ALICE.61─ポーン担当【シックス】
「─おし。お前等、行くぞぉ!」
「「─うす!!」」
俺が大扉を開くのを、後ろでギルドメンバー達は待っていた。
俺はそんなギルドメンバー達へと声を掛けつつ─手に力を込めて大扉を開けていく。
─だが、実際には特に力も要らなかったのかも知れねぇ。
力を込めて─少し押した瞬間には、まるで大扉に意志があるようだと思えちまったくらい─大扉の方から、ギィィィ─と、自ずと大扉は開いちまっていた。
そうして、四層の新宿御苑のALICEの穴─最奥の大扉を俺達は開いては、その大扉の向こう側…真っ暗闇へと俺達は進んで行ったのだった。
全員が通った瞬間だろうか?
噂に聞いた、白く濃い霧が俺達を包み込んで来てはバタン─と、俺達の背後で大扉が閉まっただろう音が聞こえてきた。
それが合図かは分からねぇが、それを皮切りに白く濃い霧は晴れていっては─周囲の景色が見えて来ていた。
俺の正面には庭園が見えている。
─背後は森だ。
後は、物凄く遠く─いや、霞んで見えるが王城が見えていた。
まぁ、それよりも気になるのは庭園を囲むように在る壁柵の中で聳え立つ、アレだ─大扉の存在が、俺には気になって仕方がなかった。
「─水晶は残り1つか」
ここからだと遠目だろうと、今の基礎体力が向上された俺の目では─容易に見る事が出来ていた。
まぁ、内容を戻すが…気になっていた大扉の話になる。
二つある内の、隣の穴は空洞で既に割れた跡があった。
─ま、これから…もう一つも割るんだがなぁ?
─確か、ある程度近付くと反応するんだったかぁ?
情報に関しては、ある程度レポートという形で纏まっていた。
ここら辺はAちゃんねる様々だな。
─まぁ、今は考察の時間じゃねぇわな?
行くか─。
「よーし! 行くぞ、オメェら」
「─なんか、ザワザワしてるっスね」
「それは、既に─葉擦れと花びらの舞う音だと推論が出ていますよ、肇」
「眞人さん、それはもう誰もが知ってる事ッスよ! それでも、ここは─雰囲気の為の演出で、敢えて演じるのが鉄板なんスよ!」
「…ったく、オメェらは最後までうるせぇな」
「あっ、京也さん! 光り輝き出したッス!」
肇が驚き嬉しそうに指を指した向こうの先では、先程迄は無反応だった水晶が大きく輝き出しており─まるで、俺達を出迎えてやがる様だった。
そして、一際輝いては眩しさが最高潮に達したのだろう─その瞬間にパリン─ッと、水晶が砕けた音と…続けざまに、割れ散っていく水晶が俺の目に入って来ていた。
それと共に、俺達の目の前の空間が歪んでは─悠然とした動きで男が出て来るのだった。
「あー、やっと…私ですか。─随分と、遅いですね?」
パリッとしたスーツにタトゥーの刻まれた肌を魅せては、中々のイカした風貌の男性が折り目正しく─俺達の目の前に佇んで居た。
「…それで? 私の相手は貴方方ですか─。…なるほど、野郎ですか? はぁ、何ですかね? その品の無い貧相な格好は? 男ならですね、必要最低限のマナーとして─身嗜み位は整えるのが必須でしょうに? 端的に言いますと、非常にダサいですね。目も当てられない程です。良く…そんな出で立ちで私の前に立てましたね? ああー、その品の無い装いと同じく…考える頭も無いと言うことですかね? 何とも嘆かわしい事、この上ないですね」
「─ああん?」
「…おや? 事実を突き付けられては、まさかの逆上ですか? 全く、お里が知れますね? どこの生まれですか? 教養は習いましたか? まるで、服装と同じで口調も粗野と来ましたか─随分と遺憾な事ですね」
「おいテメェ…、なめてんのかぁ?」
「あー…この、私の蔑むような目がお嫌いで? ですが、仕方のない事では? 自身の姿を俯瞰して見たことが有りますか? 貴方方、非常に汚く見えますよ? それが嫌なら、それ相応の身嗜み位は─最低限、キメるべきですよね? この、私みたいに─」
そう言って、目の前の男は─襟を立てて、澄まし顔をキメて来やがった。
「オメェらは俺達の事情も分かるんだろぅ? ワザと、俺達を怒らせたく…突っ掛かるように言ってやがるのかぁ?」
「…はぁ、ワザと? マナーやルールを教えて差し上げてると言うのに、ワザとなんて物が─貴方方の常識にはあると言うのですか? 本当に頭が悪いですねぇ? それとも、その風体に似合わず─肝っ玉が小さくビビってるんですか? そんな迂遠な問い掛けみたいな、ダサい事などしなく─ビシッと言う事も出来ないのですか? 目の前に参考となる、既に良い男が居るではありませんか…そう、この私みたいに」
そう言って、目の前の男は偉そうに胸を張って来やがる。
「…なら、さっきから俺に突っ掛かって来るようなテメェの物言いは─全部、事実だとテメェは言いやがるのか?」
「…ええ、その通りですが? やっと、理解が及んで来ましたか? 遅過ぎですねぇ? 本当に…言葉遣いもダメ、服装もダメ、身嗜み自体がダメ、思考の回転も…この様子では残念な感じでしょうか? まぁ、容姿に関しては? 綺麗に整えられたら合格は出るでしょうか? ですが、他の要素を入れてしまうと減点で0点ですね。いえ、むしろ─マイナスですね。非常に勿体無いと言えましょう。貴方達は…そう、光り輝く前の原石みたいな物ですね」
「…蔑んでる訳では無ぇんだな?」
「…は? 蔑む? 誰が誰を蔑むというのですか? 貴方は阿呆ですか? 頓珍漢な事ばかり申しますね? 私はね、貴方方を馬鹿だと言ってるんですよ。…あー、言い換えますと─非常に、勿体ないとも言えますね。─全く、その良い素材を活かし切れていないのですよ」
「…なら、俺達がテメェの言う所の─キマってさえいれば文句は無かったってぇ事か?」
「─ええ。別に、その通りですが? まぁ、言葉遣いはどうにかした方が良いとは…私個人としては思えますがね」
そう言って、目の前の男は少し格好を崩したが─それでも様になる格好が崩れる事は決して無かった。
「…面白え」
「─はぁ? 面白い? いや、何を言って…それは、どんな基準ですか?」
「お前は俺達みたいな…ゴミ溜めを蔑まないんだな?」
「…ゴミ溜めですか? それは誰が決めたんです? 自分達でそう、自己紹介でもするんですか? はぁ? おかしな事を言いますね。 えっと、名前は…京也さんですね」
「はっ! 自己紹介? する理由も無いだろ! 周りが勝手に騒いでは、俺達へと無断でそう言って来るだけだ!」
「…周り、周りですか? なら、貴方方は何かしらの努力はしたのですか? まずは、そうですね…身近な所からですね。急に全てを綺麗にしてとは言いませんよ。…順を踏んでいくのも良いでしょう。まずは姿勢から入り─言葉遣い、教養、服装もそうですね。いずれにしろ、それら全てをこなして─その上でも、周りからはそういう評価を─言葉を投げ掛けられましたか? もしくは、言われるとお思いですか?」
「…」
「─ナンセンスですね。全てを実践し、その上で─可能性を潰されたら、その時こそ…その言葉を言って頂きたいものですね。私から言わせると、単純にそれは甘えなんですよ。清濁溢れる世界の中で、綺麗さへの甘えというやつにしか過ぎませんね」
「…何を言ってるんスか。…全ての人が、そう簡単に─出来る訳無いじゃないッスか!」
「貴方は…肇さんですね。─ええ、当たり前じゃないですか? 簡単だったら、皆が皆…それは幸せに過ごしてるものでしょう。─今更、何を言ってるのですか? そうやって、諦めてしまったから─だから、貴方方は今現在…そんなダサい空気を纏っているのでは? 誰も1人で100点を取れとは、私は言いませんよ。─1人1点でもいいのです。100人居たら、合わさって100点ですよ。理想論だと暴論やらと軽んじられたら、そこまでですが…貴方方には、それらをしようという気概─若しくは、して来たという…そのセンスが丸々感じられない。…違いますか?」
「─私達は、社会の底の底。そこに溜まった…どうしようもない程の絶望という泥を啜ってでも、ここまで耐え忍び生きてきたんです。…そして、今─私達はここに居る」
「…貴方は、眞人さんですね。─なるほど、確かに泥を啜ってるようですね。それは認めましょう。そして、貴方は京也さんから、その姿勢や教養を教わった。…素晴らしい事ですね。─なら、その後の…教わったそれらの姿勢や教養はどう扱いましたか? 貴方はそれらを他者にも、率先して共有しようとはしましたか?」
「…そんな余裕は無かった」
「まぁ、そうでしょう。─余裕が無いのは当たり前でしょう。基本的にそれは、貴方の言う所の─底の底でも、上の上でも同じ事が言えるのですよ。ただ、人は生きる中で…少しでもそれらを残していくように教え伝えていくものなのですよ。─だから、一滴でも何かを譲り合い、教え伝えれば良かった。…まぁ、理想は貴方方のいう、底の底でも社会システムを構築すれば良かったのですが。そうすれば、上に依存している歪な社会など簡単に壊せたでしょうに。いえ、それは望み過ぎですね。…忘れて下さい。ですが、少しでもお互いに影響し合っては補っていく過程が無かったのが─蔑まさてしまう要因の一因だったのですよ。落ちるべくして落ちたのは当たり前でしょう。貴方達は絶望という希望に、胡座をかき過ぎてしまっていたのですよ」
そう言われて、肇と眞人は悔しそうに唇を噛みしめてしまっていた。
「…なぁ、おい? ならよぉ? オメェは、そのおべんちゃらで─一体全体、俺達をどうしたいってぇんだ?」
「ははっ、口先だけですか。─これは、失敬。なに─かくいう私も、廃棄処分という立場から…ここまで上り詰めて来た身なので、ね。まるで、過去の私と似通った境遇の貴方方を見ては─お小言を言いたくなったのですよ。まぁ、これが貴方方へと送る…私の一滴というやつですね。─分かりますか?」
「おい、待て─廃棄処分とは、何の事だぁ?」
「─おっと、失礼。私とした事が迂闊でしたね。思わず貴方方との会話に華が咲いてしまい、抵触のワードに該当する事を口ずさんでしまいましたね。これは、うっかり…うっかり。私とした事が、本当に─紳士らしく有りませんでしたね? まぁ、アレです。─今や貴方方は、自由に近いのでは? 私に勝てたら、是非─姿勢、言葉遣い、身嗜み、後は…教養でも磨かれてみては? これは老婆心ながらの言葉ですが、結構変わりますよ? 色々と実際は人により、受け取り方はだいぶ変わるとは思いますが─人は見た目で55%、話し方で38%と言いますからね。ほぼ、9割方はそれで決まってしまうのですよ。…覚えましたか? これも、私の優しさからの一滴の情報です」
「…チッ。気に入らねぇが、確かに─今の俺達は自由に手が届きそうな場所には居るな。ああ…、多少はその老婆心の内容とやらを─考えてみようじゃねぇか」
「─ええ、素直なのは美徳ですよ。若者は、そうで無くては…ね」
「─クソッ! 胸糞悪ぃ。四の五のとテメェは俺達に言って来やがるが、結局の所は…どうせ、殺るんだろぉ?」
「…ええ、殺り合いますとも。それは、絶対に避けて通る事が出来ない運命ですから。─ですが、これから先の人生が貴方方にあるのだとしたら、是非という事です」
「─チッ。ああ…、なら─生き残ったんなら、考えておいてやる」
「おー、それは喜ばしい事ですね? では、しっかりと果たして貰いましょうかね? 楽しみにしていますよ」
そう言って、目の前の男は初めて表情を崩した様に微笑んでいた。
「…口上、言うんだろぉ?」
「良いですね。─その配慮は点数高いですよ? では、お言葉に甘えて口上を言わせて貰いましょう─」
そう言って、目の前の男は─ビシッと、スーツを整えては姿勢を正し─そして、どこからかサングラスを取り出し─そのサングラスを掛けていく。
そうして、出来上がった男の全体像は…まるで、サングラスを追加する事で完成したかの様にキマっていたのだった。
そして、男は口上を口にし始める─。
「さぁ、困難に立ち向かおうとする─あなた達に告げましょう! 私はポーン担当シックス! 私達のクイーンはあなた達を待っています! さぁ、その手にキングを手に入れるのです!」
「シックス─それがオメェの名前か」
「─ええ。まぁ、その…名前の理由は大変くだらないんですがね」
「─ほぅ。それは…聞いてみてぇな?」
「…私、こう見えても立派な出自では無くてですね。─まぁ、私の思わず話してしまった内容から察せられたら…アレなのですが。─それでも? 結局、私は成り上がったんですけどね」
「…その話、長くなるかぁ?」
「…いえいえ、すぐに終わってしまいますよ。それで、どこまで話しましたっけ? ああ、とりあえず名前なんて贅沢なものを与えられる環境で私は生まれて来なかったので─皆、何かしらの特徴で名前を付け合っていたのですが─」
…フンッ!
そう、シックスが力を込めるように息を吐くと─。
─ビリビリッ!!
シックスが上半身に力を込めた影響か、服が裂けて弾け飛んでいった。
「この私の、立派なシックスパックですけどね─」
「…おい。お前、まさか─」
「…ええ、そのまさかですよ。この【シックス】パックから、私の名前は付けられました。いや、シックスか─パックかで選ばれそうで、あの時は参りましたよ。─ははは!」
「くっ! クハハハ!! ハッハッハ!!」
「─おや? つまらない話なんですが、そんなに受けますか?」
「…ああ! 最高だぜ! 面白え! 面白えな、お前! シックスッ─!!」
「まぁ、お気に召したようなら…何よりで」
「─ああ。お前の言ってた意味が段々と分かって来たぞ。…ツラは大事だよなぁ?」
「…ええ、非常に大切ですね。後は、言葉遣い程度ですね」
「よーく…分かったぜ? だがなぁ、信念を貫き通すってぇのも─大事だよなぁ?」
「あー…貴方は、そちら側ですか?」
「─ああ、そうだ。俺は周りに染まるんじぁなく、俺が…周りを染める側になりてぇんだ。─意味、分かるよなぁ?」
「─ええ、大変良く分かりますよ。そして、その困難な道程も」
「…ああ。だが、俺はそれを選んで歩いては─その道程に今は、こいつらと居るんだ」
「…なるほど、そうですか。─それは私が短慮でしたね。先程までの言葉に訂正を、貴方方は立派な志と─素敵な服装と言葉遣いだ。…その信念に脱帽しますね」
「─ああ、俺も。…いや、俺達も許そう。シックス、オメェの信念もよーく理解った。…その道も険しかっただろう?」
「…ええ。まぁ、一長一短では─有りませんでしたね」
「クハハハ! 俺達の求める先は似たような目的地で、その選んだ道程も─また、少しだけ違うだけみてぇだな?」
「…その通りみたいですね」
そう言って、シックスは鷹揚に頷く。
俺達は俺達で、周囲へと俺達という存在を認めさせたく動いている。
シックスはシックスで、周囲へと己を認めさせたく動いていたのだろう。
ただ、内容が外側から内側へと染めて行くのか─はたまた、内側から外側へと染めて行くのかの違いだろう。
分かりやすく言うとするならば─外側という俺達を内側へと染めて行くのか、内側というルールを則っては己の存在を外側へと染め上げて行くのかの違いだ。
本質的には認めさせるのには変わらねぇが、手段という名の道程の違いが─俺達とシックスの間にはあるくらいなのだろう。
まぁ、俺達とシックスは似た者同士と言うことだ。
─ああ。
やっと、コイツの事が分かり始めて来やがったぞ。
「─でだ。どうすれば、オメェの試練は認められる?」
「…ほう? 試練?の事を、誰かポーン担当が話しましたか? いや…なるほど、京也…貴方はだいぶ頭が切れたようですね。…分かりました。認めましょう─」
フンッ─!!
更に、シックスが己に力を込めたのだろう。
ビリビリッ─!! と、更に下半身のスーツ部分も弾け飛んでいった。
そして、最後には─サングラスにパンツ一丁のシックスがそこには威風堂々と佇んでいた。
「─クッ! おまっ! クハッ…」
「…笑えるのもそこまでですよ? では、試練を与えましょう! ステゴロで行きましょうか? 内容は説明しなくても、分かりますよね? 私達には、一番馴染みのある─ヤツですよ」
「…ああ、なるほどなぁ?」
おいおい…自然と俺の表情筋が緩んでは不適な笑みを浮かべてしまっているのが、俺自身でも分かる。
いや、俺だけじゃねぇ。
肇も、眞人も─俺達だけじゃねぇ。
当のシックス本人もどこか、得意気な顔をして─俺達を見て来ていやがった。
「最後まで立っていた者が勝者としましょう。─試練の失敗の際は敗北条件に応じて、半数の犠牲を頂くので…そこは、悪しからず」
「…良いだろう。オメェらもそれで良いよなぁ?」
「「─うす!!」」
「…暴力ってぇのは、一番の平和的な─そして、健全な交渉術だ。至ってシンプルで、尚且つバカでも分かりやすい」
「─ええ。その通りですね」
「…シックスぅ! 俺はお前と相対出来て、良かったと心から思ってるぞぉ!」
「…それは嬉しいですね。私も同感ですよ。─京也、並びにAmberの皆様。─さぁ、楽しい楽しい…心躍るステゴロの時間ですッ─!」
ムキッ! ムキッ!! ムキッ─!!
筋肉を肥大化させたのか、明らかに人の限界と思えるサイズの枠組みを容易に超え─より大きく、まるで…筋肉ダルマの様相となったシックスは、俺達へと拳を振り被っては─躍り掛って来るのだった。
「うぉらぁぁぁ─ッ!」
「おらぁぁ──ッ!」
「クソったれぇ─!!」
「死にさらせぇ─!!」
シックスの言葉遣いも、もう取り繕うのを辞めたのか─既に俺達と似たり寄ったりの言葉遣いになってやがる。
俺達のステゴロ─その記念すべき開幕の一撃目は、俺とシックスの…それぞれ一発目の拳が衝突しあい、互いが弾け飛んだのを皮切りに始まった。
「く、そっ─」
「カハッ─」
「─強ぇ…グハッ」
どんどんと、俺達側の脱落者は増えていく。
─だが、確実にシックスの方にもダメージを与えては怪我さえも負わせる事に成功している。
「はっ! 腕は治さねぇのかよ─ッ!」
「お前こそ─ッ!」
互いに折れ曲がった左腕を、俺達は叩きつけ合う。
痛みは痛みを─既に越えており、アドレナリンが全開のせいか…全てが快感になっていやがる。
互いに怪我を直さない理由は─俺には、よーく分かっていた。
それは至って、シンプルな答えだ。
─俺達のプライドの問題だ!!
「俺も居る─っスよッ!」
「─わかって、る…ぜッ!」
俺の攻撃に続いて─肇はシックスへと全力の蹴りを放っていた。
肇の蹴りとシックスの蹴りが交錯し─シックスの足を肇は折るのに成功するが、そのままシックスの蹴りの衝撃を抑えきれない肇は…猛烈な勢いで地面へと蹴り飛ばされ…ピクリとも動かなくなり、それ以上起き上がってくる気配は消えていた。
「─お手柄ですよ…肇ッ!」
「次は…眞人かッ!」
「…次は私の出番です─よッ!!」
右拳、左拳、潰しては潰され─そして、最期に渾身のヘッドバッド…頭突きを眞人は決死の覚悟で、シックスへと決めるのに成功させた。
「京也さ─」
「…ああ、ナイスだ眞人ぉ─!!」
崩れ落ちた眞人の後に立っているのは─俺とシックスだけだった。
俺は眞人の攻撃を繋げるよう、続けざまに右拳へと─俺が注げる、全てのエネルギーを込めていく。
地に足を踏みしめ─腰を捻るだけ捻り切り…「う─あ」と、まだ─意識が朦朧としているであろうシックスに向け、俺は一息に近付いては─渾身の右拳をぶち込んだ。
「これでぇぇ─! いい加減─! 沈みやがれぇぇぇ─!!」
ズパァァァァ─ンッ!!!! と、重撃音が俺の右拳から…シックスを通り越して鳴り響く。
シックスは俺の右拳の打撃によって、思いっ切り地面へと叩きつけられては─何度もバウンドし、彼方へとぶっ飛んで行った。
「─へっ、ザマァ…、みやがれってんだぁ…」
「…」
そして、ぶっ飛んで行ったシックスに起き上がる気配はなく─それを確認した俺自身もまた、意識が遠のいては立ったまま気絶してしまったようだった。
「き、や、さん─」
「─あ?」
「京也さ、ん…あ、生きてるっスね! 良かったッス! マジで! 良かったッスよ!!」
「お、おう…」
「立ったまま死んでると思ったっスよ…。本当に、京也さんは、仕方の無い人ッスね! へへ…」
這いずってまで、わざわざ俺の下まで来たんだろう。
それが直ぐに目で分かる位、肇が俺の傍まで身体を引き摺って来た跡が─地面にクッキリと残っていた。
「─すまねぇな、気ぃ失っちまってた」
「でも、最後まで立ってたのは京也さんっス。俺達の勝ちっスよね?」
「…ああ。だが─その前に、この場合…判定は誰が下すんだぁ?」
「─え?」
「…」
シックスは未だに、失神して伸びてるようだった。
それから、俺達はそれぞれが起き上がっては─ムクリとシックスが起き上がる、その瞬間まで─待ちの時間に入るのだった。
「あー、俺も…久し振りに伸びちまったな!」
「…シックス、オメェ─その…言葉遣いは良いのかぁ?」
「良いんだ! 良いんだ! 敗者はな? 勝者に従うもんなんだよ! それが信念だろ? それがステゴロってやつだ! 今の俺は、お前さん寄りだ─って、やつだ!」
「あ、ああ─そうだな? だが、だかな? シックス…俺は思うんだが、パンツぐれぇは履いたほうがいいと思うぞ?」
「─知らねぇよ! ねぇもんはねぇんだ! 俺は俺だ! それで良いだろ! 俺達は自由なんだ! 今は、誰にも縛られる事はねぇ! なら、この姿もまた、俺達のありのままの姿だって事なんだよ!」
「ちげぇねぇなぁ!」
「─ハッハッハ!!」
「眞人さん、ヤバいっス。…ボスが2人居るっスよ」
「あ、ああ…。─京也さんがダブって見える」
「─肇さん! 眞人さん! 正気に戻ってくださいよ!! 落ち着いて冷静に見てくだせえ! アレはシックスっすよ! で、アッチはボスっすよ!!」
「…あー、楽しかったぜ」
「─俺もだ、シックス」
ガシッ─と、お互いに握手を交すと…その手からシックスの熱さが─俺に流れ込んで来るようだった。
「あー、そのまま。俺のやるよ? ─餞別だ!」
シックスがそう言うと、俺にシックスのスキルだろう物が─次々と追加されていく。
「─鍛えるのも、楽しいだろ? 鍛えてやってくれよ? 後はな? こいつらに教えてやると、もっと…面白えぞ?」
「…おう、分かった。─やってやるよ」
「頼んだぞ? 後はな、俺の経験値をオメェ達に渡してやる! 精々有効活用してくれよ?」
「─ああ! 当たり前だ」
「…京也? オメェの道は、確かに過酷かも知れねぇが─その道程は闇の中の、確かな一筋の光なんだ。オメェの花道、期待してるぜ」
「─おう!」
「…ふっ! じゃあな? あばよ!」
そう言って、ニカッと笑みを湛えた真っ裸のシックスは…パァァァ─と、光の粒子になり俺達へと吸収され─消えて逝ったのだった。
「─よーし、お前等ぁ! 庭園のアレ? 開くのか、試してみるとしようかぁ? 二つ、水晶を砕いたもんなぁ?」
そう言って、俺はその場のしんみりした空気を変えるように…身体を引き摺りつつ、庭園の大扉まで近付いて行き─その大扉へと手を押し当て、開けようとしたが─。
──警告。
──全てのポーンを討伐するまでは開きません。
「─はぁ?」
そう、システムメッセージが電子上に…俺の目の前に表示が飛び込んで来ていた。
「─ああ! 辞めだ! やめやめ!! 今日はここで一泊したら、帰るぞ!」
「あー、それが助かるっス。…正直、足折れてて─もう、動かないっス」
「─京也さん、すみません。私も、両手骨折からの…頭蓋骨骨折かも知れません」
「─ハハハ! 俺も右手が逝っちまってらぁ。…左手もグチャグチャだな?」
「京也さんー! 一泊じゃ無理っスよー。…ほら、皆ボロボロというか、ポキポキですもん」
「なら、完治するまで─ここでバカンスだぁ! 水晶も全部割れてっからなぁ? ひとまず、全てのポーンが倒れる迄は─ここはセーフゾーンってぇ訳だぁ! お前等ぁ! 骨と骨くっつけて治すぞー! ポーションと、包帯だぁ! ありったけ使いやがれ!! 飲めねぇ奴には飲ませてやれ! いいなぁ? 包帯も巻けねぇ奴が居るなら、巻いてやれ! おら、お前等! 急ぎやがれ!」
「「─うっーす!!」」
そうして、ノロノロと─いや、ボロボロの俺達は何とか身体を動かして…それぞれ、まずは治療を始めていくのだった。
結局、蓋を空けて見たら…ああだこうだとしていた俺達は、まずは─俺達自身が完治するまでに二週間は掛かってしまっていた。
その後の二週間は、バカンスと称しての目覚めたスキル、勉学、服装、教養といった何から何まで─必要だったら一からでも、例え周囲から付け焼き刃と言われようが─俺達は互いに教え学び合う時間を作った。
それは、シックスとの口約束を義理堅くも果たそうとした俺を主体として動く事になった。
─まぁ、時間はそれなりに掛かったが…何とか形になったと俺達自身でも思えたタイミングが…その二週間だった。
そして、目処が立った俺達は─庭園エリアでのセーフゾーンを利用した、バカンスと称した再教育期間をやっと…終わらせる事が出来たのだった。
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