃ。確かにその通りだ。テメェらのことを置いてっちまった。すまねぇな」
アッシュは頭をボリボリと掻きながら、実にあっさりと、そして素直に謝った。
「えっ……?」
私とクロは思わず顔を見合わせた。目を見開いて驚く私たちを見て、アッシュは鼻を鳴らす。
「なんだよ、その顔は。悪ぃと思ったら謝る。当たり前だろ?」
(……この人、本当に真っ直ぐなんだ……)
外見や戦い方は粗野だけれど、その内面には歪みのない誠実さがある。
私は心の中で、彼のその素直さを密かに称賛した。クロの瞳にも、彼を「信頼に値する人間」として再評価するような光が宿っている。
アッシュは私たちの返事を待たずに、バツが悪そうに話を続けた。
「俺はよー、考えるのが苦手なんだ! 難しい作戦とか練ってると、頭が痛くなってくる」
「だから、思ったまんま即行動しちまう癖がある。基本的には直感で動くが……今後何かあれば指示してくれ。俺を上手く使えよな」
その言葉は、彼なりの最高の歩み寄りだった。
「わかった。……やってみるね。アッシュの力、私たちがもっと引き出せるように頑張るよ!」
私の決意表明に、アッシュはニカッと笑った。
三人での連携を確認し、私たちはさらにモールの奥へと進む。
「敵だ! エスカレーターの影、三人!」
同行していた野良のプレイヤーが、鋭い声を上げた。
「いたっ!」
私も視認する。だが、敵の反応はそれよりもさらに速かった。
――タタタンッ!
短いバースト射撃。野良プレイヤーが反撃する間もなく、その胸元に正確な着弾音が響く。
「なっ……あ、足が……動か……」
野良プレイヤーは崩れ落ちるように倒れ、そのまま光の粒子となって消えてしまった。
「狙撃じゃない……普通の銃で、あの距離を全弾ヒットさせたのか!?」
クロが驚愕の声を上げる。報告を受けた場所には、確かに三人の影があった。
アッシュがまた本能的に飛び出そうとした瞬間、クロの声がそれを制した。
「アッシュ、左の柱を回って裏に付け! アダダは右の階段から屋上へ。僕が正面からヘイトを買う!」
アッシュの動きが一瞬だけ止まった。
彼はクロの指示を耳にすると、自分の勘とそれを即座に組み合わせ、より効率的なルートへと軌道を修正した。
指示を受け入れ、自分の強みと融合させる。それは彼にしかできない高度な芸当だった。
「了解、やってやるぜ!」
私は指示通り、右の階段から踊り場へと駆け上がり、敵の側面を突いた。
(今だ、コバルト・ストリーム!)
銃口を向け、トリガーを引く。狙いは完璧だった。
だが、その瞬間に起きた光景が、私の理解を追い越した。
残る敵プレイヤーのうち、中心にいた一人が、まるで私の発射タイミングを知っていたかのように動いた。
彼は流れるような動作で『しゃがみ』を入れ、同時に上半身を左へと鋭く傾けた。
「……えっ!? 左リーン……!?」
私が狙っていた頭の位置に、もう彼の姿はない。
空を切る青い弾丸。
今まで戦ってきた相手は、撃たれれば逃げるか、正面から撃ち返してくるかだった。
けれど彼は、最小限の動きで「回避」し、その不自然な体勢のまま、銃口を私に向けて固定していた。
「……うそ……」
回避と同時に、正確なカウンター。
――タタタンッ!
「……あ……っ」
視界が赤く染まり、私のHPが瞬時にゼロへと滑り落ちる。
「アダダ!? クソッ、なんだ今の動きは……!」
クロの焦った声が聞こえる。
アッシュも裏から奇襲を仕掛けたが、敵のもう一人が完璧なカバーに入り、彼をも翻弄し始めていた。
今まで経験したことのない、圧倒的な「技術」の壁。
私たちは初めて、本当の強敵を前にして、全滅の危機に立たされていた。




