ALICE.11─折崎 京也。
『お前はゴミ虫だ─』
そう、叩き付けられた気がした。
今でも鮮明に覚えている。
夢にでも出てくる位だ。
─義務教育。
その終わりの果てで待ち受けていたのは、ALICEによる個人個人の適性結果だ。
「君の適性は無しだ」
「─は?」
俺は一瞬にして、頭が真っ白になった。
いや、真っ白になった事さえ、最初は気付いてもいなかったかも知れない。
まるで…俺だけが、この世界の爪弾き者みたいだと錯覚したくらいだ。
いや、錯覚じゃない。
確かに、俺はその時その日から、世界に、周囲に─言葉そのままの通りに爪弾き者になったのだ。
いや、なったんじゃない。
俺は爪弾き者にされたんだ。
「いや、まだだ─まだ、アイツ程じゃない」
そう─その言葉を吐くのが、俺の口癖になった時期もあった。
アイツとは、路地裏に住んでいる─本当にこの世界、この社会からの爪弾き者の、アイツの事だ。
ALICEというシステムからも、放逐されている存在だ。
─確か、適性結果は「エラー」だったはずだ。
この世界、この社会─何処ででもアイツは異端者扱いをされていては、疎まれては居場所を奪われ、時には得体の知れない存在として、認知さえされないで生きていて、運が良く認知されても、やはり─その特異性から叩き出されては、遂には光のある場所では満足に歩く事も出来ずになった。
アイツはその後は面白いように、落ちるに落ちて、転がりに転がっては闇の底の底、アングラもアングラな世界で、今も生に必死にしがみついては、虫の息だが彷徨っていると噂を聞いては、興味本位で覗きに出向いて─俺も初めて見た時は驚いたもんだった。
「ま、だからこそ。俺達みたいな適性無しの心のオアシスに、アイツはなってるって訳だ」
俺達のシノギは酒や煙草などの横流しだ。
…結構ギリギリな、合法の麻薬も取り扱ってもいる。
ALICEはアングラ製品を毛嫌いしている?
─バカだなと、俺は思う。
所詮は、適性無しの働き先はココなんだ。
そして、そのシノギを作ってるのも結局は詰まる所はALICEだ。
清濁併せ呑むとはこういう事なんだと思ったよ、俺は。
「…だから、そんなALICEからも見放されてるアイツは、本当の意味で。この世界、この社会からの異端者なんだろうなぁ」
俺達は俺達で、やはり痛みを知っている。
いや、痛みを知らざるを得なかった。
結局は俺達は皆、光に見放されたのだ。
光の中で育てられては「お前には価値が無い」と叩き付けられて、その時に、俺達の光は敵に変わっては俺達の排除に動き出したのだから。
そして、俺達は皆─仲良く落ちて、転がっては闇の世界へと来た。
だから、光がアイツに手を差し出さないなら、俺達が─闇が手を差し出すべきだと。
まぁ、所詮は強がりだな。
だから、俺はシノギの手伝いをアイツにさせては─幾ばくかの賃金を払っていたが、まぁ…。
「─状況が変わっちまったなぁ」
トントン─と。
机に、例の武器を叩くと小気味よい音が鳴っては返ってくる。
こんな武器は普通はどんなに求めても、滅多に─いや、市場に出回るはずがない。
それに、武器という括りにもなり得る商材や、武器自体は公安や警察の十八番で有り、保有するとしても認められているのは彼らだけだ。
そもそも、ALICEによって、それらに該当し類する物は厳重に管理されているはずだ。
「─ッたくよぉ、碌でも無い事が起きる気配しかしねぇな」
「京也さん! 大変ッす!!」
「あん? どうしたぁ?」
「あのバカが…! バカが! ちょっと、みかじめ料取ろうとしたら警察の囮だと知らずに…! それに警察の相手も最近、ヤバい噂のハメを外すやつで!」
「なに、やってんだぁ? …ったく、行くぞぉ!」
「へいっ!」
そして、着いてった先では、今にも殴り殺されそうなバカと、今にも殴り殺そうとしては、イキリ立ってる警察のバカが二人居て、俺は何となしに、そのまま持って来ていた短刀で威嚇のつもりで、突き出したら、それを碌に確認もしない警察のバカがそのまま突っ込んできて─。
ガタガタ─ッ!
「ッ!」
察に、それに公安と、俺の初めてのモテ期が到来か?
─はっ、冗談も大概にしてくれ、ふざけんなッ!
公安の奴らは、さっき何とか返り討ちに出来た。
あの警察のバカを殺してしまった時に大量の経験値─いや、多分、あの警察のバカが保有していた経験値が俺に渡ったんだろう。
俺が、それを使ってランクアップしたのが功を成したのか?
取り敢えず、俺は─公安の奴らを返り討ちにする事が出来ては捕まらずに済んだ。
「ったく、安易に安眠も出来やしねぇ」
それに認めたくは無いが、俺の逃げ場が確実に狭くなっては、無くなって来ているのを感じる。
旧市街地に逃げて来たのは良いが、奴らが包囲網を縮めて来ているのが、そして、その脅威が確実に迫って来ているのが肌で感じ取れるような錯覚に─俺は陥ってしまう。
「…年貢の納め時ってやつかぁ?」
…こうやって、そんな風に考えちまう現実を押し付けられる身としては、溜まったもんじゃねぇな?
とりあえず、まだ逃げ道が無いかと、下水路を覗いて見たら─こいつは、下水路じゃない。
何か空間が、抜き取られたかのようにポッカリと空いては、暗い穴が俺の目の前─そこにあった。
「あー、これ。ALICEの穴って、やつかぁ?」
いったい、幾つあるんだ、これは?
むしろ、こんな所に─お膳立てするように有っては俺は、一種の怖さを感じちまう。
「何処に居る!?」
「─物音が聞こえたぞ!」
「ま─だが、俺には選択肢は無ぇよなぁ?」
俺は見事に犯罪者として取り上げられていた、Aちゃんねるを見た限りでは、最早、誰もが知る有名人だ。
そもそも、俺には残された選択肢は無い。
それに、俺にはもう─これ以上の逃げ場も存在しない。
「頼むぞぉ? 俺は、まだ死にはたくねぇ。みっともなくても生き残ってやらぁ。まだだ、まだ─俺はこんな、しみったれた人生にした、あいつらは許せねぇからなぁ?」
…ああ、そうだ。
こっちが闇で泥水を啜ってでも生きている間に、光に居る、あいつらは楽しそうにお日様の下で、なぁんも考えずに、まるでこんな幸せは永遠に続くと信じて止まない顔で生きていやがる。
それは違う。
俺達は居ないように、見えない様に、光の奴らは闇に蓋をして覆い隠しているが、俺達は泥水を啜ってでも生きている。
あいつらがしない、必要悪を俺達がやっている。
あいつらの幸せの下には俺達の闇が、絶望が横たわっている。
─まだ、俺はもっとやれるはずだ。
─まだ、俺は諦めるには早いはずだ。
─まだ、俺は生きて生きて生き抜いてやるんだ。
俺は、覚悟を新たに決めては─ALICEの穴へと落ちて行くのだった。
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