ALICE.22─渡会 護【刑事部捜査一課】
「─護さん! 今現在の怪我人、多数! 人数の把握は困難です!」
「─チッ! 怪我人を下がらせろ! 回復薬で回復終えた者から、逐次戦線に復帰! 敵を、トランプ兵達を片付けろ!」
「─はいッ!」
指示を出しつつ、俺も戦線に再び出てはトランプ兵達との戦闘に対応していく。
─クソッ! 数字がたったの1つ増えては、2になっただけで攻撃も物量も全体的な質量が、更に上がった気がする。
それに、先程からチラチラと経験値消費を確認してみれば、傷付いたら減少するのは当たり前だが、トランプ兵達を倒した際の入ってくる、経験値の実入りが変動している気がする。
まさかとは思うが、対応する人数によって、強さや取得経験値量が変わってる気さえする。
「─ほんッと、ゲームみたいだな!!」
剣を振るえば、何とか最初に襲い掛かって来た1体のトランプ兵を相手取れた。
しかし、まだまだ奥からワラワラ湧いて来てるのが、俺の視界には映っている。
「─階層を上がれ! 戻るぞ!! 一旦、立て直す!!」
「は、はいッ!」
俺は現状では、2層の踏破は難しいと判断し、即座に撤退を選んでは、俺達は上層へと戻るのだった。
「─死傷者は?」
「なんとか、防げました。ですが、回復ポーションの効果の効きが悪く。全快までは時間が─まだまだ掛かりそうです」
「─皆の残存している経験値量は?」
「1階層では何とか狩れますので、それに近くに居るか、お互いが認知しているようならば、経験値も分配されるようです。比例して、敵の強さも相応に上がるようですが…」
署員の顔がそう言っては、目に見えて暗くなる。
暗に、ここから先の調査に絶望しているのだ。
─俺達は生き残れない、ここで無残に死ぬのだと、彼ら、彼女らは既に死相を顔に浮かべているのだ。
仲間を切り捨てるのは俺もしたくはない。
だが、その分近くに仲間だと認識する人間が居る限りは、敵が相応に強くなるのだ。
そして、致命的だとも言えるが、戦える人数が減ると当たり前だが、誰かを守りながら戦う限り、更に苦境に陥るのが目に見えている。
かと言って、仲間が倒されたら相手の経験値になっては、最初に潜った時のように数字が上がるかも知れないという危険性も同じく孕んでいる。
「…袋小路って、事か?」
「護さん、堅実に行くしか─」
「ッ! …そうだな、お前の言う通りだ」
確かに、その通りだ。
押し通る事なんて、そもそも現状では出来ない。
なら、人数が少ない方が良いかと言われると、そうでは決してない。
囲まれたら、俺達はカバーも碌に出来ずに、そこで対処が遅れたら、それこそ一貫の終わりで、生存への可能性も致命的になる。
一長一短、メリットとデメリットがハッキリしていると言えばいい。
─舐めていた俺達がいけないのだろう。
それに関しては悔やんでも悔やみきれない。
以前の俺達が掲げていたのは平和や正義であった、だが、今現在の俺達が掲げているのは生きるという物だ。
それは、何よりも優先されて、行動指針に関しても、それに類する事が俺達の中では共通事項として、先決になっていた。
「とりあえず、まずは怪我の回復だ。それが済み次第、何度でも2階層に進んでは突破口を開くぞ。それしか、俺達には道が無い─」
「ここで、待っては…」
「もう、1ヶ月は後少しで経つんだぞ? 誰も来ていない、今の現状を冷静に見ては考えるんだ。その考える思考から逃げたら、本当に俺達は生き残れなくなるぞ? お前はそれでいいのか? 良く聞け、そもそも、入り口が1つとは限らないのと、もし、入り口が1つだとして、俺達が居る場所に運良く、救助や援軍が到達するかも分からない。そもそも、俺達は全滅しかけたんだ。そんな状況下の中で、五体満足で俺達の下に、希望は駆け付けてくれると思えるか? 俺は決して、そうは思えない。もっと、現実的にシビアに考えるんだ。俺は、俺達は甘い考えで、このALICEの穴の中へと入ってしまったんだ。もう、俺達には猶予が余り残されていないのかも知れない。このALICEの穴でさえ、ずっと存在し続けるかも、俺達には分からないだぞ? 俺達の今の状況はそれほど切迫しているんだ。もう、甘い考えでは生きていけないと、お前も分かっているだろ?」
「…はい。すみません、私の考えが甘かったです」
署員はそう言って、深々と俺に対して頭を下げてくるが、正直な所勘弁して貰いたい。
「─なんで、俺にいちいち確認する」
「貴方が、今はこの隊で一番上なのと、貴方が私達の希望であり、一番に頼りになるからです!」
「…はぁ。分かった」
そうだ、俺の上司は死んだ。
最期まで、甘い考えだったと思うが、人を助けては散っていった。
だが、俺は垣間見てしまっていた。
あの心優しき上司でさえ、自分の死を本当の意味では考えてはいなかったのだ。
上司が死ぬ際の表情は人を助けられての安堵の表情では決して無かった。
まるで、自分が死ぬことを信じられないような表情をしていた。
どこまでも夢想家で、その夢想の下には現実的な考えやリスクや責任を放り投げていたのだろう。
平和な世界なら、それは確かに機能するかも知れない。
人によっては美徳だと言われてもおかしくは無いだろう。
だが、今は違う。
常に死と隣り合わせの現実だ。
誰かを助けるという事は、自分の命を削るという事だ。
それは一重に言っても愚かな事だと言えるだろう。
曰く、甘い考えだとも言える。
いや、思考を俺も放り投げてはいけない。
今は、そんな愚かな夢想家だった上司は居ない。
─そして、俺が確かに役職では今現在を持って上だ。
「─クソッ!」
とりあえず、噛み殺したい気持ちに喝を入れては、俺は立ち上がる。
回復ポーションに怪我の治りが早くなる治癒の包帯、経験値ショップ頼りになるが、今はこれが有って助かったと言える。
─そして、俺達は数週間後には2層を狩れるようになっていた。
その勢いで、俺達は少しは絶望の中での歩き方を覚えたのだろう。
その勢いのまま、三層へと挑む事にした。
俺達はあの地獄のような死地の経験を活かし切れたのだろう。
あの時と同じように何度も死線を彷徨うような状況に陥っては、同じように今度は2層に戻っては、生死の境を彷徨いながらも復活しては突破口を切り開くように挑んでを繰り返して、やっと3層へと辿り着く事が出来たのだった。
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