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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者34 ジパングを求めて

桜の最後の言葉を聞いて、俺は返事をせずに通話を切った。


 悪い話にはならない。それはつまり、相も変わらず此方を利用しようと考えていることになる。


 俺の望みを彼女は朧気ながら分かっているはずだ。にも関わらずに会いたいなど、最早思考回路にバグが発生しているとしか思えない。


 週末に会う気は勿論無かった。何か用事があれば真っ先にそちらを優先するつもりである。


 不安材料としては脅迫だが、実際のところ彼女は大した力を持たない。


 桜の父親は大きな力を有しているが、彼女自身には何かを実行させるだけの影響力も権力も備わっていない訳で。逆にこっち側の人間が彼女を脅せば本人は下がらざるをえなくなる。


 望んで手にしたものではないが、俺の成果に付随する見えない力は決して小さくはないのだ。


 冒険者達にも恩は売ってある。俺の身に起きていることを話せば、力になってくれる確率も高い。


 だから、俺はその日からも普通に過ごした。


 仕事を行い、家族団欒を満喫し、お茶の間に流れるニュースやネットで情報を漁る。


 邪魔者の居ない空間は至極であり、何も考えずに笑っていられる環境は俺にとって貴重だ。


 故に光の如く時間は流れる。楽しい時は一瞬で、どんなに遅くなってくれと願っても変わらない。


 約束の週末の日、朝の九時にテレビで重大な発表が政府より行われた。


 ダンジョンの攻略。自衛隊が調査と平行して狙っていた最深部の探索をついに彼等はやり遂げた。


 負傷者は多いものの、幸いにして死者は無し。冒険者となった者達のみで構成された新部隊は破竹の勢いで階層内のモンスターを殲滅していき、最後のボスも無事に撃破してしまった。


 つまり、もうあのダンジョンを日本政府は好きにする権利を有したのである。


 今後はダンジョンを政府が管理していき、外にモンスターが出てくる状況を完全に抑えていきたいとのこと。合わせてダンジョン内の資源が有益である場合がこれまでの調査で高いと分かったので、これらの研究にも力を注いでいきたいと明確に語った。


 さてそうなれば、お祭り騒ぎになるのがネットだ。


 ダンジョンの管理をしていくとなれば、必然的に多くの人手が求められる。


 流石に自衛隊の人間に全てを任せるなんて真似は現実的ではないし、大企業が一枚噛んで来ようとするのは時間の問題だ。


 これから様々な交渉を重ね、採掘や採取のエリアや警備内容についてを決めていくだろう。


 そして、全てが決まった後に送られる人員は総じて一般人になる。


 その時こそが一般人が踏み込む最初の機会。人類が漸くダンジョンを生活に活用していく瞬間だ。危険地帯ではあるものの、数年は多額の金銭を稼ぐことが出来る。


「……電話か」


 夕方。自室に戻ると丁度携帯がバイブ音を鳴らしていた。


 ポケットから相手を確認すると、それは今絶賛忙しいだろう老人。予想よりも成果が早く出てしまったので早急に今後の予定を立てておきたいのだろうか。


「もしもし」


『もしもし、私だ。 ニュースは見てくれたかね』


「ああ、無事に成功したみたいだな」


『君のお蔭だ。 怪我人自体は出たが、数日休んでおけば直ぐに治る。 今回のMVPは君が推している榊原君だ』


「良い活躍をしてくれたか?」


 老人の機嫌は頗る良い。被害は最低で、成果は最大限。


 多額の金を流し込んで作った冒険者管理組織はダンジョン攻略を成功させる確かな偉業を自衛隊や政府に見せ付け、特に榊原の活躍は他よりも大きい。


 前線を駆け、怪我人が出れば自慢の速度で回収して後方に戻し、スタミナと戦闘継続の意思が続く限りは支給されたナイフを使い潰してモンスターを殺し尽くした。


 ボスに対してもやはり彼女の足は有用だったらしい。ボスそのものは遅いが、周りの雑魚が鬱陶しいので集中して倒すには先ず魔法使いの小鬼を殺さねばならなかった。


 その雑魚を全て彼女が受け持ち、残った面々でボスを集中攻撃して倒したとのことだ。


 決め手はやはり魔法。魔力の流れていない武器でゴブリンキングの肌を切るのはほぼ不可能であり、魔法による攻撃で殺し切った。


『上は今回の結果により、更なる予算と権限を此方に回してくれたよ。 これで君が何かを頼んでも直ぐに対応することが出来るだろう。 ……ああ、そうそう。 君の口座にも政府より報酬金が振り込まれる。 これで御家族と何か食べに行くと良い』


「随分羽振りが良いな。 まぁ、それだけ展望が見えてなかった訳か」


『元々が非現実的な話だ。 耐性のある人間でない限り、理解するのは難しくなる。 特に高齢者になると新しい物事を覚えるのが兎に角大変なんだ』


「そんな様でよく政治を回してるもんだ。 これからもっとおかしなことが起きるかもしれないのに」


『まぁ、やりたがる人間が少ないのが問題なのだよ。 特に大多数に影響を与える決め事など、誰もやりたいなんて思わん。 失敗すれば自分が責任を取ることになるからな』


 無責任な人間に政治をやってほしいとは思わないが、かといって誰もやろうと思わないのもそれはそれで嫌な話だ。


 きっと内部では暗雲が立ち込めていたのだろう。いや、嵐と表現した方が正しいかもしれない。


 対策について誰かに仕事を擦り付けていたりしたなら、今回担当した人間の評価は鰻登りに違いない。


 成功も成功、大成功だ。光明が差し込むことでこれから上から下まで注目を受けることになるな。今この段階で手柄を横取りするのは得策ではないだろう。


『仕事は増えたが、私に文句は無い。 ミヤ様からもお褒めの言葉を貰っている。 ちなみにそちらからも報酬が送られてくるから受け取るように』


「え? 変な物じゃないだろうな……」


『中身は私も吟味してある。 怪しまれないよう偽装は施しておいたから、普通に受け取れば良い』


「それはそれで不安だぞ……」


『黙っとれい。 さて、それでは本題だ』


 やっぱりあるのか。床の上に座り、相手の言葉を待つ。


『一先ず日本のダンジョン攻略は完了した。 これから次が現れるまでは我々は力を蓄えつつ、他の国の助けに入ることになるだろう。 これはまだ表に出ていない話だ』


「早速泣きついてきたのか」


『調子の良い奴等がな。 しかし、まぁ恩を売るには悪くない。 冒険者としてのノウハウは此方が今は先行しているしな。 後はあちらに予言者が現れなければ、イニチアチブは日本のものだ』


 今回の結果で擦り寄ってきているのは、親中国側の国会議員だろう。


 裏でどんな取引があるのかは定かではないが、助けてくれと縋ってきたのであれば優位はこっちにある。


 情報の取り扱いには細心の注意が必要であるものの、他国を助けるだけの力が日本にあると世界に示せるのは都合が良い。


 既に世界は冒険者を知った。なり方にはダンジョンが関与しているのも理解しているし、冒険者そのもののスペックも漠然とだが認識しているはずだ。


 欲しいと、国家を運営している人間であれば思ってしまう。それがあればまた違う選択肢が幾つも浮かび上がってくるのだから。


 先行している事実は強い。これが独占出来ればいろんな国から此方に優位な契約を結べるだろうが、あまり利益に固執しては守銭奴国家の烙印を押されてしまう。


 ある程度欲しがって、それで助けてあげた方が付き合いも継続出来る。どうせこの優位も長くは続かないしな。


『この優位を捨てたくはない。 その為、複数の企業と話し合いを行って日本産の道具を生産することに決めた』


「メイドインジャパンの復権か」


『その通り。 日本産の商品が海外でも信頼されているのは勿論だが、年々他国も質を上げてきている。 日本産の価値も徐々に低下している今、ダンジョンで必ず求められる品を我々が一早く作ることで多くの人間に日本の価値を改めて評価してもらいたいのだ』


 どんな国でも得意な分野がある。


 他国が真似するのは難しく、物によってはその国に頼らなければ回らない職種もあるくらいだ。


 例えば回復薬を作れる国は日本以外ない。あれを手に入れるにはダンジョンに入ることになるし、競合相手になる中国は生活環境を戻すのに必死だ。


 日本だけが独占的に回復薬を作れたなら、シェア100%は固い。生産する企業が不祥事を起こさない限り、回復薬の価値は常に高いままだ。


 そうして、日本の評価を上げていく。仲良くすることはあっても敵対する必要性はないと考えてくれるようになれば、ダンジョンが乱立する冒険者時代でも強国の枠に入れるかもしれない。


 ミヤ様は国の今後について予言を用いている。であれば、サンライフに接触したのはやはりミヤ様の勢力なのだろう。


『今日の夜にも話し合いがある。 その席に君もついてほしい』


「え、普通に嫌なんだが」


『予想通りの返答をするな。 ダンジョン産の製品を作るとなれば、君でないと分からない部分もある。 もしも我々が答えられない質問が来た場合、君に答えてほしいのだ』


「…………」


『日本の平和は君も望むことだろう? 先手先手で打っておかなければ、家族とて危うくなるかもしれないぞ』


「……はぁ。 金は出ますよね?」


『勿論だ。 礼儀も気にしないで良い』

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