ALICE.79─最適化。
「─やっぱり、軽いな」
身体の節々から無駄を取り除かされたかのように─。
まるで、今まで伸ばせなかった羽根が…更に、伸ばせるようになったかのように─。
腕も、足も─そう、身体全体が最適化されたのだろう。
今や、自身の身体を思いのままに─十全に動かせていると自分でも分かってしまう。
「スキルに関してもそうだ…」
片っ端から取得しては育て上げてきたスキル達は、当初─入り乱れては、自身でも遠巻きに見ている位の羅列ばかりだったはずだが…今や、乱雑だった欄がスッキリと纏まっている。
「…身体と思考のズレも無くなっているよな?」
こればかりは、第三者の目でも分からないだろう。
身体と心さえも最適化され、並列処理を行うにあたっても俺自身の考え方や─物事の見方さえも。
そう、全てが本来あるべき姿に収まるように最適化された気がしてはならない。
そう…それは一度、全てを紐解いてはそこに有る無駄を省き─空いた容量を、既にパンクしそうな箇所か…更に伸ばせそうな箇所へと、コストを回しては伸ばしきったイメージだ。
大量に有った経験値も綺麗にサッパリ消失していた所を見れば、きっと─その処理に大量の経験値を使った背景が視えてくる。
そもそも、膨大な経験値をジュナから俺とイノリは渡されたはずだ。
それさえも、ランクアップやスキルでも無く─今回の最適化に使われていた。
─それは確かに寝込むはずだ。
こうやって、全ての工程を終え─身体を実際に動かし体感してこそ、この恩恵が肌で伝わり理解に及ぶと言った所だ。
きっと、未だに俺達の目には見えていない部分はあるのかも知れない。
─いや?
もしかしたら、イノリの方は見えているのかも知れないが…その、見えない部分へと注ぎ込まれた事も重要なのだろう。
目に見えて、体感もし─今現在も身体を動かしている最中だが、各部位の1つ1つの感覚が詳細に伝わって来る。
まるで空気抵抗さえも感じず、流れるように舞う事が可能になっており─全てが思いのままに動けていると思える。
そして、そんな動きに遅れる事無く─淀む事さえもしない思考が、1つ1つ細部まで…やはり及んでいっているようで、その上で身体全体を満遍なく意識して動かせていた。
「イノリ、これは─どんな状態なんだと思う?」
「…話せない」
「そうか。話せないパターンの方か…なら、これは悪いものでは無いんだよな?」
「…うん。むしろ、ジュナが凄く無理をした。けれど、私達には必要なものだった」
「そっか。─なら、改めてジュナには感謝しないとだな」
「─うん。感謝仕切れない」
「そうだな…」
とりあえず、身体を動かしきった俺達は適当な場所へと腰を落ち着ける。
そして、俺はそのまま自然な動作で─ポケットをまさぐっていき、お目当ての煙草を取り出しては火を点けた。
─煙の形は良い感じだ。
その上、何より─煙草の味の通りさえも、更に隅々まで行き渡るようになっており…とても気持ちよく吸えるようになっていた。
─ああ、一段と味わい深い。
まるで、俺という存在自体のランクが上がったみたいだと錯覚してしまいそうだ。
そう思ってしまうと、この生まれ変わったとも思える身体の変化をすんなりと受け入れられた気がした。
─まぁ、それを外へと口にする事は思ったとしてもしない。
もしかしたら、イノリもそれに気を付けているのかも知れないな。
俺達にはALICEの影響は無いとイノリは言ってはいたが、それ以外にも聞いている─又は聞いてしまう存在が居たとしてもおかしくは無いだろう。
─まぁ、滅多な事が無い限りは言葉には気を付けるべきだろう。
「準備は大丈夫そうでしょうか?」
「─ああ、すまないな。結構待たせてしまったか?」
「いえ、お気になさらないで下さい。私達がカズキさんと出会って、早一ヶ月と少し…状況は何も変わってはおりませんが─これからは希望が確かに、ここに在ります。前までは、進みたくとも進めない状況が続く中で─はやる気持ちに押し潰されそうに何度もなっていました。ですが、今は晴れやかささえも感じるくらいの心持ちです。なので、改めてよろしくお願い致します」
「任せろ─とは、大きな事は言えないが…だが、やるからには俺達に出来る事は全力で当たる事は約束しよう。だから、まぁ…なんだ。俺からもよろしく頼む」
「─私も、よろしく」
「イノリさんも、改めて宜しくお願い致します」
「うん」
そう言って、イノリから差し出された手を未来は握り返しては互いに微笑みあっていた。
なんだかんだ、この二人はあれから個人的付き合いの中でも馬が合ったようで─時たま2人でランチ等をしているのを見掛けた事が有った。
ま、そういう背景もある事から─イノリとしては個人的にも仲良くなったからには助けたい所があるのだろう。
─そう言った意気込みを俺はやんわりとだが感じていた。
「それで、俺達の役割は当初の予定通り遊撃で─大丈夫だよな?」
「─はい、そちらをよろしくお願い致します。それにホワイトは2人だけなので、そちらの方が連携も取りやすいだろうと言う考えです。信弥とも相談した上で、色々と私も考えてはその結論に達しました」
「─了解。なら、好きに戦わせて貰う」
「うん、私も」
イノリと目配せをしてはこれから挑みに向かう庭園の方へと俺達は視線を向けた。
「─ただ、そうですね。万が一、怪我をした際はうちのサポートメンバーの所に行って下さい。出来る限りの補助をする事を約束致します。その辺りも念頭に置いておいて貰えると助かります」
「─ああ、分かった。その時は頼む」
「…そろそろ、向かわれますか?」
「─そうだな。俺の方は準備は大丈夫だ」
「私も大丈夫」
「…では、向かいましょうか」
「─ああ、行こう」
「うん」
「─信弥」
「─はい、ここに」
「メンバーの招集をお願いします。最終チェックを済み次第、庭園へ向かいましょう。私達の未来の為にも」
「…分かりました。直ぐに招集の手配と最終チェックを行います」
「では、カズキさん。イノリさんも─後ほど、庭園前の大扉で…改めて、会いましょう」
そう言って、未来は一礼をしては信弥と共に下がっていった。
彼女は今や、大手ギルドのギルドリーダーでもある。
色々と用意が必要なのだろう。
「なら、俺達も一応…大丈夫だとは思うが準備の確認をするか」
「─うん」
いつもみたいに、直ぐに動く訳では無い。
今回はギルド同士のレイドとして動くのだ。
時間のゆとりはあるのだ。
─まぁ、本来は俺達二人っきりだ。
それが利点でも有り、欠点になる時も有るだろう。
けれど、今に限っては利点の方が大いにあるのかも知れなかった。
時間があるという事は、俺にとっては二人っきりの分─急ぐ必要も無い訳で、一服出来る時間が有ると言う事だ。
確かに、準備をする必要はあるが─情報や心の整理も含め、1本…煙草を取り出し、俺は丁寧に味わうように吸い切った。
そうして、煙草が吸い終わり次第─イノリと軽く雑談を交えては、互いに忘れや漏れが無いかを確認しつつ…庭園前の大扉へと向け、俺達は歩き始めた。
─俺達は、再び潜り始める。
─そう。
庭園の名はALICEがそう認識したのか、又は取り決めたのかは分からないが─白薔薇西庭園となったらしい。
その白薔薇西庭園の攻略へと俺達は再び一歩を歩き始めたのだった。
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