ALICE.30─折崎京也【─】
「ッ─たぁ!!」
ALICEの穴の中で横穴という物に出くわした俺は早速、その穴を利用して、候補の出口を選んでは、外に出る為に横穴へと飛び込んでいた。
「ハァハァ─ぬ、抜け出せた、のかぁ?」
─雑踏の音が耳元に聴こえてくる。
─そして、何とも言えない俗世の匂いが俺の嗅覚を更に刺激してくる。
俺は薄汚い路地裏から、地上の世界に這い出る。
…今、地上は夜みたいだ。
遠目には都の灯りが、俺の目に映し出される。
どうやら、俺は本当にALICEの穴から出られたのだと、この時、この瞬間を持って、俺自身に実感がやっと湧いてきたのだった。
「チッ。─クソッ、今の俺には無理だ。…いや、今はまだ─」
一度、慣れ親しんだ外の空気に触れている事で、精神状態が落ち着いてくると、それに伴い、判断能力も冷静に戻って来ては、先程のラキア戦の映像を振り返るように、俺の脳内で再生されては思い出して来ていた。
「…あの時、そうだ─」
セーフゾーンで身体を休めていた時だ。
丁度あの映像が電子上の視界にジャックされては流れて来たのを思い出す。
─そして、ジャックされた映像の中では、俺の良く見知った顔のアイツも映っていた。
いや、正確には隣には女も居たが、俺の目にはアイツしか映っていなかった。
「…爪弾きのアイツが?」
─チッ、腹の居所が悪い。
無性にイライラしているのが、俺自身でも分かる。
俺には出来ない事をしていた。
…あの映像を観ることで理解させられちまった。
これは劣等感だ。
俺は、アイツをどこか…いや、アングラの連中の根底には唯一のエラーのアイツを自然に見下していた部分があった。
俺にも有った。
だからこそ、こんなにも惨めな気持ちと、劣等感が俺に襲い掛かって来ているのだ。
ああ、認めたくないは無い。
俺は蔑まされるのは嫌いだ。
特に人から蔑まされるのは一番嫌いだ。
だが、それ以上に気に入らない事がこの世にあるのだとしたら、俺自身が俺自身を蔑む時だ!!
「─クソッ! この力は、この力は! …俺の力だぁ!」
通りのビルの外壁を軽く叩けば、バコッとコンクリートへと簡単にヒビが入る。
─なるほど、コントロールして叩けば問題は無い。
「そうだ、力だ。─力が必要だ」
─純粋な力だ。
そして、このまま行くと権力闘争の果てには、力の奪い合いになる流れになるのは、俺の頭でも簡単に分かる。
─これ以上、俺という存在を蔑まされるのは御免だ。
─これ以上、俺が俺という存在を蔑ますのも御免だ。
俺は強くならねばならない。
そして、俺という存在を俺が認められる程に確立させるのだ。
「俺は、このままでは…終われないよなぁ?」
俺は周囲に人が居ないのを確認し、ヒビ割れたビルの外壁を残し、闇夜に姿を溶かし─紛れ消えるように、その場を後にするのだった。
「あー、帰ってきた」
ドカッ─と、俺自身の慣れ親しんだオフィスの椅子へ身体を預けるように、帰って来て早々に俺は腰を落ち着かせていた。
…あぁ、安心する。
やはり、ホームというやつは良い。
─俺を俺として存在を整えられる。
そのまま俺は、少し身体を椅子に預けた後に、立ち上がってはタップリと身体の汚れを隅々まで落とすようにシャワーを済ませる。
そして、バスローブを着たままで、再び椅子に腰掛けては葉巻を丁寧に処理して一服吸っていると、ドタバタ─と、外からオフィスへ向けて、階段を駆け上がって来る音が、俺の耳に届いてくる。
「京也さん! ─京也さん!! …京也さんだ!!」
「あ? …うるせぇな」
「あー! ─ボス! …どこに行ってたんスか! 本当にどこに─」
そして、構成員のバカが、入って来ては、俺の面を見て、大の大人が恥ずかしげもなく泣き出していた。
「肇─ピーピー鳴くな。─うるせぇ」
「だ、だってボス…」
「おい、肇? …ギルド、作るぞ」
「ギルドッスか?」
「ああ、俺には。─俺達には必要だ」
「了解ッス! 構成員一同集めてきやス!」
「ああ。…2時間あればいけるか?」
「─はい! 皆、ボスの帰還待ってやした!」
「なら、2時間後だ。…集まって、ギルドを立ち上げて─方針を決めるぞ」
「─はい! 行って来やス!!」
また、ドタバタと階段を下っていく音が、オフィスに盛大に響き渡るのだったが、その時の俺の気分は頗る良いものだと、俺自身が感じ取っていたのだった。
「─ったく、そうだ。これが俺の日常だったか。ククッ、久し振りに1人の時間が長かったもんだから、気が昂ってしまっては、思考が鈍っていたかぁ?」
…ググっと拳を握れば、確かに、俺自身を裏切らない強い力がそこにあっては、俺に信じるに値するように跳ね返って来るのを感じる。
「ああ、そうだ。…じっくり、行こうじゃねぇか。ああ、着実にだ。ギルド機能? 良いじゃねぇか。それにラキアは言ってたなぁ? 人数を揃えて挑むってな。─ハハッ、やってやろうじゃねぇか。面白くなってきたなぁ?」
お気に入りの1本を椅子から立ち上がっては取り出し、丁寧に開けてはグラスに注いで飲むと、これまたより一層深みを舌に感じさせては、芳醇な香りと共に、美味しく喉元から俺の魂を潤すように流れていった。
「ああ、これは戦争だな。─戦争の始まりだ。ここから、始まるぞ。そして、俺達はここから始めるぞ。…待っていろ、俺は─俺達は俺達を証明してやるからなぁ?」
既に、その序曲はポーン担当のラキアを撃破した瞬間から怒涛の如く、流れているのを感じる。
そして、2時間後には俺の下にメンバーが集まり、俺はギルド【Amber】を─ここに結成したのだった。
俺は、俺達はここから始める。
その存在証明の為にも、俺達はポーンを目指して動き始めるのだった。
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