ALICE.74─ウサギ⇔マッドハッター。
「─ぅ」
ザワザワ─と、周囲の音だろうか?
─耳に音が届いて来ていた。
だが、ハッキリとは聞き取れない。
周囲に騒がしい気配を感じてもいるが、俺自身─意識が浮上したばかりなのもあってか、聴力…及び、視力さえも混濁しているようだった。
しかし、虚ろながらも意識を取り戻していく過程で─目を閉じていようとも、燦々と光が自身に降り注いで来ているのだけは分かった。
そして、周囲の状況に関しても意識が少しずつハッキリしていくにつれ─あの後、何が起こったのかを気になり始めた俺は…覚醒していくと共に、自身の目を見開いていった─。
「─あら! 目覚めました、ですわ!」
「目覚めたのですわ!」
「起こしちゃったのですわ?」
「とりあえず、運ぶべきなのですわ?」
─ですわ?
ですわ。
─ですわ?
ですわ!
って、喧しい!
意識がハッキリしていくにつれ、騒がしかったザワザワ音の原因が─ですわ! なのだと、俺の脳が認識した。
う、うるさい─。
ザワザワの音から、今や騒々しい位に─ですわ! が連呼されているのが分かってしまう。
「う、るさい…なんだってんだ、よ─」
「起き上がるのはいけないのですわ?」
「そうですわ! 安静にしないとですわ!」
「私達の声が届いてるのですわ?」
「それは─分からない、ですわ!」
「だから、なんだって─ぇ?」
目を開けて、天から振り注ぐ眩く強い光に─視界が一瞬、焼かれてしまう。
だが、そのまま意識を集中させ─俺は視界を回復させる為にも、周囲へと目を向け続けた。
そして、視界が回復していくにつれ─白いモコモコとした何かが俺の視界に入ってくる。
…いや、良く見ていると白いモコモコとした物の正体がハッキリと見えてきた─それはなんと、ウサギだった。
それも一匹どころではない、俺の周囲には何匹ものウサギ達が居座っては─俺を見下ろして来ていた。
「はっ? ウサギ…?」
「そうですわ! ウサギですわ!」
「ウサギが…喋ってるだと? なんだ、夢か?」
「おやぁー? ざぁーんねん。これは現実だーぁよ? お目覚めかなぁ? はやぁーい、お目覚めだーぁね?」
「今度はなん、だ─」
不意に横から急に呼び掛けられた俺は、自然と声のした方へと首を向けてしまった。
─そう、向けてしまったのだ。
そして、時既に遅く─唖然としてしまう。
その理由はしっかりと目の前にあった。
俺の横、そこには特徴的な帽子に─少々? と、いうにはおこがましい程の奇抜な服装の出で立ちの変態が居た。
その変態は俺の視線と目が合うと、これ見よがしに─その手に携えた、これまた特徴的な杖をクルリと振り回してはポーズを華麗にキメていた。
その姿を見た俺は立て続けに二度目の、唖然とした表情になってしまっていた。
「─なんだ、変態か」
「失礼な人だーぁね? あー、でも自己紹介は必要だーぁね? 忘れられたら困るけーどね? 私はマッドハッター。イカれ帽子屋さーぁ? どうか、よろしくねーぇ?」
「なんだ、その名前は? このウサギと言い…不思議の国のアリスの世界でもモチーフにしてるって言うのか?」
「─不思議の? 何なのですわ?」
「─アリスですわ? アリスとは何なのですわ?」
「おやぁー? ああ、ウサギちゃんたーぁち? 君達は気にしなくて良いのさーぁ? お客人、ウサギを惑わすのは良くないよーぉ?」
「ん、ちょ…ちょっと! 急に、頭を撫でるのを止めるのですわ! 失礼なのですわ!」
そう言いながら、目の前のマッドハッターはウサギ達の頭を撫でつつ─ウサギ達の思考を逸らすのに成功していた。
─ウサギに聞くのはダメだという事か?
なら、目の前に居るコイツは何かを知っているという事なのか?
「…なら、お前は知っているって言うのか? イカれ帽子屋?」
「さーぁね? 僕は僕、私は私。君は君。ウサギちゃんはウサギちゃんさーぁ? それ以上でも、それ以下でもなーぃのさ? イヒヒ!」
そう言って、マッドハッターはケタケタと何が面白いのか殊更笑っていく。
本当に何が面白くて笑っているのかさえ、俺には見当が付かない。
ウサギ達もマッドハッターに関しては、既にそういう…不思議な者として見るように処理されているのか、遠巻きに見てはいるものの─自ずとマッドハッターに突っ込むような気配は無かった。
「…そもそも、答える気が無いって─ことか?」
「イヒヒ! それは秘密なーのさ! それよりも早く休みなさーぃな? 今のキミは休むべきなーのさ! 一緒に居た彼女は、既に小屋のなーかさ?」
「一緒に居た…彼女? ッ! イ、イノリ─ッ!」
「あっ! 今はまだ、動いたらダメなのですわ! 安静にするのですわ!」
「大怪我なのですわ! だから、動いたらダメなのですわ!」
「聞いてるのですわ!?」
「押さえ込むのですわ!」
「安静にするのですわ!」
俺が動こうと藻掻いたら、慌てたように周囲のウサキ達が俺を押さえに掛かってきた。
─う、動けない。
嫌な程、ウサギ達の力が強いように思えた。
…いや?
単純にウサギ達が言うように、俺が大怪我をしている影響から力が入らないと言うのか?
結局俺は、満足に身動きも出来ないまま─ウサギ達に良いように押さえ込まれてしまっていた。
「そうだーぁよ? 大丈夫だーぁよ? ドコかの誰かさんとは違ってーぇ? 彼女は既に横になって─ちゃーんと、休んでるかーらね? 問題はキミの方だーょ? ちゃーんと、自分の状況分かっているのかーぁね? 随分と酷い怪我なんじゃなぁーいかぁーな? イヒヒ! ちゃーんとウサギちゃんたぁーちに大人しく、看病されるのが─今は、最善だーぁよ? ほぅーら、同じ小屋で…休ませてあげるだけだからさーぁね? ほぅーら、ウサギちゃーん? この私が手を貸してあげーるから、一緒に連れて行くんだーぁよ?」
「お前、なに、をす、る…」
「何度も言っているけーれども、今はお休みする時間だーぁからね? それに今は、何も出来ないかぁーらね? なんてったぁーて? 今、ココは拡張中だぁーからね?」
「拡、張…?」
イカれ帽子屋がイヒヒ─! と、笑いつつも…遠くを見ようと、改めて周囲を見回し始めた俺に対し─視界を塞ぐように、俺の頭に手を翳して来ていた。
何とか俺は、周囲の状況を見ようとしたが─ギリギリだったみたいだ。
マッドハッターの翳してきた手の隙間から覗けたのは…俺の周りに居るウサギ達以外のウサギ達が、周辺の森林を突貫工事ばりに切り拓いている姿だった。
ウサギ達が伐採した木々は、その後─開拓資材として並行して利用しているようで、ウサギ達が効率的に小屋を建てている姿が…見えた様な、気がした─。
─もう、少し…把握を、しなければ…。
─もっと確認したい…。
そう、俺は願ったが─願いは叶わず、不意に意識が混濁して来ていた。
「おやぁー? ほーぅら、無理をしたらいけなぁーいとあれ程─言ってるじゃなぁーぃか? もう、お休みの時間だーぁよ?」
「な、んだ…こ─」
いや、違ったようだ。
不意に混濁した訳では無いようだった。
そもそも、俺の意識というのは─既に、保ち続けているだけでも精一杯の状況だったのだろう。
結局、俺は少しでも周囲の状況を正確に捉えたくとも、意識が安定しなくなっていき─終いには、そのまま意識を失ってしまったようだった。
「さーぁ? 急いで支度をしないとーぉね? 時間が無いのだーぁよ? イヒヒ!」
「そんなに言うのならば、手伝って欲しいのですわ! イカレ帽子屋は見てるだけなのですわ! 断固抗議するのですわ!」
「ですわ! ですわ!」
「イヒヒ! それは勘弁だーぁね! 私は、僕は、俺はイカれ帽子屋なのだぁーからさ! イかれてるのが─そこれそが、私の仕事なーのさ! だから、僕はまた一旦引き下がるのーさ」
「それだったら、お仕事の邪魔なのですわ! とりあえず、この男を運ぶのですわー! あー忙しい、忙しいのですわ!」
「手伝わないのなら、シッシッ! なのですわ!」
「運ぶのですわ!」
ウサギ達は不平不満をマッドハッターにぶつけつつも、今しがた気を失った男へと─改めて、近付いていく。
そして、ウサギ達は男を担担いでは小屋まで運んでいくのだった。
そうして、運ばれる男─カズキは、後少しでも成長したら…それは、見目麗しい女性になるであろう─イノリという少女の横に寝かされる。
「これで、良いのですわ! 急がないとですわ! 時間が無いのですわー!」
「クフフ…。では、少しの間だぁーけれども─少ないお休みをだーぁね? 良い夢を…イノリ、カズキ」
ウサギ達はカズキをイノリの横に寝かし終えると、何事も無かったかのように─黙々と森を切り拓きに戻って行った。
マッドハッターはそんなウサギ達を面白そうに眺めた後─二人の寝顔を見ては、音を立てずに小屋から出て行くのだった。
そうして、周囲の庭園では─ウサギ達が今現在も森林を黙々と伐採していた。
伐採した木々は並行して、新たな資材へと仕立て上げられ─次々と小屋を建てては、庭園周辺の開拓が行われていくのだった。
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