ALICE.58─ポーン担当【アストラ】
「では、行きましょう─」
私は自身の言葉と共に、そっと─手を大扉に添えて、押していく。
まるで、抵抗を感じたかも分からない程の軽い力で─大扉はギィィィ─と、開かれていった。
開かれた大扉の向こう側は、先が見通せない程の暗い闇が蠢いているようだった。
まるで、私達を呑み込もうとしているかのように、黒く塗り潰されたその空間は私達の前に─ただただ、拡がっていた。
少しだけ、私は不安を感じつつも─手を伸ばしては、その大扉の先を確認するように手を入れてみるも…予想に反して、私の手には─何も感じ取る事は出来なかった。
─いえ、何も感じないと言うことは安全だと言うことでしょう。
私は、そのように考えを割り切っては覚悟を決める事にしたが─。
「大丈夫ですか、未来?」
「…少しだけ、怖いかも」
「なら、一緒に行きましょう」
そっと、私の不安を察してくれたのか─もう片方の手を信弥はそう言って、握って来てくれた。
それだけで、私の心の中の不安が立ちどころに晴れていくのだから─本当に不思議だと私は思った。
そして、同じくらいに信弥へと感謝の気持ちが溢れてくるのを感じる。
─うん。
─大丈夫。
「─皆、進みましょう!」
そう、私自身にも発破を掛けるように宣言しては─私達は大扉の中へと入っていくのだった。
─大扉の中に全員が入れたのだろうか?
いや─今や、それはもう…分からない。
「濃い…霧でしょうか?」
「有害そうでは…有りませんね」
「─皆! 離れないように集まって下さい!」
白い濃い霧が、私達を包み込むように─どこからともなく現れては、私達を覆い隠してしまっていた。
だが、私達は瞬時に集まっては─その後に、何かが起こっても大丈夫なように備えていたが…特に何かが起こるという事も無く、次第に霧は晴れていった。
晴れていく中で、背後からバタン─と、大扉が閉まったかのような音が聞こえてくる。
そして、霧が晴れるのと同じく─私達は先の配信でも観たことがある庭園へと降り立っていたのだった。
私が、背後を振り向けば…大扉は既に消失しており、そこには何処までも続くかのような森林が拡がっていた。
次に、サワサワと耳を撫でるような音が聞こえて来たかと思えば─花びらが私達の下へと吹雪いてくる。
─葉擦れの音かとも思いましたが、もしかすると─花びら、これは…薔薇でしょうか?
視線を前に戻すと、遠くには─王城が見える。
そして、視点を更に近くの目の前に戻していくと─そこには庭園を取り囲むような大きな壁柵と一緒になった大扉がそこに在った。
「水晶は二つ…ですね」
「ええ、確かに二つです」
庭園の大扉には大きな水晶が二つ嵌め込まれていた。
そして、私達の来訪を待っていたのを示すかのように─キラリと光り輝くのだった。
「そうなると、この庭園に辿り着いたのは─私達が初めてと言う事になりそうね」
「ええ、未来。私も、そうだと思います。─注意して行きましょう」
「うん。─皆も、何が起こっても大丈夫なように心構えをお願いします! これから、私達は大扉へと接触しに向かいます!」
「「─はいッ!」」
公安局刑事課一係の情報を脳内に思い出していく。
先日、掲示板の方にて─そのレポートが上がっていたのだ。
─確か、私達の…この居る場所と大扉の間までの中環地点に差し掛かると、反応があるはず。
私達は慎重に歩きながらも、少しずつ大扉へと近付いて行く。
そして、大扉へと後少し─本当に中環地点辺りまで近寄ると、大扉に嵌め込まれた大きな水晶の内の一つが反応をし始めては─一際光り輝いていく。
そして、周囲を眩しく照らしては─その眩しさに私は少しだけ目を閉じそうになってしまう瞬間に、水晶はヒビ割れては─弾け散っていった。
そして、私達の目の前─大扉の前の周囲の景色が歪んでいき─そこから、まるで聖女のような装いの女性が現れたのだった。
「─ふぅ…」
「…」
「…」
「─あの、あなたは…」
「─もし? 少しだけ、お待ちを。─今、情報を得ては…擦り合わせていますので」
「は、はい…」
「…なるほど、大凡は分かりました。私の目の前に立つ、貴女の名前は─未来。そして、貴方はその未来の従者─信弥とみれば良いのでしょうか? なるほど。─なるほど。─ええ、ええ。…色々と分かってきました。その上で─未来? 貴女は清く正しく在ろうと、その辛い過去へと向き合っては…それらを乗り越え、どうにか歩みを始めたのですね。…ええ、それは─とても素晴らしい事です。─誇りなさい、未来! 未来、今の貴女は大変素晴らしいものです。それは尊ぶべき事でしょう」
「ありがとう、御座います?」
「…ですが、そんな貴女には致命的に足りない物があるのには─お気づきでして?」
「足りない、物? それは…強さでしょうか? もしくは、何かしらの証明─とかでしょうか?」
「…ええ、ええ。─そうですね。確かに、一般的な見解の上ですと─そのどちらも、必要になる事でしょう。それは、間違えてはいません。ですが、それは自ずと─そうですね、きっと…この世界を生き抜く為の過程にて、自然と得られる物でしょう。─私の言う足りない物とは、そういう物では有りません。私の言う足りない物とは、そうですね…通常では手に入れられない物とでも言いましょうか。…ええ、ええ─そうです。それは、きっと…私みたいな存在からでしか得られない物でしょう。─そうです、貴女に本当に必要な物は、その…今はやっとの事で、真っ直ぐに物事を見られるようになった…正しき目を再び曇らせようとしてくる、本来あるべき真実を覆い隠そうとしてくる─悪意を払い除ける力。それが、きっと…これからの困難なる道を歩もうとする貴女に─未来に必要な物でしょう。そして、それは私からでしか得られない物となるでしょう」
「─悪意を払い除ける力…」
「─そうです。きっと、今のままだと貴女はまた、その悪意に再び…絡め囚われてしまう事でしょう。…いいえ、きっと囚われざる得ないというのが─貴女達に課せられた、逃れ得ない運命というもの。その運命に対し、少しでも抗える力を─私は貴女に授ける事が出来るでしょう。─ですが、そう簡単に与える事を私は良しとはしません。…いいえ、屈辱的なのですが…本来はそんな事など、必要は無かったのです。ですが、今の私には─それが出来ないのです。なので、未来! 私と戦いなさい! いいえ、戦うしかないのでしょう…。その果てに、貴女は得られる権利を得られる。それがルールなのだから…きっと、その法則をなぞらえるのならば─貴女へと、私から与えられる事でしょう。─さぁ、貴女の…貴女達の覚悟を見せて下さい。─私は、そう多くは語りません。いえ、多くも…語れないのです。語る事によって、私の権限が大きく失われてしまいますので…どうか、大目に見て頂けると助かります。だから、その代わりと言えば良いのでしょうか? 私に勝てるようでしたら─今ある私の残りの権限を用いて、貴女達に…その、曇らせる悪意の中でも…少しでも、真実を見通せるようになる─私の心眼のスキルを与えましょう。このスキルは少しでも悪意を払い除けては、貴女達に必要な真理を見せてくれるはずです。その為にも、私から─出来る限りの経験値を奪いなさい! 分かりましたか? 分かったようでしたら、今すぐ返事を─」
「…は、はい!」
「─宜しいでしょう。それでこそ、清く正しき道を歩み始めた者と言えます。─ああ、この素敵な出会いに感謝を申し上げましょう。では、口上を─」
スッ─と、姿勢を正しては、その聖女の様な女性は両の手を捧げる様に挙げて─口上を口ずさみ始める。
「今この時においても、逃れ得ない困難に立ち向かおうとする─全ての者達、そして…その中でも清く正しき道を歩み始めた者達へと告げます! 私の名はポーン担当のアストラ! 今、私の前に立ちし清く正しき道を歩み始めた者達をも含む…全ての者達よ、クイーンはあなた達を待っています! その清く正しき道を歩み、その果てに─キングを手に入れるのです!」
「─貴女の名前はアストラ」
「…そうです。そして、私に勝利した暁には、貴女達へと─清く正しき道を少しでも歩めるよう、貴女達に祝福を授ける女の名前です。よくよく、その名前を良く覚えておくように。分かりましたね─?」
「…分かりました」
「…宜しい。─さぁ、それでは…かかって来なさい! 私の武器は…この杖です! 私の持つ、心眼─その真髄を今、見せて差し上げましょう!!」
そう言って、アストラは片手を大仰に掲げては杖を異空間から取り出して─私達へと仰々しい格好で、杖をこちらへと向けてくるのだった。
「─皆、行きますよ! 前線はいつも通りに展開を! 怪我を負ったら、交代を! 後方が前へ! 補助の方々は回復薬の用意を! では、行きます─!!」
─私も、良くは分からない。
─特段、特筆すべき理由は無いだろう。
何となく、目の前のアストラに引っ張られたのか…私は杖を収納スキルから取り出しては─目の前のアストラへと叩きつけに向かっていた。
「見えて、いますよッ─!」
「─あッ!」
ボゴッ─と、いう鈍い音と共に…痛みが広がるように襲い掛かって来る。
そして、ズサッ─と、地面に転がされる音がしては…私がアストラの杖によって、吹き飛ばされたのを把握する事が出来た。
私達はフルメンバーで、アストラを取り囲むように展開しては─攻撃を加えて行っているが、アストラはまるで…背後にも目があるようだと錯覚してしまう程に、後ろからの攻撃でさえ躱して行っては─私達の攻撃に対して、必要な攻撃のみを最小限に捌いていき─その軽やかな足捌きと共に、杖で仲間達をどんどんと…容赦なく吹き飛ばしていっていた。
「致命傷にはなりませんッ! 皆! 安全を確保しつつ、確実に攻めるのですッ!」
「「─はいッ!!」」
「…ふふ」
一瞬だが、アストラから─私へと笑顔を向けられた気がした。
─いえ、気の所為でしょう。
少しでも、良く判断しましたよ─と、相手を褒めるような戦場では…ここは決して、そういう場では無いのだから。
─けれども、アストラから私達への攻撃は致命傷に成り得る物は存在しなかった。
寧ろ、どこか─私たちを試すように、そして…やはり、言い知れない温かさがそこにはあった。
「─さぁ! 覚悟をもっと見せなさい! 清く正しき道を歩むという事は、とても想像に難くない程の辛い道なのです! 時には、見たくない過去を見るかも知れない! 時には、認めたくない事実を受け入れざる得ないかも知れない! けれども、歩みを始めたのならば、歩み続けなさい! 立ち止まってはなりません! そう、こんな私如きで…立ち止まってはいけないのです! さぁ、もっと─もっと、貴女達の覚悟を私に見せなさいッ─!!」
「─確実に、手傷は負わせています!! 皆ッ! 攻撃の手を緩めたらいけません! 今この時こそ、覚悟を問われる時です! 私達の意地を見せる時です! ここで、引き下がる訳にはいきません! さぁ、私に続きなさいッ─!!」
「─うぉぉぉぉ!」
「後退します!」
「─前線に出ます!」
「回復薬用意! 在庫の確認! 包帯2!」
「まだッ! まだですッ─!!」
─戦闘とは生き物だ。
─永遠なんて物は、そこには存在しない。
何度も─何度も─何度だって─私達は前線と後方を入れ替えては、アストラへと果敢に攻めていった。
─その果てに、アストラが…その杖を遂に手放す時は訪れた。
「今です─ッ! 私に続いて下さい─ッ!!」
「「─おおおおおおおおおッ!!」」
…なぶり殺しなんて、言わせない。
─私たちは既に、ボロボロだ。
寧ろ、私達と同じ姿に…アストラが遂になっただけとも言えた。
だが、そのボロボロの姿になるまで追い込んだという事実が─この時、この瞬間─私達にとっては非常に大きな意味を持っていた。
「…ハァハァ。─良いでしょう。私の試練は、これで…合格を出しましょう」
「…試練?」
「…ごめんなさい。権限が惜しいから、詳しくは話せないわ。─それに、今のは私の…うっかりだから、これ以上…意味を尋ねるのは、許さないですからね? わかりましたか? もし、気になるようでしたら─また、別のポーン担当に聞いてみて頂戴。…分かったかしら?」
「…は、はい」
圧というのを、私は身を持って感じた気がした。
とりあえず、私が同意を示すように頷くと─大仰にアストラは頷いては私達を見回して来た。
「さぁ、時間が惜しいわ。─貴女達! ほら、未来! 早く、私と手を…繋ぎなさい! そして、貴女達! 未来と手を繋いだ者は─他の者と手を繋いで、全員手を繋ぎ合わせなさい! さぁ…早く、急ぐのですッ─!」
「「…は、はいッ!!」」
有無を言わせないアストラの剣幕に、私も含めて皆─全員がボロボロの身体を、何とかキリキリと動かしては─手を繋いで行く。
「…ふふっ、良い子ね。─さて、少しだけチクッとするかも知れないけれども─我慢なさい? これくらいは耐えて貰わないとね。ちゃんと、耐えるのよ? いい? 手を離さないようにしなさい! 行くわよッ─!」
「イッ─!?」
チクッ─どころの、生易しいものでは無い。
電撃が走ったと錯覚してしまう程に、何かが身体に強烈に流れていっては─私達へと、何かしらの情報が強く刻み込まれた気がする。
それは、確かに一瞬で全員に繋がったようで─。
「…まだ、手を離しちゃダメですからね! 私が消えるまで、絶対に─手を離したらダメよッ! 分かったかしら? そして、未来─聞きなさい、貴女には辛い事や…取り返しのつかない事も、きっと─過ぎ去った事もあったかも知れないわ。けれども、これからの人生を歩む中で…貴女の目で見える本当や、本物だと思えた者や物は─これから、とりあえずでも良いから─ちゃんと向き合って、信じてみなさい。─いい、ちゃんと…分かったかしら? そして、これから渡す─この私のスキルを、しっかり…上手く使いこなすのですよ? 私のお墨付きなのですから、これから歩む─貴女はしっかりと、胸を張って生きるのですよ? 恥ずかしい姿など、以ての外です。…愛する人、信じられる人以外に、余り見せてはいけませんよ? 約束ですからね? 返事は─?」
「─は、はい。え、ええ…分かりました」
「…良いでしょう。後は、これは私からのアドバイスになります。─好きになってるなら、もっと強く気持ちを伝えることです! 良いですね? 押して引いてではないのです。押して、押して行くのですよ? 分かりましたね?」
「え…?」
どこか、したり顔でアストラが私を見てきていたが─私にとっては、まるで鳩が豆鉄砲を食らったようなものだ。
一瞬、ここが戦場だというのを忘れそうになる位には驚いてしまっていた。
だが、そんな私の意識を戻すようにアストラの声が私に届いて来ていた─。
「─さぁ、覚悟を決めなさい! 行きますよ! 真実を司る心眼の光よ! 清く正しき道を歩み始めた彼女達を─その光によって悪意を払い除け、彼女達の道を照らし導きなさい─!!」
パァァァ─と、アストラは最期に言葉を残すと共に…光り輝いては、私の握った手から─皆へと輝きが流れて行き、最後の仲間の手から放たれた時は─キラキラと綺麗に煌めいて、遥か彼方へと消え逝ってしまうのだった。
「ッ─!?」
そして、遥か彼方へと─アストラから生まれた、キラキラと光り輝く粒子が完全に消え去った瞬間─私達、私含めて─ギルドメンバー全員に強烈な頭痛が襲い掛かって来た。
その痛みは尋常なものでは無く、痛みに耐え切れない全員が─その場で気絶していくのだった。
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