ALICE.9─公安局刑事課一係。
「公安局刑事課一係統括、八重森 紗奈。及び、公安局刑事課一係補佐、泉 誠一郎。入ります!」
「忙しいところ、すまないな」
「いえ、色々と手間取ってしまい。到着がギリギリになってしまい、申し訳御座いません!」
「大丈夫だ。気にしていない」
都庁に出現した、世間での呼称を─そのまま名称化されたのだろう。
ALICEからも、そう認定されたALICEの穴。
その現場にて、私達は招集されていた。
「政府からの意向を伝える。現時刻を持って、ALICEの穴の調査に出て貰いたい。他の係は、また別の方面へと動いている。警察の方でも独自に動き始めているが、なるべく不和を起こさないようにして貰いたい」
「彼らも、功績稼ぎに忙しいのでしょう」
「それは…誠一郎くんの言う通りかも知れないが、彼らの前では、決して口に出さないようにな」
「ええ、分かっております」
「…」
─色々と、考えてしまう。
あの日はまだ、当日の事件のレポートをまとめてる最中だった。
そんな中─いきなり、視界がジャックされては、まさか公安局への襲撃かとも思ったが、実際はそれ以上の混乱と言えば良いのか、事件が起きていた。
そこからは、現場に駆り出されては四方八方動き回り─現在に至っている。
この混乱に起因した暴動を、未然に防げたのは大きかったが─Aちゃんねるにて色々と不都合な情報がリークされているのが辛いところだ。
確かに、未だに混乱に乗じた犯罪が、多発的に横行し始めてからは─今現在を持ってしても、それらを捉えきれず、抑えられないでいるのが現状だ。
…そう、私達─公安局が、だ。
「紗奈くん? 紗奈くん─?」
「は、はい!」
「大丈夫かな?」
「いえ、少し考え事を─申し訳御座いません」
「いや、状況が状況だからな。責めはしないさ。改めて伝える、良く聞いてくれ。内部の状況は摩訶不思議な光景だと報告が既に上がっている。見た目は洞窟のような、それなりに大きな大穴だと報告には記載されてはいる。そして、内部構造に関してだが、複雑に入り乱れているようだ。後は、誠一郎くんにも先程渡した資料に載っているが─中にはトランプ兵なる者が跋扈していると報告が上がっている」
「…トランプ兵ですか?」
「ああ。最初に報告を聞いた私も、何をふざけた話だと思ったが、報告書を読んでいる限りはそれは確かに存在しては本当の話ということだ。ただ、その容姿に関しての報告だが、私達が想像するようなファンタジーなような容姿ではないみたいだ。言うならば、甲冑人形という表現が一番近いと見ている。甲冑自体の、どこかに絵柄と数字が載っているようだが、その載っている絵柄と数字に関しての関連性は今現在の所は不明との事だ。そして、現在調査して判明しているのは、各絵柄とA、要は…1が発見されてはここに報告されている。一体だけの場合は対処は容易だが、囲まれた場合や、複数体を相手取るような場合が発生した際は、数に押されては引き返すしかない状況だったみたいだ。現状の最も有効だと思われる対処法は、ツーワンセルでの形であり、現在は基本─ツーワンセルの形で事に当たっているとの事だ。なので、その様な背景もあっては公安局の中でも、その実力は折り紙付きの、紗奈くんと、誠一郎くんで組んで貰って、ALICEの穴への原因究明の任に当たって貰いたい」
そう、目の前の男性、公安局局長に司令を受けつつ、私は手渡された資料を読み進める─。
「…色んな武器を持っていますね」
「基本的には近接武器だけだと、資料でも分かるように報告には上がっている」
「…銃などはどうなのですか?」
「効果はイマイチらしい。グレネード等は一定の効果を上げたらしいが、どうやらトランプ兵達は、その威力さえも疑ってしまう程に─硬いらしい」
「…硬い?」
「物質を跳ね除けるという表現が正しいのかは、私にも資料と報告のみからの情報なので分からない部分が大きいが、紗奈くんは─経験値ショップという、経験値によって、その中で販売されているものなら何でも買える、そんなショップの存在は知っているかな?」
「…はい、私も試してみました」
「そこで買える武器なら─トランプ兵達を傷付ける事に成功したらしい」
「それはまた…いえ、確かに資料に記載されていますね。まことしやかには信じられませんが─」
「まぁ、問題はそこだけではないのだがな。傷付けられるのは、トランプ兵だけでは無いのが─今現在の私達が困難に陥っている根本的な問題になるか」
「…」
誠一郎くんが苦い顔をしているが─その通りだ。
今現在の突発的に増えている犯罪が横行している原因の、一助になってるのが先程の話にあがった、経験値ショップなのだ。
銃などは無いが、近接武器が安易に買えては簡単に手にすることが出来る。
一般市民が急にテロリストに早変わりするのも、今現在の状況下では可能なのだ。
─それに実際に事件は既に何件も捌ききれない程に起きており、今現在でさえ、私達とは別の課だが公安局刑事課第二係は─その影響下で実害が出てしまっており、その犯人を追っているようだが、私達からの包囲網と監視の目を避けては躱し、逃走するのにその犯人は成功している現状だ。
「後は─特筆すべきかは分からないが、トランプ兵からも、時にはドロップ品と現場では呼ばれていたようだが、稀に武器が落ちる時もあるらしいと、報告が重ねて上がっている」
「…全く、ゲームみたいですね」
「ああ、誠一郎くんの言う通りだ。私も一通り資料と報告を受け取って精査した後に思ったものだ。…とんだ─お伽噺みたいだと、化かされた気分になってしまうな。だが、これが今現在の状況であり、現実なのだ。これが不思議の国だったとしたならば、とんだイカれたショーだろうな」
「…笑えないですね」
「ああ、笑えん。特に私たちのような公務に勤める者は尚更笑えない状況だ。その中で、政府の役人共は世界のカウントダウンというのが甚く気になっているようだ。─ALICEからの返事も、今回の事件や顛末に関しては報告やら、連絡は未だに来ていないようだからな」
「…新手のバグとかの可能性は─無いのでしょうか?」
「いや、それさえも今現在の知り得る情報の中では判断さえ付けられずに、分からないというのが現状だ。もう、既に私達が知る中でさえ─ALICEの厳正なる管理の下で、その安寧の社会は百年は優に経とうとしている。そんな中で急に、このような大きな何かがあるというのは、本来は到底起こり得ない事で、そのような可能性さえ思えない事だ。そして、何よりも、この事件に関する事柄以外は正常に稼働しているのだ。よって、総合的な見解を見ても、おかしな部分は無いと言うのが、上の見解になっている」
「分かりました。なら─もう1つ、その他にも気になる点といえば、この世界のカウントダウンの数字を伸ばすためには、やはり、この世界のカウントダウンの表記の下に書かれている攻略状況という表記ですが、これはALICEの穴の攻略を指しているのでしょうか? その場合ですと、やはりALICEの穴の攻略は不可欠ということでしょうか?」
「ああ。私もその可能性は考えたが、やはり確信や確証に至る為の情報は不足しているのが現状だ。だが、現状の知り得る情報をまとめる限りでは、その可能性が一番高くなりそうだと私は踏んでいる。誠一郎くん、紗奈くんをしっかりと補佐してくれまえ─頼んだぞ」
「はっ! 了解致しました」
「では、紗奈くんも頼んだ」
「はいッ!」
ピシッと敬礼を済ませては局長を見送る。
ヘリが飛び立ったのを確認しては、私と誠一郎くんは振り向いてはALICEの穴へと─正面から向き合う。
「では、行きますか誠一郎くん」
「ええ、補佐はお任せを紗奈さん」
そして、私達はALICEの穴へと、入っていくのだった。
御一読頂き、誠に有難う御座います。
宜しければ応援、ブックマーク頂けると嬉しいです。
応援は下の☆☆☆☆☆になります。




