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その3日後、神様は僕の興味心を考慮してくれたのか、彼女と再び出会うチャンスをくれた。図書館という避暑地で、昼間の猛暑を回避し、夕方頃いつもの帰り道コースで帰宅をしていると、あの公園にはあの夕立の日見かけた彼女の姿があった。それもまた、滑り台の上に立っていた。昔から、自分から話しかけるのが得意では無い僕だったが、彼女には不思議なくらいスムーズに話しかける事ができた。

 「空…好きなの?」

 「…」

彼女は僕の言葉など始めから聞こえていないかのように、ただ呆然と夕空を眺めていた。

 (初対面でいきなり図々しかったかな…)

 「あ…この前夕立があったでしょ?その日も君、そうやって空を見ていたからさ…ちょっと気になってて…」

 「…。あなた…。この前、私の事ずっと見てたよね?」

ゆっくりと目線を僕に移して、彼女はそう言った。

 「え…こっち見た感じなかったのに良く分かったね。」

「そりゃああれだけ凝視されれば、誰だって気がつくよ。」

 (いや…草食動物みたいな目の付き方してなきゃ分からない場所にいたんだがね。)

 「こんな場所で立ち話ってのも難ね。」

そう言うと彼女はスルッと滑り台を滑って、ブランコの方へと足を進めた。彼女の近くにきて分かったのだが、彼女はかなり背が高めだった。僕より少し背が低い位なので…168くらいだろうか。

 「…ん?どうしたの?そんな挙動不審な顔して。」

(…失敬な)

「いや。なんでもないんだ。」

彼女の隣のブランコの腰掛け、さっきの話の続きを切り出した。

「それで、君は何でずっと空を見ていたの?」

「この場所から見る空が好きなの。家の窓から見る空と、旅先で見る空は違うものでしょ?」

「まあ…そうだね。それで…なんでこの公園なんだい?」

「小さい頃ここで遊んだの。昔いた場所には、昔置いてきた思い出もそこに一緒にある でしょ?それを心に感じながら見る空のなんて美しい事か…ってね。」

目をうっとりさせながら彼女は淡々と場所の魅力を語り始めていた。…今まで、ここまで変わった女性と出会った事があるだろうか。いや、変わっているというよりもかなり独特な価値観みたいなもの。それが彼女からは感じられた。

 「あなたは空が好きなの?」

「僕はそこまでロマンチストでもないし、センチメンタルになる事もないんであまり良 く見るって事はないかな。ただ…空は魅力的だとは思うよ。決して途切れる事のない、 唯一無二のモノってね。」

「今、恐ろしくロマンチックな発言をしたの自分でわかった?」

「質問が既にロマンチックだったからだよ。」

「自覚はないっ。」

「同じく。僕もだっ。」

こうやって人と、ましてや異性と話すなんていつぶりだろうか。自然に流れるような会話が、こんなに楽しいなんて今まで思った事もなかった。

 どれくらい話しただろうか。空は蒼色に染まり、ヒグラシが疲れたように小さく鳴いていた。空では月が、今からは自分の時間だと言わんばかりにテカテカと光を放ち始めていた。

 「明日も図書館にいるの?」

「うん。あそこは僕の第二の家だからね。」

「ふふ。インドアな人なんだね。」

「別に否定はしないさ。」

「あたしも多分図書館に行くと思う。図書館では私語はつつしむように…?」

「偶然会ったらちょっと外でお茶でもする?」

「あら、私固い女だよ?」

「んぐっ…そんなつもりで言ったわけじゃ。」

「んぐ!だって。ふふ。ジョーク。じゃあ…またね。」

彼女はそう言うと勢いよくブランコから飛び降りて図書館の方へ早足に帰っていった。初対面であの女性と、こんなに話すなんて思いもしなかった。時計の短針が8を指している事に気付く。そしてあまりに予想していた時刻と違っていたため、一人で呆気にとられていた。

 帰り道、何故だか僕は身震いのようなものを感じていた。退屈な日々になにかとてつもなく刺激的なものが入ってきたような、乾いていたサラサラの心に夕立のような雨が降ってきたような、そんなもどかしく、達成感のようなものに包まれていた。

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