ALICE.54─ポーン担当【バルトス】
「─スゥー、─ハァー…よし、行くか」
俺は手を大扉に添えて、ギィィィ─と、扉を押し開いていく。
そして、大扉の開いた先─俺の眼前には真っ暗な闇の空間が拡がっていた。
俺は慎重に周囲を警戒しつつも、足を踏み出して─大扉の中へと身体を滑り込ませていった。
俺が大扉に入った瞬間─真っ暗な暗闇は、どこからか濃い白い霧が現れて─どんどんと覆われていき、俺の視界は奪われてしまう。
だが、次第に─時間が経つほどに、徐々に霧は霧散していく。
霧が晴れ─視界が開けた時にバタン─と、背後にて大扉が閉まったような音が…俺の耳に届いてくる。
そして、次に気付いた時にはサワサワ─と、葉擦れか…はたまた、視界に捉えた花びらの舞い散る音が俺の耳に入って来るのだった。
─赤い花びら、いや…薔薇が舞っている。
俺が背後を振り返れば扉は消え─森になっていた。
そして、目の前には広大な庭園と─その奥には王城が視界に入る。
「─1つ、砕けてる…のか?」
遠目だが、庭園へと入る為の大扉の水晶は─1つは割れた後なのだろう。
─空洞がそこにポッカリと空いていた。
そして、俺が庭園の大扉へと近付いて行くと─途中で嵌め込まれた最後の水晶が一際輝いては砕け散っていく。
そして、俺の前には歪んだ空間─景色が現れてはそこから大柄の男が共に現れるのだった。
ザリッザリッ─と、大柄の男が堂々と歩いては俺へと近寄って来る。
そして、俺の目の前に来ては─俺を上から見下ろして来た。
「…ふむ。─我の相手は、お前か」
「お前は、誰だ?」
「─む? 我か? その前に、お前─仲間はどうした? まさか、お前…1人なのか?」
「…そうだ」
「─ほう、豪胆か? いや、剛毅か? または、酔狂か? もしくは、余程の阿呆か? それとも…愚者か? 果たして、お前は何になる?」
「…俺は、俺だ! 俺達は─ここに居る!」
「─ふむ? どう言う事だ? 少しだけ、待て。─視覚情報を整理しようではないか。…故あって、お前は1人であって─1人では無いと、この我に申すのか? だが、我の眼に映るのは─お前しか居ないぞ? 改めて、言うが…お前は何を言っている?」
「…な、にを言って、いる! 俺は─俺達は今ここに、お前と面と向かって…向き合っている!」
「…いや、違うと申すのか? ふむ。─ならば、お前の情報を掻き集めようではないか。─ほう、お前はこの世界の…社会の礎にされたというのか? そして、何とも愚かな選択を迫られ、逃れられない立場に立たされたというのか。─そして、今や…その運命を全て受け止めては、今ここに─我の前に立っているというのか! なるほど、なるほど。─そして、お前の名は護と言うのか! ハッハッハ! 鉄壁を冠する我の前に─護という名を冠する者が立ち向かうというのか! それは、実に数奇な運命と言えるではないか!」
「何を、言って─」
「ああ、これは私が謝らねば無かろう。─護よ、お前は─愚かでは無い! 愚かと言うならば、お前をその様な…真なる地獄の場へと立たせた人類だろう。─ああ、お前は決して悪くはない。…お前は、戦士だ! この我が、お前─護を真なる戦士と認めようではないか!」
「─なっ!? お、お前に何が…分かる! 俺の─俺達の事をッ!!」
「…ふむ。─我には手に取るように分かるぞ? この愚者の集まりの掲示板など、ただの地獄を知ってるかのような、実に愚かな者共の集いだ。真なる地獄の上澄みも上澄み、それさえも─この愚か者共は理解はしていないだろう。だが、我は凡そ分かるぞ? お前が多くを喪っては、それでも辿って来た…その真なる地獄というものをな。─お前が擦り切れては擦り切れても歩き続け、時には…仲間の血肉さえも、その身に受け止めては己を補強していき─託されてきた、その意志と覚悟を胸に抱いては、今この時─この我と向かい合っている現在に続いても、共に歩んで来ているのであろう?」
「ッ─!」
「…なるほど、これが配信というものか! ほぅ、愚かな観測者のお前達に…この我が告げよう! 真の─本来は讃えるべき戦士は、この我の目の前に居る─我が認めし真なる戦士だという事を! お前達が蔑み、そして罵る中─戦士護は、真なる地獄と言える場所を歩き続けた果てに…我へと辿り着いた! そうだ! 改めて、言おうではないか! お前達が、その矮小な脳で考える以上の─この上なく、異常なる地獄を耐え忍び歩いては─この我の所まで、戦士護は辿り着いたのだという事を! 愚者共よ! 我は宣言する! 今この時、この瞬間を持って─この我の認めし真なる戦士を貶める行為を一切合切、この我が許さん! その愚かな汚れ切った考え、思考、思想─全てこの世から消え失せよ!!」
ピィィィィィィィ──!!!!
脳内、いや─電子上か?
けたたましい警告音が鳴り響いては、俺の中で何かが…いや、情報か?
駆け抜けて行ったように思えた。
「お前ッ!? 何をしたッ─!?」
「…ふん! なに、我が目に見える範囲の全ての愚かなる…五月蝿い羽虫共の蔓延る掲示板のスレッドというのか。その中で、お前に関しての悪意ある─我の気に入らない該当の物を全て消し去ったのみ! 戦士を貶める行為─我はそれらに付随する全ての行為は一切合切…容認は出来ん! お前は─護よ! お前は…真の戦士だ! 愚かなる汚れ切った、救いようの無い愚者共がお前を讃えないならば─我がお前を讃えようではないか! どうしようもない愚者共がお前を貶めるならば─我がそれら全てを跳ね除けるのは道理というものである!」
「お前─」
「…ふむ。だが、名を名乗らんのは戦士の前では恥ずべき事だ。─だが、今は許せ! 我がその名を口上せし時、その時は─我とお前が雌雄を決する時なのだ」
「あ、ああ…」
「そして、これが我がお前に出来る。もう一つの救いであり、我から愚かなる愚者共への天罰である! お前、いや─お前達が、この現状を弁明しようとしないならば…我が弁明してみせよう! この愚かなる現状を一方的に受け入れようと、その救いようの無い理不尽に─ただただ押し潰されそうだと言うのならば、我が! 我の持てる全ての権限を持って─護よ! お前達へと─この真なる地獄を受け入れさせては終わらせようとしている、愚かなる愚者共全てに─真なる地獄を全てだ! 全てを詳らかに伝えて見せようではないか!」
「な、何を言って─」
「─見よ! これが、これこそが!! お前達が蔑んでは、貶めている─我の認めし真の戦士の見た、真なる地獄! 本当の地獄である! とくと味わい─そして、恐れ慄くが良い! その上で、汚れ切っては…既にどうしようもない程に愚かに落ちぶれた、お前達の全てを─悔い改めるが良い!!」
──ビィィィィィィィィ!!!!
先程の警告音より、より一層激しい警告音が鳴り響き─電子上では視界が危険信号を示すように赤く染まっている箇所が多数現われた。
その直後に、稲妻に打たれたが如く─大量の情報が一瞬の間に身体を駆け巡っていった。
俺にとっては2度目の地獄─いや、その振り返りといっても良いだろう。
…懐かしい、いや─そんな気持ちすら湧き起こる事は無かった。
けれども、今は通り過ぎてしまった彼らの顔が一気に過ぎ去って逝った。
「これ、はッ…!」
「…死にはせん。ランクすら上げていない、軟弱過ぎては─とても戦士とは言い難い者も居るが、そんな軟弱な者は途中で気を失うだけだろう。そんな愚かな者でさえ、殺す事は…我がクイーンが望む所では無いからな。─だが、お前達には明確に分かる罰が必要だ。我が、そう判断した。─そして、罰を与える者が居ないというのならば、ならばこそ─我が与えるのみ! …む? そうか─これで我に出来る事はほぼ尽きたようだ。─どうやら、我が権限が尽きかけているようだ。…まぁ、良い。これは必要な事だったろう。我の認めし真の戦士を救う為には、必要な処置であった。そして、その行いは我自身が望む所であった。─ふむ。幾分、我の溜飲も下がったというものだ。なので、これで良いとしようではないか」
「節介を…」
「─節介? ハハハ!! 節介をするのは当たり前の事ではないか! 戦い抜いた戦士に報奨を与えず、なんという事だ! それは、恥ずべき事である! そう、愚かであり─恥ずべき事なのだ!! 我の今しがた見知った、この愚かな愚者共は─小石を投げては侮辱のみを与えるばかり! 度し難い事である! そして、愚かな事だ! 最も、愚かな事なのだ!! そうだ─断じて、我は許せん! 許してはならぬのだ!!」
「…ありがとよ」
「うむ。─それで良い。お前、いや…護よ。お前の面構えは、幾分か良くなったと我は見えるぞ。そのような面構えならば、この我へも全力を心置きなく出せるだろう。そして、我も護─お主へと全力を心置きなく出せるだろう!」
「─ああ。俺─俺達の全てを出して、俺達を証明する為に…俺は、ここに─ここへ来たんだ!」
「それで良い、それが良い!! それこそが、戦士である!」
「…口上を、言うんだろ?」
「─ああ、そうだ。─その通りである! では、言わせて貰おうではないか」
─巨漢で有り、鉄壁の武装、─カチャ、─スチャッと、音を鳴らしては…姿勢を正し、堂々たる構えの姿勢を大柄の男は取っていく。
「困難に立ち向かおうとする愚かなる愚者共と、その中で生まれし─真なる戦士の護に告げる! 我はポーン担当…鉄壁のバルトス!! クイーンは愚かなる愚者共と真の戦士─護を待っている! さぁ、キングを手に入れるのだ!!」
「バルトス─それがお前の名か」
「そうだ! 戦士─護よ!」
「…良い名だな」
「お前も素晴らしい名だ!」
「─ああ、ありがとよ。…さぁ、やるか」
「─ハハハ! ああ、掛かって来るが良い! 我が得意な戦法は攻撃では無い、防御こそが…我が最大の攻撃となっている! その、我の強さを─とくと、その身にて味わうが良い! そして、護よ! お前の全力─我に見せてみよ!!」
「ああ! 行くぞ!! ハァァァアッ─!!」
俺は足─腰─腕─手、全ての部位に…1つ1つ、丁寧に力を込めては─捻りを加えて突進していく。
そして、バルトスに対して全力を込めて─拳で突きを放つ。
ズドォォォォーン─と、盛大な音がたちまち生まれては…その必殺の一撃となった威力の高さを、容易に想像する事が出来た。
だが、その一撃を伴った拳の先に現われたのは─両の手にて携えた大盾を前面に構えては、俺の攻撃を受け止めているバルトスの姿だった。
「─フッ!」
「フンッ!」
「─フッ!!」
「フンッ! フンッ─! フンッ─!!」
俺はバルトスに対して、右の拳を叩き込んでは─隙間を狙うように左拳を叩き込む。
しかし、それさえもバルトスは読んでいるかの如く─両の手に携えている大盾を機敏に動かしては、俺の拳の攻撃を防いで来る。
─更に、拳がぶつかった際に大盾を器用に動かしては 俺の拳を弾き返して来ていた。
そして、一度でも弾き返された際に─俺が一瞬の隙でも作ってしまったならば、その隙を突くようにバルトスは大盾を盛大に─俺へと叩きつけるように振り落としてくる。
しかし、俺もやられたままでは…決してない!
俺へと叩きつけるように振り落とされる大盾へと─迎え撃つように全力で俺の拳を叩き込む。
─ズバン!
─ズドォォォォーン!
まるで、衝突音を置き去りにするように─お互いに、俺達は一歩も引く事をせず─ただただ、がむしゃらに全ての力を込めて…俺はバルトスへと拳をぶつけていく。
「─硬い、なッ!!」
「…ほう! 我の大盾を拳で破ろうと─言う、のか!」
ボキッ─と、大盾によって弾かれた俺の拳から盛大に骨が折れた音がしたが─急速回復の効果もあるのだろう。
俺の─俺達の経験値を盛大に燃やしては、急激な治療が実行されていく。
そして、治った拳にて─俺は、更に追い立てるようにバルトスへと果敢に拳を叩き込んでいく。
「俺は、俺達は、負け─ないッ!!」
「ハハハッ! それは、我も─同じこと!」
─ズドォォォォン!
─バァァァァン!
─バキバキバキ…バンッ!
盛大な衝突音の中で─何かが弾け飛ぶ音が重なって俺の耳に届いてくる。
そして、見えてくる─俺の眼前の光景の情報のままだと、バルトスが構える片方の大盾が─俺が放った拳の衝撃に耐えきれず爆散したようだった。
「我の大盾を破るというか! 流石は、我の認めし真なる戦士─護! だが! 我も! 我もまだだ!! うぉぉぉぉ─!!!!」
バルトスは、もう片方のベコベコに変形した大盾を無造作に放り投げては─上着を剥ぎ取り、脱ぎ捨てる。
「コレが! コレこそが! 戦士の嗜みよッ! さぁ! 第2ラウンドだ! 我の拳! 護の拳! さぁ!! 我に全てを魅せてみろ─!!」
「ハハッ! 得意な戦法は攻撃では無く、防御じゃなかったのか?」
「ハハハ! これはもう、既に戦法ではない! ただの戦士の矜持よ! 護よ! お前の中で未だに燻っており、その昇華の目処も立ってはいないであろう─その全ての想い! 意志! 魂の濁流! 護の全身全霊を持って、この我にぶつけて来るが良い! 我が、このバルトスが! 護よ! お前の全身全霊を、同じ戦士として…我の全身全霊を持って、受け止めて見せようではないか! さぁ! もう一戦だ! 護よ! 護の全てを曝け出すのだ─!!」
「…ああ。─ああ! ああ!! 魅せてやるよ! 俺の─俺達の全てを!! 魂の全てを曝け出してやるよ! 俺へと託された意志! 俺の中で未だに燻っている、この情動を全て燃やして! 俺の中で止めどない奔流となっている、このドス黒い濁流の…魂の炎も全て!! お前に─バルトス! 望み通り、俺の全身全霊を持って─叩き込んでやる!!」
「ああ! それでいい! さぁ、来るが良いッ─!!」
俺の右拳を盛大にバルトスに叩き込んでは─バルトスからの応酬で、バルトスの左拳が豪快に俺へと叩き込まれる。
一歩も俺は引くことをせず─俺の左拳を更にバルトスへと叩き込んでいくがボキッと盛大に、俺の左拳の骨は折れていく。
だが、俺は経験値を燃やしては左拳を再生させ─更にもう一度、追撃の全力を込めた拳を殴り放つ。
バルトスの拳も折れては再生させているのか─俺と同じように、再生させては俺へと応酬の拳を振るって来る。
まるで、そこに永遠があるようだと─流れる時間が止まったかのように感じては、音さえも届かぬ程になった拳での応酬の中でさえ─俺達は拳の一つ一つに、己の魂の全てを曝け出し─その全てを昇華させるように全身全霊を込めて殴り合っていく。
─一歩も動く事は出来ない。
そう、それは当たり前だ。
動いたら、きっと…そこで敗北なのだ!
─これは戦士の戦いだ。
これは戦士の矜持として…維持の張り合いだ!
バルトスの拳は既にもう…始まりの頃と見比べて、明らかに翳りを見せており─その力はだいぶ弱まっている。
─俺の拳も似たような物だ。
だが、俺達は避けること無く─俺達の、戦士としての矜持を誉め称え合うように─一瞬一瞬の、今この時…己の持てる全てを賭して、互いに全身全霊の込めた拳を更に─ぶつけ合っていく。
─ああ、心地が良い。
俺の中のドス黒い炎の全ては─既に燃え尽きてしまっていた。
今、俺を動かしているのは─俺の情動の炎だ。
だが、その最期の俺の炎さえも─もはや、燃え尽きそうになっている。
…もしかしたら、このまま俺は真っ白な灰の如く─消え散って逝けるのかも知れない。
それも…だが、悪くないだろう。
しかし、それでも─。
そうだ。
そうなのだ。
俺は─!
「まだ、俺は…生きるッ─!」
「─そう、だ。生き…ろ。…お前は、最高の、戦士だ。─我が、認めし、真の…戦士、だ。…これ、は─我から、最期に…与え、られる…報奨、だ。─我の残された、全て…を持っ、てい、け─」
「…バルト、ス─?」
最後の最期─その俺の全身全霊の乗った拳とバルトスの拳、重なり合ってはぶつかり合った拳から、バルトスの意思が─経験値が─熱い─熱い魂が、光の粒子の炎となって─俺へと流れ込んで来る。
「─生き、ろ…護。お前は─生き、て、クイーンに、謁見、する、んだ。我の─炎を持って、いけ、愚者等に、負け、る、な─良い、な? 我と、結ぶ…戦士の友誼の、誓い、だ、ぞ?」
「─わかっ、た」
「…それで、いい、お前と、最期に…戦えて、良かっ─た」
パァァァ─と、その台詞を最期にバルトスは光の粒子となって消えて逝った。
そして、その粒子が一粒漏らさず俺へと─更に降り注いで来た。
その瞬間─バルトスから受け継いだスキルが更に補完される様な形で、俺へと激流の如く─大量の情報が流入して来る。
「─ぁ…」
その大量の情報は、俺一人では意識がある中で受け止めきれる量では─無かったらしい。
その場で、俺は気絶してしまうのだった。
バルトスを討ち破った事で、セーフゾーンとなった─今は、庭園と呼ばれるその場所で─渡会護…その男は暫しの、本当に長い長い時を経ての─心からの休息を、意識を失うという形であったが─確かに、取る事が出来たのだった。
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