ALICE.51─ポーン担当【シュピーゲル】
「一緒に開けるか」
「─そうですね」
「─ええ」
「─うん」
「では─」
ギィィィ─と、俺達が共に大扉を押すと、扉はまるで軽い抵抗を─その手に返しては簡単に開いていった。
開いた大扉の中は真っ暗な空間がそこには拡がっており、大扉を通り抜けると同時に…俺達が全員入ったからだろうか?
いつの間にか、周囲には濃い白い霧が拡がっていっては─次第に晴れていき、晴れていくのと同時に以前にも見た庭園が目の前に拡がっていたのだった。
─バタン。
大扉が閉まると同時に、大扉は消えていっては─背後は森になっていた。
目の前には花の庭園。
─やはり、薔薇か?
舞い散る薔薇の花びらの先では、大きな柵で庭園との隔たりが作られては大扉が見えている。
「…行くか」
俺の一言を皮切りに、俺達は進み出て歩いていき─大扉の近くまで近付いた瞬間、嵌め込まれた大きな水晶の二つの内一つが光り輝いては…瞬く間に砕け散る。
「─また、不思議空間だな」
以前同様、目の前の景色が歪んだと思ったら─そこから人が出てくる。
パッと見はただの美丈夫な中年の男性に見えるが…いや、その佇む姿勢に隙は一切見えなかった。
「─おや? やっと、お客さんが来たんだねぇ」
「─お前は一体、なんなんだ?」
「…ん? ─不思議な疑問を投げかけてくるねぇ? まるで、自分の事は自分では全てを知っているみたいな台詞みたいじゃあないか。─アンタ、面白いねぇ? 考えても見ておくれよ。…人はどれだけ自分の事を知ってると思ってるのかな? 君は、えっと…カズキと言うのか。─へぇ、ラキアを突破したのかい。それに、随分と気に入られたようだ。…彼の双剣を貰ったんだねぇ。それに─お嬢ちゃんか…」
「─あなた達の目的は何なのですか?」
「─目的? …まずは質問とかでは無くて、お互いに自己紹介からじゃないかなぁ? 会話というのは、まずはね─お互いに認め合ってからだと…おじさんは思うなぁ。 そうだと思わないかい? いや、最近の若者は感性が違うのかな? …あ、あれだね? ─おじさんって、自分で言うと、年齢を感じちゃうなぁ。…それは頂けないねぇ。─なら、お兄さんにしておくか? って、あちゃー。それは流石に、皺も有るから…それは難しいか? ─で、君は公安局刑事課一係の八重森紗奈くんね。なるほど、なるほど…あ! ちなみにおじさんが現れてから、これは中継されてるからね? 話す言葉には気をつける方が無難だよ? そこのところ、よーく理解しておいて貰えたら、良いとおじさんは長い知見から思うかなぁ? よしんば、おじさんの忠告を受け入れられなくても、おじさんは若者の判断には一定の許容はするんだけれどもねぇ。これが大人の魅力ってやつかな? あっ、いくら─おじさんが魅力溢れるからって、惚れた腫れたはおじさん困っちゃうから─その時は、ごめんねぇ。こういうの、イケおじって…言うんだろぉ?」
「…な、何を言って? それに、私の名前をどうして─」
「─紗奈さん、落ち着いて。名前に関しては話しながらも情報を精査しているのでしょう。─そうでしょう? あっ、自己紹介が必要でしょうか? 私は泉誠一郎と言います。…幾つかの貴方の話は分かりました。もし、貴方に会話をして下さる意思が少しでもあるとするならば─まずはお互いに自己紹介をしましょう。…どうでしょうか?」
そう言って、誠一郎さんは紗奈さんの前に少しだけ進み出ては─目の前の男性に問い掛ける。
「─へえ、誠一郎くんは分かる口みたいじゃあないか。おじさんは、ねぇ…いや、おじさんの名前は後で教えてあげよう。─いや、悪気が有るわけじゃあ無いんだよ? 名前を言う時は、おじさん…口上が必要になるからさぁ。おじさんね─宣言しちゃったらさぁ、戦う気持ちに─心? 魂? に、火が点いちゃうかもだからさ…そこんとこ、分かるでしょ? おじさんって、ここぞという時は全力になっちゃう生き物なんだよねぇ。だから、今のこのクールな時が話せる時って、やつ? ─ははッ、クール過ぎて惚れたら、火傷しちゃうかもだから注意だからね?」
そう言って、目の前の男性は茶目っ気を見せるようにウィンクをかまして来るが、その力を抜いて─気怠げに見せている姿勢には、一切の隙が見当たらない状況は依然として続いていた。
「…なぁ? 俺達は戦うしか道は無いのか?」
「カズキくんは平和主義者なのかな? ─ああ。まぁ、戦うしかない…ね? まぁ、残念な事に? それ以外の運命は君達には残されていないからねぇ。─あっ、おじさんにも同じ事が言えるんだけれども…ね? いやぁ? 嫌になっちゃうよねぇ? 運命は残酷だねぇ」
─ハハハと、目の前の男性はおどけたように笑ったが、その目に楽しげな光の欠片は片鱗さえも見当たる事は無かった。
「─教えて下さい! クイーンとは、なんなのですか? それに…トランプ兵とは? 世界のカウントダウンというのも─」
「─あー、紗奈ちゃん! ダメだよぉ? ダメダメ。─それ以上は、おじさんからもブッブーだよ? フッフッフ…レディはね? 常に三歩後ろだよ。─そこの所、良く覚えておいて損はないとおじさんは思うね。…大和撫子! 聞いたことない? 慎ましやかが一番だって、さ。…ほら、愛しの誠一郎くんもそう思うだろぉ?」
「─え?」
「─紗奈さん。…惑わされないで下さい。いえ、私はどんな紗奈さんでも、受け止めますよ。ですが、その前に貴方、応える気はあるのですか?」
「─あるさ。当たり前だろ? おじさんは話したくて話したくて、本当は仕方が無いのさ。…でも、君たちが受け入れる態勢が出来てないんだよ? あ、これは心の問題じゃなくて─身体! そう、後は脳の問題ね? ─分かるかなぁ? う~ん、あー…でも、紗奈くんと…誠一郎くんには分かるんじゃないかなぁ? 後は、これを見ている─そうだねぇ…ランク30の上限の到達者には分かるじゃないかな? ─ねぇ?」
「お前…いや、なら─答えられる範囲で教えてくれ。俺達が全部知れるのは…いつなんだ?」
「─おじさん含めて、ポーンを全て撃破する事だねぇ。まずは、そこが大前提なんじゃないかなぁ? あぁ、そして─庭園を抜けては王城へと向かう。─きっと、その頃には…だぁいぶ仕上がってるんじゃないかなぁ? ま、おじさんなんて─ポーンだから、ね? ほら、チェスでのポーンって…弱っちそうなイメージだろぉ?」
「…私には─そうは見えませんがね」
「誠一郎くんはおじさんをおだてるのが上手いなぁ。─年甲斐も無く嬉しくなっちゃうじゃないの」
そう言って、頬を掻きつつ照れたフリを目の前の男性はしているが…未だに隙は微塵も見せることはない。
「─導いているの?」
「おや、お嬢ちゃん? 話しても平気なのかい? いや、それが…精一杯の質問かな? なら、おじさんも危ない橋を渡っちゃうとしちゃおうかなぁ? そうだよ? おじさん達はねぇ─立派に導いているんだよ。─これが、そうは見えないのが味噌なんだろうねぇ! ああ、これでおじさんからの証言としては充分かなぁ?」
「…ありがとう」
「─いやいや、誠意には誠意を。これは常識というものさ」
「…なら、逆に聞きたい。俺達に話したい事、伝えたい事はあるか?」
「─うーん、待っててね? おじさんねぇ…機械には疎いんだよね? ─わかる? 歳を取るのはいけないねぇ? ああー、まぁ─今、掲示板? ギルド? 世界を覗いてるからさ。…待ってね、待って─あー、幾つかあるねぇ。─とりあえず、最初に言い事はね。…皆、ランクは上げたほうがいいよ? じゃないと、これからの負荷に耐えられないかも知れないからねぇ。後は─皆、思ってるよりかは大丈夫そうだねぇ。沢山、ALICEの穴に? 挑んでくれていいよ。─おじさん達が倒される度に、最初の部分からの難易度? って、いうのかな? 緩くなるはずだから。…あー、後は身体とスキルか。─これは言っても…ギリギリかなぁ? まぁ、おじさん頑張っちゃおうかなぁ? スキルとは脳の拡張の事だからねぇ。─身体を作っては脳を拡張しないと、釣り合い取れないと大変だからねぇ? ほら、何事もバランスが大事だろぉ? 頑張ってくれよ? 後は、あー…意外とラキアはあんな感じだけど、仕事はしたんだねぇ。そうか、だから─皆、思ったよりかは大丈夫なんだねぇ。─意外と皆、潜ってるじゃないか。…なら、おじさんからはそのくらいかな? 逆に、ご褒美の時間だよ。おじさんに聞きたい事は他には無いのかい? 年齢とか聞かれたら、おじさん困っちゃうけど、答えられる範囲なら…教えてあげるよ?」
「─なら、1つ。良いか?」
「あー、カズキくん。どうぞ?」
「…お前は生きているのか?」
「─それはちょっと、答えられなさそうだねぇ」
「分かった」
「─カズキ」
「いや、イノリ何でもない。大丈夫だ、俺からはそれだけだ」
「…紗奈くんと、誠一郎くんはどうかな?」
「私からは特に、何も無いです」
「では、私は最初の話に立ち返ってしまうのですが─貴方の名前を知りたいのですが、これから…教えてくれるのでしょうか?」
「─ああ、うん。それは、もちろんさ。─教えてあげるよ、おじさんの名前をね。なら、そろそろ…口上を口にするタイミングかな? さて─」
そして、ラキアの時と同じようにスッと姿勢を正して─目の前の男性は口上を述べ始めた。
「─困難に立ち向かおうとする未来ある君達に告げる! おじさんはポーン担当! ─シュピーゲル!! クイーンは君達を最奥で待っている! …さぁ、キングをその手に手に入れるのだ!」
「─シュピーゲル、それが貴方の名前ですか」
「かっこいい名前だろ? おじさん、気に入ってるんだよねぇ」
シャラン─と、言い終えると同時に…シュピーゲルは─空間から刀を取り出しては、居合い斬りの姿勢を構える。
「刀ッ─!?」
「─そう、おじさんはね。刀を使うよ? 紗奈くんと、誠一郎くんと同じだねぇ? 君達は、どこまで扱えるのかな?」
「…全く隙が無い。カズキ、イノリ─気を付けて」
「─ああ。分かった」
紗奈さんは俺達を呼び捨てになるまで、余裕が一気に無くなったのだろう。
─いや、そのプレッシャーたる緊張感は分かる。
ラキアの時とは違い、静謐さの中に…明確な危険を感じる。
4人で挑むのだから、ラキアの話通りだと弱体化は─多少はされてるはずだ。
だが、それすらも感じない程の圧迫感を─目の前のシュピーゲルは確かに、その存在感を出していた。
「…来ないなら、おじさんから行く─よッ!」
「─なッ!?」
─キンッ!
音が後に遅れて聴こえて来ては、紗奈さんが何とか─シュピーゲルの斬撃をいなしたようだと、目の前で生まれた結果の光景を見ることで気付けた。
シュピーゲルが一瞬、刀を抜き去った様に見えた後に─複数の音が鳴り響き、それから遅れて紗奈さんの背後にビシッ、─ビシッ、─ビシッと剣戟の剣筋が走っていく。
─まるで音を置き去りにしては斬撃を先行して放った結果のような状況が目の前に繰り出されていた。
「おや? 受け止めきれたんだねぇ? なるほど、なるほど。─これは逸材だねぇ。でも、1人だと死んじゃうじゃないかなぁ? さぁ、どうやって来るんだい? さぁ、早くおじさんに見せてくれないかな!」
「─クッ! …誠一郎!」
「─分かってます!」
「イノリ、俺達も!」
「─うん!」
「…いいねぇ。さぁ、もっと見せてくれッ─!」
キンッ、─キンッ、─キンッと、音が置き去りにされては─後に、斬撃音が鳴り響いて…視覚に捉えられるようになった斬撃の剣筋が眼前に迫ってくる。
それを何とか、足捌きと双剣を振るう事でいなす事に成功するが、近寄る事さえ困難を極めていた。
─シュピーゲルの持ち味は、その目にも捉える事がギリギリの高速の抜刀術だ。
抜いた瞬間に手を高速に動かしては、一拍の間に大量の剣戟を放って来ている。
全てにおいて、手数の有利に思える双剣を扱う俺とイノリでさえ─受け止めきる事は出来ないでいた。
─なら、ラキアの時と条件は同じだ。
ある程度は攻撃を受ける覚悟を決めて、俺達は果敢に攻めるしか無い!
「「─はぁぁ!!」」
「おじさんでも、それ、は、辛い、かな─ッ!」
「…そこですッ!」
だが、今回は紗奈さんと誠一郎さんも居る。
紗奈さんの刀の技量はシュピーゲルとは、良い勝負に遠目には見える。
いや…だが、素人目で見ても─シュピーゲルの抜刀術に関しては、紗奈さんより明らかにシュピーゲルの方がバグってるのだけは理解出来てしまう。
しかし、その差を埋めるように誠一郎さんが果敢に攻め動いては─シュピーゲルの隙を狙うように、その手元へと誠一郎さんが突きを入れては…僅かなからにシュピーゲルの攻撃の阻害に成功させてはいた。
「…私、だってッ─!」
一度、刀を大きく煌めかせては鞘に納めて─紗奈さんもシュピーゲルの様に一息に居合いの姿勢から刀を抜き放っていた。
「なッ─これはッ!?」
シュッ─ババババッ!
─キンッ、─キンッ、─キンッと、気付けば─音を置き去りにしては、紗奈さんはシュピーゲルに迫る勢いでシュピーゲルへと、まるで彼の抜刀術を模倣した抜刀術を繰り広げていた。
「かつて、神童と言わしめた…私を舐めない事です、ねッ─!」
「やるねッ! だが! ─おじさんの底力も、なめない事だ…よッ!」
紗奈さんの抜刀術にて、一気に切り刻まれたかの様に見えたシュピーゲルだが─何とかシュピーゲル自身も、紗奈さんの斬撃を巧みな足捌きと自身の抜刀術を併用して弾き返していた。
その中で生まれる隙を突くように、果敢に誠一郎さんも連携を狙っては─刀の切っ先をシュピーゲルへと向けて、攻撃を仕掛けていく。
だが、その誠一郎さんの攻撃さえもシュピーゲルは無理な姿勢になってまでも─斬撃をいなし続けていた。
「─俺達の事も、忘れて貰ったら…困るな!」
「あちゃー…でも、こんな所で…まだッ!」
「コイツ─ッ!?」
更に、追い込むように放った─俺とイノリの連携の斬撃も、再びシュピーゲルは無理な姿勢を維持したままだが─鞘に刀を納めては、俺達の斬撃の剣筋を見定めては抜刀術を合わせて─相殺に成功していた。
「─スゥ…ハッ!」
「─あー、コレは…おじさん、無理かな─」
けれども、これまで続いた連携の果て─。
その俺達の後の─最期の後詰めの攻撃は流石にシュピーゲルも無理だと悟ったのだろう。
精神を限界まで集中させては、その研ぎ澄まさせた己と一体化させたかのような刀を─鞘に納めてはその全てと言ってもいい、全身全霊を一気に溜め込んだのだろう。
─紗奈さんの抜刀術が爆発的に煌めいては、全ての音を抜き去るように…世界の全てよりも速く、大量の斬撃が一拍の内に斬り刻まれていた。
「…これで、終わりです─」
紗奈さんが抜き放った刀をクルッと、弧を描くように綺麗に一振りしては納刀すると─遅れてババババッと大量の音が鳴り響くのと、シュピーゲルが細切れに斬り裂かれて逝くのは…ほぼ同時だった。
「ははっ─グハッ。─あ~、血が出ちゃったよ…」
「まだ、やりますか?」
「─いやいや、やれそうに見えるかい? 年寄りは労らないと、ダメだと思わないか…な?」
「…」
「─いや、そんな目で見ないでよ。…おじさんの特技、盗めたでしょ?」
「盗めたかは分かりませんが…学びを得ました」
「─流石だねぇ。…あっ、あれかな? ラキアみたいにプレゼントしちゃおっかな? ははっ、これが興が乗るってやつなのかな? でも、おじさんのこの刀しかダメそうだね。─もう一本は無理そうかな? ほら、これを渡そう。私の愛刀だよ。とっても、良いやつだから…大事に使って貰いたいねぇ。頼むよ? 本当に」
「─紗奈さん、近寄るのは…」
「大丈夫よ、誠一郎くん。彼に敵意は感じないわ。むしろ─なんでかしら? 師匠みたいに思えるから不思議よね」
「─師匠、師匠ね。…あぁ、良いね。それは非常に良い響きだ。─なら、あーコレは出来そうだ。ははは! おじさんの抜刀術を誠一郎くんに教えてあげようじゃないか。これも興が乗ったというやつだねぇ。─だけれども、身体の動かし方は自分で学んでね? …出来るよね? だって、おじさんの技を学ぶという事は、おじさんの弟子になるって事だものねぇ? あぁ、コレは良い。─非常に愉快だねぇ」
「─え?」
「─はいッ! 愛刀と一緒に包んであげたからねぇ。頑張って、ね? おじさんってお茶目なのが可愛いと思うん─グハッ。…あー、また血が─あ、いやいや。─そうじゃない、そうじゃないか。…コレは、勿体ない。ほら、最期のご褒美だよ。─君達おじさんに触れるんだよ。ほら、早く…」
「何を言って…」
「─カズキ、触れるべき」
「…分かった」
「─そうそう。素直が一番だねぇ。…このまま、触れてるんだよ? あー、これなら─まだ、行けそうか? 行けそうだねぇ。─おじさんの…あ、ここはおじさんの力で配信を…こうすると、阻害が行けそうだねぇ。さぁて、カズキくん達にも─スキルを少し生やしてあげようかな? …教えたのは弟子だけだけれども、君達は門下生扱いだ。これが入門書みたいな物だと思って貰えたら嬉しいねぇ。─ラキアのは…、あー…アイツはただの双剣術か。なるほどねぇ…なら、別に大丈夫だし、干渉もしなさそうだからいいかもねぇ。他は…あげれそうなのは─あー、駄目だ。…弾かれちゃった。おじさんの力、弱くてごめんねぇ? でも、ラキアとのスキルを合わせられる、おじさんのスキルを入門書としてプレゼントしてあげるよ。─これが、おじさんのお節介焼きというやつだね。…後はもう、おじさんも限界みたいだ、ね。─さ、おじさんの経験値が外に漏れないように、そのまま触れてるんだよ。…あー、やっと楽に…なれ…る─」
そう言って─パァァァと、光の粒子になってはシュピーゲルは消えて逝った。
光の粒子は余すこと無く、俺達へと流れ込んで来ては経験値として吸収されていくのだった。
「終わった、のか…?」
「─うん」
「─配信? シュピーゲルの言っていたのは、どういう意味だったんだ?」
「えっと、途中から配信が切れていたみたいですね。─掲示板で騒がれています」
「シュピーゲルのお陰」
「…アイツが阻害したって事か。何の為に…とかは野暮だな。─色々と、見せない為にか」
「うん」
「とりあえず、もうここはセーフゾーンという認識で大丈夫でしょうか?」
「どうだろうな? 誠一郎さんの言う通り、セーフゾーンになってると俺も思うが─ラキアは誰かが来て、あの残り一つの水晶の該当のALICEの穴だった場合─連戦になるはずだ、と言ってたな」
そう言って、俺が視線を追いやった先には─残りが後1つになった水晶が大扉に嵌め込まれている。
「─なら、直ぐに出ますか? 私達も公安局で身を潜められますし、必要な事はメッセージでやり取りする事も出来ますから」
「─ああ、それが良さそうだな」
「うん、それが最善」
「分かりました。─なら、横穴を見つけましょう。お待ち下さい、今探して…おや、直ぐに出ましたね」
「誠一郎さん。俺達の時も直ぐに発見出来たんだ」
「…なるほど。ここはここで、何か法則が違うのかも知れませんね。言ってしまえば─庭園エリアという区分けみたいなものなのでしょうか?」
「─それは俺も思っている。ここはALICEの穴とは、また法則が違う気がするしな」
「では、今日はここでお互いに解散…いや、私達がギルド管理庁まで警護…必要でしょうか?」
「─ううん。それは大丈夫。…私達だけの方が、きっと色々と都合が良いはずだから。─配慮しやすいはず?」
「…そうか、配慮か。─分かった。誠一郎くん、私達はここでお別れとしよう」
「─事情は察しましたが、どうか…お気をつけ下さい」
「─ああ。お前達もな」
「気を付けて」
そして、シュピーゲルを退けてはセーフゾーンとなった庭園エリアで俺達は別れて─俺とイノリは急ぎ足で皇居外苑から、ギルド管理庁へと無事に戻る事が出来たのだった。
「…配慮ね」
「─でも、今だけ」
「ランクとスキルが上がれば、効果が及ばなくなるからか?」
「…」
「話せないか」
「…」
「─分かった。ありがとう、それだけで充分だ。とりあえず、このままギルドルームへ向かおう」
「うん」
ギルド管理庁に着いても、俺達の事は視界に入らないのか、視線が誘導的に逸らされてるように俺は感じた。
それに対して、少しだけ薄気味の悪さを俺は感じつつも─そのお陰で周囲の注目から逸れているのも事実なので、併せて感謝もしつつ─俺とイノリはギルドルームへと辿り着いたのだった。
「─すまん、このまま…寝させてくれ」
「─私、も…」
そして、ギルドルームに着いて早々に─俺達は居間で無防備に揃いも揃ってソファーへと、お互いにもたれ掛かっては─気絶するように横になってしまうのだった。
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