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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者33 情報交換

 桜の話を聞いた事実をまとめると、当然と言えば当然の流れになった。


 中国政府は常に物も人も不足している。特に首都をモンスターから防衛する度に人が死に、純粋な軍人は少なくなってきているとのこと。


 それでも政府中枢に席を置いている人間や現環境を維持する人材は守らなければならない。


 サンライフの社員も薬の分野で保護され、今は苦しい環境の中で生活しているとのこと。助け出された段階では最初に報告された数の半数以下にまで減り、後一ヶ月もそのままであれば全滅していた可能性が高かった。


 その意味では俺の所為で彼等が死んだとも言えるが、この結果を悲しむ気は無い。桜自身も俺が謝罪するとは思っておらず、そのまま流れるように中国の冒険者についてを話してくれた。


 中国の崩壊は既に目前まで迫っている。


 モンスターの攻勢は極めて強く、どんな兵器を使っても殲滅は成功せずに再度数を戻して襲っていた。国民が一体何人死んだのかも定かではなく、彼等が暮らしている地帯は嘗ての十分の一より少ない。


 必然、人心も荒れ放題。銃声も怒号も日常的で、紙幣はもう火を点ける燃料にしかなりえない。


 経済活動を再開することももう難しく、それでも生きていくには誰かが作って供給していかなければならなかった。


 それをしていたのは一部の人間だ。畑や工場を持っている人間が食品や生活用品を与え、その場所だけはある種の神域扱いで侵入を許されなかった。


 もしも誰かが無断で入って荒らせば、自分達に回ってくる分の物資が無くなるかもしれない。


 そうなればただでさえ苦しい生活が余計に苦しくなる。これが彼等の最後の理性となり、内部に決定的な罅が入ることを阻止していた。


 正義はまだ死んでいない。


 それが生き残った若者集団に火を灯した。誰かがやらねばと十数人の集団が粗末な武器を手にして、罠に嵌まった小鬼を撲殺したらしい。


 最後に殺した若者は突如として自分の視界に青い画面が出てきた事実に驚いたとのこと。


 周りには見えておらず、しかしゲームを一番よくしていた世代だったお蔭でそれがシステム画面だと直ぐに気付いた。


 そして、小鬼を殺した過程と結び付ければ後は自動的に画面が何であるかを若者集団は悟った。


 ゲームだ。漫画だ。小説だ。


 中国は特に今回のような状況の作品が目立つ。ダンジョン発生前でも日本で有名な作品を書いていたのは中国人だったはずだ。


 後はもう、流れに身を任せるだけで良かった。次々に冒険者に覚醒していき、小鬼や小動物が支配する地域を鈍器や刃物で無理やり殺してレベルを上げて安全圏を首都とは別に作り始めている。


『首都はお偉いさんが支配している状況だ。 人民の人民による人民の為にって奴をやるには、場所としては不適格と言わざるを得ない』


「だから設備がまだ稼働している場所を捨てて、一から自分達の為の場所を作っているのか」


『そうだ。 既に首都からは多くの人間が出て行っているらしい。 重要な食い物は農家の連中が応援の意味を込めて無償提供しているみたいだが……』


「どうせ後で利権を得る為だろうな」


 安全を手にする方法を知った彼等の行動は迅速だ。


 そして、商売人は金になると目論んで一旦の負債を背負うことを決めた。両者の間で何かしらの約束があるのかもしれないが、まったくもって逞しいとしか言えない。


 兎に角、これで中国の問題にも解決の兆しが見えた。今はまだか細い光であるも、数を増やしていけば自然とモンスターを圧倒するようになるだろう。


 俺が情報を集めた限り、大型の数はまだそこまで多くない。徹底的にレベル上げに勤しみ、職業ごとの強味を生かせば負けるとは考えづらかった。


「それで、お前が電話をした理由はこれで全てか?」


『これもあるが、本命もある。 ――――最近、政府と何か取引をしたか?』


 唐突な質問。流石に情報を提供するだけとは思っていなかったが、妙にピンポイントな質問だ。


 これは何か掴んでいると見るのが妥当か。様子を見る為に、致し方なくと返すと相手はやっぱりと言葉を零す。


『予言者である事実を知っている人間は私みたいな裏技をしていない限りは管理側だ。 この場合はSNSを運営している者達だが、そういった組織と政府が繋がっているのは公然の秘密になっている』


「で?」


『ウチに接触があった。 製薬会社としてダンジョンで入手した素材を用いた回復薬を生産することは出来ないかと』


「……」


『当然、いきなりそんなことを言われても直ぐに出来るだなんて言えない。 親父は検討するに留めたが、交渉段階で何故か向こうは此方が引き受けると思っているらしい』


 サンライフが回復薬のような薬品を担う組織になるのは未来で分かっている。


 だが、その内容を政府に繋がるであろう老人に言った覚えはない。当然、榊原達にもだ。


 それでも桜達に交渉を仕掛けた人間が引き受けると思って接触してきたからには、何かしらの方法で未来の知識を手にしたと考えるべきだろう。


 俺の知り得ている情報で、他に予言が使える人間を後一人知っている。そちらは老人よりも目上の存在だと仮定していたが、この分ではもう決定的か。


 あちらもあちらで動いている。それを俺に言っていないのは、あくまでも関係が無いからだろう。


『お前が何か言ったのか?』


「いいや、それはないな。 未来に関する情報は過度に公開しないようにしている。 ……それに、政府側にもう一人予言が出来る人間が居るのも把握済みだ」


『もう一人居るのかよ!?』


「ああ。 そいつの所為で関与せざるを得なくされたからな。 今は一時的にやる事が無くなって暇になっちゃいるが、ダンジョンの攻略が済めばまた何か頼んでくるだろうさ」


『ダンジョンの攻略……って、あれか。 親父が交渉の時に聞いた自衛隊の追加派遣』


「そっちは建前だな。 冒険者になった人間に俺がアドバイスして攻略可能な域まで上げたから、その人間が今行っているんだよ」


『ほー、そりゃいい。 つまりこれからはダンジョンの素材も大量に出て来るって訳だな?』


 お互い、隠しておきたい身分は無い。


 情報交換の形になったが俺としては別に構わないし、彼女もこれを知って直ぐにどうこうはしないだろう。


 あるとすれば、回復薬を含めた薬品系の仕事を引き受けるのを決めるくらいだろうか。


 それならそれで未来通りなので問題無い。過程が違っても着地点が一緒なら特に文句も無かった。


 ダンジョンの資源はこれからどんどん外部に出る。全部が全部有用とは言えないが、今この瞬間はあらゆる素材が宝の山に見えるだろう。


 大変なのは生産職を取得した人間だ。検証は山程に増え、徹夜する人間も絶対に出る。だから効能が分かっている商品の生産をサンライフに任せたいのだろうが、何だか面倒な部分を押し付けているようにも見える。


「あっちは無茶な量を要求するかもしれない。 契約するかは兎も角、慎重にいけよ」


『……おいおい、熱でもあるのか? 心配するなんてらしくないな』


「未来が変わり過ぎるのは避けたいからな。 お前やお前の親父さんがくたばってしまうような道を選択して、万が一サンライフそのものが早期に潰れても困る」


 心配なのは未来であって、彼女そのものではない。


 人に優しくするのは本意ではないのでそこだけは誤解してほしくないのだが、何故だか桜は暫し黙った。


『……それならよ、今度の週末にでもちょっと会っちゃくれないか』


 そして、次に出てきた内容に眉を顰めながら溜息を吐いた。


 その音は向こうにも聞こえているはずだが、何も軽口を叩いてはくれない。


「知ってる奴だから電話に出ただけで、会う気なんてさらさら無い。 ……電話じゃ済まないのかよ」


『別に良いだろ。 政府にアドバイスしてるんだ。 こっちにアドバイスもしてくれよ』


「あれは脅迫の結果だ」


『その脅迫は私も使えるんだぜ?』


 こいつ、と苛立ち混じりの声が思わず出た。


 なるべく冷静であろうとしていたのだが、今のは一線を越えかけている。家族も巻き込むなら、今の俺は前言を翻したって構わない。


 だが、そんなことは彼女とて解っている。そもそも勝手に暴いた負い目もあって、さらに今俺の背後に政府側の人間が居ることも知った。


 迂闊な真似が身の破滅を招くのを理解していれば、この誘いに二度はない。


『私だって脅迫はしたくない。 それに会えば良い話を聞くことが出来る。 ――ショートメッセージで場所と時間は伝えるから、来てくれるなら来てくれよ』


 それでも、彼女は前に踏み出した。

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