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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者39 特別であること

 冒険者の公務員化。


 これが何を意味するのかと言われれば、正式に国家の勢力に組み込まれることになる。


 未来では冒険者の引き抜きは日常茶飯事だった。有力な人間を既存の待遇よりも更に良い待遇で他国が招き、国籍の変更までして移動する冒険者は非常に多い。


 これが代えの効く人間が残っていれば影響は最小で済んでいたが、国家のメイン戦力として君臨している人間が引き抜かれるとパワーバランスに大きな影響が発生してしまう。


 冒険者の質を量産するのは難しい。特に唯一無二の特殊職を持っている場合、億の金を掛けてでも同じ人間を増やすのは不可能だろう。


 良き人間を国家が逃がしたくないのは世の常だが、今回の公務員化はそれをもっと困難にすることに繋がる。


 バイトよりもなるのが難しくなる代わり、一度なればちゃんと時給制ではなくなる。


 福利厚生もバイトより手厚くすることが出来る。特に初級の冒険者は生活費を稼ぐのも困難を極めてしまい、他との兼業で働いている人間は多かった。


 これを家賃補助然り、新たに冒険者向けの助成金を設けることで冒険者に専念させることが出来れば、素材の流通で利益を得るのも簡単になる。


 勿論、敵を倒せるのが前提条件だ。普通の生活は望めず、生と死が隣り合わせの環境で暮らすことになる。


 それが精神的ストレスになるのは避けられない。なろうと思ってなった人間には文句を言うなと言えるが、なりたくないのになってしまった人間には正気を削る日常に同情してしまう。


 特に始まった頃の冒険者の死者数は普段であれば絶対に無視出来ないものだった。あれを仕方ないと未来の人間が思えたのはそれ以上の凄惨な現場が無数に転がっていたからであり、今の時勢では明確な保証が無ければ非難どころでは済まされない。


 それをするにも公務員としての地位を与え、同時にここまでするのだから他国に亡命するのは許さないと犬になることも命じていた。


 これをどう受け取るかは人それぞれだが、労働の対価が釣り合っているのであれば俺としては文句は無い。


 何をもって対等とするかは難しいものの、少なくとも苦労した甲斐があったと思わせてくれたのであれば冒険者は即座に逃げようとはしなくなる。


 要は他と一緒だ。労働条件が良ければ逃げないし、それが悪ければさっさと他所に行くだけ。


 冒険者を一職業の範囲に収めることで社会の枠組みに落とし込み、日本政府は通常の循環に戻ろうとしているに過ぎない。


 故に、早期に問題を解決したいのである。それがゴリ押しであると誰がどう見ても。


 ニュースではこの会見内容に賛否両論だ。比率で言えば否の方が多く、そこには冒険者そのものに対する偏見もやはり混ざっている。


 戦闘を基軸とする仕事を担えるのは、やはり理性よりも本能を優先することが出来る人間だ。


 端的に言えば短気で粗暴な人間程適当であり、そんな人間が社会的活動をすることなど出来ないだろうというのが否定派の主張である。


 他にも新たな公務員職を作ったとして、その給与や施設の確保に予算を捻出することが出来るのかと経済的な指摘もあった。


 税金の使い道に疑問があるのが国民の本音だろう。分かり易く不透明になりやすいものが出現したのだから、疑念や文句が噴出するのは避けられない。


 ただ、未来を知る身としては間違いとも言い切れなかった。


 今はまだ混迷の時間の中に世界はあるが、出現したダンジョンには利用価値がある。これまでの情報からダンジョンを沈静化させれば外部に被害は起きず、中の素材は金銀財宝に等しい。


 破壊された街を復興させるにも金が掛かる。それを国民の血税のみで賄うのは絶望的だ。


 加えて、自衛隊もそこに注力させる訳にはいかない。警察は治安維持を第一としているのだからダンジョンに突入させるなんて論外だ。


 金が要る。管理に人手も欲しい。両方同時に手に入れるには、やはりダンジョンを利用して財源にする他ない。


 幸い回復薬はこれまでの常識を覆す程の回復力を有している。モンスターの角や爪は通常の武器では傷一つ付けられない敵を殺せてしまい、洞窟を掘れば用途は定かではないが鉱物を手に入れられる。


 利用しない手はないだろう。これを輸出品目に加えれば、どんな国でも欲しがるに違いない。


 備えておけば他国でダンジョンが発生してもモンスターを殺すことが出来る。完璧な対応は難しいものの、日本からの応援を待つくらいは時間を稼げるだろう。


「――で、俺にこれが届くと」


 散々に騒いでいる世の中を他所に、伯父の家のポストには一通の封筒が届いた。


 市役所から送られてきた専用封筒の中身は、当然だが税金の支払い用紙などではない。


 あるのは冒険者管理組織への推薦状。筆記、実技試験や面接の全てを免除しての特別枠として正式な形で俺を冒険者にする誘いだ。


 今後、俺が金を稼ぐ方法としてこの組織への所属は避けては通れない。


 素材を手に入れるにも、金を手に入れるにもここに入るのは絶対。家族に迷惑を掛けないくらいに稼いでいくなら、どうしてもこの路線は外せない。


 推薦状には家族に話す日時についても書かれている。まだ世間では求人募集を開始しておらず、この間に仕事を辞めるなり家族を説得してほしいのだろう。


 腹の立つ話だ。何が腹立つって、今回も俺の意思を無視しようとしているところだ。


 俺は個人で動きたいのに、このままではチームプレイを求められる。


 それが俺自身の生存を第一としていると分かっていても、こっちとしては余計なお世話でしかない。


 自由に活動することが出来るからこそ俺には多量の金を得る機会を手に入れられるのに、相手は金銭を得る方法そのものを縛りにきている。


 こうしている場合ではない。封筒を家族の誰にも見せずに自室に隠し、メールで老人と顔を突き合わせる時間を作った。


「……いきなり話がしたいとは、中々急な話だな」


 場所は普段使いの喫茶店。


 奥の机で向き合い、ブラックのコーヒーを飲んでいる老人を睨む。


「言いたいことは分かっているな」


「……はぁ」


 自分でも分かる程に苛立ちの混ざった声に老人は溜息を漏らす。


 それが俺の苛立ちをますます加速させるが、激昂しては時間を作った意味が無くなる。


 怒りに任せて机を殴れば今の俺では破壊してしまう。目の前で湯気を立てる紅茶も、力任せに握っては砕け散るだろう。


「あの脅しだけで俺が大人しくしていると思っているのか? 邪魔する気ならこれ以上の協力は不可能だ」


「邪魔する気は無いとも。 君と敵対する気も無い。 君を殺すのに一体どれだけの被害が出るかを考えれば、友好的である方が良いに決まっている」


「で?」


「これは君が推薦状通りに行動した後に話すつもりだったが、今話しておいた方が良いのだろう。 ――特別枠の意味を」


 老人はコーヒーを一口飲み、語る。


 特別枠。それは一見すると俺のように特殊な事情のある人間を入れるための枠だと思っていたが、政府内での扱いは俺の想像以上に重い。


 緊急時の冒険者への命令権。単独でのダンジョン挑戦権。事情次第では入手したアイテムを私的に使う権利も有し、更に税金の完全免除もあった。


 代わりとしてダンジョン攻略の先鋒を務めることになり、他の冒険者の戦力増強にも積極的に協力していかなければならなくなる。


 道具や武具の開発にも口出しが出来るが、その結果マイナスになった場合は負債を本人が背負うことになってしまう。


 自由を与えよう。その代わり、責任も与えることになる。


「現状、この枠に入っているのは君一人だ。 他に現れれば我々は慎重に判断して入れることになる。 席数は十。 十人がこの枠に入った段階で特別枠は使用不可になる」


「――どういうつもりだ」


「感謝だよ。 これで日本は守れる。 更に他国にも恩が売れる。 数年は騒がしくなるだろうが、その時が過ぎれば人々は揃って理解してくれるはずだ。 政府がここまで押し進めた理由を」


 口が捻じ曲がるような感覚を抱いた。何とも言えない感情に、自分の額に皺が寄るのを避けられない。


 老人はにんまりと口元を緩めた。その顔は、正に今の俺と正反対だった。

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