ALICE.4─選択。
「分かった?」
「いや、分からねぇよ」
「一緒にALICEの穴の最下層を目指したい」
「それは分かる」
「カズキと一緒に」
「そこが分からん。何故、俺なんだ?」
そう言いながら、ポケットを癖で探ってしまったが、アレが最期の1本だったか。
手持ち無沙汰になった手を、空中に投げ出しては、胡散臭げに俺は目の前の女を見てしまう。
…歳は若いな。
身のこなしは─分からん。
怪しい気配は感じ無いが、怪しい。
…良く分からん。
「分からないの?」
「ああ。俺はどうやら、ALICEのシステムでは出来損ないみたいでね。爪弾き者だからこそ、余計に分からん」
「それは…ごめんなさい。きっと、私が見出したのが原因」
「は?」
「だから、私がカズキを見出した。可能性があるから。…それにカズキは経験値が無いと生きていけない。貢献値はALICEが裁定する。弾かれているカズキには経験値が期待出来ない。なら、私と一緒にALICEの穴へ潜るべき」
「ッ! そうか、貢献値か。ハハッ! 爪弾き者の俺にはその恩恵が無いって事か! 全く、とんでもないALICE様だ」
「…怖いの?」
「は? 別にそう言うのじゃねぇ。断じて、違うぞ」
あぁ、癖でまたポケットを探ってしまった。
全く厄日だ。
「煙草─それも経験値で買える。ショップにあるはず」
「は? いや、そんなまさか。いや、あるな…」
確かに、ALICEのシステムを利用し、電子上で見ていると、経験値ショップがあり、そこで経験値にて決済出来るようだ。
これで食料も買えるということなのか?
…どんな原理だ?
「生きたいならば、潜るべき。カズキには選択肢は有るようで無い。さぁ、選んで─」
そう言って、目の前の女。
イノリは俺に手を差し出してくる。
掴むも、掴まないも─俺の選択次第って所か?
「分かった。これは生きる為だ。生きる為だからな」
そう言って、俺はイノリの手を取る。
何か、パスが通った気がしたが気のせいか?
「カズキは選んだ。私からカズキへ、特別にささやかなプレゼントをあげる。それで、カズキ自身のランクをアップさせて」
「ランク? ああ、この経験値の一定数に達したら行える機能の事か?」
─ランクアップしました。
─ランクに応じて、基礎体力が向上致します。
「ん? 軽くなった…のか?」
腕を軽く振ってみると、好調な時の、俺の身体の仕上がりに感じる。
身体も幾分か、軽くなったように思えるし、視野も広がったような気がする。
「これで、少しは戦えるはず」
「戦う? ALICEの穴では、何かと戦うのか?」
「トランプ兵が、居る」
「トランプ兵? イタズラか? 不思議の国のアリスでも模してるのか?」
「多分、そう。分かりやすいから、取り入れたのだと思う」
「いや、取り入れたって─はぁ、分かった。行けば良いんだな?」
「来てくれる?」
「ああ、行ってやるよ。どうせ、俺の今の生活は、今のままだと廃業だ。生きる為なら、ALICEの穴とやらにでも行ってやるよ。で、何処にあるんだ?」
「ここから近くだと…あっちの公園」
「ああ、観光スポットにもなってる。あの大きな公園か?」
「急がないと…封鎖されたら入れなくなる」
「…チッ、察が動いてるって事か? いや、公安なら、テロって扱いなのか? いや、平和維持の警邏の方か? 考えていても、埒が明かないか。分かった、急ぐか」
「ん…」
「…なんだ?」
「エスコート」
「…ッたく、わかった」
俺は、イノリの手を掴んで、雑踏の中を駆け始める。
先程の飛び降り自殺は、未だに周囲を騒ぎ立たせているが、それを隠れ蓑にも出来たのだろう。
俺はイノリの案内の下、ALICEの穴があるという公園へと、無事に辿り着く事が出来たのだった。
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