ALICE.71─総仕上げ。
「─こう、だなッ!」
俺が双剣を振るえば、シュバンッ─! と、音が遅れて鳴り響いては─目の前のトランプ兵が、細かく斬り刻まれていく。
シュピーゲルから教わった、擬似的な抜刀術スキルの方は─そろそろ、習得したとみても良い頃合いだろう。
「─えいッ!」
ズドンッ─! と、隣のイノリの方も…挙手でトランプ兵へとインパクトを与えては、見事にトランプ兵を砕け散らせていた。
いや、イノリの─あの細身で小柄な体型からの拳で、あの様な悍ましい威力を生み出していると思うだけでも内心ヒヤッとするが…まぁ、凄い事だろう。
あの威力が俺に向けられたらと、一瞬だけでも想像するだけで気が遠くなるが─まぁ、ランクアップやスキルの恩恵だと…喜ばしい事なのだと割り切って、目を瞑る事がきっと─正解だ。
また、変に突っ込んでしまい…ヘソでも曲げられてしまったら困るしな。
ましてや、その結果─殴られるような未来が有るとするならば、それこそ御免こうむりたい所だ。
─ハッキリ言って、俺は…イノリのあの強烈なパンチを食らいたくは、無い。
まぁ、とりあえずは─。
俺達は井の頭公園のALICEの穴、一層から─ここ四層に下るまでの間、引き続き…丁寧にスキルを育て、その動作を一から確認して来ていた。
スキルに関しては、既に俺達の所持していたスキル以外にも─ALICEショップで購入出来るものは片っ端から購入していき、同時進行で…身体に動きを浸透させるように、修練して来ていた。
先程のイノリの動きは、ポーン担当のシックスの動きを参考にして─見様見真似から、俺達が再現出来た代物だった。
俺達はシュピーゲルから教わった、擬似的な抜刀術スキルの仕組みを足掛かりに─それぞれのポーンの動きを互いに検証しては、擬似的なスキルへと模倣から落とし込む作業に没頭していた。
─その結果と言えば良いのだろうか?
ルシアの蝶のように舞う動きや、アストラの杖術、バルトスの盾術、再現出来そうな部分はイノリと話し合いつつ、互いに確認しあっては模倣出来るようになっていた。
だが、俺達の最終到達地点の目標は模倣するだけではない─そこから先へ、更に一歩踏み込んでは…シュピーゲルが行った再現、擬似的なスキルへの昇華だった。
俺達の双剣術、及び戦闘スタイルに組み込められるように─常に思考をし、考え続けては…トランプ兵相手へと身体を動かす日々を、俺達は過ごしていた。
だが、そんな中でもQに関しては分からない事もあった。
─いや、正確には分からないのは戦闘方面に関してだけだ。
ハンマーを使うというのだけは確定だろう。
実際に真理の探究者のギルドマスターの真名に渡していたのだから、彼女? は槌使いだろう。
─彼女? 彼? に関しては、性別自体もどちらなのかさえ不明だ。
本当に会話だけで終わってしまったからだ。
けれども、戦闘方面以外の内容に関しては目を見張るものが多かった。
その時、隣に居たイノリは目を閉じて─沈黙を保ってはいたが、ピクピクとまつ毛が細かく震えていたのを…俺は見ていた。
きっと、Qの事に関しても─彼女の中で、色々と感じいる部分があったのだろう。
─だが、俺はイノリに対して…その後、何かと言って問い質したりはしなかった。
俺とイノリとの間での、暗黙の了解に…既になりつつあるが、決して無理には話させない─そして、聞き出さないようにしている背景がそこにはあった。
きっと、デメリットに関しては俺だけじゃなく…イノリの方にも有るのだろうと、俺が勝手に思っている部分が有ったからだった。
正直、俺からしたら…相手がポーンという立場だから、権限という物を消失して散っていくのか─。
俺達とポーンとの間の、明確な違いが分からないでいた。
─もし、仮定の話になってしまうが…イノリは彼らと同じ存在では無いのか?
その際、イノリの安全は保障されているのか?
─イノリの身は大丈夫なのか?
そう、ふと一度でも考えてしまったならば─俺には、その答えは皆目見当も付かなかった。
ただ、ポーン担当は正直…俺達と何ら姿も、その思考ロジック自体に関しても─大して変わりは無いと、俺は見ている。
だからこそ、そう考えた中で仮定での話になってしまうのだが…俺自身も同じなのかも知れないが、イノリも安全だとは到底言い切れないだろうと─俺の中で勝手に判断していた。
「─カズキは大丈夫そう?」
「うーん…まぁ、正直言うと及第点だな。─あくまでも、擬似的な形だからか…改善出来る面は有りそうだが、今のままの方が自由度というか─攻撃の派生が多く取れそうだしな」
「─うん。多分、きっと…それで、充分なはず」
「…そういうものか?」
「うん、そういうもの」
まぁ、互いにしっかりと話し合って、示し合わせた訳ではないが─ある程度、擬似的なスキルの集大成に関しては完成だろうなという確信は…俺たちにはあった。
その成果と言えば良いのだろうか?
模倣からの擬似的なスキルとして、昇華というステップがクリア出来た面が大きかった。
─後は伸ばしていくだけだ。
きっと、自身で生やしたスキルという事もあるのだろうが─レベルを上げるときっと、自身での練度や気付きの面に関しても…補助みたいなものが掛かるはずだ。
まぁ、当初の目的の一つはクリアしたと見ても良いだろう。
スキルを育てての確認に関しては、もう…大丈夫だろう。
そうなると、だ─。
「なら、そろそろ─総仕上げとして、経験値を貯めたら挑んでみるか?」
「─うん、行っても良いと思う」
そう言って、俺はイノリへと自然に問い掛けていた。
─そう、最後のポーン。
井の頭公園のALICEの穴のボスの討伐だ。
最初のラキア戦以降の、2人での挑戦になる。
─挑戦とはいうが、正確には死地だ。
失敗はどちらか、それとも両方の死を意味する。
「─やめたい?」
「いや? それよりも、少し…煙草吸ってもいいか?」
「─煙に気を付けてくれれば」
「さんきゅ」
とりあえず、いつも通り─腰を落ち着けられそうな場所を探して、俺は腰を下ろす。
そして、自然な動作で─俺はポケットから煙草を取り出しては火を点けて吸う。
─やっぱり、落ち着くな。
だが、煙の形は…少し微妙か?
「なんか、あるのかも知れねぇな」
「…形が悪いの?」
「コレばかりは分からん。ただの煙草の煙だしな。─そもそも、俺の勝手なジンクスみたいなもんだからな」
「─そう」
それ以降、イノリは何も俺に話し掛けて来る事も─聞いてくることも無かったが、身体をおもむろに俺へと預けて来た。
─別に、悪い気持ちはしない。
俺もイノリに合わせ、自身の体重をゆっくりとイノリへと預けていき─互いに小休止に入る。
そして、互いに身体を休めた後は─改めて、四層をじっくりと─最後の締め括りとして、身体の動きを確かめるように…俺達は四層のトランプ兵達を狩り尽くして行った。
「じゃあ、明日だな」
「─うん、明日」
「「お休み」なさい」
程よく身体を休められそうなセーフゾーンを見つけられたので、その日は─そのセーフゾーン内の小屋でしっかりと、俺達は休養を取る事にした。
─俺達の間には、もう…多くの言葉は必要では無かった。
ただ、隣同士で寝る中で─自然と、互いに手を繋いでいた。
そして、充分に身体と心を─俺達は休めることが出来た。
─翌日、俺達はゆっくりと起きて…朝食を軽く食べては井の頭公園、そのALICEの穴…ボスが待ち受けるであろう、四層の大扉へと向かうのだった。
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