ALICE.75─目覚め。
「あっ! まだ、ダメなのですわ!」
「そうなのですわ! まだ、眠ってるのですわ!」
「それよりも何故、ここが分かったのですわ!?」
「ここは、決して通さないのですわ!」
「いえ、別に私は…私達は、彼らに危害を加えようとか考えている訳では無いのです。ただ、彼らが居らっしゃらないかと─そちらのウサギさんに尋ねましたら、話して下さって…」
「口が軽いウサギはダメウサギなのですわ!」
「そうなのですわ! プライベートを簡単に話すウサギはダメウサギなのですわ!」
「怪しさがプンプンなのですわ!」
「信用が置けないのですわ!」
「あ、あの…。本当に私達はですね? 彼らを心配して─ここまで、来ていまして…」
「「─ダメなものはダメなのですわ!」」
─そんな、喧しい声が外からギャースカと聞こえてくる。
意識していなくとも、段々と喧しさによって意識が浮上して来てしまう。
「うっ…」
─気怠い。
単純に長く眠っていたのと近いような感覚がする。
そして、どこか─頭や、身体も…全体的に重たい感じが否めない。
ただ、純粋に眠り過ぎていたという事か…?
その答えを俺は持ち合わせてはいないが、起きて自身の調子をつぶさに俺は精査していっていた。
「ッ! …本当に、随分と寝ていたという事か? 何とも言えない感覚だな…」
そして、何とか身体を起こしてみたは良いが─単純に身体を起こす行動でさえ、俺は痛みを伴ってしまったような感覚に襲われていた。
─いや?
本当に痛い…のか?
何という感覚と言えば良いのだろうか?
俺の…俺自身の身体だというのに、未だに全身の神経と言うべきか?
感覚が馴染んでいないような、不可思議な感じがしていた。
それらが、俺の身体や意識までも含め─違和感という怪物が襲い掛かって来ているような感覚になっている。
─何なんだ、これは?
とりあえず、一旦─落ち着こうと思い至った俺は早速、煙草を吸おうと胸ポケットを探ろうとしたが…そこに本来あるべき筈のポケットは存在していなかった。
疑問を呈するのと同じく、よくよく自身を見てみたら─そもそも服装が変わっており、まるで俺の服装は…患者服の様な物に着替えさせられていた。
「な、なんだ? いつの間に着替えさせられて…いやッ! そうだ…イノリは─!」
─そうだ、イノリだ。
最期に意識を失う手前、イカレ帽子屋とウサギ達の光景…そして、イノリの事を思い出す。
そして、俺は彼女の存在を思い出しては周囲へと視界を巡らした。
─良かった。
どうやら、心配する事は無かったらしい。
慌てて最初に横を確認したら、そこには俺を横になりながらも視線を向けている、イノリが居た。
ずっと、慌てふためく姿の俺を見ていたのか─少しだけでも、その姿を焼き付けようとでもするように…ジーと、俺を見ていた。
「…俺達、生きてるよな?」
「─」
コクッと、イノリが頷くのを見て─どうやら、俺達は互いに生き延びられたのだろうという実感が…そこで、やっと湧いてきた俺が居た。
だが、まだ身体を動かす事や…そもそも、話す事自体さえも億劫だ。
その証拠とも言えなくも無いが、今もジーと俺を見る事や頷く事だけに─イノリの方も行動範囲が狭まっている状態だ。
─まぁ、その感覚は分かる。
俺自身も、未だ身体の不調に襲われているからだ。
目覚めたてのせいかとも思ったが、どうやら─意識や肉体さえも、鈍く重く感じるのは…根本的に何かしらの原因があるみたいだと、俺は思い始めていた。
「この身体の変な感覚…原因について、イノリは何か分かるか?」
「─」
頷きも、横にも振らないと言う事は分からないということか?
イノリ自身も訝しげに自身の事を精査しているようだが、ハッキリとは分からないようだった。
まぁ、いや─考察はしたい所だが、それよりもだ。
あぁ…、今現在も小屋の外─そう、俺から見て扉の外が喧しい。
「そうだよな…それよりも、本当に外が五月蝿いな─」
未だに、ウサギ達と誰かとの─イザコザが勃発しているのだろう。
ギャースカと盛大に声が…こちらが意識してなくとも、聞こえて来ている惨状だった。
─正直、アレには関わり合いたくはない。
考えなくとも、面倒な予感ばかりがするからだ。
「本当に何なんだ、一体…」
チラッと横目にイノリを見てみるが、イノリの方も現状は話す事さえ厳しい状況だ。
ただ、今もジーと俺を見てきているだけだ。
そもそも、俺自身も起き上がれたは良いが─それだけでも辛い状況になっている。
そんな状態だというのに、これ以上ややこしくなりそうな問題を持ち込んで来て貰いたくはないというのは当たり前の心情であり、切実な希望だろう。
それが、今現在の俺の抱いている正直な気持ちだった。
「おやおやぁー? お目覚めでぇーすか?」
「─お前ッ!?」
しかし、喧しいと思える所に─更に問題をややこしく、且つ…喧しくしてもおかしくはない存在が、突如として現れていた。
─コイツ、何処から現れた?
改めて、周囲を見回し確認しても…小屋の中は完全な密室だった。
だが、足音も気配も無かった。
まるで、本当に突然現れたようなものだと俺はイカレ帽子屋を見ながら思えた。
そうやって、訝しがって見ていると俺の視線に気付いたイカレ帽子屋は嬉しそうに話し掛けて来た。
「そんなに驚かれるとは心外でぇーすね? もしかして、私の事─忘れられてまぁーすかねーぇ?」
「イカレ帽子屋…」
「覚えているじゃなぁーいですかぁー!」
ニマァーと、そう嬉しそうに言いながらイカレ帽子屋は笑顔を顔に貼り付け─俺に笑って魅せてきた。
挨拶ついでだろう、帽子をクルリと華麗に取っては礼をする姿も─その怪しさの一助となっていた。
そうして、ニマァーとした笑顔の下で─イカレ帽子屋は俺の所へと歩いて来た。
「そちらのお嬢さんも初めまぁーして、私はイカれ帽子屋と言いまぁーす。是非…マッドハッターでも、マッドでも─ハットでも、いやはぁーや? イカレ帽子屋とぉーでも、私をお呼びくださぁーいね?」
そう言いながら、マッドハッターは場違いな程にケラケラと笑っていた。
「お前…何をしにきた?」
そう言って質問をすると、まるで心外な─! と、でもいう表情をマッドハッターは顔に貼り付け…俺へと顔を向けて来る。
「何も無ぁーければ、そこに居たら行けなぁーいと─キミは言うのかーぁね? ワタシも、随分と嫌われてしまったものだーぁね? キミ達を匿ってるのぉーも? ウサギ達と、このワタシも頑張っているからだというのぉーにね?」
「…お前が匿ってくれたっていうのか?」
「そうとも言えるかも知れないし、そうとも言わなぁーいのかも知れないーね? イヒヒ!」
そう言って、マッドハッターは抑揚に頷き─意味深に笑みを増しては、俺を見て来ていた。
「…素直に聞いても、正直にイカレ帽子屋─お前は答えないと思うが、ダメ元で聞かせてくれ。この、俺達にある─身体の不調は何だ? 体調の悪さの原因をお前は知っているのか? 俺達の身に、一体全体…何が起こっているというんだ?」
俺は、答えを知っていそうなマッドハッターへと─自然と質問を投げ掛けていた。
─いや、確証に至ったような証拠等は無い。
だが、俺の直感がコイツは知っていそうだと告げていた。
素直に応えてくれるかは賭けになるだろう。
だが、何も知らないままが一番不味いのは確かだ。
俺はその思考の下、一縷の希望の下─マッドハッターへと質問をしていた。
「─ん。んー。ん、ん、ん。彼女の貢献に関しては私がすこぉーしだけ、手伝っても良いのかーぁな? それはねーぇ? 彼女との戦いのフィードバックによって起こっているのだーぁよ? キミ達の足りないところやーぁ? そして、能力で上げられそうな所─纏められる所とかを、彼女がその全てを賭して─捧げた事によってねーぇ? 補強…もしくは、強化されてる最中なんだーぁよ? 分かるかーぁな?」
「つまり、コレは…成長痛みたいなものか?」
─ふむ。
俺の中である程度、自分で例えた言葉だが─腑に落ちた気がする。
目の前のマッドハッターも顎に手を添えては思案顔だが、まぁ─その例えは及第点だったっぽい反応だ。
「まーぁ? 物事の受け取り方って、言うのぉーは? 人それぞれなのだーぁよ? 全てを知ってしまったぁーら? つまらないじゃないかーぁね? そう思うよーぉね?」
「…とりあえず、教えてくれたんだよな? 感謝する。だが、いつまでこの状態が続くっていうんだ? 碌に身体を動かす事も出来ないぞ? それに、今─外は、どうなってやがるんだ…」
「んー? いつまで続くっていうのはさーぁ? 君達次第なんじゃないのかーぁな? 外って、言ったのかーぁな? 外とはどこの事かぃ? なら、内っていうのは? イヒヒ! あぁー! でも、外のお客さんなぁーら? 多少の事は、分かるかぁーもね?」
トントントン─と、ステッキを小刻みに弾ませ…マッドハッターは歩き出し、何を考えてか─不意に、外とを繋ぐ玄関の扉を…その手に携えたステッキで軽く叩いては開け放っていた。
「ふぎゅ! ですわー!?」
「勝手に空いたのですわ!?」
「お、重いのですわ…。皆、どくのですわ…」
そして、開け放たれた先では咄嗟に扉が空いたせいだろう。
何匹ものウサギが小屋に転がり込んで来ては、一番下に積み重なってしまったウサギからはSOSを求める声が聞こえて来ていた。
そして、開け放たれた原因であるのが目の前のマッドハッターだと気付くや否や、サササッ─と、ウサギ達はマッドハッターから距離を取っていた。
「んー? どうかしたのかーぁな? ようこそだーぁよ? お客人ぃーん? どうぞ、中へとおいでーぇ? ほぅら? 彼らもお持ちだーぁよ?」
「マ、マッドハッター! ダメなのですわ!」
「勝手過ぎるのですわ!」
だが、流石に遠巻きにウサギ達は見ているだけではないようだった。
果敢にも、マッドハッターの言葉に─それぞれ、抗議の声を挙げていた。
「イヒヒ! だってさーぁ? ボクはイカレ帽子屋だーぁからね? 問題無いのさーぁ? それにぃー? 彼らも─ほぅら? 会いたがってるじゃなーぃか? なら、大丈夫さーぁ? 外の話をカズキ達も聞きたいんだってさーぁ? なぁら、これは親切心なぁーのさ! イヒヒ!」
「外…ですわ? 穴の話の事ですわ? 穴の話を聞きたいと言う事なのですわ?」
「穴の話を聞きたいなんて、不思議なのですわ?」
「それなら、私達に聞けばよいのですわ?」
しかし、ウサギ達はマッドハッターからの回答にはぐらかされた訳では無いだろうが─先程までのマッドハッターを責める勢いは無くなり、未だに距離を空けているウサギ達は揃いも揃って…マッドハッターの答えに疑問を呈し始めていた。
「さーぁね? オレには詳しくは分からないかーぁな? ワタシは、既にイカれてしまっているかぁーらね? イヒヒ! きっと、彼等じゃなぁーいと─知りたい事は知り得ないんじゃなぁーいかな?」
「あの、貴方は…いったい─」
「おやぁー? 初めまして、だったかーぁな? それはどぉーうも! 私はマッドハッターって、いう者さーぁ? イヒヒ! イカレ帽子屋だーぁよ? これから宜しくねーぇ? さ! 私は行くとしようかーぁね? じゃーぁね!」
「あっ! マッドハッターが逃げるのですわ!」
「追いかけるのですわ!」
「また、好き勝手するのですわ!」
「止めるのですわ!」
そう言い残して、マッドハッターは小屋から出て行ってしまっていた。
マッドハッターが離れていく後ろ姿を見ては、ウサギ達も即座に慌て出し─マッドハッターを追い掛け出て行った。
そうして、後に小屋へと残されたのは─俺とイノリ、そして…玄関口に未だに呆然と立ち尽くしている、情報では見たことも聞いたこともある─聖女の道標というギルドのマスターの重盛未来と、そのギルドメンバーの滝沢信弥が残されていたのだった。
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