ALICE.8─可能性の拡大。
「なぁ、いつまでランクアップを続けるんだ?」
「分からない」
「分からないって、イノリ。お前なぁ…」
「でも、そろそろ拳手から脱却はするべきだと思う」
「ああ。それは、最初から俺は言ってるぞ?」
「違う。最初は、ダメ。今だから、良い」
「どういう事だ?」
「身体と脳の処理が追いつかないと、振り回されるだけ。試せば分かる」
「試せば…って。イノリ、お前…」
「とりあえず、片手剣を学んでみるのが、オススメ」
「経験値ショップに確かあったな。ご丁寧に片手剣スキルに─名前も変わってるな」
…前は何だったっけな?
基本術─みたいな表記だった気がしたが、分かりやすいように更新しているということだろうか?
「とりあえず、選んでみる…か─ッ!?」
一瞬にして、脳に負荷が掛かった気がするのと─片手剣の基本戦術が、インプットされたような気がする。
「ああ…なんだ、コレ? 気持ちワリィ…」
「分かった?」
「…ああ、分かった。理解した─が、これ、普通には無理じゃないか? 知識だけ先行しても、身体を動かすとなったら別物じゃないか」
「今なら、身体もある程度、出来てるから振り回されないはず。後、多分…音楽系統? リズム感? 変な羅列…。でも、それもあると良いかも」
「…どういう事だ?」
「攻撃って、リズムだから。一拍に2手動ける人と、一拍に4手動ける人じゃ、手数も違うし─相手に合わせて攻撃を弾いたり、返したりするでしょ? そういう事」
「…ああ。何となく、分かった」
「取ってれば、後は自然に育つはずだから。下地として、色々と取って、後は実戦で伸ばすのが私のオススメ? …でも、一気に可能性を拡張するのも危険? …ん」
「おーい? あー、自分の世界に入っちまったか。とりあえず、気になるの…取ってくか」
経験値量と相談しては─片手剣、その他、近接武器のスキル。その他、今はリズム感と出てるけれども、今後は名前も変わりそうなスキルを取れるだけ取っていく。
「─こんくらいか?」
「…あっ。やっぱり、一気に取らないほうが良いかも─って、取った?」
「…は?」
そして、イノリの言葉に一瞬、呆けた声を上げた直後に─一気に脳に多くの情報量を詰め込まれる感覚と、それに伴う気持ち悪さに、俺は意識を失ったようだった。
「…大丈夫?」
「大丈夫そうに見えるか?」
「見えない」
「煙草、取ってくれないか?」
「え。いや」
「…頼む」
「…煙、なるべく─こっちに吐かないで」
「へいへい」
これは、膝枕かね。
ご丁寧に─いい匂いがする。
そんなやましい気持ちも、誤魔化すように火を点けては「はぁ~」と、吸い始めると段々と─思考がクリアになっていく気がする。
「何があったんだ、俺に」
「多分─可能性の拡大に、脳の処理が追いつかなかったのかも」
「可能性の拡大? いや、その前に気になるんだが、脳の処理が追い付かなかったら─俺は、どうなるんだ?」
「パーン! って、なると思う」
「へぇ─パーン! ね。…いや、マズイだろ? イノリさん? 俺に、何を勧めさせてんだ?」
「…ごめんなさい」
「はぁ…」
とりあえず、煙草を吹かしつつ─思考を整理していく。
やけに思考が、澄んでいる気もする。
「…可能性の拡大ってのは?」
「人間の脳って、どれくらい通常時は使ってるか─知ってる?」
「諸説、あった気がしたが─10%だったか?」
「うん。でも、100%使用してるという話もある。後は、身体全体の20%のエネルギーを、脳は使用してるとか。人間の身体は20〜30%の出力でしか動けないとか。それ以上だと─身体が千切れちゃうみたい」
「…可愛い顔して、おっかない事を頭上で言うのは止めてくれないか?」
「え? ─止める?」
「いや、聞く」
「そう。…とりあえず、経験値ショップの─今は戦闘補助ツール? と名前になってるけど。あれは、脳内のマイクロチップによって、直接脳に作用しては─本来眠っていた使用率を向上させて、可能性を焼き込む行為だと思う」
「…なんか、エグいな。聞いてる限りだと─いや、待て? そうなると、今の俺の脳は、どうなってるんだ?」
「可能性が、沢山目覚めてるはず。思考が澄んでない?」
「ああ。やけに、クリアな気がしてるが─そういう事か」
「でも、良かった。多分…ランクアップして基礎体力が向上してなければ─脳の処理や耐久も追いつかなくて、パーン! って、なってたかも」
「…冗談だよな?」
「冗談じゃないと思う」
「…勘弁してくれ」
「はぁ~」と、煙草の煙の行方を見つつ─俺は盛大に溜め息を吐いてしまう。
「そんな説明─どこにも、載ってないぞ?」
「多分─これから、載るんだと思う」
「あー。まぁ、アップデートってやつか。確かに、急造感が─満載だな」
「急造なんだと思う」
「で、なんで…そんな知識があるんだ?」
「…秘密」
「また、それかよ。ま、良いけどな」
「いつか、話せる時が来たら─話す」
「はいよ。もう少し─このままで良いか?」
「私の膝は、高い」
「…まけてくれ」
「…今だけなら、良い」
そう言って、少しだけ─イノリは微笑んで、目を閉じてしまう。
ここは、暫くは安全そうだ。
俺も目を閉じて─少しは身体を休ませた後、余った経験値で、今夜のお泊まりセットを揃えては、イノリと何度目かの1泊を過ごすのだった。
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