ALICE.57─重盛未来【聖女の道標】
「皆さん、おはよう御座います」
「─おはよう御座います。聖女様」
「…う、うん」
「未来」
「…うん。分かってる、信弥。─皆さん! 聞いて貰いたい事があります。今、討伐に出ている信徒の方にも連絡をお願いします。─ここ、四層のセーフゾーンに集まるように、それぞれ通達をお願いします」
皆、私の言葉を聞いては─一様に空気を飲み込む音がした。
そして、時が目まぐるしく動くように信徒達はそれぞれ動き始めた。
ある者は走って行き、ある者は連絡を取り始めたのだろう。
仮眠を取っている者達を起こしに向かう者も居た。
そうして、私がお願いをしてから─そう時間が掛からずに四層のセーフゾーンにて、ALICEの穴へと潜っているALICE教のメンバー全員が集まるのだった。
「─皆、集まってくれてありがとう。そして、四層…これからボスへ挑もうという直前に、私は皆に謝らなければなりません」
私の言葉を聞いて─ザワザワと信徒達が騒ぎ出すが、私は彼らから視線を逸らす事はせずに─ただただ、真っ直ぐに彼らへと向き合う。
─いいえ、違うのかも知れない。
私は信徒達へと、真っ直ぐに向き合う事しか出来なかっただけだった。
「先日の、渡会護の記憶を見て─そして、感情を感じた人は…私達の中にも数多く居ると思います。─私もまた、その一人です。そして、ランクが高く…スキル取得が多い者程、記憶も感情も─その多くを受け止めた事と思います。そして、その結果─ALICEに対して疑問を抱いた信徒は数多く居ると私は思います。─私も、その一人です」
ザワザワと、今度はより一層─周囲のざわめきが大きくなっては、信徒…いえ、メンバー達の動揺が明確になっていく。
「─私は思い出しました。そして、私は…後悔したくてもしきれない程の長い間、今の今まで─大切で、大事な、決して忘れてはいけないと…自身で定めた記憶を失ってしまっていました。─私の記憶は、どこかチグハグで…朧気ながらも、両親の温もりから突き放された過去だけが─ベッタリと、私の記憶に残されていました。─私の赦されざる事は、その後の事です! 私は、その後に両親からの差し伸べられた手の事を…忘れてしまっていました。─アレだけは忘れてはならぬと、アレだけは私の信じたかった、信じたい指針の唯一無二のものだったのです。─私は、あの人達の温もりを…人の温かさを欲しかったはずなのに、私は今の今まで─忘れてしまっていたのです。…若い頃の私は、周囲の人達に無視されて─居ない者として扱われて生きて来ました。けれども、それさえも違っていたのです! 私には、私には…確かに居たのです。こんな私にも、何とか話を合わせてみようと、気を掛けて下さっては話し掛けて来てくれていた人が─確かに、居たのです! 私は、私自身が自身の記憶を消したのか─はたまた、何者かに消されたのか─私は私にとって都合の良いように、もしくは─多分ですが、ALICEの都合の良いように生かされていたのかも知れません。─私は本当はあの人達の温もりが、ただただ…欲しかっただけ。そして、今は─誰かに、こんな私でも赦してくれる─そんな人に隣へ居て貰いたかっただけ。私は人の温かかさを求めていたのです! ですが、私はそれに気付かずに─見ることもせず、ただ…周囲へとその歪んだ願いを、押し付けていたに過ぎないのです。その結果、私は皆さんに─ただ、隣に居て貰いたく…そして、受け入れて貰いたく─その挙げ句の果てには、あの温かさを皆さんに求めたのです! 私は、そんな見返りが欲しく─ただただ、私は皆さんに温もりを与えていたに過ぎない。─私は、私はとても卑しい女なのです!」
「─そんな、事! 有りません!!」
「…聖女様、は、そんな人ではッ!」
「─いいえ。私は、聖女などでは在りません。ただのとても卑しい女─未来です。…そう、あなた達を救っては、見返りに自身が救われようと─あなた達の気持ちや心を愚かにも利用して、手を差し伸べた…卑しい愚かな女なのです!」
「─そんな事ない! そんな事ないです!!」
「─ありがとう。ありがとう…皆さん。私が、この話をするのには理由が有ります。私は、当初の予定通りに─この後は、東京都庁のボスに挑もうと思います。─そこで、本当に今の私に対して…私自身に審判を下そうと思います。私は愚かにも、こんなにも多くの人を巻き込んでは─引き返せない所まで連れて来てしまいました。その後始末を、私という存在を持ってしようと思います。─重ねて【ALICE教】というギルド名も変更致します。既に、私はALICEを信じる心は持ち合わせてはいません。ALICEは確かに便利なものですが、便利な物に依存し過ぎた余り─本当に大切な物を見落としてしまうという事を私は気付きました。また、似たような…同じ事を、私は繰り返すつもりは有りません。─私は、本来の私自身…未来として、改めて─真っ直ぐに、私なりに考えて歩き出そうと思います。そして、私には…きっと、私には分不相応だと思いますが、あなた達の想い─責任─今までの罪と罰。…きっと、知らない─見えないだけでも、多くを築いてしまって来ていると思います。そう、繰り返すようですが、あなた達へと手を差し伸べた責任が私には有ります。だから、私は…それらを全て抱き抱えて逝きます! もし、まだ…ALICEを信じたい者。そして、私という聖女としての偶像がもう─ここには居なく、絶望したという者も去って貰って頂いて大丈夫です。─非常に勝手な事を言っていると私自身も思いますが、私はここから先は─私自身を信じて歩んで行きます。そして、私を未だに信じてくれる者達が居るとしたならば、私は今まで歩んできた責任と共に…彼らと歩んで逝きます! これは、決してALICEからの導きとかではありません。私が、私自身で考え選んで─踏み出し始める、始まりの一歩となります。─皆さん、選択の時です。…きっと、ここからなのです。ここから、皆さんの本当の始まりの一歩が始まると─私は信じて願います。─どうか、各々が信じられる道を選んで下さい。…私は、休みます。明日の朝、改めて…会いましょう。去る方は、遠慮なく…どうぞ。─それも立派な選択なのです。誰も引き留めないように─。…いえ、それも変ですね。─大いに悩み、大いに考え、大いに相談しても良いのでしょう。大切なのは自分自身で選択する事だと、私は思います。皆さん、忙しい所─集めてしまって、ごめんなさい。これで、私の話は終わります。では、また─」
そして、私は信弥に支えられて─何とか震える足に力を入れては、覚束ない足取りながらも歩いて…セーフゾーンの小屋の1つに入る事が出来た。
「後は、彼らを─皆を、信じましょう」
「私は─立派、でしたか?」
「…ええ。とても、立派でした」
「それなら、良かったです」
「足りない部分があるというならば、私はこれからも全力で─未来をこれからもサポートしていきますよ」
「─ふふ」
「…おや? 未来が笑うのは久し振りに見た気がしますね」
「…醜い、笑いでしたか?」
「─いいえ。大変美しく─そして、魅力的な笑顔でしたよ」
そうして、私達はその日─お互いに寄り添い合いながら一日を過ごしていったのだった。
─そして、翌日の朝を迎えて…全員が一人も欠けることなく、私を迎えていた。
「─私達は、未来様。あなたを信じています!」
「…俺達を救ったのはALICEじゃねぇ。─アンタだ!」
「これからも、私達一同は! 未来様と共に、聖女と共にいきます!!」
「…分かりました」
「─未来、ギルド名の変更手続きは出来ております」
「─ありがとう、信弥。…皆さん! 私達は、これからは【聖女の道標】として─再び、歩み始めます! そして、私達が一番最初に歩む道として…歩く先は、この東京都庁のALICEの穴の─ボスの攻略になります! 皆、ありがとう。そして、私達の為にも行きましょう! 私達は誰の為でもない! 私達自身の為に、戦います! さぁ、これはALICEの為の聖戦では無くなりました! 私達の為の─私達自身の未来の為の─希望の火を灯す為の聖戦となります! さぁ! 行きましょう!!」
「「「─はい! 聖女様ッ!!」」」
そして、私達【聖女の道標】は歩み始める。
誰もメンバーが欠けることの無かった事実は、ギルド情報を通して分かってしまっていた。
そして、それを知った私は一日を通して─信弥に大いに甘えてしまっては、覚悟を何とか奮い立たせる事が出来ていた。
きっと、後にも先にも─こんなにも幸福な事は無いのかも知れない。
信弥に、皆に─私は感謝をしないといけないのだろう。
昨日までの私は、信弥と共に─その全てを燃やしては散り逝く気持ちでいた。
─けれども、今は違う。
こんな私にも、こんなに多くの人が─慕っては着いて来てくれている。
これから私達が向かう先は、きっと想像だに出来ない程の死地だろう。
─けれど、私達は死ぬつもりは無い。
私達は私達自身を生まれ変わらせる為にも、きっと─この運命とは向き合わないといけないのだろう。
何が待ち受けているかは、正直分からない。
けれども、今の私には─大いに頼りになっては信じられる仲間達が居る。
─だから、大丈夫だ。
そっと…信弥の手に触れては握ってみると─彼は然りげ無くも、私の手を握り返してくれた。
─ああ、この温もりを失う訳にはいかない。
─本当は逃げたい気持ちもある。
─けれども、逃げる事も出来ない。
─そんな選択肢は赦されていないのだ。
─だって、世界のカウントダウンは今も進んでいる。
─何よりも、この世界は既に…強く歩めないと、もう生きたくても…生き残れない世界だから。
私と信弥は、皆の先頭に立っては─東京都庁のALICEの穴、そのボスへと通じるであろう大扉へと…皆を先導しては、この世界に生を刻み付けるように─強く歩み進んで行くのだった。
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