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案の定、僕はずぶ濡れになっての帰宅となった。少し急いで帰っていたせいで途中の階段で足を滑らせるわ、こうゆう日に限って道路が混んでいて横断歩道で待たされるわ、腕時計も壊れるわ。一時の青春にしては、随分な代償だったと思う。
玄関で服を全て脱ぎ、洗濯機へ放り込んだ。そして、そのまま風呂場にいきシャワーを浴びる事にした。雨に打たれ、少し冷えた体にかけるシャワーと言うのは、本当に格別だとつくづく思う。それは、風呂上りに飲むビールのような、食後の煙草のような、そうゆうレベルの幸福感だ。
シャワーを浴び終え、リビングで髪を乾かしていると、帰り道に見かけた少し不思議な女性の事を思い出した。
丁度、家と図書館の真ん中位には、公共の公園がある。さほど広くもないが、滑り台やジャングルジムもあるなかなか立派な公園だ。
そこの前を通った時、公園を横目でチラリと見てみると、滑り台のてっぺんに女性が立ち、呆然と空を見上げていた。呆然と、コンクリート道の真ん中、ただ一つ蒲公英が咲いているかのように、静かに、力強く、彼女の姿はあった。
始めは不気味に思えて、見なかった事にしようと目線を元に戻そうとしたが、何故だか僕は、その女性から目を離せられないでいた。
薄いピンクのキャミソールに、真っ白でふんわりとした感じのロングスカート、セミロングのミルクティー色をした髪、顔は横顔だったからよくわからなかったけれど、少し高めの鼻という事は分かった。
公園という空間にどこからかコピーペーストされたように浮いている彼女。しかしその彼女の雰囲気は、先程まで降っていた夕立の雰囲気と似ていた。
一目惚れしたわけでは無いが、あんな人がなぜこの夕立の中、公園で、しかも滑り台の上に立って空を眺めていたんだろう。僕はあの女性のしていた不可解な行動を知りたくて仕方が無かった。「もう一度会えたら…」そんな事まで考えていた所で、なんだか自分がストーカーのように思えてきてしまい、一気に我にかえる。
その後の事といえば、鞄を窓際に乾し、軽く夕飯がてらカップ焼きソバを食べ、特に意味もないが早めに寝る事にした。