ALICE.16─八重森 紗奈。
「紗奈さん、この辺りは安全になったとみますか?」
「どうかしら?」
とりあえず、私は刀を一振りして─血糊を落とす所作をするが、トランプ兵に血などは無いようだ。
刀を確認する限りは血の跡も、トランプ兵達にも目立ったような出血の後は見られない。
ただ、確かに手元には切った感覚が返って来ており、何かを切断してる感覚はある事から、その出血の有り無しの違和感からの、何とも言いようの無い気持ち悪さは今も私の中で燻るようにしては生きている。
「誠一郎くん、外との連絡は?」
「以前として繋がりません。いえ、繋がる気配さえも無さそうですね」
「そう。…分かったわ」
─とりあえず、今現在の私達の置かれている状況を整理しようと私は思う。
東京都庁に現れたALICEの穴に、私達が入り込んでいるのは確かだ。
今、現在、現時刻を持ってして、該当のALICEの穴の中を彷徨い歩いているからだ。
他にも上げるとしたら、私達以外の人とも擦れ違っていない状況から鑑みるに、他に入り込んだ人、及び、巻き込まれた市民や、迷い込んだ一般人は現時点で確認出来る限りでは居ないとの判断は出来そうに思える。
「私達以外の応援や、その他、人が居たり、来る可能性は有るでしょうか?」
「どうかしら? 外部との通信は途絶えているでしょうし。何よりも警察も独自に動いていると局長は言ってたでしょう? 私達にも余力がある訳じゃないから、きっと現状を見る限りは応援の可能性も、その他、人が来たり、居たりする可能性は現状を見据える限りでは薄いんじゃないかしら?」
「そうですね。私の浅慮な発言、申し訳御座いません、紗奈さん」
「そんな事無いわ。色んな視点の見方も出来るから、状況を整理するのにも役立っているし。何よりも私は誠一郎くんが居て…その、私は安心してるもの」
「そんな、私は! ─いえ、お守り致します、紗奈さんを絶対、この命に代えても」
「そんなに私の為に思い詰めないで。…私も誠一郎くんの事を絶対に守るから」
別に、今は─付き合ってる訳じゃない。
でも、私の思い違いや、一方的な思いじゃなければ、私達は両想いだと私は思いたい。
そうじゃ無ければ、恥ずかしくて、私は本当にどうにかなってしまうと思う。
けれども、お互いにプライベートというか、公私は使い分けてる気がしている。
私自身も仕事に際しては、それは真面目に向き合っている。
ただ、どうしても、この殺伐とした状況下の中では─きっと誠一郎くんも少しは私情が出てしまったのだと、私でさえ、同じようなものだったので思いたい。
とりあえず、先程の私を思ってくれている発言はちょっとだけ─いいえ、本当は凄く嬉しい気持ちを振り払っては、私は再度、現状を確認していく事に努める。
「経験値は貯まったわね。逐次、ランクアップと─後は、安全マージンを確保して、今夜も寝泊まり出来る安全な場所の確保が急務よね?」
「セーフゾーンと言えば良いのでしょうか? 確かに、このALICEの穴に私達が入り込んで数日が経過していますが─突然、現れた気がしますね」
誠一郎くんの言う通りだ。
私達が入り込んでから─少なくとも数日が経過しているのは確かだ。
それまでの私達の寝泊まりは、出来る限り、見通しや、物音に気付ける場所。
もしくは、迎撃に向いてる場所を宛もなく探しては、何とか見付けては少ない仮眠を断続的に取っては、何とか進むことが出来ていた。
だけれども、幾らか訓練をされているとは言っても、私達にも限度や限界はある。
体力的にも、精神的にも、危険な領域に差し掛かろうとしていた私達は、今日も少しでも休もうと決めては、少しでも安全な場所を探していた際に─セーフゾーンと表示されて、その場所は私達の前に唐突に現れていたのだ。
そして、その─グレードと言えば良いのだろうか?
セーフゾーンと偏に言っても、その設備や豪華さと言えば良いのだろうか?
その内容は千差万別と、私達は見るようになっていた。
私が思うに、一番良かった時は小屋も併設されていて、シャワーと湯船も小屋の中には存在しており、経験値を消費すれば利用出来るようになっていた時だった。
あの時の私は、心なしか幾分か気分が向上したし─誠一郎くんに断りを入れてから、一番風呂を頂いてしまったのを思い出してしまう─。
「…とりあえず、セーフゾーンを探しましょう」
「ええ、私も賛成です。それに─やはり先程の戦闘音でトランプ兵が、私達に気付いていたようです」
「…なるべく、継続戦闘は少なめで行きたいわね」
「ええ。私達、2人きりですからね」
「…誠一郎くん、戦闘は最小に抑えるように注意して行きましょ」
「─はい。どこまでも、お供しますよ紗奈さん」
そして、私達は出来る限り戦闘回数を抑えるように立ち回り、トランプ兵達との接敵回数を最小限に収めつつ、ALICEの穴を─まずは身体を休められるセーフゾーンを目標に据えては、慎重に調査を行っていくのだった。
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