ALICE.48─渡会護【刑事部捜査一課】
「─補充の人員だ」
「…こいつら、署員すか?」
「…何を言いたい?」
「─どこの所属の人ですか?」
「─死刑囚、または…矯正施設からの人員だ。これで…満足な、回答か?」
「…了解」
警視庁総監の顔は酷く歪んでは、目の周りは暗く窪んでおり、人相がゲッソリと変わり果てていた。
─いや、俺も同様だろう。
世間という、社会の風当たりは未だに悪化の一途を辿っている。
─いや、正確にはもう…違うな。
俺達が、警視庁という存在が─悪の根源に成り下がってしまったんだろう。
─崇高な人間なんて、この世には居ない。
今までは、その捌け口が…アングラな闇の市民だったのだろう。
だが、彼らも今は─折崎京也という強力な旗印の下に一同寄り集まっては巨大な権力を形成しつつある。
なら、彼らは今までのその捌け口という矛先を─次は何処に向けるというのか?
─それは至極、単純だ。
矛先を向けても、例え傷付けても─腹が痛む事も無い。
そんな滑稽な悪党が、悪魔狩りの対象にと成り得る人間、組織が─まるでそこに、目の前に在るじゃないか。
そこに、ピッタリと収まるように─綺麗に舞台に上げられている存在が目の前に…。
─そうだ。
それこそが、俺達だ。
世界の捌け口として、今は存在が固定されたと言っても良いだろう。
俺達への捌け口に免罪符は要らないのだ。
それは、その行為自体が既に許されている状況下なのだから当たり前だろう。
ああ─。
もう、俺達には…遂に─後が失くなったか。
「─で、総監? 彼らの運用は誰が決めたんですか?」
「…」
「…総監。─流石にここまで来て、もう…ダンマリは無いでしょう?」
「…政府だ」
「─ALICEの関与は?」
「…もう、警視庁にはそれを知る為の力も─権限もほぼ、…いや、存在すらしていない。─すまん」
「…そっすか」
政府、─政府、…政府ね。
…俺達を遂に切り捨てるか。
いや、増悪を集めに集め終えて─一緒に屠ろうという魂胆か。
本当に酷く…滑稽なシナリオな事だ。
まるで、俺達を人だと思っていないようだ。
─いや、思っていないのだろう。
目の前の連れて来られた新しい人員は─明らかに矯正施設で人格を破壊されては、人として体裁をなし得ていない人間ゾンビみたいなものだ。
これも処分しようという魂胆なのだろう。
ああ、臭いモノは全て一緒にして処分するという─甚く分かりやすい構図だ。
…吐き気がしやがる。
…ユルサナイぞ─絶対に。
新たな─法と秩序と正義と平和は…ギルド管理庁というALICEのお墨付きを貰っているお膝下でやるっていう事か。
「分かりやすいですね。─これで警視庁はもう既に、喉元に刃を突き付けられてますよ?」
「…分かってる。だが、これしかないのだ」
「─選択肢が無いって事っすね?」
「─ああ」
「─世間の反応が楽しみですね。脳をクチュクチュされた廃人を探索に再利用。死刑囚も犯罪取り締まりの者も、更生途中の者も…有無を言わさずに探索に投入! ─本当に、まるで出来過ぎた話みたいだ」
「…それが、政府は─お望みだ」
「ALICEが止めたりは?」
「…」
「─はぁ。総監は分からないかも知れないですけど、ランクが上がると思考が、こう…クリアになるんですよ」
「…急に何の話を?」
「まぁ、聞いて下さいよ。これが最期の会話になるかも知れないんで。─で、ですね…環境が良く見えるようになるって話です。それで、環境が良く見えるようになった俺には─朧気にも誰がそう仕組んでるのか、何となく何ですが─手に取るように、見える感じがするんですよ」
「…何を─言ってるのだね?」
「ま、ランクが低いとそうなりますよね。いや、スキルの取得量の違いか? まぁ、良いです。やりますよ、指令ですもんね」
「─ああ。…指令だ」
「─本当はどこから出てるかも分からない、ね」
「渡会くん、君は何を言って…」
「─では、これで俺は失礼しますよ。…総監もお元気で」
「あ、ああ…」
俺をただ─漠然と見つめて来る総監を置いて、俺は外に出るのだった。
「…あう、あー…。─う?」
これは、本当の本当に…モルモットが来たな。
もう、思考してるのかさえ分からないのを良い事に─政府は犠牲者を送りつけて来たということだが…本当に人でなしだな。
─はぁ。
…処理をするなら、まとめてって事だろ?
「─今、俺達は何名残ってる?」
「私、含めて…5名です」
「…皆、逝ったか」
「…はい」
「…皆の─炎はまだ、宿してるな?」
「はいッ! ─護さん。私達は多分…いえ、次で死にます」
「そっか…」
「─はい。なので、私達の分の炎─消える時は護さんが受け継いで下さい。…それが、私達の願いで─本望です」
「…分かった」
この─ドス黒い炎は、俺達の…経験値だ。
死ぬ時はお互いに、敵に経験値を渡さないように…介錯するのを俺達は取り決めていた。
─今、俺の中には部隊の連中の炎が荒ぶり燃えている。
そして、次の探索の際には─彼らの炎を俺は得るだろう。
彼らも既に…覚悟を決めている。
「─あ、う…」
「…護さん。─彼らの最期は、その業は私達が背負います」
「─いや、俺が殺る。お前達の分も、その業も─全て俺が受け持つ。…敵に経験値を渡すほど、優しく甘い世界は、もう既に此処には無い。ここは地下も地上も生き地獄だ。─なら、生き残る俺は…その責め苦を全て受けては、お前達の分も─絶対に、生きてやる。だから、任せろ」
「─護さん。…すみません」
警視庁総監はその日、旧自衛隊立川駐屯地から本部へと緊急で呼び戻された。
きっと、最期の総仕上げの為に─市民の前で処断の選択を、市民へと委ねられるのだろう。
─結末は俺には、分からない。
だが、きっと…碌でも無い事になるのは、俺にも分かる。
─救いがあるとすれば、ギルド管理庁の暫定的な長官をALICEからすげ替えられるだろう。
…いや、多分。
そう、誘導されてはなるだろう。
そして、警視庁は凡そ、事実上の解体。
…いや、もしくはギルド管理庁の庇護の下─下位組織として再編成されるだろう。
そして、ALICEは体裁の良い操り人形の長官を手に入れる事になる。
ああ…。
このシナリオが一番しっくり来るな。
─誰が、この絵空事を描いたのか。
…全く、度し難いな。
「─そして、俺の役目はゴミ処理と言うことか」
俺達が仲間内で介錯し合っているのは、ALICEは把握しているはずだ。
そんな中、この大量な─人。
いや、壊れた人だった物を─ALICEの穴へ放り投げるという大罪は、普通の思考なら…考える事すら及ばないはずだ。
まるで、俺が─このような状況下となったら、どう行動するかを完璧に把握してる者の作為を感じて他ならない。
「─地獄、地獄…だな」
そして、俺達は…いや、俺は昭和記念公園のALICEの穴へと降りて最初にするのは─人殺しだった。
「─お前ら、待たせたな」
「護さ、ん…大丈夫です─か?」
「…ああ」
手は血でグチャグチャになっていて、短刀もグチャグチャだ。
そして、目からは涙が止まらない。
身体の震えも、ずっと続いていやがる。
「─行くぞ。俺達の指令を…果たさないとな」
「「…はい」」
そして、四層のセーフゾーンに…俺だけが、辿り着いていた。
辿り着いた時は、もう既に「護さ、ん─ありがとう、ござ、いま、した。私も…皆の、下に─連れて、行って…くだ、さい」と、最期の署員の言葉を抱き聞きつつ辿り着いていた。
「─ああ。お前も皆も、全員…俺が連れて行ってやる。だから、安心して眠れ」
「ありが、とう、ござ、いま、す─」
─ズブッと、未だに慣れない感触で…心臓に短刀を突き入れていく。
そして、目を閉じた隊員の経験値残量が0になっては─隊員の体温が緩やかに俺の手の中で消えていくのだった。
「─これで、満足か?」
きっと、声は届いているだろう。
─俺は今、完成された。
きっと、俺はもう人では無い…化け物になっちまったんだろう。
セーフゾーンで、1人可笑しく笑い叫んでしまう。
そうすると、俺の笑い叫ぶ声がALICEの穴の中に響いた影響か、ガシャガシャとトランプ兵達が俺目掛けて殺到してくる。
だが、セーフゾーンに入れないトランプ兵達はセーフゾーン前にてガシャガシャ─と耳障りの音を立てては、俺へと今直ぐにでも襲い掛かろうとしては立ち往生していた。
「なぁ…お前らは、なんなんだろうな? ─そして、俺も…何になっちまったんだろうな?」
短刀を投げ捨てて、俺は盾と剣を取り出していく。
俺は殺到しているトランプ兵達へと、その言葉を最後にして─立ち向かって行くのだった。
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