ALICE.36─拠点。
「─ハッ!」
不意に俺の意識が覚醒したのか、視界が開けていく。
まずは視覚情報から回復していったのか、青空が見える。
─俺は横たわっているのか?
そして、次は聴覚の情報が回復して来たのか、サワサワ─と、葉擦れの音か、花びらの舞い散る音か…いや、薔薇の花が舞っているのが視界に収まってくる。
「そ、うじゃ、ない…!」
段々と意識がハッキリしてきては、俺の記憶は少しずつ曖昧なものから、覚醒してきては、先程の戦闘の事を朧気ながらに思い出してくる。
とりあえず、俺は何とか身体を起こしては、周囲を見渡すと、まず始めに俺の目にはラキアの双剣が4振り視界に入って来たのと─その向こう側にイノリが、俺と同じく横たわっていた。
「イ、イノリ、…大丈夫か?」
「う、うーん…」
─息は、あるな。
俺の言葉に何とか、意識は朧気ながらに覚醒して来ているようで、まつ毛がシパシパと動いてから、瞼が開き─その綺麗な瞳が俺を捉えてくる。
「カ、ズキ…?」
「ああ。そうだ」
「う…ん、勝て、た…よかっ、た」
「…起きれるか?」
「…大丈、夫」
イノリの背中を支えるようにして、身体を起こしてやる。
そのまま、イノリと共に足を引き摺るようにしては支え合いつつ、共にラキアの双剣の所にまで辿り着き、お互いにラキアの双剣を、その手に所持する事が出来た。
「大き過ぎる、置き土産だな」
「─ラキアは良い人」
「敵だったけどな」
「…うん」
「経験値─流石に減って来てるな。空腹だからか? 何か食べないとだな」
「うん」
そして、まずは腹ごしらえと、俺とイノリは経験値ショップで買っていた備蓄の食事を手早く取る。
そのまま通信が復活してるのを共に確認しては、お互いに新しい情報を精査しつつ、集めていく作業に没頭していった。
「これは、地上に戻りづらいな?」
「でも、戻らないと─次、挑む時も同じになる」
「─うっ。イノリは一々、痛い所を的確に突いて来るな」
「…事実だから。私か、カズキが死んでもおかしくなかった。─あんなに強いとは思わなかった」
「それは俺の言葉だったりもするな。…って、思わなかったって事は、ある程度は予測してたのか?」
「…秘密」
「─だと、思った! …はぁ。とりあえず煙草、吸って良いか?」
まぁ、悪い気はしていなかった。
─1つの山場を越えたからか?
イノリと俺との間に、確かな信頼関係が築かれていくのを俺は感じていた。
とりあえず、ポケットをまさぐっては、煙草を取り出して一服に入る。
…落ち着く。
そのまま、暫く味わいを噛み締めるように吸っては、煙をゆっくりと名残惜しいように吹いていく。
「…地上には出るべきか」
「出るべき。逃げたくても逃げられないから」
「─確かにな。だったら、最初に向かう場所が重要になるか」
「…多分。ギルド管理庁が良いと思う」
「どうしてだ? …ALICEが管理してるからか?」
「うん」
「…はぁ。正直、俺はALICEの事は信頼出来ない」
「私の事は?」
「…出来る」
「大丈夫、配慮してくれるはず。そして、きっと私達の道は…選ばせてくれるはず」
「…随分と信頼してんだな」
「信頼はしていない。─知っているだけ」
「それは、信頼とは違うのか?」
「違う。信頼は一緒に共にしても良いと思ってる。知っているのはただ、本当に知っているだけだから」
「ま、何となくだが、イノリの言いたいことは分かった。なら、俺もイノリの事を信頼している。ALICEの事は俺の見聞きの範囲で知ってるだけだ」
「なら、知っている知識の深さが違うだけ」
「その理由は─秘密なんだろ?」
「うん」
「はぁ。それは、知ってた」
とりあえず、煙草は良い感じに吸い終わった。
─煙の形は綺麗だ。
俺達の幸先は良さそうだと俺は自分のジンクスに照らし合わせては思った。
「なら、俺達のこれからの方針はとりあえず、横穴から出て、真っ直ぐギルド管理庁に向かうか」
「─それがきっと、最善」
「最善、ね。…正解では無いんだな?」
「正解なんて無い。常に私達は目の前の事を選択するだけで、そこに最善か、最悪があるだけで、そのどちらかを私達が手繰り寄せるだけ」
「…為になる言葉をありがとな。なら、最善を目指すとするか」
「─私も手伝う」
「それは上々。尚更、期待出来そうだ」
「期待していい。だから、いつかお返しをお願い、ね?」
「なッ─!? イノリ…お前、冗談が言えたんだな?」
「─ん? 冗談なんて私は言わない、事実しか話さない」
「…そーかよ、へぇへぇ、分かったよ」
何故か、腑に落ちなくなった俺はとりあえず、誤魔化しの為では決してない。
だが、もう一本煙草を吸う事を決めては、ポケットをまさぐって追加の一本へ火を点けるのだった。
横穴に関しては、俺達は直ぐに発見出来ていた。
─俺達の居た場所がセーフゾーンになっていたからか?
そんな風にも思えた理由は、近場に横穴らしき、その存在が控えるように存在していたからだ。
横穴へと近付いたら、電子上の視界にて行き先の候補が出てきた。
行き先を意識するのと並行するように、横穴は歪んでは現れてを繰り返していく。
そして、固定された横穴には、俺達の電子上の視界にて、行き先の場所が表示されていた。
「─まぁ、1つだけだよな」
「うん。私達の入って来た場所は1つだけだから」
「なら、地上に行くか。場所は代々木公園の出口か」
「うん」
「ああ。じゃあ、行くか」
目覚めてから数日は経過していた。
死んでいなかったのは過剰に貯めていた経験値のストックのお陰もあったのだろう。
俺とイノリは身体の快復を待ってから、情報も改めてまとめ上げた後に、地上へ向けて、横穴へと潜って行くのだった。
「時間は地上は─夜だな。上手く闇に紛れて行くしかないか」
「ううん。それだったら、フードでも被って堂々と行ったほうがいい」
「そんなものか?」
「裏通りだと人は意識を過敏にさせる。表通りだと、人の注意は散漫になる。配慮してくれてるなら、脳に働きかけて、私達への認識を曖昧にしてくれるかも知れない」
「なあ、それって一般的には集団催眠って言うのを知ってるか?」
「知ってる」
「…普通にヤバくないか?」
「その説明は前にもした。私とカズキは影響を受けない」
「本当にALICE様々なんだな」
「うん」
「─はぁ、行くか」
「うん」
そして、地上に出た俺達は経験値ショップで買った変哲の無いフードを目深に被ってはギルド管理庁を目指して歩き始める。
「─ん」
「ん? …なんだ?」
「…手」
「…手?」
「繋ぐ」
「なんで?」
「…目立たないから」
「いや、そんな─」
「─繋ぐ」
「はぁ…分かった、分かった。─繋ぐ、繋ぐ。これで、良いんだろ?」
「うん」
とりあえず、俺達はイノリの要望もあっては、お互いに手を繋いでギルド管理庁を目指した。
結論から言ってしまえば、ギルド管理庁に入るまでは、俺達は気付かれる事もなかった。
流石に、受付の時には受付嬢がひん剥いた目をして驚いていたが、寧ろ俺からしたら何故、俺達が接触するまで気付かないのかが怖かった。
─いや、理由は知っている。
俺達へと意識をさせないように、注意を逸らされていたからだ。
逆に、俺達から接触する分は効果というか、働き掛けがオーバーフローでも起こしては、制限が無くなったのだろう。
やはり、実際に目にしてみると末恐ろしいものを感じるのだった。
「こちら、ALICEより、ギルド【ホワイト】にはギルドルームの利用が許可されています。どう致しますか?」
「─利用させて貰う」
「分かりました。では、そのようにこちらで手続きを取らさせて頂きます。重ねて、こちらお手許の方を確認お願い致します。ギルドルームを使用する際の諸々の注意事項になりますが…後ほど、ギルドルームまで持っていくように、こちらも手配させて頂きます」
「─ああ。宜しく頼む」
目の前の受付嬢の話が大切なのは分かるが、明らかに俺達の背後がざわついてるのが、俺にも伝わってくる。
─それにいち早く、受付嬢は気付いたのだろう。
受付嬢が、俺達に気を遣っては、俺達を早めにギルドルームへと案内してくれたのは僥倖だった。
「では、こちら。まとめた物が注意事項の書類になります。後ほど、サインを頂戴出来ましたら幸いで御座います。では、失礼させて頂きます」
そうして、ギルドの職員は去っていった。
注意事項の内容は基本的な備品等の取扱いが諸々と、温泉も併設されているので、その時間区分等、トレーニングルームや、その他食事施設の利用の諸注意等々だった。
後は支払いに関してと、月に一度以上のALICEの穴の探索の義務だった。
「─サインはこれで良いか。後で渡せば…いや、ここのBOXに入れておけば、後で受け取りに来るのか?」
ギルドルームには大きな居間と、各プライベートルームが備え付けられていた。
豪華な設備、部屋で凄いの一言に尽きるのだが─っと、言っても俺達は─俺とイノリの2人きりなので、そこまで広くても扱いに困りそうだと言うのが、パッと見の実情だった。
「…とりあえず、休むか」
「うん」
「こんな立派な部屋、初めてだ」
「…私も、初めて」
「そうなのか?」
「…うん」
あー、これは口が滑ったやつだな?
気まずそうなイノリの空気を察することにして、俺は口を開く事はせず、ただ静かに慣れない柔らかな家具に身体を預けることにした。
眠気は直ぐに降りて来て、俺が眠りに落ちるのは直ぐの事だった。
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