ALICE.27─4層。
「─右─左─左─後ろに下がって、…ここだなッ!」
─ブンッ!
─ブンッ!
─ブンッ!
そんな風切り音が、トランプ兵達の武器が通過する際に、俺の耳元で聞こえつつも、俺は丁寧に攻撃を避けては─最後にトランプ兵達の攻撃が空いたスペースへと短刀を滑り込ませて1体を、もう一方で、空いた手に持つ短刀でも、更に追加で1体のトランプ兵へ急所を刺してはトランプ兵達を地に沈めていく。
そして、最後に残っていた戸惑うトランプ兵へとスッ─と接近しては首へと最小限の攻撃で仕留める。
「─ふぅ、とりあえず3体なら余裕だな」
「お疲れ様」
「そっちは4体だろ? 良くやれるもんだな」
「─慣れた。カズキも直ぐに出来るようになる」
「慣れねぇ。…この並列思考って奴は、やっぱりどこか、ややこしいな」
─感覚的には俺の中に、また俺が居る感じだ。
並列思考のスキルを購入して使ってみたは良いが、常に意識的にやれる状況なら、まだ使い勝手は良いかも知れないが、無意識下で戦闘をこなしつつ運用するとしたら、話は大きく変わって、人によっては発狂するだろうなというのが、俺の見解だ。
…但し、使いこなせた場合の、その恩恵は凄まじいものがあるのも事実としてある。
特に、その真価が発揮されると思ったのは、双剣スキルを使用した時だった。
右手と左手をそれぞれ意識して動かせるし、敵の攻撃のタイミングや、直感や予測もそれぞれ、別の俺が役目を受け持っては立ち回れている気がする。
─これは、レベルが上がると、果たしてどうなっていくかは怖い所でもある。
「…スキルレベルが上がると、俺という思考機関が増えるのか?」
「─多分、そう?」
「いやいや、イノリ。そこで多分は止めてくれ。…お前は既に、レベル2だろ? 2人居る感覚はあるのか?」
「─ある」
「…そうか」
…なるほど、俺が2人も増えるのか。
なんだ、それ?
人間の脳って、そんな事が可能なのか?
単純に想像するだけで怖い案件だな。
…いや、だが─多重人格の人物とかの説明がそうなると現実的に出来なくなるか。
主人格は俺で後は…副人格って所か?
あー、そう考えると、すんなりと俺の中の違和感が解消されていく気がする。
─なんだかんだ、受け入れられそうな気がしてくる。
慣れた方が一番良く、更に手っ取り早いとイノリに助言を貰っているのも有って、俺はそれから、その違和感にも慣れるため、お互いに良く話し合う事に決めたのだった。
「…カズキ?」
「あー、すまん。副人格と話してた」
「なるほど、カズキは─そんな感じで受け止めたんだね」
「イノリは違うのか?」
「どれもこれも全部、一切合切、私なのには変わらないから」
「あー、そういう。まとめて、私っていう考え方か。並列思考のスキルは、スキルへの見方というか、考え方を、自分の中で定めないと、普段使いすらも出来なさそうだな」
「…うん、定められなかったら、たぶんパーン! って、なる」
「で、た! パーン! ─それ、本当に怖いからな? って、並列思考を俺に、いの一番に勧めてたよな?」
「カズキなら大丈夫かなっ? って─」
「…勘弁してくれ。まぁ、事実助かってるし、それが無かったら4層は無理だったと思うから、感謝はするが、余り知りたくない事実だったな」
…まぁ、確かに冷静に考えると、この並列思考のスキルは、今の俺達には必須だと思えそうだ。
正直に話しても、トランプ兵の数字の4は強い。
─っと、いうか。
戦いながら、俺は思ったが、ランクアップ上限は多分、この数字の4のトランプ兵達の強さを参考に決めてるのではないのだろうか?
俺の予想の範囲内でしか想像は出来ないが─きっと、ランクアップを前提としたゴリ押しで、ALICEの穴をただただ、突き進んでいたりしていたら、確実に躓くだろうという想像だけは容易に付いた。
後は一度、実験的な意味合いもあって、俺とイノリとで、お互いに離れて狩ってみたら、敵の強さに変化があり違ったのと、同時に経験値の取得量が違ったのも分かった。
─その結果を踏まえて逆算的に考えてみる。
ゲームとして照らし合わせるように予想をとりあえず、立たせてみると、パーティー単位で人数が多くなると敵が強くなったり、更に一人当たりの取得経験値量が少なくなっていたりの可能性はあるはずだ。
…確か、俺の知っている定番的なゲームのセオリーとしての機能があったとしたら、そういった具合のシステムというか、罠みたいなものが採用されていたと思う。
─何も知らずに、ただただ人数だけを大量に揃えては潜って攻略しようとするならば、そんなシステムが本当に採用されているとしたら、とても嫌な─残酷で凶悪なトラップへと成り代わっては牙を剥き出しにして、何も知らない羊達へと襲い掛かるんじゃないかと、そう─思考が結論に達した俺は一瞬、肝が冷えた時の事も思い出してしまった。
「…どうしたの?」
「いや、色々と思い出してた。あー、思い出しついでだが、あの扉何だったんだろうな?」
─4層攻略中に、俺達が出くわした大扉だ。
明らかにボス部屋ですよ! と、いう感じの威容で、そこに目を引く形で、その大扉は存在していた。
とりあえず、俺達は引き返しては─イノリとセーフゾーンで話し合っている、今現在に至る訳だが。
「…ボス部屋だと思う」
「…だよな。何となくだが、そうじゃないかと俺も考えてた。それに、これは感覚的な話になるが、あのボス部屋の中のボスを倒すと、世界のカウントダウンの数字が増える仕組みなんだろうな」
「─たぶん」
「イノリのその─たぶんは、間違いないって意味だと俺は受け取るぞ?」
「…」
「─否定は無し、か」
「はぁ~」と、咥えていた煙草の煙を吐いてみると不定形な形だ。
「幸先が悪いと見るか─いや、この後の事を考えると試練が有るって感じか?」
俺の中のジンクスが発動したみたいだ。
─とりあえず、覚悟だけでも決めないとだな。
「…もう少し」
「─ん?」
「もう少し、4層で絶対に大丈夫になるまで強くなったほうがいい…と思う」
「…分かった」
「多分、こうやって稼げるのは今だけだと思うから」
「─分かったが、深くは聞かないぞ? どうも、アレだろ? 秘密の部分に抵触するんだろ? なら、イノリを俺は信じてみるさ。ここまで来たんだ。ここいらのトランプ兵からの経験値がミジンコ並になったら、挑むとするか」
「─うん、それで良いと思う」
「…マジか」
いや、イノリは冗談は中々言わない奴だったな。
─それに目が中々に本気だ。
なるほど。
それほどまでに、中のボスは危険って事か。
俺は─俺達は覚悟を決めてはその日から、本当にトランプ兵からの経験値がミジンコ位になるまで、経験値ショップから戦闘補助ツールを購入したり、その他の生活用品や、武器、防具を買い占める勢いで網羅していった。
更にレアドロップとして双剣★4、イノリの分も合わせて2つ落とすまでは命を削るように、イノリと共に4層にてトランプ兵達を狩り尽くしたのだった。
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