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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者38 剥離拡大

「いらっしゃいませー」


 平日の仕事をしている時間は、トラブルはあっても普通の範疇だった。


 冒険者の話題なんてテレビの中やネットの海だけで、職務に忠実な時間はまともな世間話一つしていない。


 これだけだと周りの奴等にハブられているように見えるが、一応は仕事上の話はしている。


 単に俺が彼等に興味を持っていないだけだ。周りも俺の態度で気安い関係を築くのは止めて、あくまでも業務上必要な会話に留めていた。


 不和を生まない程度に表情は笑みで固定していたのだが、やはり接客業をしている人間は他人の表情に勘付き易いのかもしれない。


 俺が仲良くする気がないと向こうは分かってしまった以上、私的な付き合いは皆無だ。


 彼等のプライベートを俺は知らないが、彼等も俺のプライベートを知らない。そして、この関係はどっちかが仕事を辞めるまで継続されるだろう。


 オーナーは店に頻繁には訪れない。


 週に二、三日しか店に訪れず、する仕事も基本的に事務作業ばかり。給料や税金計算、バイトの面接、従業員との会議等々。


 責任者としてやれることをやっているので何も文句は無い。過度なパワハラも基本的な給料未払いも未だ起きておらず、本人が優しい性格をしているお蔭で喫茶店の循環は非常に順調だ。


 ――だが最近、そんな順調な日々に文字通りの異変が訪れていた。


「おう、来たぜ!」


「よ、ようこそ……」


 車椅子に乗った赤毛の少女。伊月・桜は今日も明るい笑みを浮かべて喫茶店に来ている。


 俺は護衛に軽く頭を下げて障害者用のテーブルに彼女を案内し、桜は何が楽しいのか終始笑みを浮かべてメニュー片手に此方を見ていた。


 桜が此処で俺が働いていると知ったのは、老人に教えてもらったからだ。


 将来的にどうなるかはさておき、今の俺達は一つの勢力になっている。やはり仲間内で不和があってはならないし、過度でなければ人付き合いはしておいて困ることはない。


 老人としてはここらで俺をもっと縛りたいのかもしれない。何せ現状、俺がミヤ様の勢力に入っているのは脅迫の結果だ。


 褒められない方法で他者を縛れば、縛鎖が千切れた瞬間に簡単に裏切る。老人としてはそう考え、プラスの意味で鎖を巻きたいと考えた。


 全ては俺の想像に過ぎない。だがあの老人が安易に俺の情報を他者に漏らすとも考え難い。


 使えると判断し、それを桜に流したのであれば腑に落ちる。まぁ、何の許可も無しに教えるなんて論外だが。


 お蔭で帰り道では文句のために電話をすることになってしまった。


 ただその文句も、老人がのらりくらりと躱してしまって然程効いているとは思えない。こうやって面倒な人間関係が構築されていくのだと思うと、何だか無性に叫びたくなってしまった。


 詫びの品としてダンジョンのアイテムでも持ってこいと最後に怒鳴って、以降は向こうからは何の連絡もない。


 無視したのであれば、その報復は絶対に重くしてやるつもりだ。


「…………」


 桜は基本的に学校の終わった夕方から夜の時間に訪れる。


 ウチは二十四時間営業はしていないので、夜の二十時には営業を止めて店仕舞いを始める。


 実際に家に帰れるのは二十一時くらい。その頃には桜も居なくなるが、彼女は何故か俺の働いている様を眺めてはデザートと紅茶を楽しんで帰る。


 人によって好みに差はあるだろうが、桜は美少女の部類だ。護衛が居たとしても夜の時間に彼女が居るのは止めておいた方が良いと言ってみたものの、どうしてか妙にご機嫌になってデザートの数を増やしていた。


 彼女が明るく言葉を返してくれる相手は俺だけだ。


 他の店員が対応に動いた時には、優しく丁寧な口調で彼女は喋る。


 そんな露骨な差があれば、周りの従業員だって俺と彼女の間に何かあるのは分かるだろう。


 注目の視線を受けるのはほぼ日課になってしまった。もしも従業員達と仲良くしていたら今頃根掘り葉掘りと関係を聞かれていたに違いない。


 さて、そんな中でも世の中は一気に次へと動き出す。


 日本の安全は冒険者が居るお蔭で現状はほぼ保てることがはっきりした。モンスターの数はダンジョン内で討伐することで調整可能であり、これからも逐次討伐していけば溢れ出すことはないだろう。


 だが、ほぼと語った通りに完全ではない。この安全を崩す最大の要因は、次のダンジョンだ。


 これは何処でも話題になっているが、ダンジョンの出現に明確な理由がない。これは未来でも同一であり、予言者が公表することもなかった。


 問題の根底が明らかになっていないのであれば、また次があると考えるのは自明の理。


 日本政府は冒険者を自衛隊や警察とは別個の組織として運用していかなければならないと語った。


 その意味は、つまり冒険者を日本が保有する第三の武装組織として認めることになる。これは方々で議論を巻き起こした。


 第一に、ダンジョンは命のやり取りが前提の仕様だ。一般人が冒険者になったとしてもいきなり命のやり取りが出来るとも思えず、そもそもそんな仕事は自衛隊がやれば良い。


 第二に、仮にこのまま冒険者を組織として運用することになったとして、一線を画するほどの基礎能力の差異は治安の悪化を生む。


 それを解決するために治安維持組織である警察を冒険者にするとしよう。では警察が間違いを起こした時、自浄作用が確りと機能するだろうか。


 ただでさえ警察内部で不祥事が発生することがあったのだ。冒険者の力に酔って警察が犯罪を犯した時、止められると断じるのは難しいだろう。


 今の日本人が冒険者を受け入れるには、前提となる危機感が不足している。故に議論が平行になるのも自然の流れであり、このままでは外国に差を縮められるだろう。


 今思えば、未来で日本人が冒険者として積極的に活動するようになるまでの時間は早かったのかもしれない。


 俺の目では遅く感じられたが、悲劇が全国で起きたから日本人はやる気になった。


 モンスターを倒す過程で冒険者になってしまった人間も居ただろう。その管理も、未来の政府では急務だった。


 未来で作られた冒険者用の法律や施設は悲劇があったからこそ迅速に進んだのだ。ならそれがなくなれば、こんな風に荒れ放題となるのも避けられない。


 人は痛みを覚えて初めて対策に動く。痛みを知らなければ想像することが出来ないから、それが致命傷になるとしても一度受けねば理解出来ない。


 これは長い話になるだろうなぁ、と俺は思っていた。それはきっと老人も同じはずだ。


「……うぇ!?」


 だから、一週間後に流れた会見に目を見開いた。


 喫茶店には店内の真ん中から四方に四台のテレビが吊り下げられている。そのどれもが同じ番組を映しており、暇潰しに客や従業員がテレビを眺めていた。


 本日の会見も大した進展は望めないに違いない。そう推測していた俺は、大臣の一人が放った冒険者の運用方法に非常に驚かされた。


『我々政府は冒険者を第二の国防組織として運用する予定であります。 自衛隊とは別種の対ダンジョンに焦点を置いた活動を主目的とし、更に冒険者を対象とした治安維持もさせていく手筈となっております』


 大臣が放ったのはゴリ押しもゴリ押しだった。


 信用も信頼性も無い冒険者達を一つの国家戦力として定め、ダンジョンや冒険者そのものを管理していこうと語っているのである。


 勿論、これは最終目標を語っているとは思う。いきなりそんな真似が出来るはずもない。


 だが政府は、冒険者を公務員に位置付けようとしているのは事実だ。世の大部分は反発間違いなしだが、公務員と定めたことで一定の年齢の人間は必ず反応する。


 これがどうなるかは、流石に分からない。非正規雇用枠だった冒険者が公務員になるなど、俺にとって前代未聞の話だ。

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