ALICE.83─白薔薇西庭園⇔経験値稼ぎ。
「一応、連絡になるが─これから行ってくる」
「気を付けて下さいね?」
「直ぐ近くのトランプ兵達を倒して来るだけだ。危なかったら、直ぐに引き返してくるさ」
「─それでもです」
「…分かった」
信弥の言葉に対しては真っ直ぐに、なるべく誠実に応えるのがコツであり─正解だろう。
変に言葉を濁したり、発してしまうようならば─即座に注意が飛んで来ては、その後の話がだいぶ長くなってしまうのは…ここ最近のやり取りで、嫌な程身に染みていた。
「イノリさんも気を付けて」
「うん。未来さんも気をつけて」
「─はい」
そして、こちらは相も変わらず相性が良いのか─日に日に仲が良くなっていっている気がする。
いや、現に仲良くなっているのだろう。
今も手を握りつつ、挨拶を交わしている位だ。
─羨ましい?
いやいや、それは無い。
その法則が適用されるとするならば、俺は信弥と手を繋がないといけなくなる。
─それは断じて無い。
チラリと視界の端、遠くに見えたイカレ帽子屋なんかは─最も、論外の範疇だろう。
これは…あれだ。
イノリと手を握れるのが良いと思ったのだろう。
─いや、それもまた墓穴を掘りそうか?
それもそれで語弊が生まれそうだと自問自答の果てに、俺は思考を切り替える事にした。
何はともあれ、俺達が白薔薇西庭園のセーフゾーンを見つけてから─既に、2週間は経過していた。
意外と経ったと思っただろうか?
─いや、決してそんな事は無い。
この期間は相対的に見ても必要な期間だろうし、寧ろ時間は有るだけ欲しいというのが切実な願いだろう。
─何より、俺達は時間を心より欲していた。
その理由は単純明快であり、至ってシンプルなものだ。
─それは、個々のランクアップとスキル上げの為であった。
まぁ、単純にステータスの底上げと言ってしまえば─言葉の通りは良いのだろうか。
このセーフゾーンに至るまでの難戦や困難は、聖女の道標─そのギルド全体を通し、戦力不足というものがどの規模だったのか。
そして、如何にまだ─自分達の実力が不足しているのかを、改めて…見つめ直すのには、十分な出来事だったらしい。
その結果、彼ら彼女らには─その身に深く、自身の不足というものが染み付いたみたいだ。
いや、逆に染み付いていなかったら─それこそ問題だっただろう。
その時は俺が折を見ては、苦言を呈していた所だ。
だが、彼ら彼女らは実力不足の面をしっかりと把握した。
それに何よりも、俺達の働きという比較対象があったのも大きかったらしい。
おんぶに抱っこの状態に近かったのは、聖女の道標─ギルド全体の認識だったようだ。
その影響も有り、自分達だけでも─ある程度はやはり、戦えるようにとメンバー間の間にも熱が生まれたみたいだ。
そして、その熱に拍車をかけるようにセーフゾーン自体の位置も幸運に恵まれていたと言えた。
セーフゾーンには四方に分かれる通路が出来ており、どちらに行こうとも─ある程度進めば、トランプ兵達と遭遇する事が出来た。
それに、直ぐに何処かからか─トランプ兵自体が湧いては応援に出てくる状況だった。
望む限りの継続した戦闘が可能となっており、万が一でも身の危険を感じたとしても─即座に、セーフゾーンへと逃げ帰る事が出来るようになっていた。
そのお陰も有り、セーフゾーンを用いての安全マージンの確保を確立する事が出来ていた。
俺とイノリに関してもランクアップ及び、スキル上げ等の取得に関しては賛成派だった。
なので、聖女の道標含め─全体で否定する派閥も無く満場一致で、育成に舵を切っては…今もその流れが続いている形だ。
イカれ帽子屋に関しては、フラフラといつの間にか居なくなってしまっていた。
やはり、突然フラッと居なくなる性質は変わっていないようで─その行方さえ、完全に眩ませており…見失ってしまっていた。
だが、だからといって完全に見失った訳でも無かった。
時々、様子を見に来るように不意に現れていたのも相も変わらずであり─出発の際にでも、また現れるだろうという予感をさせるには十分だった。
出発の際にでも、声を掛けたら大丈夫だろうという事で─未来達側とでも、イカレ帽子屋に関する話は落ち着いていた。
「ハッ─!」
「そこッ─!」
そして、実際のランクアップやスキル上げの現状なのだが─このセーフゾーンを用いての運用は成功していると言えるだろう。
俺達二人でも安定して狩れている成果も既にあるが、聖女の道標内のメンバー間でもある程度─少人数での討伐を可能にしていたからだ。
要は、純粋な経験値の入りが少人数制を取り入れられるようになった事で─非常にコスパが良くなったのだ。
俺とイノリも今はとりあえず、ランクアップをする事に重点を置いて行動をしていた。
スキルに関しては、どのように上げていくかの方針を決める際に─最初の頃のように同時進行で上げるべきかを、当然イノリと俺は話し合った。
だが、結論から言うとその必要性は薄いだろうと言う結論に至った。
主な理由としては、今の俺達はジュナの恩恵もあり─余計な力配分も含め、スキル関係に関しても適正化されているはずだからだ。
以前みたいに、無理に多方面に伸ばさなくともスキルに振り回される心配は─極めて低いだろうという結論に至ったからだった。
確かに、意識を一度すれば─今の俺達は、水を得た魚のように生き生きと…身体の細部までも意識し、把握して動かす事が出来るようになっている。
逆に、それまでの俺達はどうだったかを思い起こせば─身体はただ強くなっているだけで、スキルに関して言うとするならば…ただただ先行して取得しているだけで、運用─又は管理するという点に置いて、環境に適用化されていなかったと言えるかも知れなかった。
ランクを上げている現状、数字の8のトランプ兵と遭遇する機会も度々あった。
しかし、今現在では彼らと遭遇しようとも─多少の脅威を感じるくらいになっており、着実に俺達の実力が付いて来ているのを実感出来ていた。
むしろ、数字の8のトランプ兵の存在は─出会えた際に検証も兼ね、今現在の俺達の実力を確かめられる指針としての存在へと成り果てていた。
俺達は蝶のように舞い、時には突きを見舞い─踊るように双剣を薙びかせては、トランプ兵達を斬り伏せていった。
そして、トランプ兵達を討伐し終え─増援が来ないようならば、ワザと大きな音を周囲に響かせては…トランプ兵達を呼び寄せていた。
トランプ兵達は戦闘音を聞きつけ、増援して来る習性があるのは─既に攻略中に実証されていた。
その習性を逆手に取ってのレベリングとも言えよう。
早速、音によって誘き寄せられ─ノコノコと現れたトランプ兵達と、再度…俺達は戦闘へと入っていった。
ある程度、疲労…又は、空腹等を感じた際はセーフゾーンへと一旦戻り─休息を挟んでは、再び戦闘へと入る。
そんなループを繰り返し行っていくのだった。
聖女の道標のメンバー達もある程度、自分達の狩り方というルーチンが出来上がって来たのだろうか?
そう、ふと─俺が思えたのは、ある日を境にランク毎や役割毎にグループを振り分け…新しい育成方針に彼ら彼女らが舵を切ったように見えたからだった。
その感覚は正しかったようで、彼ら彼女らは全体を通してのランクの適正化を計っていたようで─ランク差を埋めるように既に動き始めていたらしかった。
そして、時々だが─その育成方針に沿っての応援要請が俺達に来る事も有った。
まぁ、単純に─聖女の道標内でのランクの低いメンバーを育成する際に、俺達もそれに同行してはレベリングを手伝うような応援要請だった。
特に断る理由も無いのと、俺達自身も彼ら彼女らの生存率を上げられるのならと─応援要請があるようならば、断る事も無く全て手伝っていった。
そして、俺達自身は余り気付いていなかったが─彼ら彼女らから、改めてお礼を言われた際は…俺達の助力の影響は思ったよりも大きかったらしい。
気が付いた時には、聖女の道標内でのランク差もそうだったが─俺達と聖女の道標メンバー間でも、ランク差に関してはだいぶ縮まっていたのだった。
結局、育成期間に関しては─彼ら彼女ら自身が納得出来る強さに至る迄は、ランク及び…スキルの成長や取得に付き合う事に俺達は決めた。
単純に、俺たち自身が今現在も含め─生活全般を通し、融通して貰えている面からのお返しの部分もあるが…根本的な理由としては、単純に彼ら彼女らの生き死にに関わる部分があるからだった。
こちらとしても、攻略するのならば─未来の掲げる方針通りに犠牲者を出さずに済ませたいのだ。
それに犠牲者というのならば、俺達自身だって─いつまでも安全だとは、到底言い切れない。
今まで二人でやってこれていた面も確かにあるが─これからも二人でやっていけると言う保証はどこにも無いのだ。
いつまでも大丈夫など、そんな安全が約束されている訳じゃない。
既に何度も俺達は死線を潜り抜けて来ているが、その中でさえ─何度も、万が一が起こるかも知れない状況は当然だが有ったのだ。
純粋に無茶や無謀で進められるような環境化では無いのは、既に身に染みて知っている。
そういう面も有り、俺達自身にとっても─彼ら彼女らの慎重な姿勢も有るが、育成期間の確保の部分に関しては喜ばしい決定だった。
この白薔薇西庭園を攻略すると決めた際、レイド機能が実装された事も含め─二人きり等の少数先鋭での討伐や、攻略に関しては…迷宮や、それらを動かす存在からの明確な線引きを俺達は感じていた。
きっと、これからの攻略と言うのは─俺達も含め、互いに協力し合い…如何に互いをカバーし、高め合う事が出来るかも重要視されていくように感じている。
その証拠が、今の白薔薇西庭園の攻略状況と言えるだろう。
そういう今現在の背景、これまでの迷宮や─それらを動かしているであろう存在からの事情を汲み取るように、俺は考察してみる。
今現在、きっと─攻略組ギルドの中で突出しているのは聖女の道標とホワイトという、二つのギルドになるのだろう。
育成という面でと念頭に置いてしまうが、急速と言っても過言では無い程に─俺達は自身への強化を成功さているのでは無いかと、俺は思えていたのだった。
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