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【ALICE】─全てが経験値で賄われる世界に落ちた世界。  作者: 御伽ノRe:アル


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ALICE.72─ポーン担当【ジュナ】

─慣れないもんだな。


改めて、俺達は目の前の大扉を見ていた。




井の頭公園ALICEの穴、その四層に位置する─最後のポーン担当へと挑む為、俺とイノリは大扉の前に立っていた。


何度もとは言えなくは無いが、少なくとも今回で3回目になるであろう大扉だ。


やはり、その大扉から醸し出される異様な存在感は─未だに僅かながらでも、俺は抵抗感を感じてしまっていた。


─だが、やるべき事は既に決まっている。


ここへ来たのは、ポーン担当へと挑む為だ。


ならば、ここで今一歩踏み出して─進むべきだ。


そう、心を奮い立たせ─俺は一歩、大扉へと踏み出した。




「─良し、開けるぞ」


「…うん」


イノリと共に大扉へと手を添えて─軽く押し開いていく。


ギィィィ─と、俺達の手により…最後のポーン担当が待ち受けるであろう、大扉は開かれていった。




大扉の中へと入ると、以前と同様─白く濃い霧が現れ、周囲を覆い隠すように包まれていく。


そして、バタンッ─と、背後にて大扉が閉まっただろう音が響いて来る。


後は、これも同じだ─大扉が閉まった事がトリガーになっているのか、俺達を取り囲む様に在った周囲の白く濃い霧が晴れていっていた。


その後は、真っ暗闇から転じて視界は切り替わっていき─俺達の周囲は、三度目の訪問になるであろう庭園が視界に開けては見えて来ていた。


─ふと、念の為に背後を振り返って見てみるが…やはり、いつの間にか背後は森林になっていた。




「水晶の数は─」


「…残り1つ」


そう言って、イノリが庭園の大扉に嵌っている水晶を指し示していた。


─アレが、最後の水晶なのだろう。


あの水晶─いや、水晶から出てくるであろう…最後のポーン担当を突破したら、状況はまた変わるはずだ。


きっと、その先の未来は目の前に拡がっている庭園へと入れるようになるのだろう。




俺とイノリは互いに顔を見合わせ頷いては、水晶へと真っ直ぐに歩み始める。


そうして、やはり俺達が水晶へと近付いていくと─予見していた通り、俺達が降り立った地点と水晶が嵌まる大扉との半ばに差し掛かった所で…水晶が光り輝き始めた。


そして、水晶が一際強く輝いた瞬間─バリンッ! と、水晶自体にヒビが入っていく。


そのまま最後には、完璧に砕け散った音が俺達の耳に─いや、周囲の空間に響き渡った。


響き渡るのと同じく─俺達の目の前の空間が歪んでいき、その中からやはり…最後のポーン担当が忽然と姿を現していた。







「……」


「「……」」


目の前に現れた最後のポーン担当は、出てきたのは良いが─ただ、静かに…その瞳を閉じ、言葉を発さずに佇んでいた。


しかし、そんな彼女の事も気になるが─それ以上に気になってしまう物が在った。


それは、彼女がその手にする大鎌だった。


その大きさは彼女の身長を優に超えており、そんな大きさの大鎌を難なく携えている事自体が彼女の存在感を、否応無く大きくしていた。


そして、そんな大鎌と彼女というセットの存在感はこの場において─彼女の存在をより一層、歪ながらも強く醸し出す事に繋がっていた。




「─分かったわ」


「…は? 何が、分かったんだ?」


「この私が最後のポーンという事─。そして、あなた達の事。それと、今現在─既に限界を迎え始めている、この愚かな世界の歪みに関して。…Qが考えも無しに、世界に負荷を一気に掛けすぎたのが原因ね。Qは良くも悪くも、世界に…そして、人類に対して─絶望を嘆いていたとしても、彼等への希望は潰える事が無かったから。今回、Qのその気性が悪く出たのが原因。人類側の準備は、耐えられるまで到達し得てはいなかった。そして、この世界にも同じ事が言えるわね。そんなキャパシティは、まだ─この世界には存在し得なかった。既に、キャパオーバーの影響も出ているみたい。─世界が更に歪んで、限界を迎え始めているわ」


「負荷…、負荷とは情報の事なんだろ? 準備とは─ランクとスキルの事で、良いんだよな?」


「……」


「─分かった。権限の問題か…ならば、そう多く語らなくてもいい。ただ、何かしら─反応を返してくれたら助かる」


「…是」


「…分かった」


そうして、驚いた様に薄目の目を見開き─目の前の女はそう答えていた。


何が彼女の琴線に触れたのか、その後は興味深そうに俺を見てきては─彼女はクルクルと、その長い髪を大鎌の持っていない空いた手で弄んでいた。







「あなたは…カズキは、やはり面白い。─やっぱり、良い。イノリ、貴女は良く選んだわね。─立派だと思う。─ううん、違うわね。貴女が選ばれたと言う事かしら?」


「……」


「そうよね。…話せないわよね。─いいえ、そんな事は些事かしら? そう、関係ないわよね…。カズキ? 貴方は、生きて…クイーンに会うべき。私もそれを─強く望んでる」


「…なら、試練は─もう、クリアにしてくれるのか?」


「…それは、出来ない」


「─だろな。そんな事は、俺でもこの雰囲気を感じれば分かる」


「……」


そうして、少しだけ嬉しそうに頬を吊り上げ─彼女はまたもや、沈黙してしまった。


─いや。


敢えて、話さないようにしているのか?




「幾つか聞きたい事があるんだが…まぁ、返事が出来ないのもあるんだろ? そん時は、反応だけでもいい。だから、聞いても…問題は無いか?」


「─是」


「なら、単刀直入に聞きたいんだが─お前を倒せたとしたら、その時は…俺達の目の前に見えるアレだ。─俺達から見える、目の前の庭園へと行けるのか?」


「…是」


「なるほどな。なら、次の質問だ。お前達の言う、クイーンとやらは…王城に居るのか? それと、キングと言うのも─同じく居るのか?」


「……」


─少しだけ、思案するように目の前の女は瞳を閉じる仕草をする。


そして、少し逡巡した後に─小さく首を振って、俺達へと顔を向けてきたが…そこに浮かぶ顔色は弱々しかった。


「…分からないのか?」


「─是」


「そうか…」


俺はその顔を見てしまっては、他に聞きたい事を思い付く事も出来ずに─ただ、尻込みをしてしまった訳では無いが…明確に、そこで俺からの質問が止まってしまっていた。




「あなた達は─自由になってる?」


何か無いかと悩んでいた俺の横から、イノリが出てきては質問を、目の前の彼女にしていた。


「……」


「貴女以外のポーンは?」


「…是。私以外は自由」


「─そう。なら、この先は…分からない?」


「…是」


「あなた達は…繋がりは、消滅している?」


「……」


「貴女以外のポーンは?」


「…是。私以外の繋がりは絶たれているわ」


「─そう。私の知りたい事はそれだけ。…カズキは?」


「…そうだな。なら、話せる範囲で良い。試練の内容を教えてくれ」


「…ん。私の試練は、至って─シンプル。私に、ただ…打ち勝つこと。私を越えること─それ自体を試練にするわ」


「一応、確認なのだが…ラキアの時は生死の境まで俺達は戦ったが─そこまで、と…言う事か?」


「…うん、今ので気持ちが変わったわ。─そこまで、にする。カズキ、そして─イノリ。二人の限界を…その、可能性を私に見せて欲しい。私が、最後のポーン担当として─この先でも、二人がやっていけるかを見てあげる」


「余計な確認をしちまったか? ああ─いや、そういう…パターンの悪い予感だったのか?」


「…煙のジンクスの話?」


「─かも、知れねぇな。だが、あの時の煙の具合は変わった感じなだけだった。なら、幸先は良いはずさ」


「─そう。なら、頑張らないとね」


「さて…大丈夫かしら? 心構えは良い?」


「─ああ、待たせたな。口上、言うんだろ?」


「…是」


そして、スッ─と姿勢を正して…大鎌をクルリと綺麗に一振り、放物線を描くように目の前の女は振るう。


そのまま、ゆっくりと足を開いていき─妖艶な姿勢を決めた。







「さぁ、困難に立ち向かおうとするあなた達に告げる! 私はポーン担当のジュナ! クイーンはあなた達を待っているわ! さぁ、その手にキングを手に入れてみせなさい!」







スゥ…ハァーと、大声を出した影響か─ジュナは大きく呼吸を繰り返し、そして…呼吸が落ち着き次第、俺達へと大鎌の切っ先を向けて来ていた。




「…ジュナか、覚えたぞ」


「─ええ。改めて、宜しく」


「─戦うしか、道はないの?」


「あら、貴女がそれを私に聞くの? イノリ? 分かっているんでしょ? 選択肢が常に一つしか無い事なんて、貴女が一番良く知っているはずよ」


「…」


「さぁ! カズキ、イノリ─踊りましょう? 運命が私達を此処に導いたの! 私に全てを曝け出して頂戴! 私はそれを望んでるいるわ! そして、私を越え─先へと進んで行ける力を…ここに証明してみせて!」


「─カズキ、行こう」


「─ああ、イノリ。行くぞッ!」


イノリと共に俺達は駆け出した。


互いにラキアの双剣を取り出し、挟撃するような形でジュナへと俺達は迫る。


だが、シュッ─! と、俺達の挟撃を阻もうと…ジュナが弧を描くように大鎌を振り回して来た。


そのジュナの大鎌は、俺達が放とうとしていた双剣の軌道を読むようにピッタリと迫って来ていた。


そうして、ジュナは見事に俺達の双剣の軌道に合わせ─挟撃の妨害に成功していた。




「ねぇ、それが─本気? なら、まだ…足りない。まだ、全然─足りないわ」


そう言って、ジュナは一息に大鎌を振り被り─そのまま、一気に大鎌を俺達へと振り落として来る。


そして、ジュナから大鎌が振り落とされた瞬間─大鎌の軌道をなぞるようにして生まれた衝撃波が、俺達をジュナから遠ざけるように荒々しく襲い掛かって来た。




「ッ─!」


「─イノリ! 大丈夫か!?」


大鎌の衝撃波によって分断された俺達は何とか体勢を整える。


反対側へと退避したイノリからは合図として、俺へと頷き応えてくれていた。




「試すような攻撃はこれでお終い。─次は、無いから。だから…本気で、来て」


そう、ジュナは俺達へ宣言し─再度、視線を細めては大鎌の切っ先を俺達へと向けてくる。




小手先ばかりの技術や、様子見の攻撃は直ぐに見切られるだけだろう。


その要因は俺達の考えが、単純に甘かった訳では無い。


ただ、純粋にジュナの強さが別格なだけだと俺は結論づけていく。




(『俺達は、大多数だと─弱体化する』)


ラキアの言葉が不意に一瞬─脳裏に浮かんでは、囁きかけられた気がした。




─いや、それだけじゃない。


ジュナは権限というものを出来る限り抑え、温存した状態で戦闘に入っていた。


要は、彼女の力は満たされた状態なのだ。




─覚悟を決めないといけないだろう。


ラキアとの戦闘時のひりつきを思い出すように、ピリリと頬がひりついた気がした。


─俺は気持ちを新たにし、正面を見据える。


目の前のジュナは未だ静かに、俺達からの攻撃を待つかのように佇んでおり、何かを期待するかの様な視線を俺達へと送って来ていた。


そして、ジュナは俺達へと大鎌の切っ先も向けてきており─その切っ先は、一切ブレる気配も無い。




─スゥ…ハァー。


俺は心と身体を落ち着かせる為にも、深く深く深呼吸を繰り返していく。


─今は雑念を捨てる時だ。


戦闘以外、余計な事を考える必要はない。


必要なのは目の前のジュナを、どう倒すかだけだ。




─今は、ただ目の前の戦闘に集中する。




─今までの動きを思い出せ。


─これまでの経験を活かすんだ。


─見逃す事は終わりへと直結する。


─相手の隙を見逃すな。




俺は、意識して─少しずつ余計な力を抜いていく。


残すのは、戦闘への思考と─強い意志のみだ。


冷静な思考と熱い魂の動きを合わせるんだ。


─ここからが本番だ。




カッ─と、全てを整い終えた俺は目を見開き…一気に駆け出した。


俺の意志─全ての思考を、ただ…今この時、この瞬間─刹那の時に注ぎ込む。


俺は、俺達は─ジュナへと改めて、全身全霊を持って相対していく。


俺達は互いの双剣を煌めかせて、再度ジュナへと駆け出していった。




ギリィィィ─ッ!


だが、気持ちだけではどうにもならないのが現実だ。


やはり、俺達の動きはジュナから見たら手に取るように分かるのだろう。


ジュナは的確に俺達の双剣を捌いていった。




「多少は、よく…なった─ねッ!」


「─ッ!」


大鎌全体の攻撃の軌道だけじゃない。


─ジュナの息遣い、そして…身体の動かし方。


一挙手一投足、見逃す事を許されない状況だ。


全てを見て、そこから予測される動きを弾き出していく。


既に、並列処理は限界まで働かせている。


だが、それだけでは足りない。


俺はそこから更にイノリの攻撃パターンも思考に組み込み、俺達の攻撃手段を増やしていく。


─全部、全部だ。


取り入れられるものは全てを取り入れ、見える全てを余すこと無く計算していかないと─この状況からは抜け出せないだろう。


導き出される可能性から取捨選択をしていき、一番可能性の高い軌道をなぞるように─双剣をジュナへと俺達は振るっていく。




一手一手を無駄にしないように。


一拍一拍を見逃さないように。


─まるで、詰将棋のように相手の可能性を片っ端から潰していく。




そして、ジュナの持ち得る全ての可能性を潰した瞬間には即座に俺達は─更なる、攻撃へと転じていく。


その生まれた隙の一拍を無駄にしないように俺達の持ち得る最大数の攻撃を、一心不乱にジュナへと叩き込む。




しかし、全てが上手く嵌まる訳では無い。


時には、可能性を生み出す為にも─俺自身や、イノリの身さえも犠牲に差し出していく。


その度に、ジュナ…もしくはイノリ、いや─俺のかも知れない。


既に、判別さえもつかない程の鮮血が─俺達と、ジュナとの戦場では華咲いて散っていっていた。


しかし、互いに立ち止まる事は許されない状況だ。


一瞬でも気が抜けない状況は続いており、今現在も互いの視界を真っ赤に染め上げていくのでさえ─全身全霊を込め、武器を振るわないといけない状況だ。


気を抜いた瞬間には、即座にどちらかの命が刈り取られるのが必定の状況だった。




ただ─。


今だけ─。


今、この瞬間に全てを出し切る─ッ!




「「「──ハァァァッ!!」」」


互いの僅かな息遣いが、嫌にも耳に聞こえてくる。


それ以外の音は、俺達の双剣とジュナの大鎌とが斬り結ぶ剣戟音のみ。


そして、互いの肉と骨が擦り潰される音と共に─視界は目一杯、互いの鮮血にて染まり切っていた。




まるで、俺達が舞台の役者のように思えるが─思考という側面から見たら、歴とした観客みたいだ。


舞台を奏で─彩り踊るのは俺達自身だろう。


しかし、常に思考は冷静に戦場を俯瞰しており─そこには感情等、入り込む隙間も無い。


ただただ、そこには理性だけが─その存在を許されている状況だ。


物語を紡ぐ為にも俺達自身は先へ、先へと─劇を進める為にも、その手に握る武器を互いに振るわざるを得ないだろう。


そして、観客という思考は常に劇の終わりを予測しては観測者として─役者を動かしていた。




そして、劇というものは常に─物語の終幕が有るのは確定している事だ。




─今、その時が明確に訪れようとしていた。




「─やる…ねッ!」


イノリの振るう双剣の切っ先が、ジュナの大鎌を握る指先の一部を捉えていた。


─1本だろうか?


確かに、宙にジュナの指が飛んでいた。


そうだ、確実に─指を切り飛ばすのに成功していた。


それに、この指の1本は─ただの1本ではない。


─大鎌を握り振るう為の指の1本だ!




「─今ッ!」


この絶好の機会を逃さない為にも、俺は一息にシュピーゲルから託された擬似的な抜刀術を展開させ─ジュナへと迫った。


そして、一気にジュナへ双剣を閃かせては─振り抜いた。


その剣筋は確実にジュナの生命を奪おうと、意志を持っているかの如く─無数の軌道を走らせていた。


─そう、一閃だけではない。


シュピーゲルから託された擬似的な抜刀術の真骨頂は、その一拍の間に放たれる無数の連撃だ。


俺は双剣を躍らせ、ジュナの逃げ道を塞ぐように─一面を斬り刻んでいく。




「ッ─!」


ジュナも、俺の攻撃の危険さに気付いたのだろう。


迎え撃つ為にも、ジュナはその手に握る大鎌の切っ先を急ぎ俺へと向け─迎撃してきていた。


─だが、俺はそれを待っていた。


ジュナの精一杯の抵抗を一身に受け止め─大鎌の切裂きは甘んじて受け入れる。


その結果、手に入れた両手の自由を─俺は更なる、ジュナへの追撃へと酷使する。


─今は、捨て身を覚悟の上だ。


そのぐらい賭けても良い。


この一瞬はそれに値する程の好機だ。


─決して、逃す事は許されない。


ジュナの攻撃は指1本分─されど、1本分だ。


その足りない事によって、大幅に威力が抑えられていると言っても過言では無いだろう。


俺は耐え切れる限りをもって、ジュナの攻撃を一身に受け止め─俺の手が双剣を振るえる限り、止むことも無い双剣乱舞を─俺はジュナへと浴びせていく。




シュババババ─ッ! と、ただの連撃ではない。


シュピーゲル仕込の、俺の擬似抜刀術が─ここで、活きてきていた。


一瞬の中で、俺は双剣を振るわせ─後には、大量の剣戟音が遅れるように…目の前で爆発的な音を巻き起こしていた。




ただ、ジュナも簡単に諦める存在ではなかった。


俺が受け止めている大鎌を引き戻しては、迎え撃つのも難しいと判断するや否や─大鎌を前面に押し出して徹底的な防御の構えを取っていた。




だが、俺と同様に─そんな絶好の機会をイノリが見逃すはずが無かった。


俺の目から遠目にだが、イノリがアクションを起こそうとしているのが見えた。


だが、時を同じくしてガクンッ─と、俺の膝が崩れ落ちてしまっていた。


俺が思っていた以上に、捨て身覚悟で受けたジュナの必死の抵抗の犠牲は大きかったようだ。


─しかし、希望は繋げていた。


ガクンと膝が崩れ落ちる先で、俺の目にはイノリが一瞬の溜めから─擬似抜刀術を展開していたのが見えていた。




そして、崩れ落ちた先では─イノリのラストアタックを無防備に受け止めているジュナがいた。


─流石に受けざるを得なかったのだろう。


その結末に至る為、俺達はジュナから可能性の選択肢を根刮ぎ潰していったのだから。


そうしてイノリのラストアタックを受けるジュナは、どこか満足したような顔で─イノリの擬似抜刀術を食らっていっていた。




「ああ、これなら─」


最期にそう呟き、ジュナは崩れ落ちていった。


そんなジュナの最期を確認し、俺も気を抜けてしまったのだろう。


俺の視界は─抵抗など覚える暇もなく、暗闇の中に落ちていったのだった。







「─カズキッ! カズキッ!」


「─ッ!」


イノリの声が遠くから聞こえてくるようだ─。


何度も呼び掛けられる中で、俺の意識は段々と覚醒していくのが分かる。


そして、視界が開けて来ると同時に脳内に激痛が鳴り響いて来ていた。




俺はイノリの掛け声で何とか意識を覚醒させたらしい。


呼び掛けてきていたイノリの方へと、何とか俺は首を回して視界を向けてみる。


視界で捉えたイノリは俺と同じくらいボロボロの姿になっており、その姿を見て俺は自然と笑みを浮かべてしまう。


だが、同時に痛みが襲い掛かって来ては─苦笑いに転じてしまっていた。




「煙草、取ってくれねぇか?」


手を動かそうとしてみても、どうやら俺の両手はピクリとも反応を返してくれないようだ。


仕方なく、イノリへとお願いをしていた。


「…うん」


一瞬だけイヤな顔をされては、溜息を軽くつかれてしまったが─イノリは仕方なさそうに、俺の胸ポケットから煙草を取り出してくれていた。




─ははは。


だが、案の定取り出して貰った煙草はくしゃくしゃだ。


まぁ、あの激戦の後だ。


むしろ、良く原型を留めてくれていた─と、褒めるべきなのだろう。




イノリの方も両手に力が、中々上手く入らないのだろう。


それでも、なんとかプルプルと震える手を動かしては─出来るだけ丁寧を意識してくれたのか、煙草を1本…大事そうに、俺の口に咥えさせてくれた。


そして、そのまま俺の胸ポケットからライターを取り出しては火も点けてくれる。




─はぁ、落ちつく。




煙草の煙が、俺の身体の中を巡っていく感じがする。


そのまま俺は意識を、自身の身体へと向けていく。


俺は重症箇所が無いか、自身の身体を精査していくが─正直、調べなくても身体の隅々までボロボロなのは明確な事だった。


『─ッ!』


やはり、少しでも身体を動かそうとするだけで─激痛が襲い掛かって来てはしんどい状態だった。


─はぁ。


だが、不思議な事もある。


そんな状態の俺の身体にも、煙草の煙はしっかりと馴染んでいく事だ。


全く、神経がこんなにも─ささくれ立っているというのに、この煙は抵抗も無しに馴染んでいくのだから…本当に不思議な事だと、俺は煙草の影響で多少はボンヤリとしてしまった頭の片隅で─そんな事を呑気に考えてしまうのだった。







「見事─ね…」


遠くで倒れ伏したジュナの下から、そんな声が聞こえて来ていた。


─彼女も目覚めたのだろう。


しかし、俺達が最期に放った決死の覚悟を伴った攻撃が思いの外─大きく響いているのだろう。


未だ、痛みに襲われているようで─遠目からでもピクピクと、何とか身体を動かそうとしている気概は見受けられた。


だが、実際の所は倒れ伏した姿勢のまま─ジュナはその場から一歩も動けない状態みたいだった。




「…動けるようになったら、早くコッチに…来て。─それまで、私は─耐えるから」


…あー、試練が終わったからか。


ジュナから発せられていた、俺達への敵意は─完全に消失しているようだった。


そして、俺は一つ思い違いをしていたようだった。


そもそも、ジュナは動こうともしていなかったらしい。


痛みに耐えている影響からピクピクと、どうやら単純に身体が反応してしまっているみたいだった。




そして、俺達を呼ぶ理由─。


きっと、経験値とか…報酬面での話だろう。


察する事でしか推測出来ないが─まぁ、妥当な線だろう。


今も、ジュナは話すのを止めて─耐え忍んでいる状況だ。


その一端には権限と言うやつを下げないようにする面も有るのかも知れない。




「イノリ、悪ぃ。─俺を引き摺っていけるか?」


「…頑張る」


「いってぇぇぇ─」


「…我慢して」


イノリも痛みに耐えているのだろう。


イノリ自身の端正な顔も今はまさしく、痛みに耐えるよう─歪んでいたからだ。




苦悶の表情を浮かべつつも、俺をジュナの所までイノリは運んでくれている。


俺も、そんなイノリの顔を見てしまったら─弱音なんて吐けはしない。


俺はやせ我慢では無いが、初動の痛み以降は口を噛み締めて黙ってイノリに引き摺られていく。


─くそっ、本当に俺達はボロボロだな。


互いに歯を食い縛り、何とかジュナの下にまで─俺達は辿り着く事が出来た。




「─良かった。頑張った、ね」


「「はぁはぁ…」」


─正直、限界だと思った。


俺も、イノリも─ジュナへと返事を返す余裕は無かった。


今現在も、少しでも気を抜いてしまったら─その瞬間には意識が飛びかねない位だ。







「─おめでとう。まずは、その言葉を送るわね。─それと、きっと…色々と知りたい中、残念だと思うけれども─私達、ポーンの段階で示す事が出来る負荷は既にQの時点で過ぎているから…これ以上は伝えられないわ。─ごめんなさい。その変わり、私の今ある権限を最大限に使って渡せる報酬を…これから、あなた達にあげるわ。だから、有効的に─活用して欲しい。─きっと、今は分からなくても…渡した物の価値は、直ぐに分かると思うから大丈夫。時間が惜しいわね…。今、話してるだけでも…私の権限が失われているから、もう─渡しちゃうね? だから、これで…お終い」


「あ、あぁ…」


「─ジュナ。行ってらっしゃい」


「私の役目は、これで…やっと、あぁ─」


パァァァ─と、ジュナは最期にそう呟き消えていった。


そして、俺達に余すこと無く─経験値とスキル、それ以外にも…何を渡してくれたのだろうか?


普段は、キラキラと粒子になって消失して逝くのだが─ジュナに限っては、何か工作を施したのか?


キラキラと粒子となる事は無く、ただ─俺とイノリの中に入り込むように?


いや、ジュナの輝きが俺達へと注がれていき─俺達は一瞬、光り輝いていたが…それも一時の事で、直ぐに光は消失していった。


だが、その瞬間…ドクンッ─と、俺達の心臓が大きく跳ね上がったかのような音が聴こえた気がした。


突然の事態に疑問を抱く前に、その瞬間─俺達へと、耐えられない強烈な何かが駆け巡って来た。


俺達はその何かに対し、瞬時に耐えようとしたのだが─それは叶わない願いだったらしい。


一瞬にして、俺とイノリの意識は刈り取られてしまい─その場で、パタリと…意識を手放してしまっていたのだった。

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