ALICE.28─ポーン担当【ラキア】
「…よし、行くか」
「─うん。行こう」
例の大扉の前に俺とイノリは立っていた。
─ALICEの穴、4層のボス部屋だと思われる扉の前だ。
ランクアップは30の上限まで既に上げきった。
各種スキルに関しても、経験値ショップで買えるものは買い揃えて、上げれる所まで上げきった。
回復類含めて、道具類もある程度は備えた。
─武器と防具に関しては大丈夫だ。
防具に限ってはレアドロップのチェスターコート★4が2人分手に入れられたのが幸いした。
お互いに双剣★4の装備も似通っているのでペアルックと言われたら、紛うこと無きペアルックだろう。
─いや?
ここに来て、俺は何を思ってるんだ?
これからの事とは関係の無い事を考えていた自分に対して笑みを零してしまったのをイノリに気付かれては「なに?」と、イノリに言われたが「何でもない」と、俺は軽く言ったが誤魔化しきれただろうか?
「まぁ。とりあえず、行くか」
「─うん」
─今は目の前の現実に、そろそろ向き合わないと行けない。
俺とイノリはお互いに顔を見合っては頷くのと同時に、それぞれ気持ちを固めて、大扉に手を当てては押し開けていった。
─2人で扉を開いて、中を見やるとどこまでも暗く黒い空間が広がっているようだった。
2人で、大扉の中に入ると途端に空間は濃淡な白い霧に覆われては、何も見えなくなっていく。
俺とイノリはお互いに離れないよう、隣同士になるように身を寄せ合っては、白い霧が晴れるのを、ただただ待つ事になった。
だが、俺達が思ったよりも、そんなに時間が経たずとも、白い霧が晴れていくのと同時に、俺達の目の前には先程の暗く黒い空間ではなく、別世界とも思える広大な空間が目の前に広がっていた。
まず初めに、俺達の目に飛び込んで来た光景は、遠くに王城が見えては、その周囲の庭園を守る様に柵が拡がっており、庭園に入る為の大扉の部分には大きな2つの水晶が仄かに光り輝いていた。
その光景を見ている間にバタン─と、俺達が入ってきた大扉が閉まったのだろう。
大扉が閉まると同時に、俺達だけが、この世界に取り残されたかのように錯覚してしまう程に、空間が─静寂に包まれていく。
上を向いたら、ALICEの穴の中との違いは、直ぐに気付けた。
そこには、穴の中とは違い、確かに空があっては、その空模様はどんよりとした曇り空だ。
そして、俺達の背後の大扉は閉まった後に消失したのだろう。
俺達の背後にあった大扉はいつの間にか消えており、俺達の後ろには広大な森が生い茂っていた。
サワサワと耳元をくすぐるように聞こえる音は森からの葉擦れの音か、はたまた、庭園の花びらが揺れる音か、静寂を破るように俺達の耳に音が届いて来ていた。
─良く見たら、薔薇だな。
俺とイノリは歩き出しては庭園に近付いて行くと、花の種類が薔薇だと気付いた。
そんな少し注意が逸れた隙を見計らったかの様に、柵の大扉に備え付けられている水晶の1つが眩く光り輝くと同時に一際輝いたかと思えば砕け散った。
─そして、砕けたその場で、目の前の空間が歪んでは1人の人物が、いや、男がそこから現れたのは同時だった。
「あー、んー、ダリィ…な。ん? あー、やっと、お客さんが、来たって事か? ん、反応が薄いな? それに2人ぽっちか? …あー、凄いな、お前ら? 2人ぽっちでここまで─到達したって事なのか? マジで? マジか? へぇ~、やるじゃねぇか。ってか、お前らが最初の到達者な訳? ─は? 人類何やってんだ? 腑抜けてんのか? バカなのかぁ? 死ぬのか? 死にたいのかぁ? 死にたがりだってんだ? バッキャロー? ファック─!!」
「なんだ、アイツは─」
「…気をつけて、アレでもボス」
「ん? ─あ? ボスってオレ様のこと、知ってんのか? あ? あー、分かんねぇな? なんだ、お前? いや、待て。お前達、存在が─変だぞ? ALICEの影響が無いのか? へぇ、それに…なるほど。この出会いが、人類にとって初めてなのか! なるほど、このオレ様が一発目って事か! ─いいなぁ! 最高にクールだ! あー…人類のお前ら、見ているか? あー! あー! おー、おー、掲示板が盛り上がってんなぁ? 中継もしっかり、出来てるって事かぁ? なら、オレ様が、動かないお前らのケツを引っ叩かないといけないよなぁ─!? ああん?」
「…アイツ、本当に大丈夫か?」
「─黙って、それに多分。もう、これは中継されている」
「─は?」
「あー、正解だ。嬢ちゃん! 飴ちゃんあげようか? アヒャヒャヒャ!! なぁんて、な! 代わりに俺の口上を聞かせてやろう! 耳をかっぽじって良く聞きやがれ!」
そう言って、スッと─姿勢を正しては目の前の男の雰囲気が水を打ったように先程とは劇的に変わっていく。
「困難に立ち向かおうとするお前達に告げる! 俺はポーン担当のラキア様だ! クイーンがお前等を待っている! さぁ! その手でキングを奪うんだ!」
「クイーン? ─キング? そして、ポーン担当?」
「ああ、俺様はポーン担当だ。全部で8柱居るポーン担当の内の1人だ。オレ様に最初に出会えた事を光栄だと思えよ? 折角だから、レクチャーをしてやる! 次に進む為にはお前等は─あぁ、名前が付いてるな? ALICEの穴? ─最高な名前だなぁ? イカしてるぜ、お前等! そうだ! ALICEの穴は8箇所ある! そして、俺はその内の1箇所を担当している。もう一箇所から来ていたら─そうだな? あっちの水晶が光っては俺じゃない奴が担当してただろうな? それはツマラナイよなぁ?! そして、逃げる事は不可能だ! ─いや? 慈悲深いクイーンはシステムを組んでやがるなぁ! 挑んだ半数が死ねば、出口が現れるらしいな! ─ハハハ! 最初の穴蔵に雑魚は逃げ帰れるって訳だ! ALICEの穴からの脱出? あぁ、それは簡単な話だ。始まりの1体を倒せば、それぞれの穴の場所で入り口が出口になっては、穴同士でも横穴が出来るらしいぞ? 記憶、し、た、か? ─横穴だぞ? 横穴は今までの行った穴の中での望みの場所へ繋がるらしいな? 出口、地上も然り、今まで行ったことある場所、そして、それぞれの担当の洞窟の一層目だ! ─はぁ~ん? もう随分と潜ってるバカも居るみたいだな。ん〜? 助けを待ってるのかぁ? ─ハハハ! バカだな! 助けか! 助けだって、さ。─始まりの1体、そうだ、このオレ様だ! こ、の、オレ様をお前達が倒せたら、その機能が解放されるんだろうな! そして、これが一番重要だったなぁ? 世界のカウントダウンは真実だ。伸ばしたいなら、俺様達を倒せ! そして、クイーンへと謁見するんだな! …クイーンはお前達を待っているぞ?」
「…話は終わりか?」
「お前、クールだな? いや、影響を受けてないから判断が真っ当なだけか?」
「それはALI─」
「─おっと、それは言わせねぇぞ? お前の、いや、お前らの目は冷静だな。なるほど? ホワイトか」
「─ッ!」
「…イノリ?」
「何でもない」
「─ハハハ! これは愉快! これは傑作! 付属が主軸に迫ろうとするか!」
「それでも、私は─」
「お前達はホワイト! そう、今! この俺様が指定してやるぜ!」
─ギルド【ホワイト】が設定されました。
「なんだ、これは?」
「…あー、情報が入らないのか? なら、俺を倒せばALICEの穴での情報制限が解除されるから分かるだろうなぁ? ま、死んだら分からんままだろうが、その時はそこまでの価値だったって事だろ? ─なぁ?」
「言わせておけば、お前─」
「ラキア様だ! オレ様の名前だ! 良く覚えとけ、クソ野郎が! イキるのも強さを見せたらにしな! 運命に選ばれたお前でも、強さが無ければ意味がねぇ! 良く覚えておくんだな!」
「なっ!? …運命?」
「あー、長く話し過ぎちまったみたいだな。観客も事情は把握しただろ? ─掲示板は俺も見えてるからなぁ? 政府? 公安? 警察? お笑い草だな。お前ら─そのままだと、簡単に、死ぬぞ? カウントダウンは進んでるんだぞ? お前らの目は節穴なのかぁ? それに力を付け始めてるのは既に居るぞ? お前等の事は誰が守ってくれるんだろうなぁ? ─ALICE? あー、既に最大限、お前等を助けてるよなぁ? お膳立てはされてるだろ? 勘の良い奴は分かってるよなぁ? ─後は動け! それがお前等の唯一生き残る道だ。…さて、話は終わりだ。俺の役目のお尻ペンペンも済んだって事で良いだろ? お前達はこの困難に立ち向かわなければならない! 生きる為だ。─なぁ? だから、簡単に死んでくれるなよ? オレ様を絶望させるなよ? ラキア様だ! その名前をしっかり、胸に─心に刻みやがれ!!」
「カズキ! 来る─!」
「分かっ─ッ!?」
─速い!
最大限に備えに備えたはずのステータスやスキルを置き去りにするレベルの速さだ。
「─ハハハ! 良いな! 最高だぜ! オレ様達はな? パーティーでの戦闘が基本視野なんだ。多ければ多いほど、大勢の死傷者の可能性が出てくるが、代わりに俺は弱くなる。─だが、な?」
ガキン─ッと、迫ってくる刃をイノリが受け止めていた。
「人数が少ないほど、俺は強くなる。─当たり前だよなぁ? デメリットの逃げる為のリスクが減るんだから、ヨォ? ハハハ! ─生きて、みやがれッ!」
「─カズキッ!」
「─ッ!?」
─連撃だ。
ラキアも双剣使いだった。
俺への連続攻撃を、全力の並列思考によって最善を叩き出しては、攻撃を弾き返しつつ、逸らせているのは、俺自身でも分かる。
そして、既に一瞬にして目眩を覚える程に俺の視界はチカチカと点滅する様に危険信号を鳴らしては、脳も同様に煮え滾る程に熱くなっていく。
だが、一人ではラキアの攻撃を凌げないでいるのが実情なのは、捌ききれないラキアの双剣の斬撃が俺に傷を付けていくので目に見えていた。
─クソッ!
「バァカ! 全て受け切れる訳ねぇだ─ウォ!?」
「─させない!」
そんなラキアの俺への連続攻撃を展開している横合いから、イノリがラキアに襲い掛かっては連撃が解除される。
─ハァハァ。
─クソッ。
─地力が違い過ぎる!
いや、そうだ。
本来は大人数って、ラキア自身が言ってたじゃねぇか!
「─クソッ!」
「ハッ! 今頃、しっかりと連携してくるか! 甘ちゃんが!!」
「─るせぇ! うるせぇ!!」
イノリの攻撃の隙間に差し込むように、俺は双剣を振るっては手数で勝負を、ラキアに仕掛けていく。
─アレだ。
一拍に何手入れられるかで差が生まれる。
最初の頃にイノリが教えてくれた話が並列思考の中の、1人の俺が思い出しては思考していた。
─一拍だ。
一拍の内にラキアより手数を増やせれば、勝てる。
それが常勝の理だ。
「─ッ! 気付きやがったか! だが、オレ様もポーン担当ッ! ─舐めるなよッ!!」
ラキアの視野の外側、外側へと─イノリとはお互いに反対に位置するように動きつつ、手数でラキアを攻め立てていく。
多数の切り傷が、イノリと俺に付いていくが─そのくらい幾らでもくれてやる。
─いや、イノリの肌に傷をつけるのは許せねぇ!
「ハァァァァッー!!」
俺? イノリ? はたまた、ラキアか?
─いや、一切合切含めて、俺達の声だ。
─全力だ。
全力で攻め立てては一拍、一拍に打ち出せる手数の最高スコアを叩き出すように双剣を俺達は振るっていく。
─目の前のラキアより、多く─より更に多くを叩き出して振るっては、ラキアの攻撃の手を潰していく。
そして、いつの間にかラキアからの攻撃が途絶えていては、俺達の中に未だに流れている一拍の長さも遠くに、遠くに─時間を置き去りにしていくように流れていった。
「─カハッ。やれば、出来るじゃねぇか…」
「…お、終わったか」
「…ああ、終わりだ。─俺の経験値は全損だ。見ろ? お前達に渡ってるだろ? へっ、大切に使えよ? あー、こういうのは褒美とか必要なんだっけなぁ?」
「…ゲームみたいな事を言うんだな」
「…確かに、笑えねぇな。けど、それもクールだろ?」
スッ─と、ラキアは双剣を掲げては地面に突き刺す。
「─やるよ」
「…良いの?」
「─はっ、嬢ちゃんの分は…作れそうかぁ? ─ああ、俺の残ってる権限を全て使えば創れるか? ─ハハッ! 気張れよ? オレ様達はまだ7体は居るからな。強ぇぞ? オレ様達はよ!!」
「お前─」
「─ラキアだ! ラキアって、名指しで呼ぶの許してやるよ。…本当はラキア様だから、な?」
「ああ、分かった。…ラキア」
「─ハッ! それで良い! それがいい! クールだぜ、カ、ズ、キ?」
「…そりゃぁ、どーも」
「逝っちゃうの?」
「あー、オレ様は逝く。付属なんて、言って悪かったな? ─お前はお前だ。…気張れよ?」
「うん」
「─おい、カズキ!」
「なんだ?」
「…嬢ちゃんを、ヨロシク、な?」
「…分かった」
─真剣な目で、ラキアに頼まれた。
ここに来て一番、覚悟が込められた目だと俺は感じた。
「…俺が逝ったら、ここは一時的にセーフゾーンになる。だから、ゆっくりしていけな? だが、次の水晶─アイツが目覚めたら、ここは戦場になる。注意しろよ? ま! 後は、また別のヤツらから詳しく聞いてくれよな? 皆、話したがるだろうからよ」
「おい…ラキア、お前本当は─」
「─それ以上は口にするんじゃねぇ!! しみったれたのはオレ様は嫌いなんだ! 分かるよな? ダッセェだろ? そんなのはオレ様には似合わねぇんだよ。─じゃあな! 悪者は悪者らしく消えるだけだぜ。オレ様のご褒美、上手く扱えよ─分かったな?」
そう言って、ラキアはパァァァ─と消えて逝っては「カランカラン」と、二振りの双剣が追加で地面に落ちて来るのだった。
──レアドロップ【ラキアの双剣★】×2
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