ALICE.18─信仰⇔新興。
「全てはALICE様の御心のままに─!」
「─御心のままに!」
「─御心のままに!」
「「─御心のままに!!」」
─ああ、良い。
そうだ、これが清く正しい、あるべき姿。
私が配属されていた教会は、私が押さえた。
…同じく神は違えど、信奉する精神性は同じであろう神父が、私の崇高な考えを理解出来なかったのは、どんなに哀れな事だろうか片腹痛い。
「異教徒が!」と、叫んでいたが、私からすると、この崇高な考えが分からない、あの神父こそが異教徒だと私は思う。
「未来様、我々はこの後どうすれば?」
「─ええ、ALICE様の導きは受けています」
私の住んでいる高層マンションから、その穴は既に見えていた。
まるで、そこへ行きなさいと─ALICE様から啓示を受けたが如く、私の目には見えていたのだ。
「私達はALICE様の啓示の下、皇居外苑のALICEの穴へと向かいます! 各自、武器とスキルを選びなさい。これはALICE様からの恩寵です! 心して受け取るように!」
私の高らかな声は教会に盛大に響き渡り、その声を受けた信徒達は涙を流しつつ、ALICE様に感謝を捧げては準備にその身をやつしていくのだった。
私はずっと、ALICE様からの連絡の全てを網羅して来ていた。
収納スキルというのは捧げる必要経験値消費が大きい分、有用なのだろう。
とりあえず、これは私の経験値を捧げて、恩寵を授かると決めている。
「さぁ、敬虔なる信徒達よ、今こそ行きましょう! 神の啓示は公安、警察は未だに受け取っていません。私達だけの導きです! 今はただ、その導きのままに突き進みましょう。その先へこそ、私達の本当に求められてるモノがあるはずです!」
「ああ、ALICE様。─未来様。私達は貴女に着いて行きます」
「聖女、未来様!」
「─聖女!」
「─聖女!」
ああ、救われるべき人は、民はこんなにも居る。
行きましょう。
私達の神の為に。
私達が救われる為に。
─【ALICE教】はその為に、ここにあるのですから。
「─ああ、これで…自由だ」
俺は何にも、持っていない。
いや、既に持ち合わせなんて、俺には無かった。
なけなしの経験値で俺はギルドを作った。
──【ピースメーカー】平和を齎す為に。
俺、朝霧 翔平は世間でいう所の、紛うことなき社畜だ。
だが、可笑しいと思わないか?
俺はその違和感に疑問を常々、抱き続けていたのかも知れない。
俺達はいつだって、同じ適性の下で振り分けられたはずなのに、そこには確かに明確な、何故か上と下があったのだ。
俺は今は中間管理職というやつになったが、俺だけは割に合わない業務量を周囲の奴らに押し付けられては、その周囲の奴ら含めて、俺を見て見ぬ振りをする他の奴らは、定時前には上がっては、常に楽しそうに笑い合っては、この後の予定をお互いに明るく話し合っていた。
ALICEはそんな俺の感じる不平等には何も言わない。
密告もしては見たが、俺の密告はどこかで必ず握り潰されていた。
だが、確かに言える事は、ALICEには届いていたはずだ。
何故なら、ALICEを通して俺は密告をしたのだから、俺の置かれている状況の辛さと、違和感と不平等さと、この事への改善依頼と、対策などを、思い付く限り俺は書き込んでは送ったのだ。
だが、結果はどこかで握り潰された。
─いや、違うな。
ALICEが取り合わないなら、問題は無いと役所含めて、関係各所も動かなかったのだろう。
だって、ALICEがそう判断したのだからな。
そこで、判断は終わりだ。
だって、それが正しいのだから。
─なぁ、本当の平和ってなんだ?
なんで、お前らと俺は違う?
…同じような仲間は俺が立ち上がったら、思いの外居たという事に俺は驚いた。
そして、俺の下に─これまた驚いた事に集ってくれた。
「翔平さん、翔平さんが立ち上がってくれたから、俺達はここに居るんスよ!」
「翔平さんが動かなかったら、私たちはただ、死んでました。いいえ、死んだ生活を生きていたんです」
「…だが、先立つものが─俺にはお前達に与えられない。ごめんな、俺の軽はずみな行動でお前達を巻き込んだのかも知れない」
「そんな事、言わないでくださいッスよ! 俺達は行動すら出来なかったッス。翔平さん、貴方は俺達の希望なんスよ!」
「あ、あれ? 翔平さん─アレ、なんですかね?」
そう言われて、俺はギルドメンバーの指し示す方向を見てみると─そこには先程は有ったのだろうか?
まるで、俺達を迎えるかのように、ポッカリと穴が開いていた。
「ALICEの穴? 上野公園にも有ったっていうのか?」
「翔平さん! 翔平さんが動いてくれたから、神は見捨てなかったんスよ!」
「ばっか! 神なんか居るもんか。居たらとっくに俺達は救われてるわ! これは翔平さんが引き寄せたんだよ!」
「「─確かに!」」
ハハハ! と笑い合ってるメンバー達がそこには居た。
だが、俺はそんな笑い声を思考の隅に置きつつ、冷静にその穴に意識を向けつつ、思考していた。
まるで、その穴から視線を逃す事を、思考を放棄することを許して貰えないような、プレッシャーにも似た感覚の錯覚さえしてきている。
─警察と公安もまだ認知していないALICEの穴?
そして、中にはトランプ兵というのが居るんだったか?
確か、戦って勝てば経験値を貰えた…だったよな?
なるほど。
神様か。
言い得て妙だ。
もし、そんな存在が居たと言うならば、こんな状況になるまで手を差し伸べなかったのは些か不愉快を覚える。
そして、こんな状況に差し迫って、今さら何かが起こっている。
これは俺を誘っているのだろうか?
先程から、俺の意識はALICEの穴という存在から逃げる事は出来ないみたいだ。
ならば、そこまで誘って来ると言うのなら俺は─。
「なぁ、皆、聞いてくれ。俺はもう先が無いから、残りの経験値で武器を買っては逝ってくる。だからお前達は─」
「何言ってんスか! 翔平さんが行く所は俺達も行くッスよ! それで力を付けて─どんどん救いましょうよ! 俺達みたいな、どうしようも出来ない仲間を!」
「おっ! それは良いですね! 行きましょうよ、翔平さん! 私も、着いていきますよ!」
「お前ら…分かった。行こう、俺達の未来は俺達の手で作って行こう。俺より先には絶対に死ぬなよ?」
─涙が自然と溢れては、出てくるのは許して貰いたい。
…何ていう幸運に俺は恵まれているのだろう。
神なんてものは俺は全く信じられないが、俺は今の幸運には確かに感謝を覚えるし、何よりも幸運だと言える彼らとの出会い、彼ら自身との確かな絆は、信ずるに値するものだと俺は確信する。
そして、俺達は心を新たにしては目の前に現れた、上野公園のALICEの穴へと入って行くのだった。
─都内では、今はまだ誰もが見向きもしていないだろう。
いや、気付いてもいないだろう。
だが、確かに─そうやって新たな信仰ギルドと新興ギルドが出来ては、まだ公安局、警視庁にさえ、把握されていない、ALICEの穴へと彼女ら、彼らは潜り込んで行ったのだった。
御一読頂き、誠に有難う御座います。
宜しければ応援、ブックマーク頂けると嬉しいです。
応援は下の☆☆☆☆☆になります。




